勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね

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第二章 王都脱出

第八話 おっさん使者に会う

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 おっまーさんは、朝から不機嫌な気持ちを隠そうとしていない。周りに当たらないだけ大人なのだろうが、不機嫌な態度は大人として正しくない。まーさんは、イーリスの研究所で、まーさんを訪ねてきた者と対峙していた。正確には、まーさんを訪ねてきたわけではない。客の素性を聞いて、まーさんはカリンではなく、自分だけが話を聞くことにした。

 イーリスに頼んで作らせた、黒の作務衣に愛用していた濃い色が付いている丸サングラスをしている。その状態で、椅子に座って足を組んでいる。手には、蒸留して作ったアルコールに軽く匂いと味を付けた物をコップに入れて持っている。研究員に作らせた”氷”を丸くした物を浮かべている。

 まーさんの目の前に座るのは、王宮からの使者だ。
 宰相を名乗っている豚からの書簡を持ってきている。まーさんは、書簡の受け取りを拒否した。イーリスや居合わせたロッセルからも、受け取る必要はない。宰相よりも、異世界から来た”まーさん”や”カリン”の方が、地位が上だと説明された。
 その上で、受取拒否をしたことでの問題点を上げたが、まーさんは問題がないと判断した。

「それで?」

「宰相閣下からの書簡を受け取ってください」

 テーブルに載せた書簡を使者は、まーさんの方に押し込む。
 まーさんは、テーブルを足で蹴り上げるようにして、書簡が乗ったトレイごと使者に突き返す。

「断る。帰ってくれ。俺には、俺たちには、王城に行く理由がない」

 顔を真っ赤にした使者がまーさんを睨むようにしているが、さすがに手を出してこない。

「そちらになくても、こちらにはあるのです」

 使者が使ったこの言葉をまーさんが待っていた言葉だ。
 わざと、不機嫌な態度を取り、上位者だと思っていた使者を小馬鹿にする発言を繰り返す。

 手を出してくれれば、最良だったが”封蝋がされている書簡の内容を口走った使者”が目の前に座っている。
 まーさんとしては、十分だと言える成果だ。

「ほぉ・・・」

 アルコールが入っていたコップを、テーブルに叩きつけるように、置いた。
 一連の動きは、洗練されているとは言い難いが、まーさんがやると絵になる。ドアの隙間から、スマホで録音しているカリンは感心している。

「な、なにを?」

 まーさんは、組んでいた足を解いて、身をまえに乗り出す。

「あぁなに、馬鹿な俺に教えてくれ、貴殿はなぜ、偉大なる宰相であるブーさんの書簡の内容を知っている?」

「え?」

「貴殿は、本当に王城から書簡を持ってきた使者なのか?」

「何を!?」

「もし、正式な使者ならば、封蝋がされている書簡の内容を盗み見るような事は無いだろう。盗み見るような奴が持ってきた、本物なのか不明な書簡は受け取らない。それに、使者を語るような奴と一緒に行くのは恐怖を感じる。俺は、俺たちは、王城にはいかない。イーリス!」

 カリンと一緒に様子を伺っていた、イーリスが扉から出てくる。
 突然の登場に、使者は驚きの表情を見せる。それを見て、まーさんは、使者が3流以下の人間だと判断した。イーリスが所有する館で、たしかにイーリスが常に居るわけではないのだが、まーさんとカリンが居るのに、”イーリスが居る”と思えないのは、知恵が回らない表面しか見ていない者だと判断した。

「まー様。これを」

 イーリスが差し出したのは、まーさんと使者のやり取りを多少の脚色を施した議事録だ。

「いい出来だ。イーリス。ありがとう」

 まーさんは、イーリスから議事録を受け取って、唖然とした表情を浮かべている使者に視線を戻した。
 イーリスは、そのまままーさんの隣に腰を下ろす。そして、扉の外側に居るメイドに命令をだして紅茶を自分の文だけ持ってこさせた。

「さて、使者殿。この議事録を、王城に届けてほしい。1日で十分だろう。1日だけ待ってやる。その間に、宰相から正式な謝罪と貴殿が犯した罪に対する罰が王城から発表されなければ、この事実を公にする」

「なっ!なぜ!?」

「なぜ?使者殿。俺たちが、この屋敷に居るのは、秘匿されている。使者殿は、どうして俺たちがここに居ると解った?それだけではない。館の主人が居るのに、挨拶をしないで、『俺たちを出せ』と、おしゃった。これも、使者のプロトコルとしては間違っている。そのうえで、宰相閣下は自分よりも立場が上に当たる俺たちへの書簡を封蝋がされているのにも関わらず使者殿に内容を教えている。これも、プロトコルとしては最低だ。この一点だけでも謝罪を要求するのにも十分だと思うが?違うのか?」

 まーさんは、使者を断罪するように言葉を重ねる。

「貴殿は、俺たちを下に見ていただろう?」

「いえ、そのような・・・」

「イーリスは、王女殿下だ。貴殿たちからみたら、何も権限を持たない者かもしれないが、王女殿下であることには違いはない」

 まーさんは、ここで、言葉を切って、イーリスを見る。
 イーリスは、苦笑しながらも、まーさんに話の主導権を渡すような仕草をする。

「貴殿は、この段階になっても、イーリスに謝罪の言葉を渡していない。それだけではない!現在の立場を理解されていない。はっきり言わないとわからない程度の者を、宰相閣下は使者に使っているのか?宰相閣下の見識を疑ってしまう」

「それは・・・」

「貴殿は、どうされたいのだ?」

「え?」

 使者が驚くのも当然だ。
 自分は、使者でしかなく、宰相の謝罪まで持ち出されるとは思っていない。それだけではない。使者の役目を果たさないで、宰相に報告を行ったら、身体は首の重さを感じなくなってしまう。もしかしたら、家族にも影響があるかもしれない。
 使者として、”なんで”こうなったのか考えているが、自分の対応は”今までと”変わりがない。
 目の前に座っている人物が”今まで自分が相手をしてきた”人物と違うという簡単なことに気がついていない。今更気がついても、手遅れだが、まーさんは逃げ道も会話の中に用意してある。

 まーさんの用意した逃げ道にも気が付かない程に使者は動揺していた。

 まーさんの隣に座ったイーリスは苦笑しながら、テーブルの上に置かれた紅茶を口に含む。

 イーリスは、紅茶のカップをテーブルに置いて、まーさんを見る。イーリスが何をしようとしているのか気がついて、まーさんは頷きを返す。

「使者殿。貴方は、宰相の指示に従っただけですよね?」

「え?」

 使者は顔を上げて、イーリスを見る。
 そして、イーリスが投げかけた言葉の意味を考える。

「あっ!」

 使者は、イーリスの話を考えて一つの可能性に行き着いた。そして、まーさんを見た。

 使者は、勢いよく立ち上がって床にひざまずいた。土下座のような格好になり、謝罪の言葉を口にした。謝罪と言えば聞こえはいいが、自己弁護でしかない。別に、まーさんも使者が死のうが殺されようがどうでもいいのだが、使える駒が増える可能性がある程度には考えていた。
 そして、土下座する使者を冷ややかな目で見ているイーリスが口を開く。

「使者殿。事情はわかりました。しかし、貴方が行った行為をなかったことにする事はできません」

「え?」

 絶望で顔色を悪くする使者は、上げていた頭を床にこすりつけるようにして懇願する。

「しかし・・・」

 使者は、イーリスの言葉を聞いて、顔を上げて期待を込めた目でまーさんとイーリスを見る。そこには、尊大な態度は見られない。

「まー様。今日は、誰の訪問も受けていませんよね?」

「そうだな」

 まーさんとイーリスの猿芝居が始まった。使者は、猿芝居を不思議な表情で見守るが、イーリスが語った”誰の訪問も受けていない”を聞いて一縷の望みを感じている。二人の言葉のやり取りを、固唾を飲んで見守っている。

「イーリス。今日は、辺境伯と会う約束だけだ」

「そうでしたか・・・。あっ。まー様。もうしわけございません。宰相からの使者が、辺境伯にお会いしたいと訪ねてきていたのをすっかり忘れていました」

「そうなのか?それなら、使者を連れて、辺境伯の屋敷に行った方が良くないか?」

「そうですね。使者は、宰相が行った不正を辺境伯に報告したいと言っていました」

「へぇ・・・。イーリス。でも、それだけじゃないよな?」

「そうですね。なんでも、”定期的に辺境伯に情報を流したい”と相談されました」

「スパイになると言っているのか?」

「そうです」

 使者は、自分が生き残れる道をしめされて、床に頭を打ち付けながら何度も何度もイーリスとまーさんにお願いの言葉を紡いでいる。

 満足な表情を浮かべながら、まーさんはイーリスに話しかける。

「イーリス。俺は、部屋に戻る。それと、辺境伯には、俺からも謝罪をしておく、よろしく頼むな」

「まー様。わかりました」

 土下座のままの使者に目線を向けるだけで、まーさんはイーリスに手を軽く振って部屋を出ていった。
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