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第四章 拠点
第十二話 コア
しおりを挟む「ヤス殿?」
「ん?あぁそうだな」
ダーホスは、中に入って確認したいのだが、ヤスが最初に入らないとダメだと思っていた。それにはわけがある。神殿を攻略していない者が、神殿の最奥部に入ると守護者が現れると言われているからだ。アーティファクトを降りる時に、ダーホスはヤスに聞いたのだがよくわからないと言われてしまった。
伝承通りになっていると、ヤス以外の3名が先に入ってしまうと、コアを守護している魔物が出現する事になる。
最悪の自体を避けるために、ダーホスとアフネスの二人からヤスが先に入るように要望されたのだ。
ヤスが神殿の最奥部・・・。正確には、コア部屋の直前にある広間に入った瞬間に広間が光った。
ダーホスとアフネスは見紛えるが、リーゼはこの状況を楽しんでいた。
光が濁流となって入り口に押し寄せてきた。
光が収まるとヤスが立っている場所からコアが置かれている部屋まで一直線に七色の光が道標のように光っていた。
「光の道・・・」
「綺麗」
「ヤス殿・・・」
ヤスもこんな状況は聞いていないし、何が発生しているのか判断できないでいた。
7色”火炎の赤/水氷の青/木森の緑/土鋼の茶/風雷の黄/闇の黒/光の白”がヤスを導いているように見えるのだ。
そして、アフネスが呟いた”光の道”は英雄を導くと言われている物だ・・・。
古きエルフに伝わる話なのだ。
---
英雄この地に現れし時、神々の祝福あり
火炎の赤が、道を焼きて
水氷の青が、道を凍らし
木森の緑が、道を彩りて
土鋼の茶が、道を固めし
風雷の黄が、道を吹き抜け
闇の黒が、害意を排除し
光の白が、英雄を導く
---
もちろん、ヤスは英雄でも勇者でも賢者でもない。ただの女性が好きなトラック運転手だ。
この演出は、マルスが神殿に納められていた記憶から読み取ったことを再現しただけだ。そして、エルフには残念なお知らせになるのだが、この現象はコアが継承されれば発生する現象なのだ。
しかし7色になる事は珍しい。それだけは貴重な現象だと言える。光の色に関しては、最初に入った人間が持っている属性に沿っているだけなのだ。
だからこそ7色=全属性を使える英雄であるとも言える。
ヤスは、スキルとして”魔法属性”が発現しているわけではないが、マルスやエミリアやディアナが全属性に対応できるために、7色の光をまとったのだ。
”マルス!お前か?”
”はい。マスターの偉大さを知らしめるために行いました”
”わかった・・・。そうか、ありがとう。でも、次からは先に説明してくれよ。俺も一緒に驚いたら台無しになるだろう”
”了”
ヤスはわざと数歩進んでいから後ろを振り向く
「行かないのか?コア部屋はすぐそこだぞ?」
「行く!行く!もちろん!」
ハイテンションなリーゼは置いておくとして、残り二人は顔色を白黒させている。自分がどういう表情をしているのかわからない状況だ。それだけ、目の前で行われている状況が信じられないのだ。
リーゼは喜んでヤスの隣を歩いて・・・。いや、ヤスの周りを走り回っている。
そんな二人を見ながら、ダーホスとアフネスも一歩踏み出す。
4人が通った場所から光が消えていく。
10分位かけてゆっくりとコア部屋まで歩いた。途中で、ヤスがクルマを持ってくればよかったと後悔したが、半分進んでいる上に神秘的な現象を堪能しているリーゼを見て諦めたのだった。
コア部屋の扉は、ヤスが近づくと勝手に開いた。
リーゼは素直に驚いていた。
ダーホスは、これでヤスが神殿を攻略して手中に納めたと確信した。
アフネスは、どうやってリーゼとヤスをくっつけるかを考えている。
全員が、コア部屋に入った瞬間に扉が閉まって、部屋が暗くなる。
中央に置かれているコアが白色灯の様に光っている。
”マスター。コアに触れてください”
”わかった”
ヤスがマルスに指示されたようにコアにふれると、コアから光が漏れ出して、コアを中心に7色の光が部屋を照らした。
先程のように圧倒的な光ではなく、優しく包み込むような光が漏れ出している。
『マスター』
”マルスと呼びかけて大丈夫か?”
”大丈夫です。コアに名前をつけるのは一般的な行為です”
『マルス』
『はい。マスター』
「ヤス殿。この声は?」
「聞こえたのか?」
「はい」
ダーホスが訪ねて、アフネスが答えた。
「このコア。マルスの声だ。念話だと言っていたが、皆にも聞こえたようだな」
ヤス以外の3人がうなずく。
「マルス殿。私は、ダーホスと言います。ヤス殿が貴殿の支配者ですか?」
『マスターはただ一人。我を光らせることができる方です。すべての権限を移譲しております』
「マルス殿。ありがとうございます。ヤス殿。神殿攻略おめでとうございます」
ヤスは、ダーホスを見てから、アフネスを見る。アフネスもヤスが見ている事に気がついてうなずいた。
「ありがとう。それで、これからどうしたらいい?」
「ヤス殿。それは、ギルドに戻ってからでもいいですか?」
「俺はそれでいいが、アフネスはどうする?」
「もちろんユーラットには一緒に戻る。その後、相談したいけど・・・。リーゼの事もあるから、ギルドに顔を出す方がいいだろうな」
「わかった。それでは、一旦ユーラットに戻る・・・で、いいのか?」
「頼むよ」
「ねぇヤス!僕、ここに一泊したいけどダメ?」
「ん?泊まるところなんて無いぞ?」
「えぇぇヤスの寝所は?」
「俺しか入る事ができない。後で試してもいいがダメだと思うぞ?」
「うぅぅぅ。試してみる。ダメだった・・・。諦める・・・。かもしれない」
ヤスはリーゼの顔を見て”諦めないな”と思っている。事実、リーゼは諦める気持ちなんて欠片も持っていない。
ヤスは短い付き合いながらリーゼの好奇心を把握し始めている。
リーゼはアーティファクトがこれだけすごいのだから、ヤスの寝所はアーティファクトだらけだろうと考えている。だから、見てみたいと思ったのだ。男性の部屋に入るとい行為を考える事もしないで自分の好奇心を優先した形になっている。
「マルス。何かあるか?」
『ございません』
「わかった。俺たちが広場から出たら結界の発動を頼む」
『かしこまりました。個体名リーゼ。個体名アフネス。個体名ダーホスは登録しますか?』
「どうする?」
ヤスは、3人を見る。
リーゼはもちろん登録を望んだ。ダーホスは保留してほしいという返事だ。アフネスは必要ないという事だ。
リーゼが登録する事になった。
登録する事で、広場と神殿地下にはヤスの許可なしに入る事ができるようになる。
「マルス様。1つお伺いしてもよろしいでしょうか?」
『個体名アフネス。我に”様”は必要ありません』
「わかりました。マルス殿。神殿の領域の広さはどうなっていますか?」
『神殿として機能/管理しているのは、地下空間。広場。マスターの居住区です。神殿の領域は、地域名ブレフ山。地域名アトス山。地域名ザール山。地域名フェレンになり、地域名ユーラットの手前までが対象です』
「ダーホス。問題はないね?」
「えぇ王国が定めた神殿の領域と一致します。マルス殿。もし、冒険者が神殿の領域である大森林フェレンにて狩りを行った場合にペナルティなどありますか?」
『マスター次第です』
「ヤス殿?」
「好きにしていいぞ?別に、狩場の独占なんて望んでは居ない」
「ありがとうございます」
「それで、ヤス。1つ頼みがある」
「なんでしょうか?」
アフネスがヤスを正面から見据えて今までとは違う雰囲気で頼み事があると言っている。
ヤスも真剣に向き合う様に、アフネスの方を見据える。
「ヤス。ユーラットになにか有った場合に、一人でも二人でもいい。神殿の広場に避難させてほしい。できれば、安全な神殿内部に入れてくれると嬉しい」
「有事を判断する事が難しいが、わかった。ただし、リーゼの知っている者だけだ。リーゼが先導してきている場合だけだ。それでいいか?」
アフネスが”我が意を得たり”と言わんばかりに承諾した。リーゼは何が起こったのかわからない状況のようだ。
ヤスもアフネスが望んでいるのがわかった。リーゼを安全に匿ってほしいのだろう。
「マルス。設定は可能か?」
『可能です。個体名リーゼが認めた者だけが、広場及び神殿地下に入る事ができる様に設定しました』
「アフネス。これでいいか?」
「あぁ・・・(予想以上だ。これで、リーゼ様の安全が担保された)」
「なにか言ったか?」
「いや・・・。ヤス。ありがとう」
「おぉ!リーゼ。そういう事だから、お前はユーラットを離れるなよ?」
「えっ・・・。えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」
やっと事情を理解したリーゼの絶叫がコア部屋に響き渡った。
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