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第三章 町?街?え?
第十話 納得?
しおりを挟む二人はヤスの答えを聞いてホッとした。
アフネスはヤスが”偏見”がない事に対して、ダーホスはヤスが”人族至上主義”や”亜人解放思想”などの偏った主義思想を持っていない事に・・・。
「ヤス殿。貴殿は、神・・・女神や精霊をどう思いますか?」
「ダーホス!」
今度は、アフネスが慌てる。
アフネスとしては、聞かなければならない事だとは思っていたのだが人となりがしれてからでも遅くないと思っていたのだ。まさか、ダーホスから藪を突くような行為をするとは思わなかったのだ。
「神様?宗教って事か?」
「そう捉えてもらって構わない」
「俺が覚えている事と違っているだろうからな」
「ヤス殿は、なにか覚えているのですか?」
「あぁ俺が居た場所は、”八百万の神々”が統治していた」
「やおよろずのかみがみ?」「・・・。やおよろずのかみがみ!」
「そうだな。簡単に言えば、”石や水や木々や草花に、神々が宿っている”という考えだな」
「「・・・」」
「俺自身の事で言えば、神も女神も精霊も見たことが無いから、さっき聞いた亜人と同じで、俺に害意があれば抵抗するし、そうでなければ気にしない」
「ヤス殿は、神罰を恐れないのですか?」
「神罰?それは、宗教家が言っている事か?それとも、神自らが言ったことか?」
「なにか違いでも?」
「大きく違う。俺の目の前に、神とやらが来て、俺に罰を下すのなら、納得できる理由があれば受けるが、宗教家・・・そうだな。司祭や教皇とか”神の声を聞いている”とか言っている連中が俺に罰を与えると言い出したら、徹底的に抵抗する。神の代弁者を名乗る連中が俺は嫌いだ。気持ち悪い」
「ハハハ!!!!」
「・・・」「・・・。アフネス殿?」
「すまない。ヤス。貴殿には、是非、エルフの里のババ様に会って欲しい」
「え?」「アフネス殿?それは、ヤス殿を、エルフの里に招くという事ですか?」
「その話は、神殿の様子を見てからでもいいだろう?ヤスもダーホスもそれでいいよな?」
有無を言わさない雰囲気でアフネスが言い切ったために、ヤスとダーホスも従う事になる。
ヤスとしても、他にもいろいろ聞きたい事が有ったのだが、それは後日になりそうだ。
町の中から、ヤスを呼ぶ声が聞こえてくる。
リーゼたちが門まで走ってきたようだ。
「ヤス!!」
リーゼが、ロブアンの制止を振り切って、ヤスに駆け寄る。
「どうした?」
ヤスに冷静に返されて、リーゼ自身なにが不安だったのか思い出せなくなってしまった。
「うぅぅぅ」
「はぁはぁはぁリーゼ・・・」
どこかの変態さんみたいな声を出しているのは、遅れてやってきたロブアンだ。
別に急ぐ必要はなかったのだが、リーゼが走り出したので、一緒に走り出したのだ。その後ろから、イザークが小走り程度の速度でやってくるのがわかる。
たしかにイザークは急ぐ必要がないので、小走り程度なのだがヤスから見るとイザークが要領よくやっているようにみえてしまう。
遅れていたイザークも到着して、皆が揃ったことになる。
「そうだ。イザーク。これ返しておく」
そう言ってユーラット町に入る時に渡された物をポケットから取り出してイザークに返す。
ギルドの会員証ができたのでもう必要ない物だ。
「お!そうだった、忘れていた。これで、ヤスもユーラットの人間だな」
「そういう事になるのか?」
「ん?ならないのか?」
イザークは、ヤスがユーラットに住居を持って生活するために、ギルドに登録したのだと思っていたのだ。ヤスは、これからいろいろな場所に行くのに、ギルドカードがあれば楽だという”ラノベ設定”を思い出して作ったに過ぎないのだ。
「イザーク。ヤスは、ユーラットには住まないわよ」
アフネスが少し笑いながらイザークに説明を始めた。
どうやら、リーゼとロブアンに聞かせる目的も有るようだ。リーゼは、ヤスが神殿に用事があるのは知っていた。そのために、一度神殿に行くだろう事は理解していたが、神殿に住むとまでは思っていなかったようだ。だんだんと暗い表情になるリーゼとは対称にロブアンはすごく嬉しそうな表情に変わってきた。
しかし、ロブアンの嬉しそうな表情は、今夜アフネスの計画を聞いて一変することになる。
「あ!そうだ、それで、ダーホス。これで、納得したか?」
ダーホスがうなずく。
納得するしかない状況だ。報告を考えると、頭が痛い問題である事も間違いない。それこそ、ヤスとアーティファクトであるディアナと一緒に辺境伯のところに行こうかと考えたくらいだ。しかし、それもアフネスの策略で頓挫してしまう可能性が出てきた。
辺境伯は、問題はない。問題は、”辺境伯は”の部分なのだ。息子達、特に次男に大きな問題がある。
まず、リーゼを妾に・・・。はっきり言えば、愛人にしようとした。その上、人族至上主義で、エルフ族を下に見て奴隷が丁度良いというような人物なのだ。不思議な事に、長男よりも人気がある。長男は、無難と言えば聞こえがいいが、凡庸な人物でよくも悪くも貴族なのだ。
辺境伯は、ヤスの事情や神殿のことを話せば理解して納得して、自分たちに一番”利”になる道を選ぶだろう。ヤスとの共存を選ぶだろう。
しかし、息子たちは違う。長男は、貴族なのだ。それも良い事も悪い事も行う貴族なのだ。ヤスのアーティファクトが出たのが神殿だとしても、その神殿を管理していたのは、バッケスホーフ王国で領地が近い自分たちの物だと考えるだろう。金や女、最後には権力を持ち出して奪おうとするのは間違いない。
次男はもっと達が悪い。ヤスのアーティファクトを見れば間違いなく”暴力”を使ってでも奪い取ろうとするだろう。その結果、ヤスが建国を宣言してしまうかもしれない。建国した結果周りの貴族や国々に及ぼす影響が”どのくらい”か、などヤスは考えないだろう。
王家も、1貴族が神殿を管理するのは危険性がある事は認識していた。そのために、神殿の周りの山々や森はすべて神殿の影響範囲として設定して、神殿に向かう唯一の道の途中にユーラットという寂れた港町を作成したのだ。そして、ユーラットの周辺を直轄領として管理する事に決めたのだ。
ダーホスが納得した事で、この場は解散となった。
「ヤス。今日は、泊まっていくのでしょ?」
アフネスがヤスに声をかける。
「頼めるか?俺は、さっきの場所まで、ディアナを移動させる」
「あ!なら、僕も一緒に行く!」
「リーゼ!」「ア・ナ・タは、私と話しながら帰りましょう。ヤス。リーゼの事をお願いね」
「あっ・・・。おぉぉ」
ヤスは、アフネスの勢いに押されて承諾した。
ロブアンはまだなにかを言っていたのだが、アフネスに引っ張られるように、町の中に入っていった。
「ほら、ヤス。早く!」
「あぁ(まぁしょうがないか)」
ヤスは、ディアナのドアを開けて乗り込む、待っているリーゼに手を差し出した。
嬉しそうに手を握ってくるリーゼを引っ張り上げて、後ろに座らせる。
「出発!」
何が嬉しいのか、リーゼは終始ご機嫌な表情で、ヤスに話しかけている。
ヤスも、ユーラットに住む者たちの事が知れるいい機会だと考えて、リーゼの話を聞きながらディアナを走らせた。急ぐ必要もないので、ハンドルが取られない速度で走る事にした。
倍以上の10分かけて裏門にたどり着いた。
「あぁもう着いちゃった。ヤス。今日は泊まっていくよね?また来るよね?」
「そうだな。これからどうしたらいいのか考える必要があるからな・・・。アフネスに相談に行くと思う」
「わかった!」
ディアナを停車させて、ドアを開けて、ヤスが降りる。リーゼがドアの近くまできたので、手を握って降ろす。
「えへ」
何が嬉しいのか、リーゼが嬉しそうにしている。
リーゼは降りる時に握った手を離さないで、ヤスを引っ張るように町の方に移動を始める。
「リーゼ。少し待ってくれ」
「え?」
「すまん。ディアナをロックしておきたい」
リーゼは、ヤスに言われて、自分の先走った行動をわびた。
「いいよ。謝るような事じゃないからな。だから少し待ってくれ」
「うん。僕、待っている」
リーゼをその場に待たせて、ヤスはディアナに乗り込む。
「エミリア」
『はい』
「さっきの会話は、聞いていただろう?マルスにも伝えて、検証してくれ」
『マスター。マルスとのリンクは終了しております』
「そうか、それなら、神殿の攻略に関する情報と近隣の情報の収集を頼む。明日になるとは思うが、拠点に行く」
『了』
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