62 / 101
第三章 帝国脱出
第二十一話 おっさん撃退する
しおりを挟むカリンは王都から届けられた情報を、イーリスと一緒に眺めていた。
「カリン様。どうしますか?まー様にご相談しますか?」
情報は、紙面に書かれていた。羊皮紙ではなく、まーさんが伝授した”紙”に書かれている。
そのために、情報の信憑性も高いと判断された。
イーリスは、カリンから受け取った紙面に書かれた情報を読んでから、紙面をカリンに返却した。
「そうだね。まーさんにも、伝えた方がいいとは思うけど、対策はないよね?」
カリンは紙面を受け取りながら、イーリスに同意を求める。
「はい。難しいと思います」
イーリスは、カリンの言葉を肯定する。
実際に、紙面の内容に対して、カリンとイーリスができることは何もない。おっさんでも、対策を考えることはできるが、”何も”できない。
「そうだよね・・・」
カリンは、戻ってきた紙面に視線を落す。
そこには、ロヴネル皇国からの通知の内容に関する連絡が書かれていた。
皇国からの申し出を拒否する宰相の事や、帝国内部にいる皇国派閥の貴族や商人が、”聖女”を探し始めている状況が説明されている。
イーリスは、カリンが”聖女”であることは知らされていない。偽装された、ステータスを見ているが、”偽装”されているとは認識しているが、本当のステータスを聞き出そうとはしていない。
「ねぇイーリス。皇国は、何が目的なの?」
カリンは、報告書に綴られた”聖女をよこせ”を指さしながら、イーリスに質問をした。
正確には、聖女だけではなく、『”聖”属性のスキルを持った者たちを差し出せ』なのだが、書類には”聖女”とだけ書かれている、”聖”属性となると、勇者たち全員が”聖”属性を持っている。武器や防具を具現化できるスキルを持っている為に、対象になってしまう。
皇国が欲しいのは、癒しの力を持つと言われている”聖女”だ。同じ癒しの力を持つ男なら、皇国は欲しがらない。
「あっそうですね。カリン様やまー様には、表面的な国の関係だけしか・・・」
諸外国との関連は、表面的な部分はイーリスやラインリッヒ辺境伯から聞かされている。
「うん。まーさんが帰ってきたら、食事の時にでも教えてよ」
「食事の時に、話すような内容ではないので、食事後に少しだけお時間を頂けますか?」
「うん。私は大丈夫だけど、まーさんは帰ってきたら、教えて」
「はい」
いつもなら、カリンの側にはバステトが居るのだが、今日は、おっさんと一緒に散歩に出かけている。
バステトが一緒に行ったという表現が正しいのだろう。何かを感じていたのかもしれない。
---
カリンとイーリスが、送られてきた紙面について話し合っている時に、おっさんは領都から出て、近くの草原に来ていた。
領都でも、スラムに該当するような場所は存在している。おっさんは、そんな裏路地に根を降ろしている者たちがいる場所を、解りやすい恰好で歩いていた。目当ての者たちが釣れなくて、今日で5日目だ。
やっと、目当ての者たちが釣れたので、そのまま領都を出て、草原まで誘導した。領都の中で対応をしてしまうと、おっさんの目的が完遂できない。
おっさんは、尾行に気が付いて、わざわざ後ろを気にしながら、はぐれないよう、ゆっくりと歩いて草原まで誘導した。
草原なので、隠れる場所がない。おっさんは、気が付かないフリをしていたが、バレバレの尾行だ。草原にある岩に必死に隠れているのだが、見えてしまっている。
「着いて来ているのは解っている」
岩に隠れているのは、全部で5人。
おっさんも人数を把握している。
「10、数える。出てこなければ、攻撃を行う」
おっさんは、カウントダウンを始める。
数が、”3”になった時に、岩陰から5人が粗末な武器を持って出て来る。
少年少女と呼ばれるような年齢に見える。
「おっさん!」
武器を持つ手が震えている。初めてなのだろう。
「おっさん。イエーンを持っているだろう。俺たちに、よこせ」
おっさんは、裏路地を無警戒に歩いて、襲ってきた者たちを、誰にも見えない場所で拘束していた。少年少女たちは、おっさんが無事なのを見て、金で解決したと考えたのだ。それも、おっさんが、暴力で解決できるような人物に見えないことや、連れているのが”ネコ”で魔獣には見えないことから、自分たちでも、このおっさんなら金を奪えるのではないかと考えた。
実際には、おっさんは襲ってきた連中を返り討ちにした上で、無傷で捕えている。捕えた状況を知らなければ、おっさんが逃げたと考えるのが妥当だ。
少年少女たちは、残念なことにスラムでも最下層のために、有益な情報に触ることができない。
スラムでも上層に属している者なら、おっさんが辺境伯に連なる者だと知っている。おっさんに手を出したのは、中途半端な者たちだ。場所が変わっても、情報が大事だというのは変わらない。
少年少女は、そんな中途半端な者たちよりも、情報を入手していない。
「欲しいのなら働け」
「え?」
「言っておくぞ、俺は、イエーンは持っているけど、お前たちに渡す義理も義務もない。それに、それほど優しくない」
おっさんは、少年少女を見ながら一歩前に踏み出す。
別に、威嚇をしているわけではない。バステトもおっさんの肩から降りている。いつでも、スキルの発動ができる状態にはなっているが、おっさんがバステトを撫でて止めさせている。
「何を!これが見えないのか?殺すぞ!」
震える手を自分で押さえつけるようにしてから、錆びたナイフをおっさんに突き出す。
おっさんに届きそうな距離だが、少年はそれ以上前には出られないでいる。
「少年。殺すと言ったか?」
おっさんは、カリンには聞かせたことがないような声で、”少年”と呼び、質問を行う。
「そうだ!殺されたくないだろう!イエーンをよこせ!」
震える手で必死に錆びたナイフを、おっさんに向ける。
おっさんは、錆びたナイフを見て、”凄く錆びた片手剣”なら”大地の結晶”と”モンスターの体液”で・・・。と、くだらないことを考えていた。
冷めていた心が、余計な事を考えたことで、暖かさと冷静さを取り戻した。殺される恐怖で、心が冷めたわけではない。おっさんは、少年の軽い言葉が許せないと思ってしまった。
日本にいる時にも、おっさんは何度も似たようなセリフで脅されたことがある。相手は、脅しのつもりで使ったのかもしれないが、それに覚悟が乗っていなければ、軽いうわべだけの言葉だ。覚悟が決まっている人間は、そんな軽いセリフは使わない。脅しと取られるようなセリフを使う前に、実際に行動に移している。少年の境遇には同情をするが、そこから出る努力を少年がしているとは思えなくなっていた。
「どのくらい欲しい?」
頭を切り替えて、当初の予定を思い出したおっさんは、胡散臭い笑い顔に戻って、少年に質問をする。
「金貨だ!金貨をよこせ!」
「うーん。金貨か」
「あるだろう!出せよ」
「殺されたくないし、金貨くらいなら出してもいいけど、金貨1枚でどのくらい生活ができる?」
「え?」
おっさんの質問の意味が解らない表情で、少年は固まってしまう。
「今日は、俺から金貨を奪えたとして、君たちがスラムに戻ったら、腐った大人たちは見逃してくれるのか?明日は?明後日は?その次は?同じように、誰かを脅すのか?少年たちの誰かが殺されるまで続けるのか?」
おっさんは、固まった少年だけではなく、周りにいる少年少女に言い聞かせるように質問をする。
質問の形を取ってはいるが、近い未来の話を聞かせているようだ。
「・・・」
おっさんの質問を聞いて、ナイフをおっさんに向けている少年以外は、皆が俯いてしまった。
未来の想像が出来てしまったのだろう。銅貨でさえ殴られて奪われる。銀貨を持っていたら、殺されてしまうかもしれない。それが、金貨なら・・・。
「それに、さっき、少年は、俺に”殺す”と言った、”殺す”のなら、自分が、周りの少年少女が殺されても文句は言わないよな」
おっさんは、刀を取り出す。少年がおっさんに向けている錆びたナイフに軽く刀を合わせてから、力を入れる。職人にお願いして作ってもらった刀だ。同じミスリルを鍛えた物や上位の素材を使った物で無ければ、簡単に切断ができる。
ナイフを”切られた”少年は、目を丸くして、切られたナイフを見つめてから、尻もちを付いた。
「状況は把握できたか?さて、誰から死にたい?」
おっさんは、ニヤリを笑って、一歩前に踏み出す。
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる