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第三章 帝国脱出
第三十九話 邂逅する
しおりを挟むおっさんとカリンは森の中で野営を行っている。
不思議なほどに魔物の姿を見ていない。魔物だけではなく、動物も息をひそめているような雰囲気だ。
「まーさん?」
「バステトさんは、事情を知っているようですが・・・」
二人で、バステトを見つめる。
しかし、バステトは、二人の視線に気が付いても、可愛く鳴くだけで事情を説明するつもりはない。
おっさんとカリンも、バステトが何かを隠していると解っているが、自分たちを害しようとしていないのも理解をしている。
何か事情があるのだろうと考えて、バステトに任せている。
「そうですね。そういえば、予定は?」
カリンがおっさんに予定を訪ねる。森の滞在する日数だけで知りたい。
「バステトさん次第ですが、物資の関係で、3日・・・。切り詰めて4日でしょうか?」
「わかりました。予定も入っていないので、お付き合いします」
「それは心強い」
おっさんの言葉で、カリンは花が咲いたような笑顔が自然と出て来る。自分が嬉しいという気持ちを持ったのが恥ずかしいのか、おっさんには向けないで照れ隠しにバステトを抱きしめて撫で始める。
バステトは少しだけ抗議の意味がありそうな鳴き声を上げる。それでも、カリンに撫でられるに任せている。
野営は慣れているので、問題はない。
二人が野営している場所に、魔物は現れなかった。数匹の動物が、安全を求めてきたくらいだ。
おっさんは、木に寄りかかるようにして目を閉じた。
---
朝日が差し込んで、おっさんを照らす。
「(まだ寝ているようですね)」
近くのテント状の物に視線を移動する。
カリンは中に居るはずなので、動いていないので、寝ていると判断した。
おっさんは、近くにバステトが居ない事で、カリンのテントで寝ているのかと考えた。
”にゃ!”
バステトが、草むらから出てきたのには驚いた。草むらから出てきたバステトを、おっさんは手招きした。
「バステトさん?」
”ふにゃぁ”
バステトが珍しくおっさんに甘える仕草を見せる。
カリンが居る所では、絶対に甘えないが、おっさんと二人だけなら、バステトはおっさんに甘えることがある。カリンが近くで寝ているのに、甘えて来るのは珍しい。
「疲れているのですか?出発は、カリンが起きてから出いいですか?」
”にゃ”
おっさんは、バステトの了承が得られたので、伸ばした足の上を軽く叩く。
バステトも意味が解るのだろう。ゆっくりした動作で移動してきて、おっさんの膝の上に飛び乗る。
おっさんの膝の上で丸くなる。
おっさんは、バステトの背中を撫でながら周りの警戒を始める。
バステトが気持ちよさそうに喉を鳴らし始める。
カリンはまだ起きてこない。
おっさんは、カリンが寝ていると思っているのだが、カリンはバステトが帰ってきた時に、目を覚ましている。おっさんとバステトのやり取りを聞いて、少しだけ寝たふりを続けることにした。
森の中を歩いていて疲れているのも事実だ。今日も、歩き続けようと思うと、少しだけ・・・。本当に、少しだけ多めに身体を休めたいと考えていた。
バステトがおっさんの膝の上で丸くなってから1時間が経過した。
「カリン。いい加減に出てきたら?」
おっさんはバステトが丸くなってから、周りを警戒する為にスキルを使っていた。
カリンが、起きているのも、気が付いたが、何かあるのだろうと、1時間くらいは余裕を見るつもりだった。
「えへ」
「可愛いけど、ダメ。テントを片づけて、朝ごはんにしよう。簡単に食べられる物しかないけど・・・」
「あっ!まーさん。私、珈琲もどきを持ってきている」
「鼓草珈琲?」
「前から思っていたけど、タンポポ珈琲でいいですよね?」
カリンがおっさんを睨みながら訂正を求めるが、最後は笑い始めてしまって、苦情になっていない。
おっさんがわざと難しく言ったり、別名で呼んだり、ふざけているのが解っている。ちょっとしたコミュニケーションだと理解している。
「そうだな」
二人のやり取りを聞いて、バステトがおっさんの膝で伸びをしてから地面に降りる。
バステトは、おっさんとカリンの片づけを見てから、木の根本で丸くなった。テントを片づけて、食事ができるスペースを作る。お湯は、おっさんが用意する。
おっさんが、収納から作り置きのサンドウィッチを取り出す。
宿で作ってもらった物だ。おっさんの収納はレベルが上がって、今では1,000人程度の軍が1か月くらいの遠征ができる食料の保管ができる状態になっている。もちろん、おっさんは誰にも伝えていない。
食事をしてから、タンポポ珈琲で落ち着いていると、バステトが立ち上がって、さらに奥地に向かって歩き出す。
”にゃ!”
「カリン。休憩は終わりのようです」
「そうですね」
おっさんとカリンは、先を歩いているバステトを追いかけるように、森の奥に向かって歩き始める。
警戒は必要だが、バステトは必要ないとでもいうように歩いている。
「まーさん?」
「なんでしょう?」
「バステトさんですけど・・・」
「はい?」
「森の中心部に向かって居るように思えるのですが・・・」
「奇遇ですね。私も・・・」
二人は、そこで黙ってしまった。バステトが歩みを止めて振り返ったからだ。
森の中にある、広場の様になっている場所だ。休憩するのなら丁度いい大きさの草地だ。
柔らかい日差しが降り注いでいる。
広場と表現しているが、広めの公園くらいの広さがある。端の方には、綺麗な水を湛える湖が見える。
辺境伯の領都からでは、それほど大きく感じなかった山が、大きく見えている。
そして、広場の端にある湖の近くには、太く大きな木が緑の葉を湛えている。
中央には、おっさんとカリンが座っている岩が露出している場所があるだけで、他の場所は草原といってもいいだろう。背の低い木がまばらに生えているだけだ。
湖は、森の中に広がっている。川があるとしたら、森の中だろうとおっさんは勝手に考えていた。
湖を囲むように丘のようになっているが、おっさんが中央の岩の上に立てば見回せるくらいだ。標高の違いは、殆どないと思っていいようだ。それでもなだらかな下り坂になっている。湖がある場所は、高い位置にあるのだが、低い場所との差は1-2メートル程度だ。
「バステトさん?」
”にゃ!”
「ここで待てばいいのですか?」
”に!にゃにゃ”
「わかりました」
振り返ったバステトは、おっさんに、ここで待つように伝えてから、単身で森の中に入っていった。
「まーさん。この場所で待つのですか?」
「そのようです。バステトさんの言い方だと、最大で半日程度は待つことになりそうです」
「え?半日?」
「よくわからないのですよね。今回のバステトさんは秘密主義で、教えてくれないのです。いろいろ想像は出来るのですが・・・」
「想像ですか?」
「あぁ外れたら恥ずかしいので言いませんよ」
「・・・」
おっさんは、広場の中央の岩に腰を降ろした。
カリンもおっさんが腰を降ろした正面にある石に座る。
「まーさん」
「はい?」
「私たち、バステトさんに付いてきましたよね?」
「そうですね」
「かなりの速度で歩いていたと思うのですが・・・」
「そうですね。戦闘が殆どなかったことも影響はしているけど、かなり奥地まで来ている可能性が高いです。予測だと、ほぼ中央ですね」
『小さき者よ』
おっさんは、周りを見回した。
カリンは、おっさんの動作を見て、不審に思っている。
『白虎の主よ』
「白虎?」
『小さき者が、”大川大地”と名付けた聖獣のことだ』
「え?」
「まーさん?上?!上!!」
カリンがおっさんに上を見るように告げる。声を押さえようと必死になっている。おっさんも気が付いている。
声が聞こえていて、先ほどまで自分を吸い身に誘っていた暖かい日差しが消えて、大きな鳥のような影で覆われている。カリンに言われなくても解っていた。ただ、上を見たくなかっただけだ。
おっさんはあきらめて、カリンが示す上を見上げた。
上には、翼を持った蜥蜴が・・・。
『我は黄龍。龍族の長だ』
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