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第五章 ギルドの依頼
第二十五話 事情説明
しおりを挟むコンラートには、ヤスが救世主に見えたことだろう。何か情報を持っているのかもしれない。
停まったアーティファクトの所まで、コンラートは急いだ。
「ヤス殿!」
「どうした?何か有ったのか?」
「何か有ったではない!ヤス殿。ユーラットには行けなかったのか?」
コンラートが危惧したのは魔物がすでにユーラットに至る街道を封鎖してしまっていることだった。
「ユーラットには届けた。”魔通信機”での通信もできただろう?」
確かにユーラットから通信が届いたと報告は有った。
ヤスが荷物を運んできたと報告も上がってきている。
「はい。しかし・・・。いや、それよりも、ユーラットから来たのなら、魔物は?」
「いましたよ。でも・・・」
ヤスは、どう言い訳しようか考えている。
殲滅したことを言えば、ラノベの定番では領主は当然として国王まで出てくるかもしれない。それに、アーティファクトや神殿の事もあるので、あまり権力には近づきたくないと考えているのだ。
「”でも”?何かあったのなら教えて欲しい!」
ヤスの気持ちや事情を考慮できないほどに、コンラートには難題が数多く降り掛かってきているのだ。
一番大きな問題の情報は少しでも欲しい。ヤスが戦力となるのなら、これほど嬉しい事はない。いろんな思惑をすっ飛ばしてコンラートはヤスに縋り付きたい気持ちにさえなっている。
ヤスは、アーティファクトに縋り付きそうになっているコンラートを煩わしく思ってきた。
「そうだな。説明してもいいけど、何度も同じ事を聞かれるのは面倒だから、ミーシャも同席させて欲しい」
「ミーシャは・・・」
「ミーシャが居ないのなら、俺の用事はすぐに終わる。終わったら帰るだけだ」
ヤスはそもそも冒険者ギルドに登録したが固執しているわけではない気に入らなければ辞めればいいと簡単に考えている。なので、ここでコンラートが面倒に思えたら切り離す事も問題ではない。大事なのは、自分と神殿とユーラットで良くしてくれた人々だ。
それにヤスじゃなくても門の所に冒険者ギルドのギルドマスターが立っていれば何か有ったのだと考える。そして、ミーシャがこの場に居ないのも不自然だ。
「ヤス殿!お願いします。今は少しでも情報が欲しいのです」
「わかりました。それで、ミーシャは?ラナでもいいですけど、冒険者ギルドに関わるのでしたらミーシャの方がいいですよね?」
「・・・」
「コンラート殿?何か、俺がミーシャに会えない理由でもありますか?」
「いえ、そうではありません。ミーシャは、冒険者ギルドを辞めると言っています」
「そうですか・・・。それなら、俺が冒険者ギルドに義理立てする必要もなくなりますね」
「待ってくれ、報酬なら、情報の質によってしっかりと払う。だから頼む。街道に魔物が居たかどうかだけでも教えてくれ」
「報酬は必要ないですね。規約違反というのなら、俺も冒険者ギルドを辞めます」
アーティファクトが近づいてきた事を見たエルフ族がミーシャとラナに知らせに走っていた。
それを受けて、ヤスとコンラートが言い争いに近い状況になっていた所に、ミーシャとラナが走り寄ってきた。
「ヤス」「ヤス!」
「お!ミーシャ!ラナ!ミーシャ。冒険者ギルドを辞めたのか?」
「ヤス!後で事情を話す。でも、私が辞めたのは冒険者ギルドの職員だけだ」
「へぇ・・・。それで、リーゼは?先に仕事の話をしよう。アフネスから、ミーシャに伝言がある。俺は、その為に戻ってきた」
「伝言?」
「あぁ”リーゼ様と一緒にユーラットに来い”だそうだ。悪いが、俺は人を運ばない。だから、リーゼとミーシャは馬車を手配してユーラットまで行ってくれ」
「わかった。それで・・・」
「魔物の事だろう?コンラートも聞きたいだろうから、ミーシャと一緒なら話してもいい。どこか他の誰にも聞かれない場所を用意できるか?」
「それなら、ヤス。宿屋を使うといい。冒険者ギルドは大変な事になっている。ラナの所なら身内しかしない上に宿屋を閉じるから客も居ない」
「え?ラナ。宿屋を辞めるの?なんで?これから、俺が領都に来た時にどうしたらいい?」
「すまない。ヤス。ミーシャが言った通りに、事情は後で話す。それでいいか?」
「あぁ俺が事情を聞いて何かできるわけでもないから、別にいいけど・・・。話してくれるのなら聞いておきたい」
コンラートはまだ何か言っていたがヤスとミーシャは無視してアーティファクトを領都に入れる。
そのまま宿屋の裏手に停めた。
宿に入ると、4-5人のエルフが旅の準備をしていた。ヤスは、日本人だった頃の癖で会釈だけしてミーシャについていく、ラナが奥から鍵を持ってきて、ミーシャに投げた。コンラートも後ろから着いてきている。
部屋に入ってミーシャが魔法を発動する。
「ヤス。これで盗聴の心配はない」
「ありがとう。別に聞かれてもいいけど、補足説明はできない。質問が有っても答えられない。それでもいいか?」
「あぁ」「わかった」
ミーシャとコンラートがうなずく。
「まず、ユーラットには武器と防具を届けた物資に関してもダーホスに渡してきた。”魔通信機”も使えるようになっていると思う」
「あぁ大丈夫だ。ユーラットのドーリスから連絡が入った」
少し落ち着いたのか、コンラートがヤスの言葉を肯定する。
「俺は、ユーラットでアフネスからミーシャへの伝言を運ぶように依頼された」
「それは先程の伝言か?」
コンラートが口を挟んでくる。
ミーシャは伝言だけ十分なのだろう。ヤスの行動に質問をしない。ユーラットに行けば事情を含めて解るだろうと考えていた。
「そうだ。伝言の意図は知らない。俺は頼まれただけだ」
「わかった」「・・・」
ラナは部屋の隅で3人を順番に見ながら話に耳を傾けている。
「流石に疲れたから一度神殿に戻って睡眠と食事をしてから、神殿を出た」
「・・・」「それで、魔物は?」
コンラートにとっては大事なのは解るが結論を急ぎすぎている。ミーシャもラナも、ヤスがユーラットから来ている時点で魔物の数が少なかったか突破できる程度の強さだったのではないかと予測している。例年だと1万を少し切る程度なので、今年の規模は小さなかった可能性を考え始めている。
「居なかった」
「え?」「は?」「・・・」
「違うな。正確には、魔物が大量に居た形跡はある。ユーラットから領都に向かう街道で、ザール山と海との間で狭くなっている場所があるよな?」
ミーシャもラナも、もちろんコンラートもそれだけでおおよその場所は解る。
3人ともうなずく。
「その場所で戦闘が発生した跡があった。ゴブリンやコボルトや下位のオークは見かけたが、アーティファクトで跳ね飛ばして討伐した」
「ヤス殿!それは、何かと戦ったという事なのか?」
「コンラート。始めに言ったが、俺にはわからない。質問されても答える事ができない」
「あっ・・・。すまない。何か、見なかったか?」
「あぁエント・・・と言ったか、樹木の魔物がゴブリンを踏みつけているのは見た」
「え?それは」「コンラート!?」
「あっ済まない。ヤス殿!それで魔物は居なかったのですか?戦闘が有ったのなら死骸が有ったと思いますが?」
「そういっただろう。俺が来る時には、ゴブリンとコボルトとオークが居ただけで上位種や変異種は居なかった。今は知らないぞ?俺が来る時だからな。死骸はわからない。夜だったし暗かったからな。ライトの範疇には死骸はなかった」
「それだけでも十分な情報だ。ヤス殿。情報感謝する」
コンラートは止める者が居なかったこともだけど、その話だけを聞いて部屋から飛び出してしまった。
ドアが乱暴に閉められてラナが苦笑する。苦笑しつつコンラートが座って居場所に移動して来た。
ヤスの正面になる形だ。
「ヤス殿?それで本当の事は?」
「ラナ。俺は嘘を言っていないぞ?」
「そうですね。嘘では無いでしょう。でも、全部本当の事でもないでしょ?」
「何を根拠に?」
「上位種や変異種は居なかったと言っていましたよね?」
「あぁそれが?」
「どうして、記憶を無くしていると言っている人が、上位種や変異種を知っているの?それに、領都の近くで発生するスタンピードに上位種や変異種がいる事を知っているのは、討伐に参加している者だけですよ?ヤスは、過去に討伐に参加したのですか?」
「はぁ・・・。わかった。ここだけの話にしてくれるよな?」
「アフネス様に言わないと、後でわかった時に怖いと思いますが?」
「ミーシャとラナはこれからユーラットに行くのか?」
「はい」「そうなります」
「アフネスとリーゼを交えて神殿で話すと言うのはどうだ?その方が早いだろう?」
二人が承諾したので、ヤスの行った事は後日説明する事になった。
「それでミーシャはなんで冒険者ギルドを辞める事になったのだ?」
二人がお互いの顔を見て、ヤスにどう説明したらいいのか悩んでしまった。
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