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第三章 町?街?え?
第七話 言い訳?
しおりを挟む「ヤス!おじさん!」
リーゼが、アフネスと一緒にギルドに入ってきた。
ヤスとロブアンが遅いので、気になって見に来たようだ。アフネスは、どうせ旦那であるロブアンがギルドにクレームを入れていると考えていた。そして、リーゼから詳しい話を聞いて、ヤスが神殿を攻略した可能性がある事。アーティファクトのことを説明しないで乗り切ろうとしているのだろうと予測していた。
残念な事にほぼアフネスの予測通りに進んでいた。問題の発生も予想の範疇のようだ。
「ダーホス。少し話がある」
アフネスがギルドの責任者を連れ出す。
ギルドに静寂が訪れる。ヤスとロブアンは目線をあわせた。
(ロブアン)
(なんだ?)
(逃げたほうがよくないか?)
(そうだな)
目線だけの会話。お互いに、以心伝心なのだろうか?この時だけは、二人はたしかな繋がりを感じたのだった。
席を静かに立ち上がって、外に出ようとするヤスとロブアンの前に、リーゼが立ちふさがる。
ヤスの気持ちとしては
”野生のリーゼが現れた たたかう/逃げる/かいわ”
選択式のRPGだったとしたらこんな選択肢が現れただろう。そして、選択できるのなら、迷わず”逃げる”を選択しただろう。
”ヤスは逃げた”
”リーゼに回り込まれた。逃げられない。たたかう/かいわ”
ヤスは、”かいわ”を選択した。
「リーゼ?」
リーゼは、ヤスを見ていない。
しかし、ロブアンはすでに捕まっている。
「ヤス。ヤスは残って、おじさんは帰って、ヤスと私たちの食事の準備」
「リーゼ・・・」
「おじさん。それとも、ロブアン殿とお呼びすればいいですか?」
「リーゼぇぇぇ」
ロブアンが情けない声を出して跪いた。フラフラと立ち上がって、ギルドから出ていった。リーゼに言われたとおりに、宿に戻るようだ。
「それでヤス?」
「なんだよ」
リーゼは、勢いよく頭を下げた。
想像と違った行動だったので、ヤスはどう対応してよいのかわからずに固まっている。
リーゼとしては、ロブアンが無理矢理ヤスを連れて行って、証言を強要しているように見えたのだ。
アフネスにヤスのアーティファクト・・・。だと思っているディアナに関して話をした。そして、ヤスが記憶喪失になっている事。もしかしたら、貴族の子息かもしれない事も自分の考えとして、アフネスに伝えたのだ。
頭を下げている理由は簡単だ。
自分がギルドに案内すると言っておきながら、リーゼが自分で案内する事ができなかった事への謝罪だ。
リーザは、素直にヤスに謝罪した。
ヤスとリーゼが話していると、ギルドの責任者を連れたアフネスが戻ってきた。お話は終わったようだ。
「ヤス。リーゼ。ギルドの部屋に行くよ」
「え?」「はい!」
アフネスがヤスに近づいて説明する。
「(あんたの事は、多くの人間に知られていい事じゃないだろう?)」
「(え?)」
「(あんたが、神殿を攻略したかもしれないという事を知られたら、貴族が出てくる。最悪は、国が出てくる。それは避けたいのだろう?)」
「(あぁ)」
「(それなら、暫くは黙ってうなずいているのだよ。悪いようにはしない)」
「(わかった)」
ヤスはいろいろ考えたが、ここは従っておく方がいいと感じていた。
それに、貴族や国といわれても、ピンときていないのも事実だ。何かあればディアナで逃げ出せばいいと考えている。
ダーホスは、アフネスに言われた通りに部屋を用意した。
その上で、これもアフネスに言われた通りに、盗聴阻害の魔道具を起動する。
「それで、アフネスさん。先程の話は本当なのか?ヤスが、馬車の数倍の速度で移動する手段を持っていると言うのは?」
「ダーホス。そんなに一気に話しても、ヤスが話してくれるは限らないとさっき言った通りさ」
「しかし、アフネスさん」
「ヤス。どうする?」
アフネスは、ダーホスの言葉を無視して、ヤスに話しかける。
「構わない。その代わりここに居る人だけで他には漏らさないと約束して欲しい」
皆がうなずいた。
ギルドとしては内部で情報を共有する必要があるが、それはこれからのヤスとの付き合いに関係してくると、一言付け足すのは忘れなかった。ヤスは、それでいいと思った。喧伝する事でもないし、知られて困る内容なのは神殿に関する事だけだ。アフネスも神殿に関わる事は秘匿すると約束して、ダーホスもそれに倣った。
ヤスは、ユーラットの神殿から飛ばされた事にして説明をする事にした。
記憶が無いことも改めて説明した。その上で、アーティファクトを得てそれで記憶にあったユーラットに戻ってきたと説明したのだ。
そこで、リーゼが襲われていて助けに入って、偶然にも目的地が同じだったので連れて帰ってきた事にしたのだ。
リーゼも時折説明を補足してくれる。自分がどんな状態だったのか?ヤスが居なかったらどうなっていたのか?
ヤスとリーゼの説明が終わった。
「「「・・・」」」
ダーホスと一緒に話を聞いていたアフネスとドーリスは声が出せないでいる。
確かに、ゴブリンは魔物としては最低ランクだ。1対1なら子供でも倒せる可能性がある。大人ならほぼ確実に倒す事ができる。ただし、それは複数にならない状況と、上位種が生まれていない事が条件になる。
ドーリスが持ってきていた、ヤスの討伐記録にはゴブリン16体が記憶されている。
ただし、1体は上位種に進化していた。ホブゴブリンだ。指揮する個体が居たのだ。それを、ヤスは一人で討伐したのだ。これは、熟練の冒険者でも難しい事だ。今日、ギルドに登録した人間ができるような事ではない。
ドーリスは、討伐記録を見た時に、ヤスがゴブリンたちを罠に嵌めて討伐したのだと認識した。それなら、納得ができる。しかし、説明を聞いた限りでは状況は違っている。
3人はそれぞれが考えていたシナリオとは違う説明を受けて、黙ってしまったのだ。
「おばさん?」
「あっそうだ。ヤス。あんた。神殿を・・・」「わかりません」
いい切る前に否定した。
実際に、マルスからは”把握した”と連絡を受けているが、実際に見ていないので、攻略しているとは言えないでいる。
「それはわかった。今はそれでいい。ダーホスもそれでいいわよね?」
「あぁ」
「それで、ヤス。そのアーティファクトを見せてもらえる?」
「問題ない。町の外に置いてある」
「「「置いてある!アーティファクトを!」」」
「そうだが?持ってくるわけにも行かないし、そもそも持てないぞ?」
「いや、いや、ヤス殿。それでも、町の中に入れて、人に頼んでおくとか・・・」
「同じことだよな?」
「え?」
「宿は、ロブアンのところだろう?今なら、その選択肢を選ぶのは間違いではないとわかるけど、俺がこの町に来たときには、知り合いはリーゼだけだった。信頼”する”か”しない”かの問題ではなく、どうなるのかわからない状況で、アーティファクトを先に見せる馬鹿はいないよな?」
この話を聞いて、リーゼだけが納得している。
「リーゼは、なにか知っているのか?」
そんなリーゼの対応を見て、アフネスが疑問に思ったようだ。
「ねぇヤス。みんなに、アーティファクトを見てもらったほうがいいと思うよ」
少しだけ考えてから、ヤスもリーゼの意見にうなずく事にした。もともと、見せなければ話が進まない事はわかっていたし、見せる事によっての”メリット”と”デメリット”は確実にメリットの方が多いと考えていた。
「・・・。そうだな。それが早そうだな」
「うん!」
なぜか嬉しそうなリーゼとギルドの関係者とアフネス。宿の前を通る時に、気がついて表に出てきて、絶対についていくと言ったロブアン。
それから、今日も門番をしていた、イザークが一緒に行く事になった。
ディアナは、置いた場所から動いていない。
ヤスが近づくと、エミリアが振動した。
”マスター。ディアナを起動しますか?”
”頼む”
”了”
エンジンに火が入る。
リーゼ以外が何事かと身構える。初めて見る、鉄でできた馬車。それだけでも異様な雰囲気なのに、聞いた事がない音までしている。そんな状況で、アーティファクトに近づこうとする者はいない。
「・・・。ヤス殿」
ダーホスが、アーティファクトに触ろうとして、ヤスに話しかけてきた。
「あぁ大丈夫ですよ」
ヤスは、問題ないと告げるが、聞いてきたダーホスをはじめ誰も近づこうとしない。
(しょうがないな)
”マスター。ディアナに乗り込むのなら、エミリアを取り出して、かざしてください”
”ん?”
”乗り込むために必要だと思わせたほうがよいと考えます”
”わかった”
ヤスが、エミリアを取り出して、ディアナに近づいた。
ドアが空いたところで、リーゼ以外が更に一歩離れてしまった。
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