42 / 101
第三章 帝国脱出
閑話 大川大地
しおりを挟む我は、”猫”だ。いや、違う。かつて”猫”だった者だ。
我が我だと認識したのは、我が認めた下僕が、我に”名”を付けた時だ。
それまでは、人が”神保町”と呼んでいた場所にある。公園で、バスケットボールやサッカーを楽しむ人の子を、見守るのが我の日課だった。
ある時から、我が座るベンチに、雄が座るようになった。下僕の人としては、よく出来た者だ。
「おっ今日も居るな。食べるか?」
”にゃ”
こうやって我に糧を運んでくる。
最初は、”警備員”とかいう奴と揉めていたが、雄はこの辺りの人では、顔が通っていて、男たちと話をして、我に糧を運ぶことを許可された。
「なぁ俺が来るまえから、こいつはここを根城にしていたよな?」
「俺がこいつに食べ物をやらないとどうなる?」
「そう、近隣の飲食店は、魚を扱っている店が多いよな?」
「ん?別に脅していない。事実を並べているだけだ」
「それに、こいつは賢いぞ?」
「ん?そうだな。それでいい。確か、この公園は一部を借りられるのだよな?」
「そうそう。ん?」
「住民票?免許でいいか?ほら」
雄は、数名に増えていた”警備員”となにやら話し込んで、健気にも我の為に、居場所を作ったようだ。
翌日から、公園の一角に我が自由にくつろいで良い場所が出来た。雄は、毎日ではないが、定期的に糧を持ってくる、それだけではなく、”トイレ”とかいう物を用意していた。我は自由を好むが、我に居場所を用意した雄の気持ちを尊重することにした。我は、できる”猫”なのだ。
そして、我は雄から、『大川大地』と呼ばれるようになった。雄が言うには、この世界では珍しい、名字と名前を持った”猫”なのだと言っていた。
我は、この雄の横で過ごすのが楽しく、好ましいと考えるようになっていた。
我は、親の顔を知らない。我は、気がついた時には孤独だった。我は、雄のことが気になり、後を追った。雄は、困った表情をしながら、我を抱きかかえた。初めてのことで困惑したが、雄の”心の音”が心地よく、我はいつの間にか寝てしまった。
「大川さん。大川さん」
雄が我を呼んでいる。
目を開けると、その場所は知らない場所だ。
「大川さんは、雨で濡れても平気ですよね?」
雨?冷たい水のことか?嫌いだが・・・。平気だ。
”にゃ”
「よかった。嫌なら嫌と言ってくださいね」
雄は、そういいながら、我を温かい水の中に沈めた。顔に、温かい水がかからないようにゆっくりと沈めた。
身体から、悪い物が出ていくようで気持ちがいい。思わず、声が出てしまいそうだ。声を、ぐっとこらえて、雄を見る。我が暴れないかと心配していたようだが、我はそこまで臆病者ではない。
雄は、何やら白いチューブ状の物から液体を取り出して、我の身体につけた。
雄は、我の身体を擦りながら、何かを話しているが、我は身体をこすられて気持ちよくなってしまった。
「あれ?大川さん。女の子だったの?」
雄は、不思議なことを言い出す。我は、産まれた時からメスだ。雄がしていたのは、我の身体を洗うことのようだ。温かい水を何度も変えながら、我を洗った。毛づくろいをしているので、我は綺麗なのだが、雄が”我を綺麗にしたい”と、懇願している。
洗い終わった我をしっかりと拭いてくれた。こればかりは、我には出来ないことだ。雄にしては気が利いている。
我は、綺麗になった自分の身体を舐めて確認した。嫌な虫も居なくなった。最後に、雄は首筋に水を垂らした。
その日は、雄と一緒に寝ることになった。雄が、”大家”とかいう者に許可をもらったのだと、笑っていっていた。珍しい物が沢山置いてある場所で、我は雄が寝る場所で眠ることにした。
目を覚ますと、我は雄の胸の上に居た。
その後で、”獣医”なる者の所に連れて行かれた。恐ろしかった。白い物に身を包んだメスが、我を抑え込んで、”チクッ”と痛みを与えた。大きな音がする物で我を撫で回した。
「うーん。まーさん。患畜は、健康そのものね」
白いメスが、雄に話しかける。
「それはよかった。何歳くらいだ?」
「えー。2歳程度だとは思うけど、栄養状態がわからないから、もう少しだけ上かもしれないわね」
「そうか、餌は、これで良いのだな?」
雄が、白いメスの前に、我の糧を差し出す。白いメスは、我の糧を手にとった。雄が持っていた袋を受け取って、何やら確認している。
「うん。大丈夫。あっまーさん。水をしっかり飲ませて、野良なのでしょ?」
「そうだ、基本は野良だが、神保町の一等地に屋根付きの家持だぞ」
「それは、それは、私よりも豪華な場所に住んでいるのね」
「当たり前だ、世にも珍しい、名字と名前を持っているのだぞ、その辺りに居る野良と一緒にしないで欲しい」
「はい。はい。ノミ駆除は出来ているみたいね」
「あぁ教えられたとおりにやった。首筋に薬も落とした」
「うん。駆除薬は、3ヶ月・・・。野良なら、2ヶ月ていどで、もう一回使ってみて。ノミが付いて、痒そうにしていたら連れてきて」
「わかった」
雄が、我を抱きかかえる。どうやら、白いメスからは逃げられるようだ。
「ねぇまーさん」
「あ?」
「いつまで・・・」「俺の気が済むまでだ」
「・・・。いい加減に、許してあげなよ」
「・・・。ダメだ。俺が、俺を許せない。守れたのに、守らなかった」
雄の手が我を撫でる。いつもと違って、悲しそうな声と手付きだ。
”にゃぁぁ”
雄の手を舐める。我の下僕なのだ。そんな悲しそうな声を出すな。我が居るではないか!
「ははは。大川さん。ありがとう」
雄が我を見て、いつもの口調に戻る。そうだ、雄には、その声と表情が似合っている。
「・・・。まーさん。いい出会いだったのね」
「あぁ大川大地さんは、俺の友で、心の支えで、散歩仲間だ」
雄が我を誇らしそうに見る。我も、そんな雄の表情を見て嬉しくなる。
やはり、雄には、我のような尊い存在が必要なのだ。
雄は、白いメスとなにやら話し込んでいるが、我は雄に抱かれて、”心の音”を聞いていたら、いつの間にか眠ってしまった。
白いメスの所に行ってから、七回寝たら、雄が寝ている場所に行くようになった。やはり、”大家”とか言う者に許可が貰えたと、雄が嬉しそうに語っていた。我としても、雄がしっかりしているのか確認する必要がある。雄が住んでいる場所を見て回るのは必要なことだ。雄の所に行く時には、温かい水で我を洗うことが決まりのようだ。
雄は、我以外の”猫”は、温かい水が嫌いなのに、我が好きなのが不思議なようだ。
このように気持が良いものを嫌う者が居るほうが信じられない。雄とのふれあいも我が好きな理由だが、雄には教えていない。
雄と我の関係が変わったのは、あの不思議な出来事が発生した時だ。
我が、いつものように、我の家で寛いでいると、幼子が我の家に無断で侵入してきた。事もあろうに、雄が我のためにと用意した物まで破壊した。怒りで我を失いかけた時に、幼子のメスが我の上に覆いかぶさるようにしてきた。どうやら、幼子たちの仲間だと思ったが違ったようだ。幼子たちは、我には解らない言葉と共に、我に覆いかぶさったメスに暴力を振るっている。このままでは、幼子のメスが怪我をしてしまう。
我の下僕は何をしている。我の為に、幼子のメスが怪我をしてしまう。我の望むことではない。
幼子のメスの力が弱まった所で、我は幼子のメスの腕から出て、愚かな幼子に向かい合った。
後ろから、我を抱き上げようと腕が伸びてきた。愚かな幼子の仲間なのかと思った。
違った。我を、優しく包み込む腕は、安心できる匂いを持った腕だ。
我を抱き上げて、雄は懐に我を入れる。いつもと同じだ。
雄は、”さんぐらす”なる物をいつも顔につけていた。”仮面”だと言っていた。雄は、我を抱えながら、倒れていた幼子のメスに優しく声をかける。そして、幼子のメスに暴力を振るっていた。幼子たちを見て、”さんぐらす”を外しながら、怒りの籠もった声で話しかける。
これで、安心だ。
幼子のメスも我も安心できる。雄にまかせておけば大丈夫だ。我が認めた下僕だ。
---
大川大地さん目線です。
事実(?)と異なる部分もあります。
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります
すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。
なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!
冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。
ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。
そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界の物流は俺に任せろ
北きつね
ファンタジー
俺は、大木靖(おおきやすし)。
趣味は、”ドライブ!”だと、言っている。
隠れた趣味として、ラノベを読むが好きだ。それも、アニメやコミカライズされるような有名な物ではなく、書籍化未満の作品を読むのが好きだ。
職業は、トラックの運転手をしてる。この業界では珍しい”フリー”でやっている。電話一本で全国を飛び回っている。愛車のトラクタと、道路さえ繋がっていれば、どんな所にも出向いた。魔改造したトラクタで、トレーラを引っ張って、いろんな物を運んだ。ラッピングトレーラで、都内を走った事もある。
道?と思われる場所も走った事がある。
今後ろに積んでいる荷物は、よく見かける”グリフォン”だ。今日は生きたまま運んで欲しいと言われている。
え?”グリフォン”なんて、どこに居るのかって?
そんな事、俺が知るわけがない。俺は依頼された荷物を、依頼された場所に、依頼された日時までに運ぶのが仕事だ。
日本に居た時には、つまらない法令なんて物があったが、今では、なんでも運べる。
え?”日本”じゃないのかって?
拠点にしているのは、バッケスホーフ王国にある。ユーラットという港町だ。そこから、10kmくらい山に向かえば、俺の拠点がある。拠点に行けば、トラックの整備ができるからな。整備だけじゃなくて、改造もできる。
え?バッケスホーフ王国なんて知らない?
そう言われてもな。俺も、そういう物だと受け入れているだけだからな。
え?地球じゃないのかって?
言っていなかったか?俺が今居るのは、異世界だぞ。
俺は、異世界のトラック運転手だ!
なぜか俺が知っているトレーラを製造できる。万能工房。ガソリンが無くならない謎の状況。なぜか使えるナビシステム。そして、なぜか読める異世界の文字。何故か通じる日本語!
故障したりしても、止めて休ませれば、新品同然に直ってくる親切設計。
俺が望んだ装備が実装され続ける不思議なトラクタ。必要な備品が補充される謎設定。
ご都合主義てんこ盛りの世界だ。
そんな相棒とともに、制限速度がなく、俺以外トラックなんて持っていない。
俺は、異世界=レールテを気ままに爆走する。
レールテの物流は俺に任せろ!
注)作者が楽しむ為に書いています。
作者はトラック運転手ではありません。描写・名称などおかしな所があると思います。ご容赦下さい。
誤字脱字が多いです。誤字脱字は、見つけ次第、直していきますが、更新はまとめてになると思います。
誤字脱字、表現がおかしいなどのご指摘はすごく嬉しいです。
アルファポリスで先行(数話)で公開していきます。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら
七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中!
※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります!
気付いたら異世界に転生していた主人公。
赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。
「ポーションが不味すぎる」
必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」
と考え、試行錯誤をしていく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる