28 / 101
第二章 王都脱出
第九話 おっさん辺境伯に会う2
しおりを挟むおっさんが、部屋に戻ると、1人の男性が拍手をしながら出迎えた。その横には、苦笑しながら椅子を勧めている男性が1人座っていた。
「辺境伯」
ロッセルが、拍手をする男性を窘めるように声を上げるが、呼ばれた辺境伯は気にしない様子で、まーさんに話しかける。
「まーさん。すごいね。勇者は、交渉も得意なのか?」
「ん?なにか勘違いしていないか?」
「え?」
「俺は、交渉なんてしていないぞ?」
ロッセルは不思議そうな表情をするが、辺境伯は、まーさんが言っている内容がすぐに理解できたようだ。
「そうだな。まーさん。それで?」
「フォミル殿は、豚の周りに間者を潜り込ませているだろう?」
「まーさん。”殿”は必要ない。もちろんだ、優秀な連中を配置しているから、今回も事前に把握できて、まーさんに連絡ができた」
「そうですよね。でも、何度も、続くと”偉大な宰相閣下”は気が付かれませんか?俺なら、”1度は偶然”、”2度目も偶然”、”3度目は必然”と考えて、周りを徹底的に調べますよ。それで、ある程度のグループに分けて、同じ結論に達する違う情報を流しますよ」
「・・・」
「やっぱり、すでに、偽情報が含まれているのですね」
辺境伯は、まーさんを見ながら頷いた。
実際、情報戦の大半を”間者”からの得ているとしたら、限界はすぐにやってくる。魔法やスキルがある世界だから、地球とは違う理が存在しているとは考えたが、情報を得た者たちが行う動きには大きな違いは見られない。
実際に、辺境伯は”まーさんとカリン”を王城に連れてこいという命令を使者に出した情報を掴んで、先に動いた。
「そうか、それなら丁度よかった」
「ん?まーさん?」
「今日の使者は、丁度いい捨て駒になると思うぞ?同じ様な連中は、腐るほど居るだろう?」
「すまん。言っている意味がわからない」
「フォミル。貴殿が、情報が盗まれている。近くではないが・・・。間者が居るかもしれないと思ったらどうする?」
「ん?当然、調べるぞ」
「どうやって?」
「どうやって・・・。うーん。身辺の調査をしたり、行動を見張ったり、不自然な者を探すか・・・。あとは、まーさんが言った様に、複数の情報を流して、どの情報に喰い付くか調べるな」
「それで?」
「ん?該当者が居たらという意味か?」
「そうだな。見つからなければ、もっと絞ったり、範囲を広げたりするだけだろう?」
「見つからなければ・・・。そうだな。見つかったら・・・。そうか・・・。奴が、情報を流しているとバレれば、安心するわけか・・・」
「それだけじゃないぞ、同じような、クズな法衣貴族や使えない者たちは、宰相の周りに多いだろう?」
「・・・?」
「そいつらが、連続して宰相を裏切った、または辺境伯の派閥に情報を流していたとバレたらどうなる?」
辺境伯とロッセルはお互いの顔を見てからまーさんを見る。
辺境伯は、興味深そうな表情でまーさんを見ているが、ロッセルは驚愕を通り越して恐怖が浮かんだ表情をしている。
「どうした?」
二人の視線に気がついたが、まーさんは自分のペースを崩さない。
テーブルの上にある蒸留酒に味付けしてある物をコップに注いで喉を湿らせる。
「まーさん。勇者の居た国は・・・。そんなことはないな。あの勇者を考えたら・・・」
「フォミル。人が集まれば、派閥が出来る。派閥が集まれば、争いが発生するのは、どこでも同じだと思うぞ」
辺境伯は、宰相の企てをまーさんに伝える事で、まーさんへの借りを減らそうと考えたが、まーさんは貸しているとは考えていなかったために、辺境伯から伝えられた情報の対価として、使えない使者の使いみちを伝えたのだ。
「そうだ。まーさん。例の方は、明日で大丈夫なのか?」
「流石に、今日は無理だろう?」
辺境伯は、ロッセルを見るが、ロッセルも無理だという表情をしている。命令すれば、無理してでもやる可能性があるが、派閥に関することなので、無理をさせるわけにはいかない。
まーさんもロッセルの表情から、明日でもギリギリかもしれないと判断した。
「わかった。二日後の夕方に来てくれ、食事を用意して待っている」
「まーさん。辺境伯を送っていきます」
ロッセルが立ち上がって、辺境伯を別棟に案内する。表玄関は、使者がプロトコルに則って、護衛を待機させたり、馬車を用意したり、まだ時間がかかりそうだ。丁度よい時間稼ぎにはなるが、そのために辺境伯は移動をしてもらわなければならなくなってしまっている。護衛や馬車はすでに移動しているので、問題はない。
「まーさん。二日後に、また!」
「わかった。準備して待っている」
辺境伯は、ロッセルと一緒に部屋から出ていった。
二人が部屋から出ていったのを見てから、カリンとバステトさんが部屋に入ってきた。
”にゃぁ”
「バステトさん。もう大丈夫ですよ」
”にゃ?!”
「我慢の必要がなくなると思いますよ」
”にゃぁ。にゃぁ”
まーさんとバステトさんの会話が成り立っているように感じるやり取りをカリンは不思議そうな表情で見ていた。
「まーさん?」
「ん?あぁ。そろそろ、王都を出る準備をしたほうがいいかもしれないですね」
「え?」
いきなり、話が飛んだように感じてしまったカリンは、驚きの声を上げるが、まーさんは話の続きをするように軽い気持ちで続ける。
「使者が来たのは知っていますよね?」
「あっうん」
「”あの”豚だけが知っているとは思えない。どこから漏れたのかは、辺境伯が調べるだろうけど、王城の人間は知っていると考えたほうが自然です。もちろん、勇者(笑)たちにも情報が流れていると考えたほうがいいでしょ」
「あっ!」
「そして、俺たちはフォミルを通して、地球に有った物を再現するつもりでいる」
「うん。いくら、彼らが馬鹿でも、だれが作ったのか・・・」
「そうだ、それだけじゃなくて、俺が聞いた話では、彼らはちやほやされていい気になっている。城から出るときには、侍女や護衛が付いている。買い物も、満足にできないと思われているようだ。それだけではなく、戦闘訓練も始まっている」
「へぇ・・・。あっ・・・。まーさんの言い方だと、ちやほやはされているけど、自由がなくなっているということ?お金も自由に使えない?」
「欲しいと言えば、貴族や王族が用意するみたいだけどな」
「・・・。でも・・・」
「あぁ俺たちが出す物は、貴族や王族も欲しがるだろう。料理のレシピを除けば、数は絞られる。彼らは、物の価値がわからない。市場を見て回っているわけではないからな」
まーさんの狙いが判明したが、それでも移動しなければならない状況がわからない。
カリンは、話は解ったし、勇者たちが苦労とは言わないけど、困った立場になるのは理解できた。自業自得だし、別にどうなろうと関係がないと感じている。
「ん?あぁ俺が見た所、わがまま放題で、自分の感情が優先されなければ気がすまないのだろう・・・。彼らは?」
「え?あっそうですね」
「自分は権力もあり、物理的な力もあり、地位も勘違いだけど上だと思っている。貴族や王族に”命令”しても欲しい物が手に入らない。それだけじゃなくて、自分たちよりも下だと思っている。俺や君の方が、この世界の”金”を持っている可能性がある。そんなときに勇者(笑)が、取る行動は?」
「え?」
「10秒だけ待ってあげる。考えてみて」
「え?あっ」「9・・・8・・・7・・・6・・・」「わかった!私を探して、脅す!」
「”正解”そのための情報は、すでに持っているだろう?」
「そうですね」
「だから、辺境伯に情報を渡したら、王都を脱出しようと思う。カリンはどうする?イーリスに頼めば、匿ってもらえると思うぞ?」
「え・・・。まーさん。少しだけ考えます」
「うん。流されるのも悪くないけど、自分で出した答えのほうが、納得できるだろうね。辺境伯は二日後に来るから、考えてみて、困ったら”バステトさん”に話をしてみるといいよ」
「ハハ。わかりました。ありがとうございます」
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる