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第四章 スライムとギルド

第二十八話 治療(2)

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 お金の話が出来て良かったです。
 主殿に、価値を知ってもらえれば、自重を覚えてくれるでしょう。

 そういえば、果物も”魔石”が使われた土から作っているので、ポーションの材料になるようです。どの果実で作るのが、効果が高いか解らないようです。

「うーん。うーん」

 主殿がうなっています。
 何か、問題が発生したのでしょうか?

「どうしたの?」

「1億も持ったことがないから・・・。パソコンは、パパの使っていた物があるし、知識もないから新しい物にしても設定ができるか解らないし、スマホも困っていないし・・・。食べ物も、果物が美味しいし・・・。あんまり食べなくても大丈夫になっちゃったから・・・。遊びに行くにしても、皆が居るから、移動も困らないから・・・」

 なんか、贅沢な悩みだけど、食べる必要が無くなってしまったのは、スライムになったからだよね。

「ねぇ貴子ちゃん。パロットやラスカルやギブソンのお嫁さん?パートナーを探すのは?」

「え?」

「パロットがパートナーを欲しがるとは思えないけど、家族を増やすのは?その為に、お金を使ってみるのは?保護猫とか話題になっているよね?」

「あっ!それもいいかも!犬も飼ってみたかったから、丁度いいかも・・・。あと、茜さん。牛や山羊や羊とか、鶏とか買えますか?」

「買えると思うよ。そういうのは、今日、貴子ちゃんにお願いする人が詳しいから聞いてみて!」

「はい!ありがとう」

 主殿が少しだけ砕けてくれました。牛や山羊や羊は、ペットショップでは売っていません。家畜なので、買い付けて来る必要があるのですが、何とかしましょう。孔明さんが動いてくれるでしょう。

 牛や山羊や羊ですが・・・。自給自足が出来てしまいそうですね。家族を食べる様子は考えられないので、肉や魚は・・・。

「貴子ちゃん。魔物は、食べられるの?」

「え?あぁ・・・。オークは、豚肉ですよ。ミノタウロス?は、牛肉です。動物から魔物になってしまった子たちは、食べられないですね。美味しくないと言うのもあるのですが、肉をドロップしませんよ?」

 そんな、”知っていますよね”みたいな言い方をされても、オークが肉を落とすのも、一部では知られている情報です。そもそも、ミノタウロスって何?牛の魔物?

「あ!そうだ!茜さん。あれから、調べたのですが・・・」

 驚愕の事実です。
 海で釣りをしていた人が、釣った魚が消える事象があるようです。
 魔物になってしまった魚を釣りあげると、死んだときに消えてしまう。理屈が解っていれば、”当然”だと言えるのですが、急に消えたらびっくりするでしょう。生きている魚を捌こうと包丁を入れたら、消えてしまった事例もあるようです。
 元が動物な魔物は、倒してもスキルは得られないようです。

「ありがとう。担当に連絡をしておくね」

「はい!それで・・・」

「お姉ちゃん!」

 チャイムが鳴ったようだ。
 この部屋は、防音で外の音が聞こえない。円香さんと孔明さんが来たようだ。

 主殿が来る前に、二人に連絡を入れておいた。

「丁度、来たみたい。部屋に連れてきていい?」

「はい。お願いします」

 緊張している主殿が可愛い。
 力関係で言えば、主殿の方が上です。

 でも、女子高校生が社会人に会うと考えれば、緊張しないほうがおかしいですね。

「ユグド。円香さんと孔明さんを連れてきて」

「うん!」

 二人が部屋に入ってきた。
 珍しく、孔明さんが凄く緊張しているのが解る。円香さんも見たことがないくらいの表情をしている。もしかしたら、緊張しているのかな?

「主殿。挨拶は、初めてですね。私は、ギルドに務めている。桐元きりもと孔明よしあきです。皆は、私の事を、孔明こうめいと呼びますが、孔明よしあきです」

「始めまして・・・」

 主殿が私を見ます。

「孔明さん。主殿です。元々は、女子高校生でしたが、スライムにされてしまった被害者です」

 何か、孔明さんが言いそうになったので、先に円香さんの紹介をしてしまいます。

「円香さん。主殿です。円香さんは、ギルド日本支部のギルドマスターです」

 主殿が、会釈します。
 可愛いです。こんな、妹が欲しかったです。妹になってくれないでしょうか?

 円香さんも毒気を抜かれたような顔をして、ユグドが用意した椅子に座ります。

「茜さん。早速・・・」

 そうか、もしかしたら、主殿は人見知りなのでしょうか?
 私に近づいてきます。可愛いです。ライは、主殿の後ろに居るのですが、人見知りという感じはしません。よくわからないので、考えないことにします。

「孔明さん。真子さんは?」

「ん?あぁ真子は、家に居る。その前に、手順を聞きたい。主殿。教えていただけるか?」

「貴子です」

「わかった。貴子嬢。すまない」

「いえ、大丈夫です。手順ですが、ご存じだと思うのですが、私が作っているポーションだと、古い傷は治せるのですが、古い欠損は難しいです。ごめんなさい」

「いやいや。古い傷が治るだけでも・・・」

「そこで、ライ。あの結晶を出して」

「うん!」

 ライが、三つの魔石を置きます。主殿は、”結晶”という言葉を使っていますが、魔石のように見えます。

「貴子ちゃん。魔石と結晶は違うの?」

「え?あっうん。私たちの呼び方だけど、魔物を倒した時に、ドロップするのが魔石ですよね?」

「うん。そうだね」

「その魔石から、不純物・・・。あぁ魔力を抜いた?魔石を磨いたものを、結晶って呼んでいるのです。私たちが作る魔石とも少しだけ違っています」

「え?魔力を抜いた?」

「うん。魔物が使う力が不純物として魔石に含まれているから、そのまま使うと、不純物が混じってスキルが乗らなかったり、力が反発したり、面倒だから、不純物を除いた状態の魔石を作っているのです。ユグドちゃんと一緒に渡したのは、結晶ですよ?」

「え?そうなの?」

「はい。お渡しした物は、魔石の状態です。結晶の方がよかったですか?」

 ニコニコしていますが、円香さんも孔明さんも唖然としています。
 私の気持ちが少しだけ解ってもらえたようで嬉しいです。

「貴子ちゃん。魔石と結晶では、使い方が違うの?」

 前に教えてもらった”磨く”ことで、結晶になるのかな?

「はい。魔石は、動物がそのまま飲み込むと拒否反応が出ることも有りますが、結晶ならまず大丈夫です。カラントやキャロルが試した所、結晶なら失敗はありません。魔石だと70%くらいの成功率だと思います。あっ魔石でも後遺症とかは残らないですよ」

 ふふふ。

「あっごめんね。それで、手順は?」

「はい。結晶には、”再生”というスキルと、”治癒”というスキルと、”鑑定”というスキルが付与されています。真子さんは、ペットを飼っていると聞いたので・・・」

「真子は、モモンガを自分が動けない代わりに・・・」

「そうですか、モモンガは初めてですが、ラスカルが大丈夫だったので、大丈夫だと思います。魔物になってしまいますが、スキルを得て、真子さんに懐いているのなら、そのまま眷属にできると思います」

「貴子さん。少し質問をしていいだろうか?」

 円香さんの我慢が限界を超えたようです。それにしても、”さん”付けが凄く新鮮だ。

「はい。なんでしょうか?」

「再生も治癒も初めて聞くスキルなのだが?」

「そうなのですね。それで、ギルドのデータベースに問い合わせても、情報が出てこなかったのですね。うーん。説明が難しいですが、再生は・・・」

 主殿の説明を聞いて納得しました。

「鑑定かぁいいなぁ」

「え?茜さんも取りますか?ライ。結晶はまだあったよね?」

「うん!」

 え?ちょっと待ってください。
 円香さんも孔明さんも止めてください。止められるとは思わないけど、慌てて二人を見ますが、無理です。
 確かに、鑑定が使えるようになれば、かなり作業が楽になります。

 鑑定石だけでは、制約が出て来る可能性もあります。魔物鑑定とも違います。
 そのうえ、ギルドの上層部に取り上げられてしまう可能性もあります。

 円香さんの目が、”お前が言い出したことだ、お前が取得しろ”と言っています。
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