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第八章 セキュリティ・キャンプ

第二話 レギュレーション

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 作業場所に帰る前に、近所のラーメン屋で夕飯を食べようと思った。

「お!今日は、一人か?」

「えぇユウキは、バイト先で食べてくるらしいので」

「そうか、それでどうする?」

「チャーハンセットを塩で」

 塩ラーメンとチャーハンのセットを頼む。
 ユウキが居ると、これに餃子か唐揚げが追加される。デザートの杏仁豆腐までしっかりと食べる。あの身体のどこに入っているのか不思議に思えてしまう。そして、育たなかった身体の一部を思い出す。

「はいよ」

 他にも客は居るが、顔なじみばかりだ。
 名前も職業も知らない人たちだが、街ですれ違ったら会釈くらいはする。不思議な関係だ。

 10分程度で注文した物が並ぶ。
 一人の時には、テーブルに代金を置いておく、会計を先に済ます。1,100円だ。オヤジや桜さんは、常連の店にはデポジットとか言っていくらか預けているらしい。俺は知らなかったのだが、ここの店主はオヤジたちの後輩らしい。

 関係がないことを考えながら、先生からの依頼を考えてみる。
 有志と言ったが、先生が声をかけるのだろう。3年生はダメだろう、電子科が2クラス。情報科が1クラス。1年と2年から有志を募る1クラスから5名か・・・。案外難しいかも知れないな。セキュリティ大会のレギュレーションは、去年の物があるだろうから帰ってからネットで探してみて確認だな。

 塩ラーメンの麺や具材を食べ終えてから、チャーハンを食べる。行儀が悪いが、レンゲでチャーハンを掬って、ラーメンのスープに浸してから食べるのが好きだ。

 食べ終わって、会計も終わっている。

「ごちそうさま。また来ます」

「おぉ今度は二人で来いよ!」

 手を上げて店を出る。
 ユウキからの連絡は入っていない。スマホを立ち上げて、冷蔵庫の中身を確認する。登録のミスがなければ、牛乳が残り少なくなっている可能性がある。マックスバリュで牛乳を買って帰る。疲れて寝てしまっても、夜中に起き出して、腹が減ったとか言い出す、ユウキのために、パンでも買っていこう。菓子パンでいいだろう。夜中に食べなかったら、明日の朝にでも食べればいい。

 自転車を庭に入れて、ロックを行う。桜さんがどこからか貰ってきたと言っている、駅前や商業施設によくある自転車をロックする物だ。鍵をしておけば、盗まれる心配は殆どない。ユウキの自転車はまだ戻ってきていない。

 牛乳を冷蔵庫に閉まって、パンをキッチンに置いておく。
 地下倉庫から秘密部屋に移動する。

 セキュリティ大会を確認した。県が主催のようだ。高校生が対象で詳細は学校に通知されるようになっている。
 団体戦で、情報セキュリティの習熟度を競い合うとなっている。2泊3日のキャンプ形式で行われる。

 長丁場で競うのか?それとも、別の意図があるのか?

 明日、先生に聞かなければわからないな。
 一般的なハッキング大会とは違うようだ。AIとか言い出さなければ良いのだけどな。流行りの言葉を並べればいいと思っているような大会じゃなければ・・・。

 レギュレーションは提示されていなかった。過去の分もない。

 オヤジにメールを出しておく、監視業務は続けるにしても、学校からの依頼が入った事は知らせておく必要があるだろう。すぐに、オヤジから了解の返事が来た。

 秘密基地の器材も揃った。
 前の部屋では諦めていたメインの環境を4面ディスプレイにして、両脇に2面ずつディスプレイを配置した。4面を上下に配置して全部で8面にして使っている。8面の上の段の左右には4分割して、監視用端末を起動している。同じから受けた監視業務のサーバにリモート接続して表示させている。外回りと内回りの2系統を別々の端末で接続して表示している。
 あとは、オヤジから管理を任された篠崎家と森下家の家内伝言板やメールサーバの稼働状況をモニタリングしている。
 オヤジに聞いたら、業務用の回線は好きに使って良いようなので、実験用のサーバを起動したりして遊んでいる。

 回線も2系統が使えるようになったのと、固定IPが増えたので、出来る内容が格段に増えた。

 おっ門が開けられた。ユウキが帰ってきた。
 背中を伸ばすと、固まっていた骨が伸びたようで、心地よい音が鳴る。1階に戻ると、丁度ユウキが玄関から入ってきた。

「おかえり」

「ただいま!」

 靴を脱いで、ユウキが抱きついてくる。

「風呂の準備が出来ているけど、入るか?」

「うん。一緒に入ろう!」

「わかった」

「ねぇタクミ。今日、離れで寝ない?」

「離れ?」

「うん。ほら、この前、スクリーンで映画を流してくれたでしょ?」

「あぁ」

「あれって、何でも流せるのでしょ?」

「なんでもは無理だけど、パソコンで再生できる物なら大丈夫だな」

「これ、前から見たくて、借りてきた!」

 ツタヤからなにかを借りてきたようだ。
 中を見ると、ドキュメンタリー系のDVDだ。海の神秘に迫ったもののようだ。確かに、リビングで見るよりもスクリーンで見たほうがいいだろうな。音も趣味人が調整しているだけはある。

「いいけど、離れなら寝間着を着てからだぞ?」

「えぇ・・・。いいよ。それに、そのまま寝ても大丈夫なように、タオルケットを持っていこう。ソファーで寝ればいいよ」

「わかった。髪の毛はしっかり乾かせよ」

「うん。まずはお風呂に入ろう」

 ユウキと風呂に入ってから、離れに移動した。もちろん、裸のままだ。ユウキに恥じらいが無くなっているように思えるが俺の前だけだから気にしないことにしている。

 離れでは、映画を見てから一緒に寝た。正確には、ユウキは途中で眠くなってきたのか可愛い寝息を立てていた。夜中に起きる事やお腹が空くようなこともなく、朝まで寝ていた。離れにも布団の一式を用意したほうがいいかもしれないな。今は良いけど冬場は流石に寒いだろう。

「タクミ。今日の用事は?」

「あぁそうだ。学校からの依頼で、放課後、電子科の教員室に行く」

「すぐに終わる?」

「どうだろう?1時間くらいだと思うけど、わからない」

「うーん。あっ!そうだ。僕、大将の所で待っているね」

「あぁ鉄板焼屋か?」

「うん!」

「わかった。好きな物を注文していいぞ?」

「うーん。もしかしたら、友達と居るかも知れないから、タクミに連絡をいれるね」

「わかった。朝飯は簡単に菓子パンとスクランブルエッグだ。飲み物は何がいい?」

「何でもいいよ。冷たいと嬉しいな」

「わかった。りんごジュースがあるから、それでいいか?」

「うん!ありがとう」

 朝食をすませて、学校に行く。
 二人で登校するのは前から変わっていない。

 門でユウキと分かれる。科がある校舎が違うのだ。俺は、第一校舎でユウキは第三校舎だ。校舎が全部で3つと実習棟が5つある。食堂が2つと体育館が2つある。50mのプールもある。規模だけ見ればマンモス校だ。科が多いのでしょうが無い。実習で使う器材も巨大な物も多い。

 昼はユウキと一緒に食べる。
 授業をこなしてから、電子科の教員室に向かった。途中で、パソコン倶楽部の顧問と一緒になった。

「篠崎くん」

「あっパソコン倶楽部の、情報科の先生ですよね?」

「そうでした。名前を言っていませんでしたね。私は、津川です」

「ありがとうございます。津川先生。戸松先生の所へ?」

「そうです」

 すぐに教員室に付いた。
 津川先生が先に入るので、後に続いた。

「戸松先生。レギュレーションを持ってきました。あと、篠崎くんも拾いました」

「あ。ありがとうございます。丁度、よかった、篠崎くん。これを渡します」

 電子科の戸松先生から渡されたのは、報酬に関してまとめられた物だ。食堂に関しては、安い方の食堂に限定されている。

 情報科の津川先生からは、レギュレーションが書かれた冊子を渡された。最初のページは、美辞麗句が書かれている。

 県下の高校から、六名一組になって、ハッキング技術を競う。学校推薦枠と自主参加枠がある。どちらも待遇に差はない。工業では、パソコン倶楽部が自主参加枠で電子科・情報科の連合チームが学校推薦枠となると先生は言っていたが、反対にしたほうがいいと進言した。来年も、行われると、パソコン倶楽部しか出ない可能性がある。電子科や情報科は、強制は出来ないと思えたからだ。二人の先生も納得してくれて、パソコン倶楽部を学校推薦にして、電子科・情報科は、自主参加とした。これで、あの煩い男子のプライドが保てるのなら安いものだ。

 冊子を読むと、ハッキングと書いているが、情報分析やセットアップ能力を競うように思える。
 相手の邪魔をしても問題はないとなっているので、競技として考えると面白そうだ。

 レギュレーションも面白い。
 ネットワーク回線は皆が同じ物を使う。自分のスマホを使ってのテザリングは禁止。ルータでのアクセス解析とログ収集を行う。違反者は失格となる。
 16GBのUSBメモリに入るだけのソフトウェアは、持ち込める。
 パソコンは、全参加チームに同一の物が渡される。デスクトップ型が2台(スペック一覧)と、ノート型パソコンが3台、他に、ルータが一台とハブが二つとWIFIの親機が1台。ケーブルは当日運営委員会に申請して貰う。器材の持ち込みは認めないが、事前申告を行って、運営委員会の許可が出ればOKとなっている。
 許可された物は、他のチームにも情報がリークされる。

 宿泊が前提となる。チーム別に二人部屋を三部屋用意される。朝食と夕食は、バイキング形式で提供される。

 場所は、伊豆にある、とある企業の研修施設兼保養所を使う。参加チームが多数の場合には、学校推薦が優先される。

 肝心の勝敗の決め方だが、提供されるデスクトップにはOSが入っていない。2台どちらかに、サーバを構築して実行委員会から提供されるサービスを起動させる。サービスに必要なモジュールや内容は当日まで秘密となっている。勝敗は、サービスの起動時間を競う。サービスと一緒に渡されるデータを盗み出せば、稼働時間を奪って自分のチームの稼働時間に加算できる。いやらしいルールだ。
 ノートパソコンには、Windowsの最新バージョンが入っている。こちらも、OSと基本ソフトウェアだけだ。ノートパソコンでのサービス展開は禁止されている。

「どうですか?」

「なかなか大変そうですね」

 そう答えたが、自分ならどう作戦を立てるか考えてみた。
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