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第四章 スライムとギルド
第四十三話 治療の裏で(3)
しおりを挟む発見した盗聴器を、口喧嘩を終えた二人に見せます。
「茜。これは?」
円香さんなら見ればわかるでしょう。
あえて聞いてきたのだとしても、答えは決まっています。
「孔明さんの家に仕掛けられていた盗聴器です」
「それは、見れば解る。なぜ、茜はこれらが仕掛けられているのがわかった?」
質問の意図はわかっていました。
答えられる物ではないので、解っていることを答えます。
「え?そういえば・・・。スキルの恩恵?」
「ようは、解らないのだな?」
解らないことが解ってもらえました。
「はい」
円香さんの視線が怖いです。
スキルの恩恵だとは思うのですが、説明が難しいです。盗聴器は、電波式ではなく、録音式なので、部屋に入ることができる人が”犯人”です。
孔明さんでないのは解っています。真子さんが仕掛ける意味はありません。
「孔明!」
孔明さんは、真子さんの介助をしている会社に連絡を入れます。
担当している人の情報を送ってもらうようです。他に、怪しい人は居ません。妥当な判断です。
契約終了を告げます。引っ越しを行うことを即座に伝えます。相手は、”月の途中なので、途中解約になって、違約金が発生する”と言っているようですが、孔明さんの報酬を考えれば大きな問題は無いのでしょう。金額を聞いて、即座に解約を決断しました。
「茜嬢。ギルドの近くにある部屋で、即日に引っ越しが可能な物件の紹介を頼む」
「わかりました。そうだ。孔明さん。部屋のWIFIを使っていいですか?」
「大丈夫だ?」
孔明さんから、口頭で情報を貰います。
「ありがとうございます」
WIFIに接続して、契約しているVPNに接続してから、ギルドに接続します。面倒ですが、必要な事です。
「孔明さん。物件は、3件です」
「どこでもいいぞ」
「え?」
「あぁ真子に決めさせるか?」
「え?」
孔明さんが偽物になった疑惑が出てきました。
こんな、簡単に物事を決められるわけがありません。
殴れば、本性を現すでしょうか?
「茜嬢。真子がスキルを得るのは既定だ」
「そうですね」
「どんなスキルかわからないが、自分自身を守れる状況になるだろう」
「芽生えたスキル次第では、貴子ちゃんが新しいスキルを追加する可能性があります」
「そうだな。未知のスキルは辞めて欲しいのだが・・・」
「無理だと思います」
ばっさりと希望を打ち砕きます。無用な希望は捨てるべきです。
”聖”とか信じられないようなスキル名を口にしていました。”魔物同調”は未知です。調べなくても大丈夫です。スキルの内容は、貴子ちゃんが教えてくれます。教えてくれますよね?
「そうだ!円香さん!」
「なんだ?」
「ギルドのパソコンですが、変えませんか?」
「ん?」
「パソコンに何が組み込まれているのか解らないので、オークションの売り上げを期待して、高機能なパソコンを希望します。専門家をギルドのメンバーに入れましょう」
「心当たりがあるのか?」
「変わり者ですが・・・。セキュリティの専門会社に居たのですが、別の会社に誘われて・・・」
「転職したのか?それなら、ギルドに誘うのは難しそうだな。セキュリティの策定だけでも頼むのか?」
「いえ、転職先が今の会社に打診してしまって、両方の会社から詰められて、面倒になって会社を辞めて、静岡に戻ってきています」
「は?孔明?」
「茜嬢。解っている情報を頂けますか?」
「わかりました」
彼の情報は、既にまとめてあります。今は、実家に身を寄せているはずです。それらの情報も合わせて、USBに入れて孔明さんに渡します。
これで、彼がギルドに来てくれたら、安全性があがります。
「茜。その人物は、スキルを持っているのか?」
「わかりません。ただ、今回と同じ方法で、スキルを得る事ができると思います」
「ん?今回と同じ?ペットがいるのか?」
「います。簡単に言えば、猫狂いです。あと、鰐とか爬虫類も飼っています」
「・・・。そうか解った。水見式の確認ができるな」
円香さんは、何かを諦めたような表情をします。
確かに、このままでは、ギルドが魔物になってしまった動物で埋め尽くされます。動物園とまでは行かないとは思いますが、動物の方が多い不思議な空間になるのは確定です。そうだ。モモンガの寿命を調べて、越えたら、確実にスキルの影響です。ギルドに方向ができる案件です。
彼も、この話を聞けば全部を魔物にすると言い出します。
私が知っているだけで、猫は5匹。鰐が2匹。蛇が2匹。あと、蜥蜴を飼っていたはずです。
『茜さん。少し、いいですか?』
貴子ちゃんです。
何か・・・。
問題があったら、ライか貴子ちゃんが来るでしょう。
『なに?』
『部屋の前まで来てもらえませんか?タオルの追加を持ってきて欲しいのです』
『うん。わかった。タオル?洗う?』
『お願いします』
『部屋の前で連絡するね』
『はい!』
うん。
やっぱり、可愛い。声?が可愛い。
孔明さんに、タオルの場所を聞いてから、部屋を出ます。
円香さんは解っているのでしょうが、孔明さんに、ギルドの話を始めます。
孔明さんには、洗濯機を使う許可を貰います。乾燥機が別になっている物の様で、両方とも使っていいと言われました。
洗濯機の近くには、洗濯物が置かれています。最初に見た時に違和感がありました。着替えも置いてあるのですが、足りない物があります。孔明さんは、ここには殆ど居ないと言っていました。孔明さんの私物は、学生の時に使っていた物だけで、何もないと言ってもいいようです。洗面台にも歯ブラシもありません。
真子さんの着替え用の服はおいてあります。ブラも、少しですが置いてあります。しかし、それだけです。
少しだけ、本当に少しだけ、怒りの気持ちが芽生えます。多分ですが、介助する人が勝手にやったことでしょう。そうでなければ、この場所におむつが有ってもいいのですが、スペースはあるのに、何も置かれていません。
気持ちを落ち着かせて、あるだけのタオルを持って、部屋の前に移動します。
貴子ちゃんに話かけたら、すぐに出てきてくれました。
「茜さん。ありがとうございます」
貴子ちゃんに、持ってきたタオルを渡します。
「あれ?貴子ちゃん。使ったタオルは?洗うよ?」
「あっ!そうでした。これを!袋は茜さんが持っていてください。もしかしたら、またタオルをお願いするかもしれないので、その時に使ってください」
「え?あっ。うん」
「袋は、手を入れたらわかると思うので、お願いします」
貴子ちゃんから、1.5リットルのペットボトルが2本入るくらいの袋を渡されました。
嫌な予感がします。
袋を広げて、中を見ます。確定です。
アイテム袋です。
タオルを一枚取り出します。
凄くいい匂いがします。真子さんの汗でしょうか?
洗濯機に放り込みます。
汗と排泄の匂いでしょうか?可愛い女の子の匂いは正義です。タオルから垂れるほどの汗?を・・・。
部屋には、遮音の結界が施されているのでしょう。
何をしているのか見てみたい気持ちはありますが、ダメです。見たら、抑えられる自信がありません。
真子さんが治ったら、ギルドに入ってもらいましょう。
仲良くなったら、教えてくれるかもしれないです。是非、教えて欲しい。
タオルを洗濯機に入れてから、リビングに戻ります。
円香さんと孔明さんは、ギルドのセキュリティについて話し合っています。
オークションの準備もしなければならないので、やることが目白押しです。
円香さんの考えでは、ギルドのメンバーを増やすつもりは無いようです。人を増やすメリットが無くなってしまったのが大きな理由です。登録者の処理は行いますが、東京方面は”ギルドもどき”が出来ているようです。ギルド本部からも苦情が来ていますが、円香さんは向こうの組織を潰すつもりのようです。”ギルドもどき”の運営母体は判明しています。証拠というべき物もあります。登記を行っています。”ギルドもどき”は、官僚の天下りが上位を占めています。資金は、経団連と医師会が出しています。その原資は、国の助成金です。そんな組織です。設立理念は立派なのですが、内実は酷い物です。権力争いと利益誘導で成り立っています。そんな組織ですが、登録数が伸びているのが不思議です。スキルを持っていない者や、スキルが欲しい人の登録も受け付けているので・・・。貴子ちゃんが現れるまでは不可能だと思っていました。スキルを得るだけなら、難しくないと思えてきます。
円香さんも孔明さんも、凄く前向きな喧嘩をしています。凄く嬉しいです。やることは増えていますが、できる事も増えていきます。
まずは、私は貴子ちゃんと真子さんの勧誘です。
そのあとは、新たに目覚めたスキルの検証をしましょう。
そのあとで、貴子ちゃんと真子さんともっともっと仲良くなりましょう。温泉とか行けたら嬉しい。
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