7 / 101
第一章 王都散策
第五話 おっさん忠告する
しおりを挟む糸野夕花は、女子高校生らしく寝る時にスマホのアラームを設定していた。
アラームで起きた糸野夕花は、部屋の鍵を開けてリビングに戻った。
「え?まーさん。寝ていなかったのですか?」
ソファーで考え事をしていたまーさんをみて、糸野夕花は寝ていないと思ったのだが、1時間の睡眠では意味がないと考えて、状況を整理していただけだ。
「大丈夫だよ。おっさんになると睡眠が浅くて・・・ね」
「はぁ・・・」
「糸野さんはもう大丈夫?また難しい会話をするから、頭をスッキリさせておいてね」
”難しい会話”と言っているが、駆け引きが主になってくる。
話は、ロッセルや侍女から聞いても、権力側の人間の考えであって、それをそのまま信じるほど、まーさんは子供ではない。
「え?あっ大丈夫です」
ロッセルが出ていくときに、呼び出し方法をおっさんに教えていったので、実行した。
5分後に、ロッセルと先程の侍女と同じ服装をした女性が部屋に戻ってきた。
「まーさん。よろしいのですか?」
「大丈夫だ。カードは解った。実際に使ってみれば、良いだろう。それに、ギルドでも同じ物を使っているのなら、使い方は皆が知っているのだろう?」
「はい。ギルドで詳しく教えています」
「魔法やスキルを学べる場所はないのか?」
「・・・」
「ロッセル殿?」
「通常は、学園で習うのですが・・・」
貴族の子弟や、豪商の子どもたちが通う学校で、勇者も学校で魔法やスキルを学ぶことになるだろうと、付け加えた。
「そうか、学園は避けたほうがよさそうだな。基礎や発動方法がわかれば十分だ。特に、俺や彼女は”鑑定”が使えるだけだ」
「・・・。わかりました。鑑定には詠唱が必要です。詠唱は”万物を司る女神よ。吾に真実を見せよ”です」
「(微妙に嘘くさいな)わかった。やってみる?」
おっさんは、糸野夕花を見た。彼女がやりたいような雰囲気を出していたからだ。
「”万物を司る女神よ。吾に真実を見せよ”」
糸野夕花が鑑定したのは、渡される予定になっているカードだ。
結果は、ロッセルが言っている通りになっている。
糸野夕花はおっさんに問題がないと告げる。
「なぁロッセル殿。詠唱は嘘だよな?」
「え?」
驚いたのは、糸野夕花だ。ロッセルは黙ってしまった。
糸野夕花は、おっさんを見てからロッセルを見る。ロッセルも”見破られる”と思っていたので慌てている様子はない。
「なぜ?」
「ん?」
「まーさん。なぜ、嘘だと解ったのですか?」
「そうだな。ロッセル殿。貴殿は真面目すぎる。そして、後ろの彼女は素直すぎる」
種明かしをすれば簡単だ。
おっさんも糸野夕花もすでに鑑定を発動している。そして、勇者(仮)たちも鑑定を使っている。まーさんたちが”魔法を使いたい”と言っているのを利用して、スキルを探ろうとしたのだ。だから、詠唱は本当だが、”魔法の発動に、詠唱が必ず必要ではない”ことを伝えていなかったのだ。
おっさんは詠唱が嘘だとは言っていない。話の流れが嘘だと言ったのだ。
そして、糸野夕花が詠唱を唱えた時に、ロッセルはまーさんをみていた。これは真面目すぎる彼が、まーさんの動きを見ていたのだ。侍女はロッセルが”詠唱が必要”と言った時に、まーさんと糸野夕花を見ていた。そして、視線をロッセルに移動してしまった。ロッセルが伝えた言葉が嘘だと気がついて慌てたのだ。
おっさんは、これらの種明かしを伝えた。おっさんを除く3名には種明かしだったのだが、おっさんにとっては種明かしでもなんでもないので、すごく恥ずかしそうにしていた。、聞いているロッセルや侍女は衝撃を受けている。
糸野夕花も、おっさんの説明を聞いて感心している。それが余計にまーさんの羞恥心を刺激するのだ。
「それで、ロッセル殿。魔法は、イメージとかいうのが定番だけど、そう考えて良いのか?」
「一応、発動するための詠唱があります。殆どの魔法は、詠唱して発動させます」
「そうなのか?」
「はい。無詠唱では、魔法が安定しないというのが通説です」
「ふーん。ロッセル殿?もう少し視線の動かし方や情報の出し方を学んだほうがいいな。”嘘です”と物語っているぞ」
「・・・。嘘では、有りません」
「それなら、本当の話を教えろよ。どうせ、初代様とか言うのは、無詠唱でイメージだけで魔法をつかっていたのだろう?それらの魔法を、詠唱するようにして使っているのが、今の魔法なのだろう?そうだな。古代魔法は、魔法陣が必要になっているのではないか?」
「え?」「まーさん!」
侍女が大きく目を見開いて、まーさんを見る。糸野夕花も驚いて、まーさんの名前を呼んだ。
ロッセルは、気が付かれていると思っていたが、具体的に言われるとは思っていなかった。言葉が出てこないほどに驚いている。
「どうして・・・?」
ロッセルがかろうじて絞り出した言葉は、まーさんに質問する言葉だ。
まーさんは、半笑いの表情で、机の上を指で叩き始める。
「ロッセル殿。少しだけ喉が渇きませんか?」
「あっ失礼しました。何か飲み物をお持ちします」
「温かい紅茶を頼む」
まーさんは、紅茶を頼んでから、糸野夕花を見る。
「あっ私もまーさんと同じものをお願いします」
侍女が、頭を下げて別室に移動する。
紅茶を用意し始める。
「さて、ロッセル殿。考えた理由だが、簡単だよ。ロッセル殿が”殆どの魔法”という言葉を使った。それに、”通説”というのは、確証が得られていない場合に使う言葉だ。俺や彼女は、”鑑定”を無詠唱で発動できた。多分、それは”鑑定”という魔法の内容を理解していたからだろう。それから考えると、無詠唱でも魔法は使えるが、”物理現象”や”理由がわからない”と発動しないのだろう。初代様と呼ばれる人物は、どうやら俺たちと同じような人物だろう。最低限の教育は受けていたのだろう。そこから、無詠唱は”イメージ”や”理由”が必要になる。現状、物理法則が解っている人がいないので、無詠唱では魔法の威力が弱くなる。そして、俺たちを召喚した床には巨大な魔法陣が書かれていた。結界魔法も同じだ。今まで説明がなかったから、魔法陣を使った魔法は、古代魔法だと勝手に判断した」
出された紅茶を口に含む。
「どうだ?ロッセル殿?」
「”ブツリホウソク”はわかりませんが、初代様が提唱したのは、過程を考える方法です」
「そうか、なぁロッセル殿。いちいち指摘しないと、次の話に移らないのは面倒だと思わないか?俺と彼女に信頼して欲しいのなら、情報を小出しにするのは愚策だぞ。それに、侍女さん。王家に近い筋は、ロッセル殿じゃなくて貴女でしょ?ロッセル殿は、辺境伯側の人間でしょ?」
「え?なぜ?」
ロッセルも慌てるが、侍女の慌て方は尋常ではない。
「ふたりとも落ち着け。別に、最初と侍女が変わっているから気がついて当然だ。俺と彼女の人となりを見てから変わったのだろう?王家の人間でも俺と彼女は恨みを言わない。だから、大丈夫だ」
「え?」「まーさん?!」
ロッセルが、侍女を横に座らせる。
侍女が懐から、魔法陣を取り出して破ると、姿が変わる。侍女の姿から、姫様と言われても納得出来る姿になった。
侍女が背筋を伸ばして、おっさんと女子高校生を見る。
「改めまして。私は、イーリス・アルシェです。まーさんがおっしゃったとおり、王家に連なる者です」
「ふーん。庶子なのか?」
「はい。なので、”アルシェ”を名乗っていますが、末端の末端で、継承権もありません」
「それは、俺たちには関係がない。それで?」
「”それで”とは?」
「ロッセル殿の話は、間違いでは無いのだろう?俺たちが知りたいことを、イーリス殿が説明してくれるのか?」
「私が知っているのは、帝国の闇の部分です」
10
お気に入りに追加
80
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界巻き込まれ転移譚~無能の烙印押されましたが、勇者の力持ってます~
影茸
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれ異世界に転移することになった僕、羽島翔。
けれども相手の不手際で異世界に転移することになったにも関わらず、僕は巻き込まれた無能と罵られ勇者に嘲笑され、城から追い出されることになる。
けれども僕の人生は、巻き込まれたはずなのに勇者の力を使えることに気づいたその瞬間大きく変わり始める。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
悪役令嬢に転生しても、腐女子だから全然OKです!
味噌村 幸太郎
ファンタジー
キャッチコピー
「構想3年の悪役令嬢ですわ!」
アラサーで腐女子のWebデザイナー、八百井田 百合子。(やおいだ ゆりこ)
念願の大型液晶ペンタブレットを購入。
しかし、浮かれていた彼女は、床に置いていた同人誌で足を滑らせて……。
彼女を待っていたのは、夢にまで見た世界。
乙女ゲームだった!
そして、赤髪の美男子、アラン王子にこう言われるのだ。
「ユリ、お前とは婚約を破棄する!」と……。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした
コレゼン
ファンタジー
小日向 悠(コヒナタ ユウ)は、クラスメイトと一緒に異世界召喚に巻き込まれる。
クラスメイトの幾人かは勇者に剣聖、賢者に聖女というレアスキルを授かるが一方、ユウが授かったのはなんと外れスキルの無能だった。
召喚国の責任者の女性は、役立たずで戦力外のユウを奈落というダンジョンへゴミとして廃棄処分すると告げる。
理不尽に奈落へと追放したクラスメイトと召喚者たちに対して、ユウは復讐を誓う。
ユウは奈落で無能というスキルが実は『すべてを無にする』、最強のチートスキルだということを知り、奈落の規格外の魔物たちを無能によって倒し、規格外の強さを身につけていく。
これは、理不尽に追放された青年が最強のチートスキルを手に入れて、復讐を果たし、世界と己を救う物語である。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる