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第三章 帝国脱出
第二十話 ???
しおりを挟むカリンとおっさんが、辺境伯の領都で落ち着いたころ、王都ではいろいろなイベントが行われていた。
勇者召喚が行われて、5人の異世界人が帝国に降り立ったと貴族に通達が行われた。
市井へのお披露目の前に、貴族たちのお披露目が行われる手はずになっている。
ラインリッヒ辺境伯をトップに置いた派閥は、勇者たちから距離を取る事が決まっている。呼びかけに対して、”魔物の襲来”や他国の動向が不安になっていることを理由に応じていない。
集まっている貴族への対応や派閥の貴族からの陳情を受けるという重要な案件を後回しにして、ブーリエは豪華な部屋でつまらなそうにしている少女に頭を下げている。
「さいしょー。それで、あの子は見つかったの?」
「ノリジ様。鋭意捜索中です」
「ほんと、使えない。早くして!あの子の悔しがる顔を見るのが楽しみなのぉ」
「わかっております。おい。イトノの捜索はどうなっている」
「はっ王都から出た様子はございません。現在、奴隷商に手を広げて探しております」
「奴隷商だってウケる。あの子が、奴隷になっていたら、1円で買ってあげよう。いいよね。さいしょー」
「はい。もちろんです。ノリジ様なら、その権利がございます」
ブーリエは、頭を下げながら、入ってきたドアから廊下に出た。
一緒に出てきた、文官を殺すような勢いで張り倒す。
「何をしている!さっさと捕まえてこい!俺様が、あんな小娘に・・・。忌々しい。勇者でなければ・・・」
ブーリエは、乱暴に廊下にある壁を殴りつけてから、殴りつけた自分の手が痛かったのか、手をプラプラと振っている。何もかもが、許せない心境になっている。
「閣下。ブーリエ閣下」
「なんだ。儂は忙しい」
「存じております。陛下から、閣下に相談せよと・・・。これを・・・」
---
豪奢な作りの神殿の最奥にある部屋で、ある物がうごめいている。
オークの皮を被った人だと、オークが文句を言いそうだ。ブタのようなと、表現するものもいるが、ブタに失礼だと言えてしまう。
自分の足では動けずに、神輿を用意させて、全裸の女性に担がせて移動をしている人物が、皇国のトップである。
「それで?」
「はい。帝国からは、返事がありません」
「ぬるい!聖女だと言うのなら、儂の元に来て、洗礼をうけなければならない。儂は、神の代弁者なるぞ」
「解っております」
「解っているのなら、聖騎士を動かせ!何のための聖騎士だ」
自らを”神の代弁者”と名乗り、怒鳴り散らしている。この”人もどき”が、腐敗して、腐臭を近隣だけではなく、各国にまき散らしている皇国のトップである。
帝国は、勇者召喚に成功して浮かれて、解っているステータスとジョブを”威嚇目的”で各国に通達した。魔物がいる世界だが、帝国は魔物の討伐だけではなく、”対国”にも召喚勇者を投入するつもりなのだ。そのうえで、存在しない”魔王”に対応するという名目で、勇者支援を各国に求めている。
帝国に隣接している小国家群は、帝国に従属しているために、帝国の意見に”否”を唱えない。しかし、国境を接していない国の中には、帝国に比肩する国も多数存在している。
宗教国家である。ロヴネル皇国もその一つだ。支配地域では、帝国に及ばない。しかし、皇国の強みは宗教国家としての意思統一にある(と、上層部は本気で思っている)。神の代弁者としての立場を使って、各国に強制的に作らせた教会にある。情報収集だけではなく、民衆の扇動を行う”テロ国家”なのだが、教会の設置を断ると、聖騎士たちだけではなく、信徒が国家を囲んで物流を妨害し、国としての行いを妨害する。
その皇国のトップから、連日に渡って、帝国に”聖女の受け渡し”を要求している。
帝国はこの申し出を拒否している。
実際には、各国に通達を出した後で、”聖女”や”賢者”のジョブを持つ者がいない事に気が付いたのだ。残された5名は全員が”勇者”のジョブを持っている。残りの二人のジョブを確認しても、ありふれたジョブだ。偽装を疑い、看破のスキルを持つ鑑定士に調べさせたが、”聖女”や”賢者”はいなかった。それだけではなく、伝承にある”聖獣”を使役する者も存在していない。帝国の無駄に高いプライドが邪魔して、いまだに訂正ができていない。
帝国が拒否する理由は当然だ。
”聖女の疑いがある”という理由で、自国内だけではなく、近隣諸国から美少女を”誘拐”して、トップに貢いでいる。オークもどきの神輿を担いでいる女性は、そんな聖女の疑いを掛けられて攫われた者たちだ。
洗礼という名前の強姦を受け続け、薬を投与された者たちだ。
帝国も、皇国のやり口は解っているので、せっかく召喚した勇者を、皇国のオークもどきの玩具にさせるつもりはない。
---
場所は、宰相の部屋。
ブーリエは、執務室で皇国から送られてきた、封書の封を切らずにそのまま破り捨てた。内容が想像できることや、封書を持ってきた聖騎士の態度を聞いて、気分を害していた。
「おい」
「はい。御前に」
従者の一人が、ブーリエの前に進み出て跪く。
「皇国には、『聖女は、修行で各地を回っている最中に、白い鎧を纏った武装集団に襲われて、殺された』と、通達しろ」
「よ、よろしいのですか?それでは」
従者が言いかけたのは、”白い鎧”の部分だ。
皇国の聖騎士が来ている鎧が”白い鎧”なのだ。ブーリエの言い方では、『皇国の聖騎士に、聖女が殺された』と通達することになる。内部で調査が行われれば、帝国の嘘が判明してしまう。
従者の懸念は正しいのだが、この場合は正しくない。正しい調査が行われて、今までも公平な裁判が行われていれば・・・。
「構わん。死体が必要なら、適当に用意して、皇国に送ってやれ」
元々、”聖女”は存在しない。
適当な死体を、皇国に送れば、それで満足するだろうと安易に考えている。死体から、ジョブやスキルを判断する方法はない。皇国は、”蘇生”ができない事を、ブーリエは把握している。死体があれば、満足する可能性がある。
返答をごまかしておくのにも限界があるのなら、”聖女”や”賢者”は皇国派閥の貴族が殺したことにしてしまえばよいと考えたのだ。
「かしこまりました」
跪いている男も、これだけなら、害虫でしかない”皇国派閥”の貴族への牽制になると考えた。
実際に、帝国には最大派閥の宰相派閥と最小派閥であるラインリッヒ辺境伯派閥が存在する。そのどちらにも属さない中立派閥があり、そして問題になるのは、他国の威を借りる派閥だ。他国の威を借りる派閥の中で最大なのが、”皇国派閥”だ。この者たちは、帝国を腐らせている(ブーリエ視点)。
「そうだ。次いでに、ラインリッヒの奴に味方する。愚かな貴族を一つ、潰すか?」
”皇国派閥”は確かに目障りだが、もっと目障りなのが、イーリス殿下を抱え込んでいる”辺境伯派閥”だ。領都の代官に、手の者を潜り込ませているのだが、やはり目の上のたん瘤になっているのは、ラインリッヒ辺境伯だ。イーリス殿下は民衆からの人気が高く、玉座を得るのは無理でもブーリエの権力に手が届きかねない。早々に潰しておきたい派閥なのだ。
「ブーリエ閣下!」
「なんだ?」
ブーリエは、最近になって売り出された”ウィスキー”を氷が入ったグラスに注ぎながら、従者をにらみつける。
自分の話を否定されるのを好まないブーリエだ。従者が自分の意見に”否”を言うのを好まない。
「勇者様のお披露目を行う前に、ラインリッヒ辺境伯と構えるのは、いささか問題が大きくなります」
自分の考えをブーリエに告げる。
まだ、帝国の宰相として、最低限の腹心は存在している。目の前で跪いている従者も、ブーリエに従う者の一人だ。
ブーリエもただの無能ではない。
自分の派閥の維持と、権力の維持に関しては、すこぶる優秀な無能だ。
「そうか?」
従者からの言葉をしっかりと考えて、正しさの判断をして・・・。ウィスキーが入ったグラスに口を付ける。
気持ちを落ち着かせるためだ。
「はい。ここは、こういう時の為に泳がせている、教会派閥の法衣貴族の首を落すのがよろしいかと愚考します」
「ふむ・・・。そうだな。ラインリッヒの奴を追い詰める材料には・・・。弱いな」
「残念ながら」
どうやったら、派閥の維持ができるのか、”聖女”を殺すことへのメリットとデメリットを考えながら、グラスに入った液体を楽しみ始める。
心地よい酔いが回ってきて、従者からの忠告を受け入れて、皇国への牽制と帝国に取って(特に、ブーリエ派閥に・・・)有害な法衣貴族を屠ることに決めた。
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