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第四章 スライムとギルド
第五十三話 今後の話(5)
しおりを挟む「家の場所が決まったみたいです」
貴子嬢が、茜嬢と真子とライ殿が話している内容を教えてくれた。
「貴子。奥に敷地が増やせるようなら、増やして病院兼研究所を作ろう」
貴子嬢の説明では、通りには間口が狭い通路を作って、通路の両脇には”草木”を植える。
通りに繋がる場所には、門を設置する。
門から、奥の家に繋がる通路は約20メートル。
その先に、離れを作る。離れは、真子と茜嬢が生活をする場所になると言っているが、この場所がギルドの支部になるのだろう。
その先に今のところは3つの空き家があり、それらの敷地を買い取って、一つにする。
そこに、貴子嬢の別邸を建てる計画だ。貴子嬢の希望で、地下室も作るようだ。理由は、聞かなかったが、地下室があると嬉しいようだ。
敷地内に池を作る。他にも、草木を植える計画があるようだ。
横道に繋がる場所には、高めの塀を設置する考えのようだ。
「そうですね。同じ敷地内に在ったほうが楽ですよね」
円香の考えでは、通りとは別に側道があり、側道に繋がる場所に、病院を建築して、後ろに研究所を設置すれば、貴子嬢の別邸が隠せるうえに、近くに住んでいる人には、病院の先生が住んでいる家だと誤認識させることができる。通りに繋がる道も、私道で病院の関係者が使う道だと思わせることができる。
貴子嬢の家が狭くなってしまう分は、奥の家を買い取ることで増やす考えだ。
奥の家は、売りには出ていないが、空き家なのは、すぐに茜嬢が確認している。持ち主が不明になっている物件なので、市が管理している可能性があるのが面倒だが、ギルドの施設を作ると言えば、売買は可能だろう。
「貴子の家族は、誰が来る?」
「まだ決めていませんが、ライは確定として、私の分体が常駐するつもりです。あとは、街中に居ても不思議ではない者たちを交代で連れてきます」
「わかった。野鳥は出来れば、裏山をベースに考えて欲しい」
「え?」
「野鳥に餌付けすると、条例違反になる可能性が高い。奴らが付け入る所は、そういうつまらないことを突いてくる」
「そうなのですね。わかりました。カーディナル・・・。猛禽類は大丈夫なのですか?」
「猛禽類は、役所に届ける必要がある。孔明!」
「貴子嬢。他に、どんな種族が居ますか?海洋生物とか、河川に居る生物は、役所に届ける必要がある場合が少ないので、今は猛禽類や動物ですね。あっカミツキガメとかワニとかは届け出が必要です。解らなければ、種族を教えてください」
「えぇーと・・・」
貴子嬢の家族の話を聞いて絶句した。
種が多い。それだけの動物が居たのかと思ったが、どうやら、いろいろな場所から集まって来たらしい。それでも、外来種と言われるような者たちまで居るとは思わなかった。
外来種を捨てるような奴が居たのだろう。
タヌキは、昔から居た可能性はあるが、アライグマやハクビシンや台湾リスやヌートリアやキョンは外来種だ。外来生物が繁殖しているのは以前から問題になっていたのだが・・・。
もしかしたら、貴子嬢に頼めば外来生物を魔物にしてしまえば、繁殖を抑止できるのでは?でも、ギルドが考える事ではない。
「円香?」
「ダメだな」
俺も同じ考えだ。
貴子嬢の家族を、登録したら・・・。
「え?何がダメなの?」
貴子嬢が絶望した表情をする。
円香の言い方が悪い。
「あぁ貴子嬢がダメと言っているわけではない。これだけの外来種や動物を登録すると、目立ってしまう」
「あっ」
そうだ。
これだけの動物が登録される。
それも、一人の未成年の女性だ。問題にはならないが、マスコミの格好の的だ。スライムだと知られる心配はないと思うが、どこから情報が流れるか解らない。それに、戸籍が残っている限り、どうやって大金を稼いだのか?憶測で書かれたゴシップ記事が出てしまう可能性もある。そのうえで、ギルド職員だと知られたら、日本ギルドの奴らが動き出すのは間違いない。
「それに、これだけの動物を登録すると、マスコミが寄ってくるかもしれない。対応が面倒になる」
「そうですね。無登録だと何か問題が・・・。あるのですね」
無登録でも大丈夫だとは思うが、日本ギルドのことを考えれば、登録はしたい。
数よりも種類が問題になりそうだ。貴子嬢も、俺と円香の表情から、問題はないが、問題になると判断したのだろう。
「あっ!孔明。教授に、動物の登録を行わせて、施設で飼育してもらうことは出来ないか?保護していると言えば問題はあるが、問題にはならない。そのうえで、ギルドで保護していることにすれば、マスコミが寄ってきても、ギルドの権限でシャットアウトできる」
円香の出した妥協点が、唯一の逃げ道の様に思える。
「円香・・・」
「どうした?」
「病院や研究所を作るのはいいが、貴子嬢の予算内でやるのはダメだぞ?」
「あっ」
円香は、すっかり予算のことが抜けていた。
病院を居抜きで揃えるのなら低予算で収まる可能性もあるが、新規で作るとなると、億単位の金が必要になる。教授の実家から体裁を揃えるだけの機材は持ってくるとしても、まとまった金が必要になる。
確かに、貴子嬢には10億単位で金が入ってくるが、ギルドの施設を作るのに、貴子嬢の金をあてにするのは間違っている。
「私は、別に・・・。あっ!そうだ。ギルドで、オークションを行う利益で、賄えませんか?将来のことは別にして、ギルドで雇ってもらえて、給与が出るのなら、私はそれで十分です。あっ給料はあるのですよね?」
「ははは。もちろんだ。ギルド職員の給与体型は、ギルドの売り上げに依存するが、基本給は決められている。役職なしの場合は、支給額で25だ。賞与は、ギルドの売り上げに依存だ」
「へぇ」
一応、税金の話もしておいた方がいいだろう。
今の日本は税金が高すぎる。
「貴子嬢。25だと、半分くらいは国に持っていかれる」
「そうなのですね。それでも、12-3万くらいは貰えるのですね。十分です」
やはり、税のことはあまり考えていなかったようだ。半分は、大げさだけど、似たような感じだ。
十分と来たか・・・。
持ち家があって、貯金があれば十分だと言えるのだろう。
「ははは。ボーナスは期待していい」
「はい!あっ。その前に、血液やら、いろいろ考えないとダメですね」
「まぁダメだったら、抜け道を考える」
「いいのですか?」
「いいも何も、イレギュラーな状況だからな。一つのイレギュラーに、二つ目が加わるだけだ。対して変わらない」
「そうなのですね」
「ギルドは、歴史が浅い組織だから、イレギュラーが発生した時の対応が柔軟な所が、素晴らしいからな」
「そうなのですね。よかったです」
「おっ」
「孔明?」「孔明さん?」
「あぁ蒼からだ。魔石の生成が出来たそうだ。追試もOKだ。申請書類にまとめると言ってきた」
「公開は、待つように伝えてくれ」
「大丈夫だ。蒼も、いつでも申請ができる様にしておくと言っていた。あとシャレで特許の申請を行う書類も作るようだ」
「特許?実用新案ではないのか?」
「あぁ一応、特許で試してみるのだろう。個人の技能に寄らない作成だから、特許でよいとは思うが、特殊技能だからな。判断が分かれるだろう」
特許とは、蒼も面白い事を考えたな。
確かに、特許の申請が通る可能性は低いだろう。しかし、実際に魔石が出来てしまう方法だからな。審査は、ギルドに連絡が来るだろうが、そのギルドが提出した特許だ。そうなると、もう一つの組織に追試や正当性が流れる可能性がある。
面白い事になりそうだ。
ギルド内部の情報公開では、奴らの所に届くまでや、マスコミに届くまでにタイムラグが発生する。
しかし、特許なら奴らにも届くだろう。そして、奴らなら、マスコミに簡単にリークしてしまうだろう。特許庁の口の軽い奴らが、情報を流す可能性もある。
流れの確認をしてから、役割分担を考えなければ、それにしても人が少ない。
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