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第五章 魔王
第六話 魔王島(仮称)
しおりを挟む今日は、ルブラン殿と新しくできた魔王島に来ている。
仮称だが、このまま定着してしまう感じがする。
「魔王カミドネ?どうかしましたか?何か、心配事ですか?」
ルブラン殿は、私のような者にも対等に接してくれる。
魔王の演技をしている時には、”魔王”象を崩さないのだが、魔王と眷属だけしかいない場所では、同列の者として接してくれる。実際に、ルブラン殿は序列で言えば、私よりも上だ。大魔王様の側近中の側近だ。
「いえ、”思えば遠くへ来たもんだ”と・・・」
「え?」
そうか、ルブラン殿は”日本の映画”を知らないのだった。
そういう私も、他の魔王に勧められて見た映画の一つだったのだが・・・。頭に、言葉として残ってしまっている。
魔王になってよかったと思うことの一つに、言葉に苦労しない事だ。
眷属たちは、日本語を聞いたり読んだり理解するのに苦労しているみたいだが、私や魔王たちは、生前?日本語を知らなくても、日本語が理解できる。何語で理解しているのか漠然としないが、言葉の意味はわかる。
「いや、元々は小さいダンジョンで、いずれ討伐されてしまうのではないかと怯えて日々を過ごしていたのに、こうしてダンジョンの外を歩いていると思うと・・・。”遠く”に来たなぁと感じていただけだ」
「そうですね。魔王カミドネが、この未来を作ったと言ってもいいと思っています」
「え?ルブラン殿?」
「大魔王様は、我らと獣人族の居場所を作って下さりました」
「そうですね」
成り立ちは聞いている。
兎人のラアが、”大魔王様”の偉業を物語にしている。読み物として、配布しているのを読ませてもらった。誇張されていると、大魔王様は笑っておられたが、眷属や初期に保護された獣人たちからは、”誇張は一切ない”と胸を歯って言っていた。
「帝国を退けて、連合国を打ち破った」
「はい」
「魔王様は・・・」
「どうされたのですか?」
「私が感じたことだが、どこか飽きてしまわれた様だった」
「飽きた?」
「魔王様は、唯一の存在として、強くなりすぎてしまった」
ルブラン殿は、どこか寂しそうに見える。
大魔王様が強くなり、大魔王様のダンジョンが難攻不落になるのはいい事だ。我らも、大魔王様のダンジョンが攻略されそうになったら、自分のダンジョンを囮にしてでも、大魔王様をお救いする。それが、私たちのやるべきことだ。
しかし、大魔王様の心をお救い出来るのは、私たちではない。
眷属や初期の獣人たちだと考えている。
「・・・。それは・・・」
「しかし・・・」
ルブラン殿が、私を見る?
「ん?」
「貴殿が来た事で、流れが変わった。魔王様が、貴殿たちと話されるとき・・・。楽しそうにされる。そのあとも、お部屋で楽しそうにいろいろと考えていらっしゃる。帝国や連合国を撃退する為に、罠を考えて、皆の配置を考えていらっしゃった・・・。いえ、それ以上に楽しそうにされている」
「そうなのか?」
「えぇ。私だけではなく、モミジやナツメやカエデも同じように感じている。ミアは、もっと敏感だ。魔王様が楽しそうにしていることで、獣人たちも活き活きとしている」
「それは・・・。なんとなく解る」
そんな話をしていると、大きな橋が目に入ってきた。
多数のギミックハウスに守られる形で存在している橋だ。
魔王と眷属でなければ、到達できない。
転移系のスキルも封じられていて、歩いてこなければならない。
魔王たちで話し合って決めたことだ。
湖の周りにあるギミックハウスには、魔王の名前が掲げられている。連合で作っている場合には、連合名が掲げられる。
そして、島への入場の許可が無いものは、ギミックハウスを攻略しなければならない。ここまでは、私たちが自分のダンジョンを守るときに作成しているギミックハウスと同じなのだが、魔王島(仮称)の周りに作られたギミックハウスは、攻略しても魔王島(仮称)に挑戦は出来ない。
魔王島(仮称)の周りにあるギミックハウスは、大魔王様から一定のポイントを渡されて、そのポイントを使ってギミックハウスを設置する。
アタックした者は、攻略したらギミックハウスが作られた時に使われたポイントが得られる。そして、ポイントを貯めて、スキルスクロールや武器や防具と交換が出来る仕組みになっている。ギミックハウス内での行動でもポイントが得られる。アタックした者への報酬だ。
アタックする者は、ポイントを持っていると、ギミックハウスの中で死んでもポイントが無くなるだけで、蘇生される。大魔王様が作られた仕組みだ。
蘇生の仕組みは、徐々に魔王たちも導入を始めている。
私のダンジョンは、元々致死性の罠を設置していなかったために、蘇生の仕組みを見送っていたのだが、大魔王様から蘇生の仕組みを入れるように言われて組み込みを行った。
詳しい説明を聞けば、納得してしまう。
簡単に言えば、ギミックハウスの仕組みを理解している挑戦者を優遇する処置だ。そして、不正を排除する仕組みでもある。獣人や魔王関連の者たちに悪意を持っている者を焙り出して発見する仕組みだ。
親や子供を魔王に殺された者が復讐するのは、”悪意”ではないと大魔王様は説明されている。それは、当然の権利で尊重されるべき事だと教えられた。魔王島(仮称)の会議でも、紛糾したが大魔王様がおっしゃっている通り、復讐は正当な権利として保護されることになった。
周りを見れば、私のダンジョンで保護した獣人族や、王国に居たものたちが、ギミックハウスに挑戦をしている。
「そういえば、ルブラン殿。魔王島の収支の管理は、誰がすることになったのですか?」
「そういえば、貴女は前回の会議は欠席したのですよね?」
「はい。もうしわけ」「大丈夫。理由も解っているし、何と言っても、魔王様からの指示だったのでしょ?」
「はい」
「魔王島の管理は、最初は私が担当して、その後は、優勝者が管理することにしようとしたのです」
「え?」
魔王島から得られる利益は、周りのギミックハウスに挑戦する者たちが落とすポイントだ。
一人、一人は、少ないポイントだけど・・・。集まればポイントとしては、かなりの稼ぎになる。
優勝者は、魔王島の周りに展開するギミックハウスで得たポイントが使えなくても、自分のダンジョンには使える。生活環境を整えることも出来る。眷属を増やすことも出来る。おおきなメリットだ。
「魔王たちに拒否されてしまいました」
当然そうなるだろう。
魔王島の管理は、大変だ。会議が行われる時の連絡だけでも、手間が発生する。そのうえで、維持管理を行って、ギミックハウスにアタックしている者たちへの対応を行う。それだけでも、大変なのに、それに付随して、侵入者や悪意のある者への対応をしなければならない。
私が優勝したとしても、拒否してしまうだろう。ポイントは魅力だけど・・・。得られるポイントが、一桁上がっても、眷属と過ごす時間を優先するだろう。
「・・・」
「やはりそうですか・・・。それで、ひとまずの管理として、ミアが手を上げて、魔王様が許可されました」
「ミアというと、狐人族の?」
「そうです。補佐で、魔王様が新しい眷属を呼び出されまして、ミアの配下に付けました」
「・・・。そんな事が可能なのですね」
「可能になったようです。それで、ミアは、狐人族でありながら、魔王と同格に進化しました」
「え?魔王?そうなると、ミアは、ダンジョン・コアを得たのですか?」
「そうです。魔王島は、ミアのダンジョンです」
「え?!大魔王様は、現地の・・・。人を魔王に進化させることが出来るのですね」
「そうですね。魔王様が言うには、条件が厳しいようです。今のところ、初期に保護した者たちの中でも、数名だけの様です」
「それでも凄いですね。流石は、大魔王様です」
「えぇそうですね。今日は、ミアのお披露目を兼ねた会合です。他にも、魔王候補が来ていますので、確認は出来ると思いますよ」
「わかりました。ありがとうございます。私の発表も、その時で良いのでしょうか?」
「そうですね。魔王様からは、タイミングは任せると言われております」
橋を渡り切って、魔王島(仮称)の中心部に足を踏み入れる。
大魔王様が議事堂と呼んでいた。魔王たちが集まり会議を行う建物に入っていき、受付を済ますと、控室に案内される。
さて、今日の会議で使う資料を確認しよう。
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