30 / 101
第二章 王都脱出
第十一話 おっさん悩む
しおりを挟む朝からカリンは食堂で、まーさんに自分の考えを伝えていた。
「本当にいいの?」
「はい。自分で考えて決めました」
カリンからの話は、予想の斜め上で、まーさんは話を聞いて戸惑ってしまった。同時に、困ったことになりそうだと悩み始めた。
それでも、戸惑っている状況を見せないようにして、カリンの真意を聞き出そうとしている。
「それにしても思い切ったね」
「そうですか?まーさんから言われて、彼らの行動を考えてみました。その結果、最善の方法だと思います」
「そうだね。順番に、対処していくしかないと思うけどいいよね?」
「はい」
カリンは、まーさんが自分の考えに賛同してくれたと思ったのだが、実際にはまーさんは”なに”も約束をしていない。言質を取られないような言い回しを使っている。悲しいことに、まーさんは、どこに居てもまーさんなのだ。そして、カリンがまーさんの気持ちを悟るのには絶対的に経験が足りていない。
「辺境伯の所では、不安なのか?」
「・・・。はい。辺境伯を信じないわけではありませんが、辺境伯の家臣は?街の住民は?」
「そうだな。それで?」
「彼らは、スキルやステータスだよりの戦い方をすると思います。ゲームの様な話ですが・・・。私は、プレイヤースキルを磨こうと思います」
「冒険者になるというのか?」
「はい。そのあとで、帝国以外の場所でも活躍が出来るようになりたい。帝国と王国の間にある森で生活できれば・・・」
カリンの考えは、帝国と王国の間にあり、魔物が徘徊する森で生活をする。カリンの予想では、彼らがカリンやまーさんを追いかけてくることは無いだろうと考えている。誰かに命令すると考えている。そのために、国を出てしまえば、追ってから逃れられる可能性は高い。
カリンが考えている内容は、まーさんも一度は検討したが、難しいと判断している。
主に、森での生活の安定が図れるのかわからないからだ。戦闘力という部分でも問題はある。それだけではなく、国々の関係性も解っていない。いろいろ不明な部分が多く判断が難しい状況なのだ。
自己の安全だけを考えれば、どこの国の領地にもなっていない”森”は潜むのには最適だが、”領地”になっていないのには、なっていない理由がある。
まーさんは、王都を歩いていて、”命の価値”が想像以上に低いと感じている。奴隷商も存在しているし、スラム街では道端に死体が転がっている。裏路地に足を踏み入れたら、スリだけならましな感じになっている。貴族の馬車が平民を跳ねても、馬車は止まらずに走り去るのは、当たり前のことだ、跳ねられた者が起き上がれないと、ストリートチルドレンだけではなく、身なりがしっかりしている者まで集って身ぐるみを剥いでいく。
国が領地として考えていない場所。
盗賊の根城になっていると考えるのが妥当だとう。まーさんが調べた限りだと、森の大きさは”青木ヶ原樹海”と同等だ。樹海の広さを持つ”森”だ。盗賊の根城が一つだと考えるのは無理がある。中心部は、聖獣が住んでいると言われている。入った者は居る可能性があるが、確証がない話で、誰も見たものがいない。森の中心部は、いつしか”誰も立ち入られない”場所だと言われている。中心部だけではなく、森の周辺部以外の場所は、文献や情報を調べても”確実”な情報にはたどり着けていない。魔物に関する情報も錯綜している状態なのだ。
「目標としてはいいと思うよ。まずは、目先の問題を解決していこう」
「はい!」
まーさんは、カリンの目標を認めつつ、話を直近に考える必要がある物事に誘導する。
情報が不足している状態では、目標を達成するための、確かな道筋を考えることも不可能なのだ。
「それで、まーさん?」
「ん?」
「王都を出るのですよね?」
「そうだな。逃げ出そうと思っている。俺は、名前を知られていないと思うし、バステトさんは存在さえ認識されていない。カリンも名前が違うから、容姿で手配されない限りは大丈夫だと思う。堂々と逃げ出そう」
「ハハハ。”堂々と逃げ出す”の?」
「あぁコソコソする方が目立つ。だから、辺境伯の馬車が王都を出るときの護衛役にでもなろうと考えている」
「そうですね。時期は?」
「うーん。勇者(笑)たち次第かな・・・。ロッセルに頼んで、状況を調べてもらっているけど、それ次第だね」
お披露目があるのは確定しているけど、お披露目の前後で王都が混乱するのは解っている。
入ってくる者たちへの警戒が強くなるけど、出ていく者への警戒はすくなくなると考えている。
「辺境伯には、お土産を大量に渡すから、大丈夫だとは・・・。考えているけど・・・」
「ん?」
「俺たちを、辺境伯が宮廷に売り渡す可能性があるだろう?他にも、ロッセルやイーリスだって同じだぞ?」
「え?だって・・・」
「”だって”じゃない。カリンも、大人が手のひらを返す場面を見てきただろう?」
「・・・。うん」
「辺境伯やロッセルやイーリスが、自分のためにとは考えていない。別の理由があれば、可能性があるだろう?」
「別の理由?」
「例えば・・・」
まーさんは、極端な例をカリンに説明する。
たしかに、”無い”と切り捨てることは難しい。そうならないためにも、対策を考えておくと同時に、目的をはっきりとさせておく必要があると、カリンに説明する。
「カリン。俺の目的は、平穏な生活だ。日本に帰ることができれば、それはそれでいいと思うが、どうやら難しい。それなら、この世界で”平穏”に暮らしていければいい。魔物や魔王を倒して、英雄になりたいとも思わない。画期的な開発をして”富”を得たいとも思わない。やりたいことがやれて、手の届く範囲で幸せに慣れれば十分だ。ひとまずは、自分とバステトさんが食べるに困らなければいい」
「うん。私は、搾取されない生活がしたい。自分で、考えて・・・。生きていければいい」
「今なら、搾取する側に回ることも出来るぞ?」
「ううん。それはなにか違う。私は、ちょっとだけ刺激的で、ちょっとだけ楽しくて、たまの贅沢ができる生活がしたい」
「最高の贅沢だね」
「はい!」
「お互いの願いを叶えるためにも、まずは辺境伯に渡す物を精査しよう」
「全部を渡すのではないのですか?」
「うーん。全部を渡してしまってもいいけど、交渉に使えるように優先順位をつけておきたい。勇者(笑)たちが好みそうな物を優先しよう」
「はい!」
まーさんとカリンは、辺境伯に提供する”物”を選別していった。
酒類は、蒸留の方法を提供するので、問題はないと考えている。果実酒は、蒸留酒ができれば自然と産まれるだろうと考えている。
勇者たちが好みそうな”レシピ”に関してもできるだけ提供を行う。
まーさんとカリンは、異世界物で定番になっている調味料や味塩は提供することにした。発酵食品も考えたのだが、カリンから勇者たちは日本的な発酵食品をあまり食べていないと言われた。しかし、まーさんが食べたがったことや、隠す必要性も少ないということで、提供することにした。勇者の世界にある食べ物だと言うことで、辺境伯の取引に使えるだろうと考えたのだ。
ボードゲームの類は、辺境伯に渡さないで、自分たちで申請を行うことにした。
登録者は、第一にバステトさんにしておいて、ダメならまーさんの名前を使うことにした。
まーさんなら、貴族が囲いに来ても、けむに巻くことが出来るという判断だ。
二人で決めたことだが、申請に関しては、まーさんは悩んでいた。
カリンの名前にして、カリンが生活出来る基盤を作ったほうがいいのではないかと思っていたのだ。しかし、申請をした場合に貴族が群がってくる可能性だけではなく、勇者たちの攻撃対象になってしまう恐れもある。
今の所は、問題は出てきていないが、綱渡りをしている感覚があり、無茶ではないが無理を通そうとしている自覚がある。まーさんは、そんな状況にカリンを巻き込んでいいのか、悩むのだった。
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
もう、終わった話ですし
志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。
その知らせを聞いても、私には関係の無い事。
だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥
‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの
少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる