41 / 293
第五章 ギルドの依頼
第八話 お迎え
しおりを挟むヤスは、夜中にのどが渇いて起きてしまった。
(そうか、少し乾燥しているのだな)
枕元に置いたエミリアで時間を確認した。
「エミリア。飲み物を用意できるか?」
”了”
ローテーブルに水が入ったコップが用意される。
(これはこれで便利だけど、メイドさんとか、可愛い奥さんに用意してもらえたらもっといい・・・)
ヤスはくだらないことを考えながら用意された少しだけ冷たくなっている水を飲み干して、再度時間を確認してからベッドに潜り込んだ。
「エミリア。5時になったら起こしてくれ」
”了”
ヤスが布団に入る。
月が優しく神殿を照らしている。まだ起きる時間ではない。
ヤスは布団の中で二度寝という素晴らしい現象を楽しむことにした。ギリギリまで寝るのはどこの世界でも同じなのだろう。
しかし、遠足前の子供の様に楽しみすぎて寝られない現象もまた世界が変わっても同じである。
ユーラットでは、リーゼがすでに起き出して、ヤスが”いつ”来るのかと表門と宿屋を行ったり来たりを繰り返している。
アフネスが呆れていい加減にしないとヤスと一緒に行かせないと怒った。渋々だが自分の部屋に戻ってベッドに横になった。横になるだけで寝られるわけではない。ヤスが二度寝を楽しんでいる時にもリーゼは布団の中でモゾモゾしていた。
ヤスが裏門に現れるまでリーゼはワクワクした気持ちを抑える事ができなかった。
領都までの道は知っていた。実際には、ほぼ一本道で太い道を進めば到着できる。リーゼの道案内はほぼ必要ない。ヤスとしては、リーゼが道案内だということもだがこの世界の常識を知っているリーゼを必要としていたのだ。
リーゼは、初めてユーラットの町以外に行く事が楽しみでたまらないのだ。
それも、アーティファクトに乗って行くのだ。それを楽しみにするなと言う方が無理な相談かもしれない。
ウトウトしては起き出して窓から外を確認する。
そんなことをリーゼは朝日が登るまで繰り返していた。朝日が登ってもうすぐヤスが裏門に現れる頃にリーゼは睡魔に襲われ始めていた。遠足前の子供より始末に負えない。
ヤスはエミリアに5時ピッタリに起こされた。
いい加減な性格で大雑把な性格をしているヤスだが、目覚まし時計には従うのだ。
(さて、行くか!)
朝はどうするかと思って三階に降りると、セバスが食事を用意して待っていた。
「ご主人さま。マルス様にお聞きして、ご主人さまでも食べられる物を用意致しました」
「お。ありがとう」
セバスが用意した朝食はこちらの世界ではスタンダードな物だったが、ヤスには少し”味”の面で不満が残った。今後に期待する事にした。
「行ってくる。セバス。神殿やマルスのことを頼む」
「はい。ご主人さま」
セバスは地下一階まで着いてきて、ヤスがFITに乗って、駐車スペースから出ていくまで見送った。
それから小走りで最下層を目指すのだった。まだ分体が作る事ができるほどの魔力が貯まっていなかったのだが、マルスからヤスが夜中に起き出してしまったと連絡を受けて、様子を見に来たのだ。途中で湧き出していた魔物を数体倒して戦闘にも問題がないことを確認していた。
食事も、マルスから聞いたて味の概念がまだわからない事から眷属を呼び出して研究する必要があると考えている。
セバスは、最下層に着いてから魔力を温存する形態に戻った。
ヤスのために・・・。自分を眷属にしてくれたマスターの為に・・・。
そんな事になっているとは知らないヤスは今回も快調に跳ばしていた。
ユーラットの裏門が見えてきた。
いつもの位置にFITを停めて裏門から入る。宿にはよらずに、ギルドに顔を出す。
今日もドーリスが受付に座っていて、ヤスを見るとすぐにダーホスの所に通してくれた。
「ヤス殿!」
「悪い。早かったか?」
「いえ、大丈夫です。書類は準備できています」
「それで悪いけど、剣を2本と弓を1つと魔法発動媒体を3つと男性用の防具を3組と女性用の防具を3組ほど選んでほしいけどいいか?」
「構いませんがどうされるのですか?」
「なぁに、少しな。それは買い取りから外したい。頼めるか?」
「構いませんが、武器はいいのですが、防具はどういう組み合わせで?」
「組み合わせ?」
ダーホスは、息を大きく吐き出しながら防具の説明をヤスにした。
軽装なのか重装備なのかでだいぶ違ってくるうえに、パーティーの組み合わせでも違ってくると説明された。
「うーん。面倒だな。男女で軽装から重装備までいいものを6組選んでくれ」
「はぁ・・・。まぁいいですよ。剣はどうします?」
「そうだな・・・。ダーホスが、パーティーを組んだときに使いたい武器を選んでくれればいい」
「・・・。わかりました。私が欲しいと思えるような物を、先程の組み合わせで選べばいいですか?」
「あぁそれでいい。防具もその基準でいい」
「わかった。書類を修正する必要があるので、30分後にまた来てくれ」
「わかった。リーゼを呼びに行ってくる」
ヤスは、ギルドを出て宿屋に向かった。
宿屋では、リーゼが”裏門”の方を見てソワソワしていた。ヤスが後ろから近づいているのに気が付かないリーゼの後ろから声を掛ける事にした。
「リーゼ!」
びっくりして振り向いたリーゼの顔の前で軽く手を叩くヤス。猫騙しだったのだが、それが思いのほか成功してしまった。リーゼは驚いてよろけて転びそうになったので、慌ててヤスが手を伸ばして抱き寄せる格好になった。
「ヤス!ひどいよ!すぐに宿屋に来てよ!僕、朝から待っていたよ!」
腕の中に収まりながら文句を言うリーゼの頭を軽くなでながら。
「悪い。悪い。ダーホスに頼み事があってギルドに行っていた。30分くらいでギルドの準備も終わるけど、リーゼはその格好でいいのか?」
「ふぇ?」
可愛らしい反応だったが、自分の格好を思い出して赤くなりつつある。
リーザは、待ちきれないのと、ヤスがいつ来るのかわからないから、寝間着に近い格好で外に出ていたのだ。エルフ族の習慣なのか家や安心できる場所で寝るときの格好をしていたのだ。どんな格好だったのかは、リーゼの名誉の為に内緒にしておこう。リーザが今の格好を思い出して、それもヤスの腕の中に収まっている状況を考えれば、顔が赤くなって白くて綺麗な首筋まで赤くなってしまうのはしょうがない事だろう。
「リーゼ!!あっヤス。リーゼを迎えに?そのまま連れて行くかい?」
「俺としては構わないけど、流石にその格好じゃ領都についてもアーティファクトから降ろせないぞ?」
「私としては、そのまま神殿に連れて行ってもらっても構わないのだけどな」
「それは魅力的な話だけど、まだまだ若いな。あと10年後に頼むよ」
「わかった。わかった。リーゼ。ほら、いつまでもヤスに抱かれていないで、着替えて出かけられる格好になりな。そうだ、ヤス!朝ごはんは?」
「朝は神殿で食べてきた。飲み物だけもらえるか?」
「はいよ」
ヤスは少しだけ安堵した。
煩い男は買い出しに出ているようで宿屋に居なかった。居たら、リーゼがこんな格好で外に出る事もなかったのだろう。
アフネスは首筋がまだ赤いリーゼを連れて奥に入っていく、ヤスは椅子に座って待っている事にした。
真面目な表情をしているが、考えている事はかなり失礼な事だった。
(リーゼの奴・・・。小さいながらもしっかりと弾力が有ったな。生意気にも雌の匂いをさせていたな。小さいながらも確かな感触もあったな。小さいながらも)
0
お気に入りに追加
121
あなたにおすすめの小説

今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる