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第六章 神殿と辺境伯
幕間 ヤス対策?
しおりを挟む「結局、ヤスを問い詰めないと話がわからないということか?」
アフネスの言葉が総意であるとは思えないが、皆”ヤスに聞かなければわからない”には同意することだろう。
「姉さん。それで・・・」
「なんだい?」
「アフネス殿。スタンピードのことを先に話したいのだがいいか?」
ミーシャがアフネスに相談したいことがあることは雰囲気で解る。その話を始めると長く掛かりそうなので、ダーホスとしてはまずはスタンピードのことを決定したいと考えている。ヤスというよりも神殿への対策は、出張所を作ってドーリスを初代の責任者にすることが決まっている。なので、ダーホスとしては、ヤスへの対応はドーリスに丸投げするつもりなのだ。神殿への出張所作成の話が無くならないようにする為にもスタンピードの情報がほしいのだ。
「ダーホス殿。私の見解でいいか?」
デイトリッヒが話に割り込んでくる。デイトリッヒとしては、スタンピードのことよりも得体が知れないヤス対応の方が重要なのだ。リーゼのことを差し引いても無視できる存在ではない。終息したであろうスタンピードよりもヤス=神殿への対応を誤ればユーラットだけではなく国や大陸に大きな被害が及ぶ可能性だってある。エルフ族の存続に関わってくると考えていたのだ。
「見てきた者の意見は是非聞きたい」
ミーシャではなく、デイトリッヒがダーホスに見解を語る。ミーシャとラナは魔物に遭遇しなかったことで、スタンピードは終息したと考えている。
デイトリッヒは少しだけ違う見解の話をし始めた。
「まず、スタンピードは発生したと考えて良さそうです」
「そうだな」
ダーホスとしては、スタンピード自体がなかったと考えるほうが楽なのだ。スタンピード自体が誤報だと言える状況の方が楽なのだ。
しかし状況や伝えられている情報からスタンピードはなかったことにはならない。
「それでユーラットに向かってきたのも間違いないでしょう」
「根拠は?」
「ヤス殿です」
「ん?」
「ヤス殿は、領都にリーゼ様を送ってから、武器や防具を持ってユーラットに向かいました」
「そうだな」
「その後、ユーラットは通っていないのですよね?」
デイトリッヒは、イザークに確認するように尋ねる。イザークも絶対とは言わないが、一度神殿に帰ると言ったことは覚えているが、その後にユーラットを通った形跡が無いことを告げた。
「それなのに、ヤス殿は領都に現れました」
「それが?神殿の力を使ったのでは無いか?」
「そうです。何らかの方法を使ったのでしょう。非才な私ではヤス殿が取った方法は思いつきませんが、ではなぜヤス殿はわざわざユーラットを通らずに領都に来たのでしょう。それに時間が不自然です」
「時間?」
「イザーク殿。ヤス殿は、私たちより何日前に到着しましたか?」
「そうか・・・。そういうことだな」
「イザーク!どういうことだ?」
「ミーシャやラナ殿の日程を聞いた感じだと、ヤスとは2日違いで領都を出立した事になる。ヤスの到着が早かったのは当然だが、ヤスがユーラットから領都に向かう時の日数が合わなくなってくる」
「どういうことだ?」
ダーホスはまだわからないようだ。
デイトリッヒが外に落ちている石を拾い上げて、日数がわかりやすくする。
「!!ヤスは、ユーラットでアフネス殿の依頼を受けてから神殿に戻った。そこから領都に向かうまでに4-5日ほど時間がかかっているということか?」
「そうです。実際に、神殿で用事を済ませていたのかもしれません。しかし、2-3日の猶予はある。移動に1日か1日半かかるとしても、ヤス殿が何かしたと考えるのが自然でしょう・・・」
「その結果、スタンピードが終息した・・・」
皆がテーブルの上におかれた石を見つめている。スタンピードに対応するのには短すぎる日数であることは理解している。しかし、アーティファクトの移動速度から考えると長すぎる日数なのだ。ここでも、ヤスに聞かなければわからないという結論になってしまう。
「ヤス殿に聞かなければならないのは理解したが、スタンピードの発生と移動はどう考える?ユーラット方面に向かった事実を断定できる情報は出てきていないと思うが?」
「それこそ、ヤス殿の動きですよ。石壁を神殿の境界に作ってみせた」
「そうだな。スタンピードが迫っていなければ作る必要がないな。神殿の領域を汚さる事を避けたかったのだろう」
「それに・・・」
「それに?」
「ダーホス殿。領都からユーラットまでの街道で、数千の魔物の群れを見たことがありますか?オークは出現するかもしれませんが、オーガの上位種や変異種まで死骸として有ったのですよ?通常の発生と考えるのには無理があります」
「・・・。そうだな。状況証拠だけだが、スタンピードが終息したと考えるのが妥当なようだ。イザーク。依頼を出すから数名で見てきてもらえるか?」
「まぁいいですよ。準備をします。どこまで行けばいいのかを、決めてください」
「わかった」
ダーホスとイザークは一時的に離席することになった。やはり神殿のことよりも、スタンピードが本当に終息したのか確認したほうが良いだろうと考えたようだ。イザークは、ユーラットに残ることになって、イザークの代わりにカスパルが確認に出ることになった。ギルドからも人を出したほうがいいだろうということになったが動けるのがダーホスだけだった。
カスパルを隊長にした確認部隊が編成されて、それにダーホスが護衛依頼を出すことに話がまとまった。ダーホスは準備を行うために、話にはドーリスが参加することになった。
「アフネス様。ラナ様。ミーシャ様。デイトリッヒ様。よろしくお願いいたします。大まかな話は聞いていましたので大丈夫です」
「それでミーシャ?本題に入ってくれ」
本題と言っているが、アフネスも一通りの話は承知している。
「あっその前に、アフネス様。ラナ様。ダーホスから聞いたかもしれませんが、ギルドとしてヤス様の掌握されている神殿の領域にギルドの支部を出すことになりました。最終的にどうなるのかはわかりませんが、私が支部の代表になることに決まりました」
「それは、ダーホスからの指示か?」
アフネスがドーリスを睨む。
「いえ、上の方からの指示としか聞いていません」
「移住するのか?ここから通うというわけじゃないのだろう?」
「上からの指示は出ていませんが、ヤス様にギルドの場所を確保すると言っていただきました。それで、ご相談なのですが・・・」
ドーリスが、ラナを見る。
ラナを見る理由など無いように思えるのだが、ミーシャはある事情を聞いているので、決定する前に確認しておきたいと思ったのだ。
「ラナ様たちはどうされるのですか?」
「ミーシャが、それをアフネス様に確認して許可を取ろうとしていたのです」
「アフネス様?」
ドーリスがアフネスを見る。
アフネスは”やれやれ”という雰囲気を出しながら机に肘を付いて皆を見る。
「ミーシャ。ラナ。ヤスには確認しているのか?ドーリス。移住はギルドが認めてからになるが、住む場所の確保をヤスに頼んだか?」
「「え?」」「??」
「ミーシャ!ラナ!ヤスに説明はしてあるのだろう?」
ミーシャとラナはお互いの顔を見る。ヤスに説明がわからなかったようだ。
「姉さん。リーゼを神殿に住まわせてくれとはお願いして許可をもらいましたが?」
「ミーシャ。そこじゃない。ヤスに許可を求めるのは当然だ。住む場所の手配や建築はどうする?資材は?場所はヤスが用意してくれるかもしれないが、建築まで頼むのか?神殿にはヤスしか居ないぞ?」
「あっ」
「ドーリスも、一人なのか?ヤスにしっかり伝えたか?”ギルドの出張所を作りたい”とだけ伝えたのではないか?そうすると、ヤスはユーラットのギルド・・・。もしかしたら、領都のギルドの規模を想定しているかもしれないぞ?」
「え?」
アフネスの指摘に3人は黙ってしまった。
心当たりがありすぎるのだ。
「結局、ヤス頼りになってしまうし、ヤスの考えを聞かないと移住の事もすすめる事ができないということだな」
3人は黙って頷くことしかできなかった。
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