80 / 101
第三章 帝国脱出
第三十九話 邂逅する
しおりを挟むおっさんとカリンは森の中で野営を行っている。
不思議なほどに魔物の姿を見ていない。魔物だけではなく、動物も息をひそめているような雰囲気だ。
「まーさん?」
「バステトさんは、事情を知っているようですが・・・」
二人で、バステトを見つめる。
しかし、バステトは、二人の視線に気が付いても、可愛く鳴くだけで事情を説明するつもりはない。
おっさんとカリンも、バステトが何かを隠していると解っているが、自分たちを害しようとしていないのも理解をしている。
何か事情があるのだろうと考えて、バステトに任せている。
「そうですね。そういえば、予定は?」
カリンがおっさんに予定を訪ねる。森の滞在する日数だけで知りたい。
「バステトさん次第ですが、物資の関係で、3日・・・。切り詰めて4日でしょうか?」
「わかりました。予定も入っていないので、お付き合いします」
「それは心強い」
おっさんの言葉で、カリンは花が咲いたような笑顔が自然と出て来る。自分が嬉しいという気持ちを持ったのが恥ずかしいのか、おっさんには向けないで照れ隠しにバステトを抱きしめて撫で始める。
バステトは少しだけ抗議の意味がありそうな鳴き声を上げる。それでも、カリンに撫でられるに任せている。
野営は慣れているので、問題はない。
二人が野営している場所に、魔物は現れなかった。数匹の動物が、安全を求めてきたくらいだ。
おっさんは、木に寄りかかるようにして目を閉じた。
---
朝日が差し込んで、おっさんを照らす。
「(まだ寝ているようですね)」
近くのテント状の物に視線を移動する。
カリンは中に居るはずなので、動いていないので、寝ていると判断した。
おっさんは、近くにバステトが居ない事で、カリンのテントで寝ているのかと考えた。
”にゃ!”
バステトが、草むらから出てきたのには驚いた。草むらから出てきたバステトを、おっさんは手招きした。
「バステトさん?」
”ふにゃぁ”
バステトが珍しくおっさんに甘える仕草を見せる。
カリンが居る所では、絶対に甘えないが、おっさんと二人だけなら、バステトはおっさんに甘えることがある。カリンが近くで寝ているのに、甘えて来るのは珍しい。
「疲れているのですか?出発は、カリンが起きてから出いいですか?」
”にゃ”
おっさんは、バステトの了承が得られたので、伸ばした足の上を軽く叩く。
バステトも意味が解るのだろう。ゆっくりした動作で移動してきて、おっさんの膝の上に飛び乗る。
おっさんの膝の上で丸くなる。
おっさんは、バステトの背中を撫でながら周りの警戒を始める。
バステトが気持ちよさそうに喉を鳴らし始める。
カリンはまだ起きてこない。
おっさんは、カリンが寝ていると思っているのだが、カリンはバステトが帰ってきた時に、目を覚ましている。おっさんとバステトのやり取りを聞いて、少しだけ寝たふりを続けることにした。
森の中を歩いていて疲れているのも事実だ。今日も、歩き続けようと思うと、少しだけ・・・。本当に、少しだけ多めに身体を休めたいと考えていた。
バステトがおっさんの膝の上で丸くなってから1時間が経過した。
「カリン。いい加減に出てきたら?」
おっさんはバステトが丸くなってから、周りを警戒する為にスキルを使っていた。
カリンが、起きているのも、気が付いたが、何かあるのだろうと、1時間くらいは余裕を見るつもりだった。
「えへ」
「可愛いけど、ダメ。テントを片づけて、朝ごはんにしよう。簡単に食べられる物しかないけど・・・」
「あっ!まーさん。私、珈琲もどきを持ってきている」
「鼓草珈琲?」
「前から思っていたけど、タンポポ珈琲でいいですよね?」
カリンがおっさんを睨みながら訂正を求めるが、最後は笑い始めてしまって、苦情になっていない。
おっさんがわざと難しく言ったり、別名で呼んだり、ふざけているのが解っている。ちょっとしたコミュニケーションだと理解している。
「そうだな」
二人のやり取りを聞いて、バステトがおっさんの膝で伸びをしてから地面に降りる。
バステトは、おっさんとカリンの片づけを見てから、木の根本で丸くなった。テントを片づけて、食事ができるスペースを作る。お湯は、おっさんが用意する。
おっさんが、収納から作り置きのサンドウィッチを取り出す。
宿で作ってもらった物だ。おっさんの収納はレベルが上がって、今では1,000人程度の軍が1か月くらいの遠征ができる食料の保管ができる状態になっている。もちろん、おっさんは誰にも伝えていない。
食事をしてから、タンポポ珈琲で落ち着いていると、バステトが立ち上がって、さらに奥地に向かって歩き出す。
”にゃ!”
「カリン。休憩は終わりのようです」
「そうですね」
おっさんとカリンは、先を歩いているバステトを追いかけるように、森の奥に向かって歩き始める。
警戒は必要だが、バステトは必要ないとでもいうように歩いている。
「まーさん?」
「なんでしょう?」
「バステトさんですけど・・・」
「はい?」
「森の中心部に向かって居るように思えるのですが・・・」
「奇遇ですね。私も・・・」
二人は、そこで黙ってしまった。バステトが歩みを止めて振り返ったからだ。
森の中にある、広場の様になっている場所だ。休憩するのなら丁度いい大きさの草地だ。
柔らかい日差しが降り注いでいる。
広場と表現しているが、広めの公園くらいの広さがある。端の方には、綺麗な水を湛える湖が見える。
辺境伯の領都からでは、それほど大きく感じなかった山が、大きく見えている。
そして、広場の端にある湖の近くには、太く大きな木が緑の葉を湛えている。
中央には、おっさんとカリンが座っている岩が露出している場所があるだけで、他の場所は草原といってもいいだろう。背の低い木がまばらに生えているだけだ。
湖は、森の中に広がっている。川があるとしたら、森の中だろうとおっさんは勝手に考えていた。
湖を囲むように丘のようになっているが、おっさんが中央の岩の上に立てば見回せるくらいだ。標高の違いは、殆どないと思っていいようだ。それでもなだらかな下り坂になっている。湖がある場所は、高い位置にあるのだが、低い場所との差は1-2メートル程度だ。
「バステトさん?」
”にゃ!”
「ここで待てばいいのですか?」
”に!にゃにゃ”
「わかりました」
振り返ったバステトは、おっさんに、ここで待つように伝えてから、単身で森の中に入っていった。
「まーさん。この場所で待つのですか?」
「そのようです。バステトさんの言い方だと、最大で半日程度は待つことになりそうです」
「え?半日?」
「よくわからないのですよね。今回のバステトさんは秘密主義で、教えてくれないのです。いろいろ想像は出来るのですが・・・」
「想像ですか?」
「あぁ外れたら恥ずかしいので言いませんよ」
「・・・」
おっさんは、広場の中央の岩に腰を降ろした。
カリンもおっさんが腰を降ろした正面にある石に座る。
「まーさん」
「はい?」
「私たち、バステトさんに付いてきましたよね?」
「そうですね」
「かなりの速度で歩いていたと思うのですが・・・」
「そうですね。戦闘が殆どなかったことも影響はしているけど、かなり奥地まで来ている可能性が高いです。予測だと、ほぼ中央ですね」
『小さき者よ』
おっさんは、周りを見回した。
カリンは、おっさんの動作を見て、不審に思っている。
『白虎の主よ』
「白虎?」
『小さき者が、”大川大地”と名付けた聖獣のことだ』
「え?」
「まーさん?上?!上!!」
カリンがおっさんに上を見るように告げる。声を押さえようと必死になっている。おっさんも気が付いている。
声が聞こえていて、先ほどまで自分を吸い身に誘っていた暖かい日差しが消えて、大きな鳥のような影で覆われている。カリンに言われなくても解っていた。ただ、上を見たくなかっただけだ。
おっさんはあきらめて、カリンが示す上を見上げた。
上には、翼を持った蜥蜴が・・・。
『我は黄龍。龍族の長だ』
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる