勇者召喚に巻き込まれたおっさんはウォッシュの魔法(必須:ウィッシュのポーズ)しか使えません。~大川大地と女子高校生と行く気ままな放浪生活~

北きつね

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第一章 王都散策

第九話 おっさん王城を出る

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 ドアがノックされた。
 まーさんとカリンは、テーブルの上に置いていた物でロッセルとイーリスに渡す物以外を、カリンの収納に隠した。バステトの収納もあるが、コミュニケーションの問題もあるので、まずは簡単にしまえる。カリンの収納に全部を入れた。

「カリンさんは、大丈夫?」

「まーさん。私のことは、呼び捨てにしてください」

「ん?カリンと呼べばいい?カーテローゼさん」

「はい!カリンでお願いします。ネットゲームでも同じように呼ばれていました」

「わかった。パステトさんは?」

『にゃぁ!』

「呼び捨てでいいのですか?」

『にゃ!』

 言葉がわかるのか、頷いている。

「わかりました。バステトと呼びますね」

『にゃ!』

「カリンも、バステトも、ロッセルたちを入れるよ?」

「はい」『にゃ!』

 外に居る者に返事をする。扉を開けて、ロッセルとイーリスが入ってくる。続いて、三人の男性と二人の女性が入ってきた。沢山の荷物を持っている。男性三人は、まーさんとカリンが召喚された場所に居た兵士たちと同じ格好をしている。二人の女性は、一人はメイドの格好だが、もう一人は兵士の格好をしている。
 イーリスもまだメイドの格好のままだ。

「まーさん。お待たせ致しました」

「大丈夫だ。まずは、こちらから渡す物だ」

「え?」

 勇者(笑)のノートの表紙を破いた物や、地球の歴史と地図が書かれた物は全部渡した。
 電子辞書は、オーバースペックになると判断して渡さないことにした。数学や国語の教科書。カリンが日本に居た時にバイトでやっていた家庭教師の資料などは渡した。小学校の低学年に国語と算数を教えていたので、資料としては丁度良いと判断した。
 物理と勇者たちの教科書である工作関係や保険の教科書も渡さない。まーさんが見て、火薬くらいまでは作られそうだと判断したためだ。数学を渡したのは、いきなり高校のそれも進学校の教科書を見てもわからないだろうという判断だ。
 他にも、メモ用紙やカリンが持っていたルーズリーフを渡した。歴史の教科書は、解読していけば”紙の作り方”や”ビールの作り方”や”蒸留酒の作り方”が書かれている。歴史の教科書も、火薬が出てきてからは破いて渡さないようにした。

 イーリスが喜んだのは当然だ。
 まーさんは、これらの物は自分とカリンの安全を保証させるための取引材料だと伝えた。

「まーさんと、彼女の安全は、我らに出来る限りのことをします」

「わかった。頼らせてもらう。それで?豚宰相と愉快な仲間たちは?」

 新しく入ってきた兵士の一人が、まーさんの言い方を聞いて、笑いを噛み殺している。まーさんは、気にした素振りを見せないで、ロッセルを見る。カリンは、笑い声は聞こえなかったが、”ぷっ”と吹き出す音を聞いて、音を出した兵士を見てしまった。兵士も、見られたことに気がついて、ドアの近くで何も無かったかのように立っている。

「陛下は、王妃を連れて、日課にしている散歩に出かけています。ぶ・・・宰相と勇者様は、派閥の者たちから歓迎を受けています」

「そうか、養豚場とかに行くのかと思ったが、王城にはまだ居るのだな?」

「はい。間違いありません。辺境伯様が、部下を潜り込ませています」

「それなら、大丈夫だろう。俺や彼女のことは?」

「それで、宰相から命令が来てしまって・・・」

「ん?なんだ?」

「お二人のジョブを調べてこいと・・・」

「ジョブ?スキルは必要ないのか?」

「はい。勇者様たちが、お二人を鑑定した結果を・・・」

「あぁそれなら問題はないな。それなら、ジョブも解っていただろう?」

 カリンが、まーさんの服を引っ張る。

「まーさん。もしかして、彼らの中に、鑑定のレベルが高い者が居たかも?」

「ん?」

「鑑定のレベルが高いと、隠蔽は見破られちゃう可能性がある」

「へぇ・・・」

 まーさんは、ロッセルを見る。
 ロッセルが鑑定を持っていないのは、確認しているから解っている。まーさんは、頭を動かさないようにして見える範囲の人間たちの視線を追う。
 イーリスの後ろに控えていた侍女がドアの近くを見ている。

「なぁロッセル殿。俺の話は理解しているよな?俺たちに信頼して欲しければ・・・」

「・・・。はい」

「はぁ・・・。それも言ったよな?ロッセル殿は真面目すぎる。今の反応だと、俺との約束を守りたかったが、”上役から押し付けられた”と言っているようなものだぞ。そして、ドア付近に立っているのが、ロッセル殿の上司になるのか?話の筋で考えると、辺境伯か、辺境伯に近い者が自ら出向いてきたのですか?」

 ロッセル殿はかろうじて声を上げなかったが、イーリスの後ろに控えている女性は驚きの余り、手に持っていたお盆を落として、声を上げてしまった。

「いやいや。驚いた。あれだけで・・・」

 ドアの所に居た兵士が、ロッセルの横に座った。まーさんの正面の位置だ。

「異世界からの客人。失礼した」

「”まーさん”だ。俺のことは、”まーさん”と呼んでくれ、敬称も不要だ」

「わかりました。まーさん。家名は名乗れませんが、貴殿の予想した通りに、私は辺境伯に連なる者だ」

「わかりました。名前は、人を識別するために必要ですが、貴殿は一人なので間違いようがない・・・。ふむ・・・。フットワークの軽さから、次期辺境伯でしょうか?」

「・・・。肯定も否定もしないよ。そうだ!まず、貴重な資料やデータをありがとう。研究が捗るよ」

「研究ですか・・・。まぁいいです。それで、脱出はどうしますか?」

「夜の方が、いいとは思うが、王城からの脱出だと夜のほうが目立つ。明るい間に堂々と脱出しよう」

「作戦は?」

「そうだな。まーさんが考えてくれると助かるのですが?」

 辺境伯に連なる者と名乗った男性は、まーさんを挑戦的な目線を向ける。
 実際に、この男は次期辺境伯だ。王家の血筋でもある。

「・・・。兵士たちの衣装は、何か個人を特定する物が着いているのか、名前とか紋章とかがあるのか?」

 次期辺境伯ではなく、イーリスがまーさんの疑問に答えた。

「まー様。下級兵士には、紋章を付ける許可は降りません。中隊以上の士官にしか認められません」

 まーさんは、イーリスの話を受けて、次期辺境伯を見つめて話を切り出す。

「よかった。俺と彼女の二人分の衣装を用意してくれ、それと、庶民が着る服を一式用意してほしい」

「わかりました。既に用意して持ってきてある。サイズがわからなかったから、適当に持ってきた。合わせてみてくれ」

 まーさんは、辺境伯を睨んだが、にこやかに笑って流している。

 まーさんとカリンに服を渡しながら、次期辺境伯は、もう一つの話を切り出す。

「まーさん。彼女のスキルを、鑑定で見たが・・・。これを報告してよいのか?」

「問題は、無いですよ。どう見えたのかは教えて下さい」

「やはり、隠蔽だけではないな?」

「何のことでしょう?それよりも、貴殿がどういった報告をするのか知りたい」

 次期辺境伯は、まーさんの求めに従って、王家に報告する内容を語った。

 まーさんは、黙って報告すると言っている内容を聞いている。大きな問題がない内容なので、ロッセルに一つの質問をする。

「そうだ。ロッセル殿。ジョブについて教えて欲しい。ジョブは、変わる物なのか?」

 ロッセルとイーリスはお互いの顔を見る。
 次期辺境伯も渋い顔をするのだ。

「どうした?」

「まーさん。”ジョブ”の仕組みはわかっていません」

「え?そうなると、神が勝手につけているのか?」

「わかりません」

「ジョブで何かが変わったりしないのか?」

「ジョブによって得手不得手があると言われていますが、実際には何も解っていません」

「どんな種類があるのかも解っていないのか?」

「わかっていません。まーさんのジョブで表示されている”遊び人”は、私が知る限り、初めてのジョブです」

 ロッセルが断言したのを聞いて、他の人たちも肯定する。

「そういうのは珍しいのか?」

「いえ、珍しくはありません。私が知っている限りでは、1年に1-2個は新しいジョブが見つかります」

「そうか、ジョブは変わるのか?」

「変わります。娼館通いを続けた商人が、”娼館狂い”というジョブを付けられたのは、有名な話です。あと、ゴブリンだけを殺し続けた」「あぁそれはいい。わかった。王家への報告は”遊び人”で大丈夫だ。彼女の名前は見えなかったと報告してくれ、それからジョブは”巻き込まれた異世界人”とかにしてくれると助かる」

 まーさんは、ロッセルのジョブの話を食い気味にかぶせた。
 報告に、少しだけ手心を加えるように依頼する。次期辺境伯も、王家にはいい感情を持っていないために、まーさんの提案を受ける。王家に何かする気が有るのなら、手を貸すからクーデターでもなんでもしていいからと言い残してソファーから立ち上がった。

 次期辺境伯は、ドアまで移動して、顔をまーさんに向けないままに話しかける。

「これから話すのは独り言だ。。教会の連中や、豚宰相の部下たちが、前回の勇者召喚の時にも、”聖女”や”賢者”が居た。今回は、人数も少なく、こちらに居る二人が”聖女”と”賢者”ではないかと騒いでいる」

「・・・」

「私の報告で、一旦は騒ぎわ収まるかもしれないが、いつまで抑えられるかわからない。”看破”のスキルを持っていれば、”偽装”のスキルも見破れる。私が知る限り、”看破”のスキルを持っているのは、私の妻だけなので、王家には協力しないと断言できる。しかし、スキルは”いつ””だれに”芽生えるのかわからない」

「あぁこれは、俺の独り言だけど、俺の世界の読み物では、”魔法の素質があり、杖を持つ者”が聖女や賢者になる。”聖女であり賢者である”なんてのも珍しくない。あと、勇者は”剣”を持つのが勇者で、他は勇者の従者として扱われるのが一般的だ」

「貴重な話だ。研究してみたくなる」

「そうだな。ジョブが後天的に変わるのなら、勇者が聖者や賢者に鳴っても不思議ではないだろう。賢者は、”物事を理解する者”なのだ、勇者の中で一番の知恵者が賢者のジョブになったりするのではないか」

「ほぉ・・・。そうすると、勇者たちが仲間割れしたり、傲慢になったり、王家に対して要求が激しくなるのではないか?」

「勇者は傲慢になって困るのは誰でしょう?俺も彼女も困りません」

「ハハハ。確かに、怖い人だ。ありがとう。参考にするよ」

「独り言ですよ」

「そうだったな。ロッセル。イーリス姫。私は、エサ箱で餌を待つ豚に餌を投げてきます。まーさん。楽しかったですよ。また会いましょう」

「今度は、家名じゃなくて、名前を教えてくれるのだろう?」

「そうですね。名のれるようにがんばりますよ」

 次期辺境伯は、振り返らないでドアから出ていった。
 まーさんも、ドアを見ていない。正面を向いたまま話をしていたのだ。

 しばらくの沈黙の後で、ロッセルとイーリスが思い出したかのように、まーさんとカリンに持ってきた物を渡す。

 まーさんとカリンは、兵士の格好に着替えて、持てる荷物は、一緒にいたメイドが持つ。話を聞けば、イーリス付きの侍女だと説明された。残された男性の兵士二人は、”辺境伯の命令で部屋への入退室”を制限していると宣言するために残る。”入退室”というのが肝で、まーさんとカリンは”辺境伯”の許可がなければ、部屋から出られないということになったのだ。時間稼ぎにしかならないが、ロッセルの見解では、4-5日はこれで稼げると説明した。

 まーさんとカリンは、イーリスを護衛する任務を受けている兵士のフリをして、王城からの脱出に成功した。
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