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第四章 拠点
第五話 再度ユーラットへ
しおりを挟むヤスは、駐車スペースから居住スペースに移動した。
「マルス。これから、居住スペースを、俺の家にする。呼称もだけど、設備とかも揃えていくからな。まずは、この世界にある物で揃えていこう」
『了。居住スペースを、”家”と呼称』
「それから、マルスは、神殿の領域内なら声が届けられるようだけど、緊急の時以外は神殿の1階部分でのみ受け答えをするように、家は2階から上のみとする」
『了。1階部分は、神殿スペースとする。地下1階から神殿とする。地上2階よりも上がマスターの居住スペースで”家”と呼称する。セキュリティの設定をあわせます』
「そうだ。それから、駐車スペースの準備はできているのか?」
『問題ありません』
ヤスは、マルスの言葉を聞いて移動を開始した。
地下スペースは、天井がやたら高い駐車場になっている。クレーン車とかでも問題なく停めておくことができそうな高さだ。15m位は有るだろう。
ヤスは、その中からスロープに近い場所を駐輪スペースに決めた。
これからもバイクや自転車を購入?する予定なので、少し広めに設定した。駐車スペースは車種別になっていて、小型車から超大型車に分かれている。出口のスロープは一箇所だけだが、マルスオプションの駐車スペースを見てみると、カーリフトも購入?できるようなので、ヤスは討伐ポイントを貯める決心をした。
駐車スペースを確保した事で、もう一度モンキーを呼び出す。
懐かしさを感じるフォルムなのに、125ccという排気量を持つバイクだ。ヤスは、50ccのモンキーを持っていた。近所の買い物に便利に使っていたのだ。
ディアナで通ってきたユーラットから神殿までの道は、車で移動するよりもバイクのほうがいいだろうと判断していたのだ。ただ単純に、モンキーが欲しかったというのは、8割り程度で残り2割は実用性を考えた結果だ。
モンキーのエンジンをスタートさせる。
「マルス・・・は、上か・・・。エミリア!」
『はい』
「ガソリンはどうなっている?」
『ガソリンはありません』
「え?でも、エンジンがかかっているぞ?」
『魔力で代替えします。マスターが供給する必要があります』
「そうなると、俺がやらないとダメなのか?」
『駐車スペースに置かれている場合には、自然に魔力が充填されます』
「わかった。それなら、俺と一緒なら途中でガス欠になるような事は無いのだな?」
『わかりません。マスターの魔力が枯渇したら、ガス欠の危険性があります』
「そりゃぁそうだ」
『また、機種名モンキーは魔法を使う事ができます。魔法の種類によっては、魔力が大幅に必要になる事が考えられます』
「わかった。魔力は、ガソリンメーターに表示されている量でいいのだな?」
『了』
ヤスは、エンジンをかけたまま、モンキーを押して1階に上がった。
「マルス。ユーラットに行ってくる」
『かしこまりました。マスター。神殿の拡張後、神殿に居る魔物の対処はどうしましょうか?』
「ディアナで倒せそうなら、ディアナで対処してくれ」
『了』
ヤスは、そのまま広大な何もない場所に出てからモンキーに再度またがった。
ヘルメットがない事に気がついたが、気にしないことにしたようだ。警察が居るわけではない。一応、モンキーに付けた結界を発動してから、クラッチを繋いでアクセルを開ける。
ゆっくりとした速度で走り始める。
ヤスは、徐々にアクセスを開けて速度を出していく。
不思議に思ったようだ。速度は、メーターを見ても流れる景色を見てもかなり出ている。しかし、風を感じる事ができないのだ、車の中に居て振動や景色から速度は感じるのと同じ感覚になっている。バイクの楽しみである風を感じる事ができない。
ヤスは、手元を見て結界を解除する。
(そうか、結界があると風を感じる事ができないのだな。安全を考えると、結界が有ったほうが良さそうだけど、考えどころだな)
結界を発動させてから、ユーラットに向けて出発する事にした。
ゴールデンスカラベを倒した事で、金が手に入ったし、ギルドで少しだけ換金するつもりで居たのだ。
それほど速度が出せるわけではないが、ディアナで走るよりは速度が出せる状況のようだ。
ディアナで木々を倒した事もあり、スムーズにユーラットの裏門にたどり着いた。
何度か、途中でエミリアを確認したが、近くに魔物が居る様子はなかった。
裏門から、表門に移動した。
すでに夕方と思われる時間だったが、門にはイザークが居た。
「イザーク!」
「お!ヤス。どうした?え?それは?」
「これも、アーティファクトだ。モンキーという乗り物だ」
「へぇ・・・。あ?それで?どうした?」
イザークは、ヤスの事に関しては深く考えないことにしたようだ。
神殿を攻略していれば、アーティファクトを複数持っていても不思議ではないと勝手に解釈したのだ。それに、聞いても答えない可能性が有る事に時間を取られるのも馬鹿らしいという思いもある。
「そうだ。ギルドの責任者・・・。ダーホスに、”神殿に来て欲しい”と伝えたくて来た。いろいろ解って問題がない事が確認できた」
「それだけか?」
「そうだ」
「わかった、俺から伝えておく。今日はどうする?ロブアンのところに泊まるのか?」
「いいや、今日は神殿に帰る。向こうに寝床があるからな」
「・・・。そうか、わかった。ダーホスと・・・。多分、アフネスが行くことになると思う」
「わかった。”待っている”と伝えてくれ」
「了解!なぁヤス。それも・・・」
「あぁ悪い。今の所、俺しか操作できそうにない」
「そうか、残念だな。おっと、悪い。早くしないと暗くなってしまうな。夜になれば、魔物が出る可能性が高まるからな。アーティファクトがあるからって安心しないで、注意して帰ってくれよな」
「おぉ。イザーク。ありがとう。それじゃ、伝言を頼む」
「わかった!またな!」
「あぁまた来る!」
ヤスは、かっこよくターンを決めたのだが、イザークには目の前で行われた事が、難しいことなのか判断する事ができないので、”ポカーン”とした表情で走り去るヤスを見送るしかなかった。
ヤスは、そのまま裏門に抜けてから、神殿に帰っていくつもりだった。ギルドで、金を買い取ってもらう事はすっかり完全に頭から抜けていた。
”マスター。魔物の反応です”
神殿に向かう街道に入ろうとした時に、エミリアからの通知が入った。
ヤスは、モンキーを停めてエミリアを取り出した。
「魔物の確認をするには?」
『ディアナアプリからマップを開いてください』
エミリアからの操作指示を受けながら、画面を確認する。
確かに、魔物の反応があるが、神殿とは違う方向だ。魔の森方面だ。町から、1km程度の場所のようだ。
「ん?エミリア。魔物の探索範囲が広がったのか?」
『いえ』
「前は、500m程度だったよな?」
『はい』
「今は、範囲が1kmに見えるぞ?」
『マルスの支配領域が広がっている関係で探知ができるようになりました』
「そうなると、今後も通知が来るのか?切る事はできるか?」
『可能です。呼称名フェレンから出てきた場合に通知する事も可能です』
「それで頼む、それから、支配領域が広がって内部まで管理できるようになったら、大きめの集落ができたら知らせるようにしてくれ」
『”大きめ”が曖昧です』
「そうか、30体以上が一箇所に集まったら通知してくれ」
『了』
エミリアに指示を出してから、今回の魔物が森の中に居る事や、5体の集団だったこともあり、ヤスは無視する事にした。怖いわけではない。面倒なわけではない。モンキーで討伐できる自身がなかったわけではない。そう、自分に言い聞かせたのだが、言い訳では自分を納得させる事ができなかった。
モンキーにまたがって、神殿に帰る事にしたようだ。
そして、ヤスは帰ってから大きなミスに気がついたのだ。
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