異世界の物流は俺に任せろ

北きつね

文字の大きさ
上 下
50 / 293
第五章 ギルドの依頼

第十四話 冒険者ギルド

しおりを挟む

「ヤス。もう大丈夫だよ!」

「わかった」

 ヤスは三月兎マーチラビットに部屋を借りた。ラナがやっている宿屋で、アフネスの息がかかっている。
 部屋を借りる時に料金で少しだけ揉めた。値段ではなく、ラナ宿屋の主はすでに受け取っていると言っているが宿泊数が伸びたり料理が付いたりで変わっているはずだとヤスが譲らなかったのだ。
 それで、ラナは正直に話をしてリーゼの父親が持っている権利の代金が貯まっているので、その中から支払われるから大丈夫だと説明したのだが、話を聞いてヤスは手持ちの金貨を差し出して、足りなければ冒険者ギルドからの支払いで払うと宣言した。

 ラナもあまり固辞してヤスの気分を害したらアフネスからどんなことを言われるかわからないので、ヤスからの提案を素直に受ける事にした。
 4泊分とヤスとリーゼの食事代をヤスに請求する事になった。アーティファクトの保管料は、通常の馬車だと馬や魔物のエサ代が必要になりその分だけをもらう事になっていると説明した。ヤスのアーティファクトにはエサ代が必要なく無料で停めてもらえる事になった。

 そしてヤスが部屋の外に出ていたのは、リーゼが水浴びをしていたからではない。
 生活魔法をヤスに教えるという約束の為に、自分にかけていた排泄を抑制する魔法を解除した・・・。リーゼが男性に聞かれたくない音を出してしまった為に真っ赤になってしまった。ヤスは”聞こえなかったフリ”と”匂いを感じていないフリ”をして、”ラナと少し話してくる。部屋に入る時にノックするから、大丈夫なら教えてくれ”とだけ言って部屋を出た。

 それで部屋に帰ってきた。
 リーゼの顔の赤さは和らいだが耳がまだ真っ赤な状態だった。

「リーゼ。どうやったら生活魔法が使える?」

「うーん。僕。初めからできたからな?ヤスは、”生活魔法”が使えるの?」

 ヤスは、リーゼの言葉を聞いてクラっと来た。
 禅問答のような感じになっている。

「リーゼさん?俺は、生活魔法が使えないから、リーゼに聞こうと思ったのだけど?」

「あっごめん。そうじゃなくて、違わないけど・・・。違う。ヤスは、自分で自分を見られる?」

「ん?鑑定という事か?」

「鑑定じゃないのだけど・・・。僕は他の人にはできないけど、自分を見る事はできる。だから、ヤスも自分は見られるよね?」

「あぁそれなら大丈夫だ」

「それなら、”生活魔法”が使える?」

 ヤスはここまで聞いてやっとリーゼが意図している事がわかった。

「あぁそれなら自分に”生活魔法”は有るぞ?」

「それなら、生活魔法は使えるよ。やってみる?」

 ヤスは、リーゼからいくつかの生活魔法の詠唱を教わった。
 リーゼが知っている生活魔法の全部が一発でできてしまって、リーゼにすねられた事は笑い話のレベルだろう。

 リーゼがヤスに教えたのは・・・

種火:マッチ程度の火が数秒灯る
給水:500ml程度の水が出せる
微風:息を吹きかける程度の風が出る
点灯:魔力が続く限り光る
清掃:指定範囲内を綺麗にする
洗浄:指定した物を綺麗にする(人体でも可)
排泄管理:排泄を制御する解除するまで我慢できる。我慢できるだけ

 ヤスはラノベ定番の魔法はイメージを思い出してそれぞれを発動した。

「リーゼ。他にも生活魔法はあるのか?」

「うん。今覚えた物だけで十分だよ?僕も、他は知らないけど、図書館とかで本を読めばまだ覚えられると思うよ?」

「そうか、時間ができたら図書館に行ってみるのも良さそうだな」

「うん!僕も一緒に行くよ!ヤス一人だとわからないでしょ?」

「そうだな。その時には頼むよ」

 すっかりいつもの調子を取り戻したリーゼとヤスは他愛もない話しをしてから、寝る事にした。
 ベッドは2つあったので、リーゼが奥を使って手前をヤスが使う事になった。

 部屋をノックされる音でヤスは目が覚めた。隣を見るとリーゼが丸くなって寝ている。起き上がって、ドアを開ける。

「ミーシャか?」

「リーゼ様はまだ寝ていらっしゃるのか?」

「あぁ寝ている?確認するか?」

「いやそれには及ばない。用事があるのはヤスだけだ」

「そうか、それで?」

「武器と防具の引き上げは、早いほうがいいだろう?」

「そうだな。わかった。行こう。リーゼは・・・。起きたら冒険者ギルドに来るだろう」

 ヤスは、ミーシャの提案を受けてリーゼに伝言を残して冒険者ギルドに移動する事にした。

 本来ならヤスが冒険者ギルドに赴いて書簡をミーシャか受付に渡してから買い取りの話をする予定だったのだが、ミーシャが迎えに来た事でヤスは昨日の夜にでもアフネスから連絡が来ただろうと勝手に解釈した。
 実際には、斥候で出ていた者が戻ってきて魔物の襲来スタンピードの予兆が見られると冒険者ギルドに報告したのだ。冒険者ギルドとしてヤスが持ってきている武器や防具の買い取りを急ぎたかったのだ。少しでもいい武器や防具があれば生存率が上がる事が考えられる。
 ユーラットからの報告では、魔法武器や真防具もあるという報告が上がってきている。駆け出しに買える金額では無いのだが、中級以上の冒険者なら買う事は無理でも冒険者ギルドから貸し出す事も考えられる。

 宿を出た所で、ミーシャがヤスを見た。

「ヤス。早速で悪いが、買い取り予定の武器と防具を見せてもらいたい」

「そうですね。その前に・・・」

 ヤスは冒険者ギルドに提出する予定になっていた書簡をミーシャに渡す。

「そうだった。デイトリッヒ!ヤスと一緒に武器と防具を運んでくれ」

 宿の入り口で控えていたデイトリッヒがミーシャに頭を下げて了承の意思を伝える。
 ミーシャは書簡を持って冒険者ギルドに走っていった。

「ヤス殿」

 ものすごく渋い声のデイトリッヒ(CV:安元洋貴と表示が出そうな位な声)がヤスを呼ぶ。

「え?あっはい」

「武器と防具はどこに?」

「あっアーティファクトの中にあります」

 ヤスはなぜか緊張してしまっている。
 思った以上に低音の声だった。お決まりでは、エルフの青年は中性的な声が多い印象を持っていた。姿は、定番のエルフの青年で細い身体をしたイケメンだ。それが、”CV:安元洋貴”と思われるような低音ボイスで話しかけてくるのだ。ヤスは低音ボイスになぜか緊張して敬語で話してしまっている。

 デイトリッヒと一緒にアーティファクトまで移動した。
 ロックを外して、トランクルームを開ける。そこには、武器と防具が乱雑に置かれていた。

「ヤス殿。これで全部ですか?」

「はい。そうです」

「かなりの数ですね」

「そうですね。どうしますか?アーティファクトを動かしますか?」

「いえ、それでは大事になってしまいます。ヤス殿はここでお待ち下さい」

 それだけ言って、デイトリッヒはヤスの所から離れて冒険者ギルドに向かった。
 5分ほどしたら若い衆を連れてデイトリッヒが戻ってきた。

「ヤス殿。この者たちに、5個ずつ渡してください」

「え?あっわかりました」

 もう少し持てそうだとは思ったのだが、ヤスはデイトリッヒに言われたとおりにFITの荷台から武器や防具を5個ずつ渡していった。

 数往復してやっと武器と防具を全部運び出す事ができた。

「ヤス殿。宝石や宝飾品はどうしますか?魔石は、冒険者ギルドで買い取りたいとギルドマスターが言っています」

「わかりました。魔石は冒険者ギルドで買い取りをお願いします」

「わかりました」

「宝石や宝飾品は、商業ギルドに持っていきます」

「それがよろしいでしょう」

 ヤスは、魔石をデイトリッヒに預けた。
 宝石や宝飾品はそのままFITに載せたままにして、冒険者ギルドに向かった。

 道すがら、デイトリッヒは先程の面倒な方法の説明をヤスにした。
 先程来た若い衆は冒険者ギルドの職員ではなく、ギルドにいた冒険者たちで依頼を出して受けた者たちだという事だった。
 そのために、盗難や破損の可能性が有ったために、一人に5個ずつ渡す事にした。そうすればヤスが渡す時にデイトリッヒが確認できる。受け手側も数が少なければ盗難を疑う事ができる。双方で確認できるので問題はかなり減らす事ができると考えたようだ。
 完全ではないが、短時間で運ぶ事ができることを考えればかなり優良な方法だと思える。
 実際に何人かの冒険者が防具を盗もうとしたのだが、ギルド職員が数を確認して少ないことを指摘されて慌てて出していた。

 小さな問題は有ったのだが、ヤスが持ってきた武器と防具は冒険者ギルドに無事に渡って鑑定と査定が行える状況になった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました

四折 柊
恋愛
 子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

処理中です...