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第三章 託された手紙
第六話 青い手毬花
しおりを挟む「それで、沙奈。いつにする?」
克己が沙奈に予定を訪ねる。
「そうね。美和さん。次のお休みは?」
沙奈は、美和の予定に合わせるようだ。
「土日なら休めるわよ」
鍵となる鈴の予定を最後に聞いたのは、鈴の予定次第でスケジュールを決めなければならないためだ。
「鈴さんは?」
「え?あっ私も大丈夫だけど、進さんが休みの時がいいかな?唯をお願いできる」
鈴はいつでも大丈夫だというが土日だと唯の学校が休みで家に居る。
進が居ないと1人に鳴ってしまうのは心配だと考えた。
「それなら、土曜日だな。日曜日は呼び出しがあるかも知れない」
「桜さんも、土曜日なら家に居ますか?」
「大丈夫だ」
「それなら、土曜日の午前中に動きましょう」
沙奈が時間を決める。
「なぜだ?」
進が沙奈の決めた時間を疑問に思う。
「まずは、一度場所を見て軽く掘ってみて、見つからなければ、本格的に掘るための道具を取りに戻る必要があるでしょ?」
「最初から用意しておけばいいのでは?」
進が当然の疑問を口にするが、沙奈ではなく克己が進に説明する。
「進。俺たちは、偶然居合わせて、偶然マホを見つける。そうでなければ、鈴が疑われてしまうだろう。西沢や日野が鈴やなつみを殴った過去を思い出したら厄介だ」
「あ・・。そうだな」
克己の話で、進は設定やら夢の内容を思い出した。
マホからの手紙というだけで眉唾だが、鈴がマホの字だと言っている。桜や克己も、マホからの手紙だと断定して動いている。
「なぁ桜」
「ん?」
「素朴な疑問だがいいか?」
「あぁ」
「桜も克己も、鈴が持っている手紙を、マホが書いたと断定しているよな?俺や鈴が書いたと思わないのか?」
「ハハハ」「・・・。ハッ」
桜は笑いだして、克己は笑うのも億劫なのだろう、苦笑したのにとどめた。
質問されたので、桜が進に考えを教えるようだ。
「進。手紙の内容は覚えているよな?」
「あぁ」
「鈴が知っているのは、殴られた事実や、傘を隠された事実だ」
「そうだな」
「時計の話や、傘を壊されたのは知らない」
「かもしれないが」
「それに、鈴や進にはメリットが全く無い」
「え?」
「順番が逆なら、俺は鈴を疑うだろう」
「順番?」
「あぁ同窓会が行われる前にこの手紙を見せられて、同窓会が行われていたら、鈴と進を疑う可能性だってあった」
「順番が違っても、怪しいのは同じだろう?それに、マホからの手紙だと断定するよりも、鈴や俺の自作自演の方が自然な考えだろう?」
「だとよ。克己はどう思う?」
「進。この手紙の話を、鈴が俺や克己や美和に直接持ってきたのなら、自作自演を疑った可能性は高い」
「え?」
「忘れていないか?この手紙を持ってきたのは、唯だぞ?」
「だったら・・・」
「そうだな。お前か鈴が持たせたと考えるのが自然だろうけど、唯は”肝試しで貰った”と言っている。渡された手紙だと言っている」
「それを信じるのか?」
「当然だろう?唯は1人の人間だぞ?その証言を信じないでどうする?」
「・・・」
「それに、もし、鈴が先生や他の生徒に頼んで唯に手紙を渡すようにしたとして、すぐにばれるよな?」
「・・・」
「そういう事だ。だから、手紙はマホが書いたと考えるのが自然だ。秘密の暴露もあるし、マホじゃなければ、マホを殺めた奴が書いたのだろう」
「そうか・・・。すまん」
「気にしなくていい。疑われる危険性を考えれば当然の質問だ。だからこそ、手紙ではなく夢の話にしておいたほうがいい」
「わかった」
男性陣の会話を聞いていた美和が新しい紅茶を入れる。
沙奈が鈴を誘って家にお菓子を取りに戻った。日程も決まったので、眠くなるまで昔話しに花を咲かせたのだ。
--- 後日
「進さん。行ってきます」
「うん。唯は任せろ。ショッピングモールに連れて行って、向こうで何か食べてくる。夕ご飯も、適当に食べてくるから安心していいよ」
進は、克己からマホが見つかった時には、帰るのが遅くなるだろうと説明した。
警察に説明しなければならないためだ。美和が居るので長時間の拘束は無いだろうが、それでも夜になってしまうと考えられた。
「わかった」
「鈴」
「ん?なに?」
「・・・。いや、なんでもない。無理しないようにね」
「はい」
進は、正直に言えば引き止めたかった。
本当にマホが見つかれば大変な状態になる。見つからなければ、鈴や唯に何かあるかもしれない。
桜は手紙の件があってから、警察内部に張り巡らされた情報網から情報を集めた。使える人脈を使って話を聞いた。
鈴の同級生にも話を聞いて、マホをいじめていた連中を絞り込んだ。
いじめていた連中は、死んでいたり行方不明になったりしている状態だ。わかっているので、立花・西沢・日野・杉本だけが生きていると解っているのだ。
この4人は渋っていたが、同窓会の招待状がこの4人と同窓会で殺された連中には、須賀谷真帆の名前で送られてきていた。
殺された連中は捜査段階で解っていたが、新たに4人が加わった。
桜が警告を出す前に、杉本を除く3人には警察が張り付いた。
須賀谷真帆か、犯人が接触してくる可能性を考えたのだ。それ以外にも、立花には雇われた護衛がついた。日野と西沢も規模の違いはあるが、護衛がついた。
「桜さん。行ってきます。ユウキをお願いします」
「大丈夫だ。タクミとおふくろに預けてくる」
「それなら大丈夫ね。タクミが一緒ならご飯も食べるし、勉強もしてくれるでしょう」
「そうだな。美和」
「なに?」
「その・・・。なんだ・・・。無理するなよ」
「フフフ。解っています。私が無理して倒れたりしたら、彼と彼女に申し訳が立たないからね」
「そうだな。マホが見つかったら、彼らに会いに行ってもいいな」
「・・・。そうね。申請すれば許可されるでしょうし、彼らにも報告をしたほうがいいでしょうね」
「そうだな。那由多の事も覚えているだろうし、他にもいろいろ有ったからな」
「そうね」
美和は、自分の車の鍵を持って玄関から出る。
同じタイミングで隣の家から、タクミを連れた沙奈が出てくる。沙奈は、そのままタクミを桜に預けて、克己が暖気していた車に乗り込む。
美和は、鈴を途中で拾ってから、キャンプ場まで行くのだ。
標高こそ低いが、狭い道が続いている。崖にはガードレールがあるが、長年放置されているので、果たしてガードレールとしての役割を果たしてくれるか不安にもなる。車一台がギリギリ通れる幅の道が頂上付近にあるキャンプ場に向かうのだ。
「克己さん。イオンに寄って欲しいのだけど?」
「ん?イオンは、いつもの所でいいのか?」
「えぇお願いします」
「何か買うのか?」
「そうですね。お花を買っていこうと思いまして」
「ん?マホ・・・。あっそうだな。途中にあるな。寄っていかないとダメだな」
「はい。お願いできますか?」
克己と沙奈は、途中にあるイオンで花を買った。通称”ひげ道”を登った場所にある用水路。今はもう綺麗になってしまった場所に花を手向ける。
線香に火を着けて用水路の脇に桜と克己と彼が作った、小さな・・・。本当に小さな墓標に手を合わせる。墓標に書かれた名前は雨風に削られて判別できないが、桜と克己と彼にとっては大事な場所なのだ。
数分間、黙祷をした克己は目を開いて、膝に付いた土を払う。
「よし。行くか」
沙奈も克己に合わせて立ち上がる。
「はい」
もう少しあがると民家もなくなる。
今日は、キャンプ場が開かれていない。
美和の車を見つけて近くに停める。
美和と鈴は先に行ったようだ。
克己と沙奈は靴を履き替えて、仏舎利塔を目指す。
キャンプ場の駐車場からは1.2キロほどだと記載されている。
二人は黙って歩いた。
足跡から、鈴と美和も同じ道を通ったのだろう。
ゆっくりとしたペースで歩いて仏舎利塔にたどり着いた。
---
「美和さん」
「鈴?」
「いえ、なんでも無いです。克己さんたちを待たなくていいのですか?」
早めに着いてしまった美和たちは駐車場で待っていたのだが、独特のエンジン音がする克己の車が近づいてきていないのを悟って先に行こうとしていた。
「大丈夫よ。目的地は同じなのだから、待っていればマホが出てきてくれるかもしれないでしょ?」
「そんな・・・」
鈴は気丈に振る舞っているが”おばけ”の類が苦手なのだ。マホなら怖くないと思っていても、仏舎利塔が怖いのだ。
美和と鈴が仏舎利塔に到着した。
「あ」「本当だ」
一部の紫陽花だけが青色の花を付けていた。
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