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第五章 ギルドの依頼
第二十話 情報と依頼
しおりを挟む沈黙を破ったのは意外にもイザークだ。
「ヤス。魔物が迫っているのは間違いないのか?」
「解らない。大きな群れができていたのは間違いない。領都に向かっていないと言っていたが、それも俺が確かめた情報ではない」
ヤスの言い回しが気になったのかアフネスが口を挟む。
「ヤスは、その情報だけで、リーゼ様を領都に置いてきたのか?」
批判する気持ちが全く無いわけではない。連れてきて欲しいというのは状況を考えれば無理な話である事も理解している。
たとえ、スタンピードが発生してユーラットに向かっているのではなく、領都が包囲されているような状況でも領都の中ならかなり安全なのだろう。ミーシャやデイトリッヒがむざむざリーゼを危険に晒すような事はしない。アフネスが二人に寄せる信頼はかなり高いのだ。
「そうだ。それに、さっきも言ったが、俺は仕事で荷物を運んできた。領都の冒険者ギルドからの依頼だ。リーゼを連れてくる理由はない」
今までのような少しだけ軽薄そうな物言いではなく、確固たる意思のもとに紡がれた言葉。
拒絶に近いとアフネスは感じ取った。アフネスの批判に対する答えなのだろう。ヤスは怒るわけではなく完全に拒絶するのではなく、区別しただけなのだ。
仕事として受けただけで、リーゼがいる事でのデメリットが多いことを考慮した結果なのだ
「わかった。それでヤスはこれからどうする?」
「うーん。神殿に行って寝る。さすがに、領都を夜に出て夜通し走ってきたから疲れた」
アフネスもそう言われてしまうと何も言えなくなってしまう。
「ヤス殿。話はそれだけなのか?」
「そうだな。俺から話せる”ギルド関係”は終わりだな」
アフネスは言い回しが気になったのだが、ヤスとダーホスの会話に割って入らなかった。
「わかった。イザーク!戦える者を集めてくれ、ヤス殿が持ってきた武器と防具を必要な者に貸し与える」
「はい!」
イザークが倉庫から出ていく。今度は誰も引き止めないので、そのままイザークが走り去っていくのを見送る形になる。
「ドーリス。”魔通信機”に新しい魔石を入れて、領都の冒険者ギルドに連絡。ヤス殿から聞いた話以外に新しい情報がないか確認」
「はい!」
「それから、ギルドの職員を倉庫に回してくれ目録と合っているか調べる。食料とポーションはギルドで保管して必要になった物から出していく」
「わかりました。皆に指示を出します」
「頼む」
アフネスがヤスを手招きしている横でダーホスが指示を出している。
ギルドから職員がやってきて目録の確認を始めている。
アフネスはヤスと一緒に倉庫の邪魔にならない場所に移動する。
「ヤス」
「なんだよ。もう話は終わりだ。リーゼは領都の宿屋にいる。それじゃ駄目なのか?」
「駄目じゃないのが・・・」
「なんだよ。はっきりと言えよ」
「そうだな。ヤス。リーゼ様は領都を気に入っていたか?」
「どうだろうな?楽しんでいたとは思うぞ?ミーシャから渡された・・・。そうだ!アフネス。リーゼが方向音痴なのを知っていたよな?」
「あっ・・・。すまない。リーゼ様までもが方向音痴だったとは・・・」
「なんだ!知らなかったのか?」
「ヤス。この町でどこに迷う要素がある?」
ヤスは自分で歩いた時を思い出して納得してしまった。
「・・・」
「それでヤス。リーゼ様は領都を楽しんでいたのだな?」
「それは、リーゼが帰ってきてから聞いてくれ」
「帰ってくるのか?」
「そのつもりだろう?確か帰り道も依頼に入っていたと思うけど・・・。違うのか?」
「ハハハ。そうだった。確かにヤスの依頼だったよな?」
「そうだ。だから、ひと眠りしたらリーゼを迎えに領都に行く予定だぞ?」
「え?あっアーティファクトなら魔物の群れを突破できるのか?」
「わからないが、やってみる価値は有るだろう?」
「そうだな。ヤス。一つ依頼を出したが受けてくれるか?」
「あ?人を運ぶ以外の運搬なら受けるぞ?」
「伝言だけだ。手間は取らせない」
「わかった。それで?」
「報酬は、銀貨2枚。伝言内容は、領都にいるミーシャに”リーゼ様と一緒にユーラットに来い”だ」
「わかった。そうなると、リーゼは領都に置いてきていいのだな?」
「それでいい。ミーシャならうまくやってくれるはずだ」
ヤスは、アフネスからの依頼を受諾した。
本来なら、ギルドを通さなければならないのだが、お互いに納得しているので揉める要素がない。
倉庫では、イザークに連れられた戦える者が武器や防具を選んでいる。ヤスとアフネスの話が終わったことを感じたダーホスがアフネスを呼ぶ。どうやら漁師になっているエルフからも戦える者を出すことになるようだ。
本当の意味での総力戦が開始されようとしていた。
ヤスは、慌ただしくなる倉庫から抜け出して神殿に帰る事にした。
「ヤス。帰るのか?」
「あぁ俺がここに居ても邪魔だろうからな」
「そうか・・・」
話しかけたイザークとしては、ヤスと一緒に戦って欲しいという気持ちはある。ヤスならなんとかできるのではないかと思っているのだ。
ドーリスが持ってきた話が皆に伝えられる。
領都の冒険者ギルドからもたらされたのは絶望的な話だけだった。
魔物の数は、1万以上になっていると推測される事や上位種の存在も確認されている。
それだけでも十分な脅威なのに、領都から”守備隊”がユーラットに向かうことができない事。王都から兵が出るのだが、どんなに急いでも3ヶ月以上かかってしまう。その上、領都で募集に申し込んだ冒険者の数が200にも満たなかった事などが挙げられている。出発が明日の明け方になり、こちらもどんなに急いでも決戦場になる場所には10日程度は必要になってしまう。
吉報なのは、領都や王都に住んでいるエルフ族がユーラットに向かっている事だが、すでに領都を発った者もいるらしいので多少は早く合流できる者が出てくる可能性が有るのだが、焼け石に水の状態である事は間違いないだろう。
イザークは、ヤスが裏門から出ていくのを見送るために付いていった。
「ヤス。これを渡しておく」
「これは?」
ヤスは、一つの鍵を受け取る。
「裏門の鍵のスペアだ。アフネスとダーホスにも話してある。町の衆にも話をしてヤスに持っていてもらう事になった。その方が便利だしヤスもユーラットの住人だからな!」
イザークの言葉でヤスは嬉しくなってしまった。
どこか線を引かれている感じがしていたのだが、受け入れてもらえた感じがしていたのだ。
”鍵”を渡されるという事は、それだけで認められたと感じる事ができたのだ。
そして、今鍵を渡される意味もしっかりと考えたのだ。イザークは自分が死ぬ事を考えているのだ。
ヤスは鍵を受け取ってからエミリアに保管した。
裏門の鍵を閉めてから、アーティファクトの周りを見て回る。
日本に居たときからの癖だ。自分の拠点に置いている時ならイタズラをされる事もなかったが外の駐車場に置いたときなどは隣のドアが当たったような傷が着いた事もあった。それから車の周りを見て回る癖が着いてしまったのだ。傷があれば治す必要がある。
(うーん。タイヤはまだ大丈夫だけど、やっぱり石によるダメージは酷いな)
”エミリア。トラクターと同じで停止状態で直ると思っていいのか?”
”傷やタイヤの摩耗は、マスターが乗っている状態で停車するか、神殿内での停止で修復されます”
”あぁそうか・・・。俺が一緒じゃないと魔力の供給ができないからか?”
”そうです”
”何か他に方法はないのか?”
”マルスが代わりに答えます。マスター。魔石で修復が可能です”
”魔石?”
”はい。マスターがエミリアに格納した事で解析を行う事ができました”
”それで?”
”魔石は、魔力の塊です”
”乾電池のような物か?”
”はい。その為に、修復に必要な魔力を魔石から取る事が可能です。ただし、マスターの魔力を使うよりも効率が悪くなります”
”それはしょうがないな。使い方は?”
”ガソリンタンクに入れてください。後は、ディアナが処理を行います”
”わかった。まずは、魔石の入手を考えなければならない。それよりも・・・ゆっくり寝たい”
”マスター。ディアナにお乗りください。後は誘導致します”
”頼む”
”了”
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