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第二章 王都脱出
第四話 おっさん辺境伯にあう
しおりを挟む待ち合わせの時間には少しだけ早かったが、まーさんは、料理をマスターに頼むために、店に向かった。
「マスター」
「まーさん。お客は既に来ているぞ」
意外なことに、待ち人が既に来ていると言われた。偉い人は遅れてくるというイメージを持っていたまーさんは、驚いた顔をマスターに向ける。
「え?まだ約束の時間にはなっていないとおもうけど・・・」
「あぁまーさんに会うのを楽しみにしていたみたいだ。まーさんのレシピや蒸留器を一通り揃えて部屋に置いてある」
「お。助かる」
まーさんは、マスターに持ってきた物を渡した。
口頭で、調理方法を頼んでから、奥の部屋に進んだ。扉の前で、ノックを3回してから、一拍の間を空けてから、ノックを2回する。部屋から鍵を開ける音がする。まーさんは、扉を開けて中に入る。中央のテーブルには、一人の男性が扉に背中を向けて座っている。まーさんは、少しだけ戸惑ったが男性の正面に一つだけ残された椅子を見て、息を吐き出してから男性の正面に座る。
扉を開けた執事風の男性は、まーさんに部屋に居た男性に頭を下げてから外に出て、扉を閉めた。
「まーさん。何か飲みますか?」
「・・・」
「そうでした。儂は、まーさんを知っているが、まーさんは息子しか知らんのだったな」
「あぁでも、その息子氏のこともよく知らない」
「ハハハ。儂は、ラインリッヒ。辺境伯だ」
「ラインリッヒ辺境伯様とお呼びすればよろしいですか?」
「うーん。本来なら、まーさんのほうが、立場的には上だぞ?儂のことは、フォミルと呼んでくれ」
まーさんは、ラインリッヒ辺境伯が差し出したカップを受け取った。
中身は、まーさんがマスターにレシピを渡して作ってもらった酒精が入っている。唇を濡らすようにしてから、辺境伯にストレートに質問をする。
「わかった。フォミル殿。それで、蒸留やレシピに関しての話だと思っているが?」
「そうだ」
喉を鳴らして酒精を飲んでから、カップをテーブルに置く。まーさんは、辺境伯をしっかりと見据えた。
テーブルの上に置いた指でテーブルを弾きながら、辺境伯に質問を重ねる。
「フォミル殿。聞きたいことがあるがいいか?」
「儂が答えられる内容なら問題はない」
「ラインリッヒ辺境伯は、どこを向いて、俺が作った物を欲しがっている?」
まーさんは、ストレートに問いかけるのではなく、少し回り道な言い方をした。
ラインリッヒ辺境伯は、まーさんをまっすぐに見つめて、自分が試されていると感じながらも、正直に答えるのが得策だと思った。
「儂の領民だ。そして、儂の家族。儂を慕ってくれている家臣たちだ」
まーさんは、辺境伯の答えを聞いて、満足した。予想よりも”良い”答えだった。
そして、本題を切り出す。
「わかった。もう一つだ。この世界には、特許の様な物はあるのか?」
「”とっきょ”」
「その言い方では無いようだな」
辺境伯は、顎を撫でながら、まーさんを見た。
”とっきょ”は知らないが、まーさんからアイディアなり情報が引き出せると考えて、質問をすることにした。
「どんな物なのか、説明してくれないか?」
まーさんは、日本の特許を説明した。もちろん、まーさんが知っていることを、都合よく伝えたのだ。
特許料の話も伝えた。特許は公開されて、誰でも見ることができることや、見て利用することができると伝えた。利用する場合には、利用料を支払う必要があると簡単に伝えたのだ。
「どうだ?」
「・・・。まーさんが言っている”とっきょ”とは違うが、似たような仕組みがある」
「ほぉ・・・。それは?」
辺境伯の意外な答えに、まーさんは”少し”感心を示した。
今度は、辺境伯がまーさんに説明を行う。
商業の神殿に登録を行うことで、権利が守られるということだ。
「類似品はどうなる?」
「罰則の対象だ、導き出される結果が同じなら、類似品と見られて、売上の9割から15割を支払う必要が出てくる」
「判定はどうする?」
「神殿で判定の魔道具を使うことになる」
「ふーん。それは、貴族とか、平民とか、関係がないのか?」
「ない。断言できる」
まーさんは、辺境伯の顔を見て、この場で自分を騙す必然性が低いことや、これからのことを考えて、”ある物”として話を進めることにした。
「話を戻して、蒸留や関連する酒精のレシピは、フォルミ殿に預ける。好きに使ってくれ」
「いいのか?」
身体を乗り出すように喰い付いてくる。
それだけ画期的な物だと考えているのだろう。安酒が、酒精が強い飲み物に変わって、酒精が強くなったことで、果実と合わせて飲むことができる。それだけでも大きな変化を感じるのだろう。実際に、辺境伯は酒精だけではなく、ポーションを蒸留すれば、違った結果が出るのではないかと思っているのだ。まーさんも、それには気がついていたが、別にどうでもいいと言及していない。
「あぁいくつかの条件を飲み込んでくれ」
「条件?」
「”特許”・・・。こちらでの呼び方がわからないから、今は、”特許”と呼ぶが、登録を頼みたい。俺の名前ではなく、イーリスの名前で頼む」
「え?いいのか?王女殿下で?」
「あぁ世話になっているからな。それに、かなりの金銭を使わせてしまっている」
「わかった。まーさんの指示に従う」
「あと、マスターには無料で使わせてやってくれ、作った工房は把握していると思うが、なるべく工房を使ってやってほしい」
「わかった。それは、当然の配慮だと考えている」
まーさんは、安堵した表情を見せる。辺境伯は、断らないと思っていたが、”了承が得られてよかった”と考えた。
扉がノックされた。
「注文された料理をお届けに来ました」
「入ってくれ」
「まーさん?」
まーさんは、手で辺境伯の質問をとどめて、マスターに入ってもらった。
テーブルの上には、まーさんがマスターに指示を出して作ってもらった料理が並び始める。
「まーさん。どうだ?言われた通りに作ったが?」
まーさんは、マスターが持ってきた料理を一枚だけ摘んで口に放り込んだ。
”パリッ”と心地よい音がしている。
「完璧!マスターに頼んでよかったよ」
マスターが、辺境伯に会釈をして出ていく。
テーブルの上には、じゃがいもを薄く切って油で揚げた物が並んでいる。まーさんの指示した通りに、乱雑に山盛りになっている。
「まーさん。これは?」
「”ポテチ”というものですよ。知りませんか?」
「え?」
「”コンソメ”や”カレー”は、準備が必要ですし、香辛料があるかわからないので、用意が出来ませんでした。”ネイル”はカリンのほうが詳しいでしょう。”みそ”や”しょうゆ”は、作り方は知っていますが、材料の入手ができるかわかりませんし、年単位で時間が必要です。”コメ”は私もほしいです。どうですか?フォミル殿」
「・・・。まーさん。なぜ、知っているか教えてもらえるか?」
「企業秘密です。と、言いたい所ですが、”貸し”一つでいいですよ」
「わかった」
「簡単な話ですよ。市井で聞いた内容です。”どこぞ”の貴人が、貴族に命じて探してくるように言ったそうですよ。その貴族が、王都の商人を集めて、知っている者を探したらしいですよ」
「・・・。あいつら・・・。まーさん?」
「ここが初披露だ。街では、”しらない”と答えた。実際に、”こっち”にあるか知らないからな」
「そうか・・・」
まーさんが、ポテチをつまんで食べるのを見て、辺境伯もつまんで口に放り込む。
「ほぉ・・・。うまいな。酒精に合いそうだ」
「そうだな。もう少し、塩味を薄くすれば、ワインと合わせてもいいだろう」
「そうだな。これは、”じゃがいも”か?薄く切って・・・。こんなことでうまくなるのか・・・」
「歯ごたえや腹持ちが、欲しければ、厚くしたり、切り方を変えたり、いろいろ手法はあるぞ」
「まーさん。情報を、売って欲しい」
まーさんは、ニヤリと笑って、辺境伯を見つめてから言葉を紡ぐ。
「フォミル殿。お願いがありますがいいですか?」
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