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第二章 王都脱出
第十七話 女子高校生の困惑
しおりを挟む私は、糸野夕花。女子高校生をやっていた。今は、異世界に召喚されて、カリンと名乗っている。
一緒に召喚された元・同級生たちから離れて、まーさんと一緒に召喚した国の姫様に匿ってもらっている。
私たちは、王城から無事に脱出して、今は王都からの脱出を考えている。
”考えている”と言ったが、主に考えるのはまーさんの役目になってしまっている。準備に時間がかかる為に、私は私にできることをやっていた。それが”初代”様と同時期に書かれた文章の解読だ。
日記は、日本語で書かれていた。当時のことが書かれているが、著者の愚痴が多く、読んでいて笑いそうになってしまうのだが、姫様が居る前で笑うことが出来なかった。
私は、まず姫様に”ひらがな”と”カタカナ”を覚えてもらった、50音+αなのでそれほど難しくないと考えたが、ものすごく時間がかかった。この世界と共通する文字がない文字が多かったからだ。そして、漢字を教えるのがこんなにも大変だとは思わなかった。喋られるだけに、文字を教えるのに苦労してしまう。そして、日記なので、もちろん手書きだ。簡単に言えば、字が汚い。読めない文字も有った。そのために、私がまず解読してから、文字を把握して説明しなければならない部分もある。その内容が、単なる愚痴だった時には、日記を破りたくなってしまう。
一緒にイーリスの屋敷に匿ってもらっているまーさんは不思議な人だ。とにかく最初の印象は、一般の日本人男性には見えなかった。確実に、そちら側の職業の人だと思ってしまった。休日の神保町で--たしかに裏道だったけど--、雪駄を履いて、作務衣を着た人を一般人だと思う人は居ないだろう。全部、まーさんの服装が悪い。荷物も、巾着袋のような物を腰から下げていた。後で知ったのだが、お金は財布ではなく、札を束ねて髪留めでまとめて持っていた。小銭は小さながま口を使っていた。巾着袋の中身も、なんでそんな物を持っているのか疑問に思ってしまうものばかりだ。
それでいて、IT系の技術者だと言うのだから驚きだ。開発はしていないと言っているが、話を聞いている限りでは、かなりの知識を持っているのだろう。謎多き大人だ。
話をすれば、普通・・・。とは、言いにくい部分はあるのだけれど、普通の人だ。考え方が独特で、今まで周りにいた”大人”とは、まったく違う雰囲気をまとっている。
そして、異世界に来て、まず驚いたのがまーさんの変化だ。
日本で話しかけられた時には、40代だと言っても納得する風貌をしていたけど、異世界に来た時には、髪の毛だけではなく雰囲気から20代の半ば・・・もしかしたら、20代になったばかりだと言われても納得してしまう風貌になっている。
どうやら、まーさんの考えでは一緒に異世界に転移してしまった大川大地さんのスキルではないかと言っていた。
そもそも、大川大地と名字と名前を持っているが、”猫”だった。子猫の年齢を少しだけ過ぎているとは思うが、若猫なのは間違いない。
元・同級生たちが、いじめようとしていたのを、まーさんが助けたのだ。その時に、言われたのが”大川大地”という名前だ。まーさんは、大真面目に語っていたが、思い返してみると、ふざけているとしか思えない。
そして、大川大地さんは異世界に転移してきて、スキルや称号を得ているようだ。
まーさんが、すぐに隠蔽してしまったので、私にはわからないが、まーさんの反応から”聖獣”ではないかと思っている。
まーさんのおかしな所は、若いメス猫に、”大川大地”という”オス”につけるような名前を付けた所だけではなく、異世界で”バステト”という名前を新しく付けたことだ。これは、ギルドカードを発行できるのか実験した時に使った名前だ。
それだけなら、少しだけ変わった人だと思って終わったのだが、まーさんは元同級生たちの所業を聞いて、”嫌がらせ”をしようと言い出した。
そこで、イーリスと行っている翻訳作業の合間に、おもちゃや料理のレシピなどを思いつくもの全てを登録しようと言い出した。
それが、なんで嫌がらせになるのかわからなかったけど、話を聞いて納得してしまった。彼らなら、間違いなくまーさんの考えたシナリオに従って破滅に向かうだろうまーさんの手のひらの上で踊ってくれる。説明が終わったあとで、まーさんは私が嫌なら辞めるけどどうする?と聞いてきたが、『気にしないで実行してください』と伝えた。
彼らは、私やまーさんを魔法やスキルの試し打ちに使おうと言い出したのだ。もともと、友達だとも思えていなかった人たちだ。まーさんの”嫌がらせ”なら彼らが自分たちの行いを反省すれば、破滅は免れる余地は残されている。破滅するのは、彼らが自分たちで選択した結果だ。私は、間違いなく”破滅”すると思っているのだが、破滅するのも、破滅を回避するのも、彼らの行動次第なのだ。
まーさんの暴走はそれだけで終わらなかった。
昼行灯の如く、屋敷にいてもフラフラしていた。街をフラフラ歩いていたかと思うよ、飲み屋に行って飲んでいいた。
その飲み屋で、王都で流行りそうな物を調べては、開発していた。ポテチ系は、考えればすぐにできる物だが、それをフレーバーで味を変えるところを含めて登録する辺りが、大人のずるさだろう。私なら、ポテチの単体として登録してしまう所だ。オセロやチェスも、登録だけしておいて販売は、辺境伯に任せてしまった。登録した物だけで、すでに100近くになっているはずだ。それらの権利を、辺境伯やイーリスに渡すことで、身の安全を引き出している。
私とまーさんとバステトさんは、”使える”奴だという認識を、辺境伯やイーリスに持たせることに成功している。
必ず守ってくれるとは思っていないが、匿ってくれるくらいには必要とされている状況にはなっている。
飲み屋で思い出したが、この世界は15歳で成人だと認められる。成人すれば、お酒を飲んでも大丈夫だと言われているが、慣習的に18歳を過ぎるまでは飲まないようにするのだと教えられた。私は、お酒には興味がなかったので、飲んでいない。一度、イーリスに誘われてワインを飲んだのだが、冷たくなかったのが原因かもしれないが、美味しいとは思えなかった。まーさんに、美味しくなかったと伝えると、この世界のワインは冷やしてもあまり美味しくないのだと教えられた、だから、蒸留酒を作って美味しい果実から作ったジュースと混ぜるカクテルのようにした方が美味しいと教えられた。飲むつもりはないが、お祝いの席では飲む必要があるらしいので、訓練だと思って少しずつ飲んでみると教えられたが、祝いの席に出ることも無いだろうから、まだ訓練を始めていない。落ち着いたら考えてみようと思っている。
辺境伯とまーさんの話を聞いていたが、半分くらいしか理解出来なかった。
私が要望した。『王国でもなく、誰の土地でもない場所に屋敷が欲しい』という要望は通ったと考えてよいのだろうか?
それにしても、290万ものイエーンがカードに入っている。
この前まで高校生だった私に、まーさんは何を考えているのだろう?何も考えていないのか、嫌がらせだろう。
まーさんは、自分が稼いだイエーンを、バステトさん名義にして、それを使って”孤児院”の運営を行うように依頼している。
それだけではなく、私が考えていた森での隠匿生活の資金もまーさんが作った物から支払われることになってしまった。
実際に、まーさんが辺境伯の耳元で囁いた悪巧みが上手く行っているようだ。
辺境伯もものすごくいい笑顔を向けてくれている。
ほんの数ヶ月前まで普通の女子高校生だった私が、悪い大人に影響されてしまっている。
それでも、この世界のほうが前の世界の数倍・・・。ううん、数十倍、楽しくて素敵に感じてしまっている。悪い大人に影響されたかに違いない。
今から聞く話も、どうやらまーさんが提案した話のようだ。
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