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第四章 スライムとギルド
第六十話 神に選ばれた民
しおりを挟む急遽、貴子嬢を除く、初期のギルドメンバーが集められました。
私は、円香さんから呼び出されました。
千明は、蒼さんに呼ばれたようです。アトスと訓練中だったようで、アトスが一緒に来ています。
「茜。何か聞いている?」
孔明さんは、昔の資料を調べるために、静岡中央図書館に行っているようです。昔の新聞や週刊誌記事を調べる様です。資料が見つかったと連絡が入っているので、印刷して持って帰ってくるようです。
「千明以上の情報を私が持っていると思う?」
「”思う”から聞いているのよ?」
「え?」
「茜。貴子や真子と一緒に居るでしょ?情報源としては、私よりも多いと思うけど?」
「そうだけど・・・。円香さん!」
「今日は、蒼から・・・。千明が見つけた情報の共有だ。本当は、貴子も呼ぼうかと思ったけど、今日は学校だろう?」
「私が?」
「そうだ。蒼!」
「え?もう?孔明がまだ戻ってきていないぞ?」
「まず状況の整理だ。千明が見つけたという情報は?」
円香さんと蒼さんが、推理した内容を教えてくれました。
貴子ちゃんが生き残った事で発生した事と、貴子ちゃんがスライムになってしまった事は、関係がない。情報が繋がらないので、関係ないと考えています。
スライムにしてくれた人物は絞り込みが出来ています。高い確率で間違いはないでしょう。現在の法律で何か違反があったか精査をしている最中です。動物愛護法での逮捕は可能でしょう。しかし、それだけで貴子ちゃんに行った行為が正当化されてしまう可能性を私たちは懸念しています。特に、憤慨しているのは真子ちゃんです。私は、貴子ちゃんが暴走してしまう可能性が1%でもあれば、貴子ちゃんに知らせるべきではないと考えています。
現状は、彼は泳がせています。
貴子ちゃんの家族が、彼を見張っています。新しい犠牲者が出そうなったら邪魔をしています。スライムの大量発生がなくなりました。その結果を踏まえて、彼が貴子ちゃんをスライムにしたと考えています。動機や当日の様子が解らないことや、貴子ちゃんが”見た”所では、彼は昆虫をスライムにはできるけど、意識が強い動物は難しいように思えるというので、”保留”になっています。
今、貴子ちゃんがスキルを剥がすスキルが創造できないかチャレンジしています。苦痛を与えながら出来るようになれば、彼に試すようです。スキルの発動条件は貴子ちゃんとマッドサイエンティストの協力で、判明しました。今は、ワイズマンを通して各国のギルドで追試をおこなっています。これが認められれば、ギルド日本支部には報奨金が入ってきます。億単位の金額です。円ではありません。ドルです。スキルの本質に迫る発見で、魔物由来の発見がノーベル賞の対象になっていれば、間違いなくエントリーされて、受賞しても不思議ではない発見です。
「千明。簡単に、茜に説明をして欲しい」
千明が簡単に、本当に簡単に説明してくれました。
貴子ちゃんは人間だった頃に、別れを経験しています。その原因を作った人たちの情報です。意外な所から繋がった情報です。考えるべき情報が増えました。
そして、円香さんの反応から、貴子ちゃんに説明を行うのは、私の役目の様です。
「茜。貴子への説明は、任せていいか?」
「はい」
想像していた事です。貴子ちゃんに説明を行うのは、私の特権です。
簡単な説明でしたが、情報が乏しい事や、状況証拠にもなっていないことの積み重ねです。
孔明さんが、補足できる情報を持ってくれるはずです。
過去の話では、貴子ちゃんの家族が調べるのは難しいです。過去の資料を漁るような行為ができるとは思えません。できるとしても、ライだけでしょう。それに、紙なので、情報が残っているとも思えません。
「待たせた」
孔明さんが、紙の束を抱えて戻ってきました。
かなりの枚数です。
持ち出し禁止に指定されている書籍も有ったようです。ギルドの特権を翳してもよかったと笑っていますが、持ち出し履歴が残るのは面倒なので、必要な部分だけコピーを作成してきたようです。
日本ギルドが潰れて、ギルド日本支部のメンバーが調べていると解れば、抑止効果があるかと思いましたが、蒼さんが言うには、それで引くような奴らなら、”あんな”ことをしないと言っています。
蒼さんの言葉を聞いて、納得してしまいました。
孔明さんが持って来た資料は、とある宗教法人の情報です。
山梨に総本山を置いている新興宗教です。発生の時期は不明ですが、戦争末期に農家を取り込み大きくなった宗教だと説明が書かれています。
そして、問題になりそうな事柄を、孔明さんが見つけてきてくれました。
昭和40年の新聞です。
かなり前の出来事ですが、当時は大きく報道されたようです。
「孔明さん。この新選会が、関わっているのですか?」
「わからない。しかし、ライの素性と考えられないか?」
孔明さんが示した記事は、新選会の巫女が弟と一緒に行方不明になったという記事のようです。
そして、巫女と呼ばれている少女は、貴子ちゃんに雰囲気が似ています。そっくりという感じではなくて、どことなく似ているという感じです。古い新聞に載っている写真なので、雰囲気しかわかりません。しかし、弟という少年は、ライにそっくりです。
新聞だけではなく、当時の週刊誌も新選会を取り上げています。当時は、政治と金の問題が連日のように報道されていたようです。しかし、新選会の報道が始まると、週刊誌だけではなく、新聞やテレビは新選会一色になってしまったようです。
週刊誌のコピーを読みました。古い週刊誌なので、写真が鮮明ではないのですが、なんとなくニュアンスは伝わってきます。
新選会の異常性がいろいろ書かれ始めています。新選会の関係者が否定をしては居ますが、虐待や近親婚の強制。教祖や側近達による男女関係なく強姦している状況などが書かれています。
ライは、記憶は無いと言っていましたが、記憶がない方が幸せだったのでしょう。
「孔明さん。この宗教法人は潰れたのですよね?」
「名前を変えて継続している」
「え?」
「簡単に言えば、宗教法人と・・・。いやなんでもない。宗教法人は、売買できる。隠れ蓑にしやすい」
「そうなのですか?」
「あぁ。新選会は、名前を変えた。”真選神民”という名前で活動は継続している。当時の首脳陣は既に存在しない。しかし・・・」
孔明さんは言い難そうにしています。隠しているのではなく、説明が難しいのでしょう。
本当に・・・。何かを見つけたのでしょう。
「なんだ?孔明?」
現在の情報だけでも、お腹いっぱいです。おかわりは必要ありません。千明は、現実逃避に走っています。丁度、糸を出す練習をしていたアトスを呼んでいます。ズルいです。クロトとラキシは、家で待機中です。正確には、裏山に遠征しています。あの裏山には、魔物の巣が存在していました。今まで見つからなかったのが不思議なのですが、戦時中に作られて、廃棄された防空壕の中が魔物の巣になっていたようです。
この話は、千明が見つけた話から始まる報告が終わってから行います。
「円香。大規模災害があると、流言だけではなく、ボランティアと称して、人の心に入り込む奴らが居るだろう?」
千明が見つけた情報と合わせると、”何もない”と言えるほど、楽天的ではありません。
円香さんは何か解ったようです。
孔明さんが、新しい資料として、タブレットに情報を表示します。
知っている名前があります。しかし、彼は死んだのでは?
他の人物は知らないのですが、多分、知っていても不思議ではない人たちなのでしょう。
「そうか・・・。奴らなのか?」
「そうだ。実質的に、”真選神民”を動かしているのは、日本ギルドの理事に名前を連ねていた奴らだ」
そこに繋がるのか・・・。
ん?結局、日本ギルドは解体したけど、蜥蜴の尻尾が切られただけ?
本体は残っている?
何も変わっていないし、終わっていない?
貴子ちゃんの家が狙われた理由は?
結局は、何も解っていない?
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