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第二章 王都脱出
第五話 おっさん悪巧みをする
しおりを挟む「フォミル殿。お願いがありますがいいですか?」
辺境伯は、まーさんを真っ直ぐに見つめる。
「なんだ?」
「まず、俺たち・・・。カリンと二人で、思いつく限り、前の世界に合った料理やどこぞの貴人が言っている物を再現する」
「ほ、本当か?!それは・・・」
まーさんが、手を上げて興奮した辺境伯を手で制する。
「フォルミ殿。全て、お渡しします。使い方や特許で条件を付けさせてください」
「解っている。まーさんたちに不利益にならないようにする」
「それもあるのですが、材料の調達をお願いしたい。それと・・・」
まーさんが辺境伯にお願いしたのは意外なことだ。
「まーさん。本気か?」
「あぁ自然な形で、”とある貴人”を囲みたがっている。そうだな・・・。できるだけクズな貴族に流れるようにして欲しい」
「・・・。理由を教えてもらえないか?」
「そうだな。”とある貴人”が欲しがっている物を、クズな貴族が入手した場合はどうなる?」
「そうですな。入手先を調べるでしょう」
「特許を調べたりはしないのか?」
「あっ!?まーさん。それは難しいと思います」
「そうなのか?物が手元にあるのなら、それを持って、神殿に行けば、”可否”で判断できるのではないか?」
「それが、”登録”としか判定されないのです」
「似た物を作っても同じなのか?」
「はい。権利者が、似た物を持っていって、判定依頼を行えば、権利を侵害しているのかわかります」
「ふーん。それは、面白いな・・・」
「え?」
辺境伯は、”なぜ”まーさんが”面白い”と行ったのか理解ができない。
判定が面倒なのと、権利を侵害されたほうが、証明しなければならないのは、面倒だと考えている。
「フォルミ殿。先程、侵害しているときには、15割までと言っていたが、金銭が発生しないような場合にはどうなる?」
「え?」
「例えば、クズな貴族が、”とある貴人”にポテチを進呈したことで、貴族が”とある貴人”を囲い込むことに成功したとして、その場合の賠償はどうなる?」
「あっ!」
まーさんに、具体的な事例を言われて、辺境伯はまーさんの狙いが、金銭ではないと把握した。
「どうだ?」
「その場合には、権利者から要求すると思います」
「そうだよな。それなら、金銭よりも得難い物が得られるな」
まーさんは、テーブルの上に並んでいる料理を摘みながら、蒸留酒を呷る。まだ熟成が足りない。味も香りも喉越しも、全ての項目で満足できない。しかし、まずいエールを飲むよりはマシだと思って、呷っている。アルコールの限界値は認識している。そもそも、酒精が強くなったと言っても、まだまだ弱い。味が無いから、果実と混ぜることで調整している。
まーさんは、辺境伯に”とある貴人”が欲している物を渡すときには、できるだけクズで矮小で欲に忠実で、邪魔な貴族に流すように依頼した。
「まーさん。理由を聞いていいか?」
「そうですね。辺境伯に売れる”恩”を売っておくと後々楽ができると考えているから・・・。では、どうですか?」
「クッククク。わかった、今はその返事を受け取っておく」
「ありがとうございます。そう言えば、”とある貴人”が求めている物は他にもありますよね?」
「まとめて、ロッセルに渡そう」
「ありがとうございます。必要な材料もあると思いますので、まとめておきます」
「わかった」
まーさんは、奥の手はまだ隠した状態だ。自分のスキルは、”生活魔法のウォッシュ”しか使えないと、ロッセルにもイーリスにも伝えている。隠蔽や偽装で誤魔化しているのだろうとは思われているが、隠す真意がわからないために、誰も聞いては来ない。
「そうだ。フォルミ殿。錬成に詳しいまともな人は居ないか?」
「錬成?また、マニアックなスキルですね。探しては見ます。まーさんが使えるのですか?」
辺境伯は、探りを入れるような視線でまーさんに質問をする。まーさんも、予想していた質問なので、慌てることがなく質問に答える。
「いや、カリンが使える。それに、言葉の意味を考えれば、魔法陣を使って物質を変異させたりするのだろう?」
「えぇそうです。あ!もしかしたら・・・」
「どうした?」
「まーさん。鉄鉱石から・・・」
「あぁ物質の分離も、錬成でできるのか?」
「やはり!もしかして、まーさんたちは、鉄が赤くなる原因もわかるのですか?」
「錆のことを言っているのか?だったら、酸化が原因の一つだな」
「やはり・・・。まーさんたちは、錬成に必要な知識を持っているのですね」
「どうだろう・・・。全ての素材がわかるわけじゃないからな」
「それでも、不遇スキルと言われている、錬成が使えるようになるだけでもありがたい」
「わかった。でも、それは、王都じゃ無いほうがいいのだろう?」
「・・・。まーさん。貴方は・・・。わかりました、ロッセルに言って、錬成に関する資料を集めます」
「頼む。それから、俺とカリンの身分証をもう一つ作りたい」
「なぜですか?ラインリッヒ辺境伯の紋章では不服ですか?」
「違う。違う。目立ちたくないときに使う身分証が欲しい。例えば、辺境伯と敵対している派閥の領地を通るときに、紋章がある身分証は使えないだろう?」
「・・・。消せますが?」
「消せるのは解っているけど、俺なら、空いている場所があるのを不審に思う。消していると考えて、追求する」
「・・・。そんな考えは・・・」
「そうだな。でも、考えついたからには対策を講じないと昼寝ができない」
まーさんは、辺境伯を睨むように見つめる。辺境伯は、まーさんとカリンを取り込むために、身分証に自分の紋章を追加している。まーさんは、それが解っていながら、別の理由を告げている。紋章を消すことはできるのだが、意味が無いと言われてしまっている。それなら、他の紋章の最後にと考えたが、カードの仕組み上できないのは、辺境伯は解っている。大きく息を吐き出しながら、まーさんに目線をあわせて、承諾するしかなかった。
「わかった。用意させる」
「悪いな。紋章が入っている物は、王都で使っても問題は無いのだな?」
「王都なら大丈夫だ。でも、冒険者ギルドだけは注意してくれ、もしかしたら王家に情報が渡ってしまうかもしれない」
「そうなのか・・・。忠告はありがたく受け取る」
ひとまず、身分証は辺境伯が用意する。まーさんは、ひとまず王都の市場で手に入る物で、再現できそうな物を作成してみる。
3日後にもう一度、この場所で打ち合わせを行う事になった。
蒸留器は、そのままイーリスの名前で申請を行う。諸々の手続きは、辺境伯が行うことに決まった。
この日は、取り決めだけをして、辺境伯は部屋から出た。まーさんは、マスターの店で飲んでから帰ることにしたが、辺境伯は早く申請を行って、いろいろと試してみたくなってしまっている。辺境伯は、飲み始めるまーさんを無視する形で、店をあとにする。停めてあった馬車に乗って、王都にある屋敷に向かうように指示を出した。
実際に、まーさんは”金”には困っていない。召喚されたあとで渡された金貨もある。それだけではなく、イーリスから協力金をもらっている。日に金貨5枚だ。カリンの分も含んでいる。カリンは、1枚だけもらって、あとはまーさんに渡している。その代わり、護衛としてバステトがカリンの側に日中は常に居るのだ。その他にも、まーさんが市場で大量に買い込んできている物資を使って、いろいろな物を作っているのだ。
「マスター」
「あ!まーさん。それで、どうする?」
「うーん。適当に、摘める物を作ってよ」
「まかせろ!飲み物はどうする?」
「うーん。冷やした物を、最初にもらおう。その後は、ミードを温めてくれ」
「わかった。ミードは、レモンを入れるか?」
「頼む」
まーさんは、出された摘みを食べながら、冷えた果実酒で喉を潤した。
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