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第二章 王都脱出
第二話 おっさん勇者の願いを知る
しおりを挟むロッセルと別れたまーさんは、屋台を周って、飲み屋に持っていく手土産を考えていた。
(辺境伯が来るのだよな?まぁいつもの感じでいいか・・・。考えても駄目なことは、考えるだけ意味がないからな)
まーさんは、少しだけ”貴族”を考えたが、貴族という一括で考えることの危険性を考えて、考えるのを止めた。
「まーさん!」
「お!野菜売りのおっちゃん。今日はどうした?もう店じまい?」
「違う。違う。呼び出されて、貴族様の屋敷に行っていた」
「おっちゃん。何かやったのか?逃げるのなら、早いほうがいいぞ?」
「まーさん?違うぞ!なんでも・・・。おっと・・・」
「なんだよ。そこまで話したのなら、全部、話せよ」
「まぁまーさんならいいか・・・。なんでも、そのお貴族様の寄親が、”どこぞ”の貴人を囲ったようで、その貴人さんが、”コメ”を持ってこいとか言い出して、”コメ”が作物らしいから、俺が呼び出されたというわけだ」
「へぇ。”コメ”ねぇ。おっちゃんは知っていたのか?」
「いいや。聞いたことがない。知らないから、正直に答えた。他にも、”こんそめ”や”ポテチ”や”ねいる”や”しょうゆ”や”みそ”や”かれー”や”えすて”や・・・。他にも、いろいろ紙を見ながら聞かれたけど、”聞いたこともない”と答えた」
(いやぁすごいな。ポテチと来たか・・・。コンソメも、もしかしたら”コンソメ味のポテチ”か?”じゃがい”ならあるのに・・・。材料が”じゃがいも”と知らないのか?まさか、そこまで馬鹿と・・・違うよな?カレーは別にして・・・)
「そりゃぁ朝から災難だったな」
「まったくだ。知らないと答えたら、”知らないのなら用はない。帰れ”だからな」
「ハハハ。野菜の一つでも買ってくれればよかったのに、それもないのか?」
「まったくだ!まーさん。何か買ってくれるか?」
店の前じゃなくて路上での会話だが、おっちゃんはまーさんなら何か買ってくるかもと考えた。
「そうだな。おっちゃん。俺が世話になっている場所を知っていたよな?」
「あぁ研究所だろう?なんの研究所かしらないけど、気さくでいい人ばっかりだよな」
「そうそう。そこに、届けて欲しい物があるけどいいか?」
「いいぞ!貴族様は気に入らないが、まーさんの頼みなら・・・。娘が世話になったことだし・・・」
野菜売りのおっちゃんの娘は、算数が苦手だった。おっちゃんが愚痴をまーさんに語った翌日に、まーさんは算数がかんたんに覚えられる方法を教えた。この世界の算数も、数字だけを使っている。そのために、拒否反応を起こしてしまっていたのだ。まーさんは、小石を拾って足し算や引き算を教えた。掛け算も同じ要領でやればできるし、割り算も出来る。苦手意識さえ克服してしまえば、遅くても計算は出来るようになる。
「お!それなら、”じゃがいも”と”にんじん”と”セロリ”と”玉ねぎ”と”にんにく”と・・・。あっ”トマト”も頼む」
「あいよ。量はどうする?」
「どのくらいある?トマトは少なめで、買えるだけ頼む」
まーさんは、金貨を3枚取り出して渡す。
「まーさん。店中の野菜が買えるぞ?」
「そうか?それなら、あと何か適当に頼むよ。そうだ!肉屋の大将は店を出していた?」
まーさんは、さっきの話から、勇者(笑)の気をひこうとしている貴族が、肉屋にも話をしていると考えている。
「ん?あぁあいつも呼び出されていたぞ」
「そうなのか、大変だな。そもそも、”コメ”がどんな物か説明されたのか?名前だけじゃわからないだろう?」
「何も、名前だけだな。貴人さんも、”名前を言えばわかるはず。絶対にある”と言っていたらしいからな」
「なんだ・・・。それ・・・。おっちゃんが野菜のプロでも、”コメ”がどんな物か教えられなければ、答えようがないよな」
「まったくだ。そうだ、まーさん。あいつも、俺と一緒に出てきたから、そろそろ店に出ていると思うぞ?」
「そうか、ありがとう。行ってみるよ」
「おぉ!まーさん。ありがとう!」
「おっちゃん。野菜を頼むな」
「任せとけ!」
胸を叩く仕草でまーさんを見送った野菜売りのおっちゃんは、まーさんに頭を下げる。
まーさんが、金貨を3枚だした理由がわかったからだ。野菜の値段は、日本の一般的なスーパーの1/10程度だ。3万円分と考えると、膨大な量になる。
おっちゃんの奥さんが体調を崩しているのを、肉屋の大将から聞いて知っている。まーさんは、おっちゃんが店に行かないで帰ろうとしていたと感じた。そして、今日の売上に相当する野菜を購入することに決めたのだ。
野菜は、カリンと一緒にポテチを作ったり、コンソメスープを作ったり、日本で食べていた料理を再現してみようと思っている。勇者(笑)が言っている物を作り出して、ロッセル経由で教えても面白いと考えていた。勇者(笑)ではなく囲みたい貴族が高く買ってくれそうだと考えた。
(カリンと相談して、片っ端から”ラノベの定番”を作ってしまおう。辺境伯に会った時に、”特許”の話を聞かないとな)
まーさんは、歩きながら、簡単に作ることができそうな”おもちゃ”や”ゲーム”を考え始める。
肉屋の店の中によく知っている顔があったので、まーさんは声をかける。
「大将」
「お!まーさん。今日は、遅かったな?」
「大将こそ、大変だったみたいだな。おっちゃんから話を聞いたぞ」
「まったくだ。どこの我儘な貴人かしらないけど、どんな物かくらい説明しろよ」
「大将は、貴人に会ったのか?」
「いいや。対応した役人が、”知らないのはお前たちの怠惰だ”とか、”知っていて当たり前のことを知らないのか”とか言って・・・」
「ハハハ。それなら、その役人に”知っていて当然なら、貴方はご存知なのですよね。無知な私に教えて下さい”とでも言えば良かったのに・・・」
「そうか!今度は、そう言ってやるよ!それで、奴は?」
「あぁ野菜を、俺が世話になっているところに卸してから、奥さんのところに行くと思うぞ?」
「・・・。まーさん」
「なんだよ。俺は、欲しい野菜を買っただけだ」
「そうだな。それで、今日は何か買っていくのか?」
「そうだな。ワイルドコッコの手羽元と、ボア系のもも肉・・・あっ骨付きで頼む。あとは、ブル系のもも肉、こっちも骨付きで、後は、大将がお勧めする部位を適当に頼む」
「あいよ。予算は?」
「そうだな・・・」
まーさんは、金貨5枚を取り出して、大将に渡す。
「足りる?」
「十分だ。最高の部位を用意する。いつもの場所に持っていけばいいのか?」
「そうだな。頼む。あっ今日は、少しだけ加工して欲しい。ボアとブルの肉を、1対1になる量を細かく切って混ぜて欲しい。出来る?」
「細かく?どの程度?」
「そうだな。大将の腕を信じて、この位?」
「おいおい。まーさん。わかった。やってやるよ。でも、まずくても文句を言うなよ」
「どのくらいで出来る?」
「量が多くなければ、すぐにやるぞ?」
「それなら、ボアとブルで1キロになるように頼む」
「わかった。部位はどこでもいいのか?」
「脂身が少なくて、捨てるような部位でもいいぞ?」
「いいのか?」
「骨の周りに付いているような物でもいい」
「そりゃぁありがたい。初めて作るから、そうだな。1キロだと・・・。銅貨5枚でどうだ」
「わかった。さっきの中に含めてくれ」
「あいよ。5分だけ待ってくれれば仕上げるぞ?」
「それなら。それだけ持っていく」
「いつもの店か?」
「あぁこの後、人に会う予定だからな」
「そうか・・・」
「大将?」
「いや、その肉がどうなるのか知りたかったからな」
「それなら、マスターに教えておくから、後で注文すればいいよ。俺が作ったと言えばわかるだろう?」
「そうか!わかった」
大将は、店の奥で作業を始めた。
まーさんは、勇者(笑)たちが食べたいだろう物の一つを作ってみることにした。ひき肉があれば料理がいろいろと作られる。マスターのところにも野菜があるのだし、何か作られそうな物がないか考えている。
「まーさん。やってみたけど、こんなのでいいのか?」
出された物は、ひき肉には大きかったが十分に使えそうな感じになっていた。
「大将。ありがとう」
「お!よかった。これなら、クズ肉や、端肉をさばける。美味しくなるようなら、使っていいよな?」
「ん?いいよ。レシピは出せるか相談になるけど、大丈夫だと思う」
「わかった。いつもの店に行けば、それもわかるのか?」
「あぁ。多分だけど、今日で先々のことを含めてわかると思う」
まーさんは、ひき肉を受け取って、空を見上げた。
まだ夕方の時間帯ではないが、そろそろマスターの店が開くだろうと考えて、足を向けた。
欲しかった情報の一つである。勇者(笑)が思った以上に傲慢になっていることや、思った以上に知恵がなさそうだということがわかった。帰ってから、カリンに聞けばもう少しだけ事情がわかると思った。
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