勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね

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第三章 帝国脱出

第三十六話 おっさん走る

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「おっちゃん!」

 呼び止める声を聞いて、おっさんは足を止める。

「イザークか?今日はどうした?」

「アキ姉が、カリン姉ちゃんと一緒に素材の採取に出かけた」

「ん?それは聞いているけど、イザークは一緒に行かなかったのか?」

「うん。なんか、ダストンさんが・・・。おっちゃんを探していた」

「ははは。イザーク。先にそれを伝えた方がいいぞ。誰からだ?」

「イーリス姉ちゃん」

「イーリスが許しているからいいけど、ダストンやロッセルが居る所で、しっかりとしろよ?」

「うん。その場合には、姫様と呼んでいるから大丈夫。イーリス姉ちゃんも、解らなければ、姫様と呼ぶのが安全だと教えられた」

「まぁいいか・・・。イーリスからの呼び出しじゃ行った方がよさそうだな。場所は?」

「えぇと・・・。あっ!西門!」

「西門?わかった。イザークも一緒に行くか?」

「ううん。おいらは、アキ姉たちが帰ってくるのを待っている」

「わかった。ほら」

 おっさんは、一枚の銀貨を取り出して、指で弾いた。
 イザークに、弾かれた銀貨が弧を描いた。イザークは、器用に銀貨を掴んだ。

「駄賃だ。アキと何か食べろ。カリンには、俺が探していたと言ってくれ」

「わかった!」

 イザークは、銀貨を握りしめて、領都の中央から元スラム街に向けて走り去った。

 おっさんは、イザークの走り去る後ろ姿を見送ってから、足下を見る。

「バステトさん。面倒ごとの臭いがします。頼みます」

”にゃ!”

 バステトは、おっさんの問いかけに、問題ないと思えるような答えをしてから、おっさんの肩に飛び乗った。

 おっさんは、バステトが肩で体勢を整えたのを確認してから、走り出した。
 西門は、居る場所からでは、距離がある。それに、街中を全力で走るのは、あまり褒められた行為ではない。その為に、一度、領都の外に出て、外周を辿って、西門に向かう方法を選んだ。街中を通常の速度で走るよりも、外周をスキルを全開にして走ったほうが早く着くと考えた。

 イザークがおっさんを探している間に、イーリスとダストンは西門に移動していると考えられる。二人+αは、馬車で移動していると考えられる。内容は解らないが、西門での合流を望んでいることから、時間の余裕は少ないとおっさんは考えた。

 おっさんが西門に到達したのは、イザークと別れて2時間後だ。
 既に、イーリスが来ていた。

「イーリス。待たせたな」

「急にお呼びして申し訳ない」「それで、ダストンは?」

 おっさんは、イーリスの姿は確認したが、一緒に居ると思っていたダストンの姿が見えないのを不思議に思い、イーリスに質問をした。

「代官は、新設した領兵を指揮して、出られています」

「ん?森か?新兵には厳しくないか?」

「・・・。はい。でも、ロッセル様が一緒です」

 ますます。意味が解らない。
 おっさんの遠まわしな献策を採用して、ダストンはロッセルを副官にすることが出来た。
 それだけではなく、辺境伯から領都だけではなく、領内のまとめ役に鳴るように通達を受けている。単純に考えれば昇進だ。

 実際には、おっさんが辺境伯に通達して、ロッセルを実質的な領都の代官に添えて、ダストンを、領内の全体を見る立場に昇進させた。権限は、辺境伯に次ぐナンバー2だが、領で何か問題が発生したときに、有能は代官の首を切るのではなく、切りやすく、切っても惜しくない人間を用意しただけに過ぎない。
 しかし、ダストンは昇進を喜んだ。張り切りすぎて、空回りをしていたのだが、ロッセルが上手く調整を行い問題にはならなかった。
 他の代官も欲深い愚か者は首を切った。情報を他の貴族や他国の間者に流していた連中は物理的に首を落した。何人か、ダストンの代わりになるような人物を抑えておいたが、それは無能な働き者だけだ。役職は与えたが、権限は与えない。空回りしても、影響が少ない場所に固めてある。

「理由を知りたい」

「実は・・・」

 イーリスの説明を聞いて、”無能者”をおっさんが理解出来ていなかったと痛感した。

「・・・。わかった。それで、森に入った新兵は、見つかったのか?」

「いえ、まだです。大半は、逃げ帰ってきています」

「わかった。その話を聞いて、ダストンが、近くに居た新兵を率いて森に入ったのか?」

「そうです」

 おっさんは、少しだけ考えた。結論は、すぐに出た。

「イーリス。ダストンか、ロッセルには、連絡ができるのか?」

 おっさんは、イーリスがこの場所に残っていることから、連絡が可能な状況だと判断した。
 森に入った新兵が逃げ戻ってきたときに、イーリスから二人に知らせる方法がないと、二人は無駄な努力をすることになってしまう。

「あります」

 おっさんが考えていた通りの返答だ。

「それと、森に残っている新兵の数は?」

「7名だと聞いています」

「7名か・・・。まとまっていれば、なんとかなるだろう。わかった。イーリスは、俺とバステトさんが森に入ったのを確認したら、ダストンとロッセルに引き上げるように知らせてくれ」

「え?」

「新兵なのだろう?ロッセルが優秀でも、連続で戦闘できる時間は限られている。ダストンが新兵を連れて行ったのだろうか?守りながらもしかしたら傷ついている新兵を保護しながら撤退戦は不可能だろう。余力があるうちに引き返したほうがいい。嫌な言い方だけど、7人のために、ダストンとロッセルを失うのは、辺境伯としても最悪な状況だ」

 イーリスは、おっさんが”傷ついている新兵”と表現したのを聞いて、最悪の状態になっていると、おっさんが考えていると思った。実際に、新兵が森に入った時間を考えれば、生き残っている可能性が低いのはイーリスにも解っている。

 カリンとおっさんが狩りをしてきたのを見て、自分たちにもできると思うあたりが、新兵が愚かだと思っている。
 そして、そんな新兵を救い出すために、自ら新兵を率いて森に入るのも愚かだと考えた。

「・・・。わかりました」

 イーリスは、絞りだすような声で、おっさんの提案を承諾した。

「そうだ。カリンをこの場所に呼んでいる。もし、カリンが来たら、森に来なくていいと伝えてくれ」

 おっさんの発言に、イーリスは驚きの表情と声で答える。
 イーリスは、カリンが来るのなら、戻ってきたロッセルと自分とカリンで森に入ればいいと、考えた。

 しかし、おっさんの発言は、その考えを完全に否定した。

「え?」

 おっさんは、自分を呼びに来たのがイザークで、カリンへの伝言を頼んだのも、イザークだ。
 イザークは、西門で問題が発生したとは、思わなかった可能性はある。しかし、西門で何かあるのだと思うだろう。カリンと一緒に、西門に来る可能性が高い。そうなると、イザークだけではなく、アキまで来ることになる。
 新兵の連中の詳細は、おっさんは知らないが、イザークやアキの知り合いが新兵に含まれていても不思議ではない。スラムを解体して新兵に組み込んでいるのだから、可能性は高い。

「カリンまで、森に入ると、イザークやアキだけではなく・・・。そうだ。イーリスの頭の中に浮かんだ者たちも来てしまうだろう。カリンが待っていれば、おとなしく待つだろう?」

 待たない可能性もあるが、カリンが抑えてくれるとおっさんは考えた。そこに、イーリスが居れば効果は倍増する。

「・・・。そうですね。まー様に、全部をお願いしてしまうことになって・・・」

「いいさ。元をたどれば、俺たちが軽々熟しているのが問題なのだろう」

「そんなことは・・・」

「ここで、言ってもしょうがない。後は、頼むな」

「はい。お気をつけて・・・。まー様とバステト様のご無事を祈っております」

「ありがとう」

 おっさんは、軽く手を上げて、森に向って駆け出す。
 バステトさんは、おっさんの肩から降りて、イーリスを一度だけ見て、おっさんの後に続いた。

 イーリスは、おっさんの後ろ姿を見つめることしかできない。
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