22 / 293
第四章 拠点
第一話 襲撃と朝食
しおりを挟むヤスは、ポケットに入れたエミリアの警告音で目が覚める。
「なんだよ。今、何時だよ?」
”マスター。すでにお眠りになってから、7時間39分経過しております”
「いい。それよりもなんだ?」
”ディアナに魔物が迫っております”
「なに!?ゴブリンか?コボルトか?」
”はい。ゴブリン30。コボルト60。未知の魔物1です”
「迎撃は可能か?」
”問題ありません”
「できるだけ町から離れて迎撃してくれ」
”了”
エミリアの画面が切り替わる。ディアナの正面に付いているカメラの映像が表示される。
ヤスは、ディアナに付いているカメラを切り替えながら状況を見ている。
エミリアには、討伐記録が随時表示されていく。
「オークでいいのか?エミリア。1体だけ居る奴を撮影できるか?」
”可能です。撮影はマスターがされますか?”
「いい。エミリアが行え」
”了”
撮影音・・・。なんてなく、一枚の写真がエミリアに転送された。
ヤスには、画面に見える豚面はオークと名付けるには十分に醜悪な魔物だ。
「こいつを、仮称オークとする」
”了”
ヤスがエミリアを見つめている間に、ディアナは魔物を駆逐した。
正面から轢き殺すというアグレッシブな方法だ。オークだけは、体が頑丈だったのだろう。飛ばされて、意識が飛んだところを、頭を轢いて殺した。
”マスター。殲滅が終了しました”
「大丈夫だ。見ていた。今の所は大丈夫だけど、相手が大きくなったり頑丈になったりしたらディアナでは対応が難しい場面も出てきそうだな」
”マスター。拠点にて強化が可能です”
「そう言っていたな。わかった、考慮しよう」
ヤスが、エミリアから話を聞いて方針を考え始めた瞬間にドアをノックする音が聞こえた。
「ヤス。起きている?」
「あぁ。どうした?」
リーゼが、ヤスを起こしに来た。
本来なら、起こすような事はしないのだが、アフネスがリーゼに頼んだのだ”ロブアンがヤスに朝食を用意したから起こして、一緒に食べな”と言ったようだ。
ロブアンは、ヤスに朝食を食べてさっさと出ていけといいたいのだろう。
アフネスは、ロブアンの考えそうな事はわかっていたので、ロブアンがヤスを起こしに行く前に、リーゼに頼んだのだ。
ロブアンはアフネスの考えている事がわかっていたが、反対はできない。リーゼの気持ちを一番に考えると言ってしまったからだ。実際、リーゼの気持ちは二人にはわからない。リーゼ自身もわかっていないだろう。
今まで男性と話をしようともしなかったリーゼが自分から話しかけているのだ。男性恐怖症が少しでも治ればいいとアフネスは考えているのだ。アフネスはそれ以上の事も考えていたのだが、ロブアンはリーゼの男性恐怖症が少しでも治ればいいと考えている程度なので、対応に温度差がでるのは当然の結果なのだ。
「起きているぞ」
「朝食ができたけど、食べるでしょ?」
「あぁわかった。食堂に行けばいいのか?」
「うん!あっ!僕も一緒に食べなさいって、おばさんに言われたから一緒に食べよう!」
「わかった。すぐに行く!」
ヤスが着替えを済ませて食堂に降りていくと、すでに準備が終わっていたが、リーゼが居ない。
厨房から、声が聞こえてくる。
「おじさん!何?あれ?ヤスに嫌がらせをしたかったの?」
「違う!俺は、そう、ヤスに、リーゼが好きな食べ物を食べてもらおうと思っただけだ!」
「ア・ナ・タ?」
厨房から聞こえてくる声は、リーゼとアフネスがロブアンに詰め寄っているようだ。
ヤスは用意されている朝食の前に座って待つ事にした。
(ほぉ・・・米も有るのか?玄米のようだな。それに、なんの魚かわからないけど、開いて焼いた物か・・・。ところてん?ほぉ・・・それに、納豆かぁ・・・。さては、俺が納豆を食べられないと思ったのか?おぉぉぉぉ!!ワサビもあるのか?味噌があれば完璧なのだけどな。さすがに、味噌汁はなさそうだ。残念だ。納豆があるのなら、小豆や大豆があるのだろう?醤油や味噌が作られないかな?多分・・・。誰かが作っているよな?)
(生卵は駄目だろう・・・)
「おーい。リーゼ。朝食にしようぜ?」
「ヤッヤス!」
「これでいいよ。大丈夫だ。あっ!なにか、果実水のような物があれば嬉しいな」
「え?」
厨房から、リーゼが飛び出してくる。
「ヤス。本当に大丈夫なの?」
「あぁ。それよりも食べようぜ。せっかくの料理が冷めたら美味しくない」
「あっうん」
厨房からアフネスの笑い声が聞こえてくる。それに、続いてロブアンが”なにか”を言っている。ヤスが大丈夫と言ったのが信じられないようだ。
リーゼが座ってからもヤスに本当に大丈夫?無理していない?
そんなことを聞いてきたが、純日本人であるヤスにとってはご褒美に近い食事だ。
「ヤス。果実水はこれでいいかい?」
アフネスが、コップに何を入れて持ってきた。
匂いから、りんご水だろう事はわかる。
「お!ありがとう。もう少し冷たい水を入れてくれると嬉しいかな?」
「わかった。それから、ヤス。これは食べるかい?」
「おばさん!」
アフネスが持ってきたのは、生卵だ。
「お!それは食べられるのか?」
「えぇ今日の朝に産んだ卵で、魔法で汚れは払ってある」
「へぇ・・・」
ヤスは、生卵を受け取って少しだけ匂いをかいでから、ホークでかき混ぜる。それを見ていた、アフネスが小さな声で”やっぱり”とつぶやいた。ヤスがテーブルの上でなにかを探していたので、アフネスは黙って魚醤を差し出した。
「おっサンキュー!これこれ!」
ヤスは、何も考えないでアフネスから魚醤を受け取って、少しだけ生卵にかけてから、ご飯の上にかけた。TKGにして食べるようだ。玄米で、魚醤を使っている。それでも、食べてきた味なので、ヤスは気にせず口に運ぶ。
「ん。うまい!アフネス。この・・・あぁなんていうのかわからないけど、これはもう少しもらえるか?」
「ありますよ。リーゼ」
「うん!」
リーゼが、ヤスから碗を受け取って、厨房に入っていく、ロブアンがなにか言っているようだが、リーゼは無視して玄米を同じくらい入れて、生卵を持って出てきた。
ヤスは、同じようにTKGにして、行儀が悪いのはわかっているのだが、その上に納豆を置いて一気に食べた。
「うまかったよ」
ヤスは綺麗に平らげてから、アフネスが持ってきた果実水を飲み干した。
「ヤス。おかわりは?」
「頼めるか?」
「うん」
リーゼが、ヤスからコップを受け取って、自分のコップと一緒に厨房に入っていった。
残っていたアフネスが、リーゼが座っていた場所に座って、肘を付いて顎に手を置いてヤスに話しかけてきた。
「ねぇヤス」
「なんだ?」
「これから、いろいろな場所に行くつもりなのでしょ?」
「そのつもりだけど?」
「悪い事は言わないから、糸引き豆と生卵と魚油は、食べないほうがいいわよ。街に居るエルフ族だけの時は別にして、他の種族が居る時には避けたほうがいいわよ?」
「なんでだ?あんなに美味しいのに?」
厨房から、リーゼとロブアンがなにか言い争っている声が聞こえる。
まだ戻ってくる様子がない事から、アフネスは話を続ける事にしたようだ。
「あの料理は、ロブアンが出した物だけど、一部のエルフ族や獣人族が好んで食べたりしているけど・・・。人非人が食べていた物だからだよ」
「へぇ・・・。それで?」
「そう言えば、そういう人だったわね。だから、ヤスが人非人だと思われるのは困るわよね?」
「そうなのか?」
アフネスは大きなため息をついて、首を横にふる
「そうなのよ。エルフ族なら、糸引き豆と生卵は、昔から食べていたから問題は無いのだけど、他の種族は食べないから注意しなさいね」
「お!わかった。食べたくなったら、ここに来ればいいだけだな」
「はぁ・・・。そうね。そう思ってくれればいいわ」
アフネスの大きなため息だけが朝食が終わった食堂に響いた。
0
お気に入りに追加
122
あなたにおすすめの小説

【完結】投げる男〜異世界転移して石を投げ続けたら最強になってた話〜
心太
ファンタジー
【何故、石を投げてたら賢さと魅力も上がるんだ?!】
(大分前に書いたモノ。どこかのサイトの、何かのコンテストで最終選考まで残ったが、その後、日の目を見る事のなかった話)
雷に打たれた俺は異世界に転移した。
目の前に現れたステータスウインドウ。そこは古風なRPGの世界。その辺に転がっていた石を投げてモンスターを倒すと経験値とお金が貰えました。こんな楽しい世界はない。モンスターを倒しまくってレベル上げ&お金持ち目指します。
──あれ? 自分のステータスが見えるのは俺だけ?
──ステータスの魅力が上がり過ぎて、神話級のイケメンになってます。
細かい事は気にしない、勇者や魔王にも興味なし。自分の育成ゲームを楽しみます。
俺は今日も伝説の武器、石を投げる!
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる