勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね

文字の大きさ
上 下
55 / 101
第三章 帝国脱出

第十四話 おっさん笑う

しおりを挟む

 ダストンは、完全に理解する前に、おっさんに言質を与えてしまった。
 イーリスの目の前だ。さらに悪い事に、このおっさんはぬかりがない。スマホを使って、言動を記憶している。勇者の使う道具だと説明して、録音している音声の一部を再生して、ダストンに聞かせた。

 最終的には、秘書官を呼び寄せて文章を作成する事態になってしまった。

 イーリスは、”そこまで”しなくても・・・。と、いう表情を浮かべているが、おっさんはダストンを一切信じていない。信じているのは、”風見鶏”な部分だ。今、この場ではおっさんが一番の権力を握っているので、おっさんに靡いているが、おっさんが居なくなって、辺境伯がくれば辺境伯に靡く。

 おっさんの求めているのは、ダストンに求めたのは”風見鶏”の部分だ。
 辺境伯にはしっかりと報告はするが、ダストンを辺境から追い出して欲しいとは思っていない。

 文章が出来上がってきて、おっさんが確認して、イーリスに渡す。イーリスも確認をして、ダストンに渡す。
 ダストンは、止まらない汗を拭きながら、文章を確認してサインをする。

 4枚の書類が同じ内容になっていることを確認して、すべてにサインを行う。
 一枚を、おっさんが管理する。もう一枚は、ダストンが持つ。もう一枚は、イーリス経由で辺境伯に渡される。そして、最後の一枚は神殿に保管されることになる。

「さて、ダストン殿。有意義な時間だが、時間は有限だ。我々は、急いで準備をしなければならない」

「準備?」

「辺境伯に依頼された事の調査と、この書類を辺境伯に届けなければならない」

「え?依頼された事?」

「あぁダストン殿は、気にしなくていい。俺が個人的に、辺境伯に頼まれたことだ」

「・・・」

 ダストンは、おっさんの言葉でさらに不安な気持ちが強くなってしまう。
 しかし、今は聞ける雰囲気ではない。そのうえに、自分はすでにやらかしている。

「イーリス。他に、何もなければ、ダストン殿の貴重な時間をこれ以上浪費するのは悪いだろう。宿に向かおう」

「はい」

 イーリスは、いい笑顔でおっさんに返事をしている。しかし、本音で言えば、さっさと帰りたいのはイーリス自身だ。ダストンがどんどん追い詰められていく様子は最初の頃は良かったのだが、徐々にダストンが哀れに思えてしまった。

 清書されて、サインをされた書類を受け取って、イーリスとおっさんはダストンの部屋から出る。
 帰りは、来るときとは違ってしっかりと屋敷の者が案内をしている。ダストンが失脚するかもしれない状況で、自分たちも巻き添えにならないように、最低限のことをしておこうと思っているのだ。

 馬車に乗って落ち着いたのか、イーリスはおっさんに聞きたい事があった。

「まー様。あの書類は、ダストン殿を守る役割もありますよね?」

 おっさんは、ダストンが気持ちよく書類にサインをするために細工をしていた。
 それが、ダストンが辺境伯の忠実な部下であること。命令の解釈を間違えていた。ダストンには、”非がない”ことなどが書かれている。今後は、おっさんと辺境伯に定期的に報告を上げることを設定することで、今回のことは問題にしないと書いていた。

「あぁ気が付いた?」

「はい。ダストン殿が、あの条項を読んで安心していたので、てっきりまー様は削除するのかと思いました」

「イーリス。俺は、ダストン殿を、買っているぞ?」

 イーリスは、おっさんのセリフを聞いて、今日一番の驚きの表情を見せる。

「え?どこ?は?」

 動揺も激しい。
 ダストンが見て居たら落ち込むくらいの動揺だ。

「酷いな。あの”風見鶏”はすごい性能だからな」

「まー様。言っている意味がわかりません」

 イーリスは、おっさんの言葉を聞いてはいたが理解ができない。”風見鶏”の説明を聞いても、だから何?と思ってしまうだけだ。

「ダストン殿は、あの場では、俺に従っているように見えた。そして・・・。したたかに、自分を守ろうとしたよな?息子を処断してでも・・・」

「はい。姑息な方法です」

 イーリスは嫌悪感を表情に表す。
 おっさんは、そんなイーリスに気が付いていても、無視することにした。

「姑息か・・・。まぁいい。イーリス。ダストンは、あっ。ダストン殿は、強い者が居れば、それに靡く」

 おっさんは、姑息だとは思わなかった。
 自分が助かれば、流れで息子を助けられると計算していると思ったからだ。イーリスとしては、ダストンを処断して新しい代官を派遣すればいいと思っていたのだが、おっさんはダストンを見て”使える”と考えた。

「・・・?」

「ダストン殿は・・・。もういいか、面倒だ。ダストンは、俺への対応を変えた。今までは十分に効果があった”辺境伯”の後ろ盾が、効かない相手に対峙したからだ。ここまではいいよな?」

「はい」

「だから、ダストンは、”俺の言っていることを承諾した”かのように見せた。唯々諾々と従っているように見せている。俺を辺境伯以上だと言っているようにも聞こえるくらいだ」

「はぁ・・。それが、解っていながら、なぜ?」

 イーリスは、不思議な気持ちになっている。

「ん?辺境伯が、いつまでも俺の俺たちの味方だという保証がないし、辺境伯が政変で勝ち残れる保証もない。でも、俺たちには、それを知る手段が乏しい」

「え?辺境伯?」

 おっさんは、辺境伯が自分たちを見捨てる可能性を考えていた。宰相なら、どこかで、綻びが見える可能性があるが、有能でおっさんのことを知っている辺境伯だと、おっさんやカリンやイーリスに知られないで、誰かに高く売り払う可能性がある。最終的な、暴力の時点で気が付けば、抗う方法はあるが、暴力を使う暇がなければ、気配を察知しなければならない。道中に、カリンがスキルを発動してしまっているだけに、おっさんは友好的な搾取を辺境伯が行う危険性を考えていた。

「そうだ。ダストンが、俺たちに手を出してこなければ、まだ辺境伯は俺たちの味方である可能性が高い。そして、ダストンが逃げ出さなければ、辺境伯は力を持っていると考えてもいいだろう」

 イーリスには、解りやすく”味方”という言葉を使ったが、味方でも潜在的に”利用する立場”の味方も存在する。おっさんとカリンの力は、”利用”を考えた時に、政争に使うのが最初に思いつく。辺境伯には協力はするが、”政変”に巻き込まれたいわけではない。

 おっさんは、ダストンを”風見鶏”に使おうと思っている。
 自分たちへの悪意で恐ろしいのは、辺境伯が、おっさんとカリンを利用しようと考えた時だ。懐柔にしろ、誘惑にしろ、方法は多種多様だ。全部に対応するのは、現実的に不可能だ。辺境伯を監視しなければならない。
 辺境伯の監視は、物理的にも精神的にも不可能だ。物理的には、距離の問題もある。それこそ、おっさんが辺境伯の腹心にでもならなければ無理だ。それは、辺境伯がおっさんを利用することに直結する。利用を防ごうと思って、利用される場所に身を置いたら意味がない。
 そこで、辺境伯を監視する別の者を用意したかった。
 最初は、イーリスを考えていたのだが、イーリスでは素直すぎる。監視するのにも気を使ってしまう。

「あっ・・・。だから、ダストン殿を・・・。見張る意味で、あの条項なのですね。不思議だったのです。なぜ、ダストン殿の秘書官を定期的にギルド経由で報告をさせるのかと・・・」

「ダストンが直接だと、ダストンが嫌がるだろう?ギルド経由なら、ダストンは面倒だと思いながらも、連絡を切らない」

 ダストンは、知らない間におっさんの手駒に加えられている。
 知らない状態で、辺境伯を監視する役割をかせられている。おっさんは、この事をイーリスに告げることで、イーリスの心にも楔を打ち込んでいる。楔が必要だとは思っていなかったが・・・。
 カリンのためにも、イーリスにはこのままで居て欲しいと思っていた。

 哀れなダストンは、おっさんが口にした「辺境伯からの依頼」を気にして、おっさんたちの動向を調べるように部下に指示をだした。
 これもおっさんの手口だ。おっさんは、笑いが止まらない状況になっている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冒険者パーティから追放された俺、万物創生スキルをもらい、楽園でスローライフを送る

咲阿ましろ
ファンタジー
とある出来事をきっかけに仲間から戦力外通告を突きつけられ、パーティを追放された冒険者カイル。 だが、以前に善行を施した神様から『万物創生』のスキルをもらい、人生が一変する。 それは、便利な家具から大規模な土木工事、果てはモンスター退治用のチート武器までなんでも作ることができるスキルだった。 世界から見捨てられた『呪われた村』にたどり着いたカイルは、スキルを使って、美味しい料理や便利な道具、インフラ整備からモンスター撃退などを次々とこなす。 快適な楽園となっていく村で、カイルのスローライフが幕を開ける──。 ●表紙画像は、ツギクル様のイラストプレゼント企画で阿倍野ちゃこ先生が描いてくださったヒロインのノエルです。大きな画像は1章4「呪われた村1」の末尾に載せてあります。(c)Tugikuru Corp. ※転載等はご遠慮ください。

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...