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第四章 スライムとギルド
第四十六話 そのころ(4)
しおりを挟むおかしい。僕は天才なのに、なぜ新しいスキルが芽生えないのか。最初に得たスキルは天才の僕に相応しいとは思えない。
スキルを得てから、いろいろ研究をした。僕の天才的な頭脳にかかれば、スキルの解析くらいは余裕だ。スキルの検証も進んだ。
僕のスキルは、攻撃に分類される。どんな動物でもスライムにしてしまう。スライムは、核を壊せば簡単に倒すことができる。僕の明晰な解析の結果、容易に魔物を倒すことができるスキルだと判明した。
スライムを何万匹倒しても意味がない。煩いママをスライムに変えて、殺しても何も変わらなかった。
帰ってきて、スキルも持っていないのに偉そうにしていたアニキをスライムにした。その時にも、天才の僕は気が付いた。このスキルには欠陥がある。天才の僕だから使える状況だ。
パパは殺していない。ママが居なくなったと連絡をしても、帰って来なかった。生活費は振り込まれるので、別に帰って来なくても問題にはならない。”アニキと連絡が出来なくなった”と連絡があったが、”知らない”と言えばそれで終わりだ。僕だけではなく、家族に関心がないのだろう。新しいスキルが芽生えたら、実験台が必要になる。それまでは、僕の生活にはパパが必要だ。
ママが居なくなってから、警察が家を訪ねてきた。パパが捜索願を出したためだ。余計なことをしてくれた。
警察は、数回に渡って僕の所にきたが、証拠が見つかるわけがない。ママは、スライムにして殺した。血のひとかけらも出てこない。天才の僕は、ママが居なくて困っていると警察に訴える。警察も、僕の天才的な演技を受けて、全力で探してくれると言ってくれた。それから、何度か警察が来たが、なんの問題はなかった。僕が演技で怒った時には、警察は滑稽にも慌てていた。
天才の僕は、警察が僕を尾行していると考えて、外には出ていない。
尾行がついているのが解っていて、証拠になるような行動は起こさない。
偉そうに、僕に説教をしてきたアニキをスライムにするときに気が付いた。アニキのように体力がある奴では、スキルが効かないことがあるようだ。アイツらに試す前に、欠陥が解ってよかった。
対処方法もすぐに判明した。対象を弱らせればいい。弱らせることが難しければ、寝ている時にスキルを使えば、抵抗は強いがスライムにすることが出来た。ママをスライムにした時には、殴っておとなしくなってからスライムにしたから気が付かなかった。天才の僕でも落ち度はある。でも、一度の間違いですぐに間違いを正せるのは、僕が天才だからだ。他の奴なら、こんなにすぐに気が付かない。対処法も解らないだろう。僕が選ばれた存在だということが証明された。
愚かで傲慢なアニキは、スライムになったことも気が付かずに寝ていた。
軽く叩けば、痛みで目が覚めるだろう。
慌てるアニキを見ているのは楽しい。
スライムなので、言葉が解らないのが残念だけど、簡単には殺さない。今までの理不尽な叱責は覚えている。復讐をしなければならない。
あいつらに復讐する前に、アニキでいろいろと試そう。芽生えたスキルだ。復讐に使おう。別のスキルが芽生えるまでは、今あるスキルで復讐を行う。
スライムから人間に戻ることも考えられる。
まずは、スライムを檻に入れる。逃げ出さないように、しっかりと隙間を埋める。これで、檻の中で人に戻っても大丈夫だ。アニキがペットを飼いたいと我儘を言った時に飼った檻だ。僕は、動物が嫌いだ。アニキが可愛がっていた犬が僕の足を噛んだ。痛くは無かったが許せなかった。もちろん、報復は行った。アニキが居ない時に、犬が食べてはダメな物を食べさせた。僕の足を噛んだ事を後悔しながら死んでいった。アニキの顔が滑稽で笑いそうになってしまった。今、スライムになったアニキは、自分が可愛がっていた犬の為に飼った檻の中に入っている。本望に違いない。
一日目は、暴れていたアニキも二日目になるとおとなしくなった。
つまらない。僕に理不尽な説教を加えてきた癖に・・・。
核を壊せばスライムは死ぬ。
僕は、一つの遊びを思いついた。流石は、僕だ。天才的なひらめきだ。
アニキが大事にしているダーツの矢で、アニキを殺そう。
上からダーツの矢を落とす。刺さらなければ、叩きつけるようにすれば、刺さるだろう。
刺さらなくても、別に困らない。アニキも、死ぬのが先延ばしになるのだ、文句はないだろう。
途中で、アニキも反応がなくなってしまった。
残念だ。殺してしまおう。
殺すのも、アニキに相応しい殺し方を考えている。
自慢していたナイフで核を壊す。ナイフは、今後、僕が使うことにした。ナイフも、愚かで傲慢なアニキが使うよりは、天才の僕に使われるほうが嬉しいだろう。
低脳たちを殺す方法を考えなければ、スキルが芽生えたが、すぐに復讐ができるようなスキルではない。
天才の僕には、わかっている。弱めるか、眠っている時に使う必要がある。
そして、僕が持つスキルの重大な欠点は、人の様に質量のある物をスライムにするときに、力を大量に消費してしまうことだ。
連続して、スライムにすることが出来ないことだ。だから、天才の僕は、違うスキルを得るために、スライムを作ってスキルを得ようとしていた。中型の犬では、2-3匹が限界のようだ。4匹を連続で行った時には、気を失ってしまった。最初にスキルを使った時以来の気絶だった。
そういえばあの時の女は、夏休みが終わってからも学校には来ていなかった。どうやら学校を退学したようだ。僕が悪いわけではないのだが、気になって調べてしまった。顔は知っていた。名前は知らなかった。なぜ、あの女があの場所に来たのか解らないが、僕が呼び出したのではないのは解っている。天才の僕が間違えるわけがない。
あの女もスライムになったのだろう。
スライムなので、どこかで殺されてしまっているのだろう。自然の摂理だからしょうがない。僕の様に、優秀な人間は生き残る価値があるが、あの同級生にはそれが無かったのだろう。
選ばれた天才だ。
僕は、選ばれた天才だ。
僕は、僕は、僕は・・・。
---
ギルドからの問い合わせが最寄り警察署に届いた。確かに警察が扱うようなレベルなのだが、受け取った者たちは判断に苦慮していた。
「どうしますか?」
「ギルドからの問い合わせか?」
スライムの異常発生が人為的に引き起こされている可能性が示唆されている。
ギルドでも詳細は掴んでいないために、”街中でスライムが大量に発生したら、ギルドに連絡を入れて欲しい”という要請だ。
「はい」
「上に持っていくしかないだろう?」
自分たちで判断ができる物ではない。
情報のやり取りが組織内なら自分たちで判断ができるが、外部組織に情報を流すのを極端に嫌う傾向がある。
しかし、魔物に関する情報はギルドと共有するのがギルド日本支部と警察と自衛隊と消防で決められている。”知らない”で済ますにはリスクが高い。
そして、ギルドが情報提供を呼びかけ静岡県警の管轄内で、実際にスライムが大量に発生する事案があった。警察は、ギルドに通達をしないで、スキルを持っていない者を現場に派遣して、スライムの駆除を行った。
「そうですが・・・」
「交通課にも回す必要があるな」
「そうですね」
「あぁこれだ、これに該当する事象を確認している。何か、知っているかもしれない」
交通課がスライムの大量発生事案を報告してきた履歴を指さしている。
「わかりました。でも、奴らが教えますかね?」
「さぁな。それは、俺たちが考える事ではない」
「そうですね。それよりも、彼の話はするのですか?」
「彼?」
「ほら、母親と兄が行方不明になった彼です」
「必要ないだろう?」
「そうですか?」
「何か、あるのか?」
「彼、二度ほど、スライムが大量発生した現場の近くで、職質を受けています」
「え?」
「それだけではなくて、彼の家の近くにいた飼い犬が行方不明になっています」
「ほぉ・・・。判断は、上に任せよう。彼の情報もまとめておいてくれ」
「どちらに?」
「交通課に行ってくる。ギルドからの要請を伝えておく」
ギルドからの要請が書かれた書類を持って、立ち上がって、手をヒラヒラと振りながら交通課がある方向に歩き始めた。
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