100 / 143
第四章 スライムとギルド
第二十一話 報告(2)
しおりを挟む「売りましょう。スキルが付与されていない物ですし、ギルドが持っていても意味がありません」
「茜。いいのか?魔石は、鑑定石で使うのではないのか?」
「そうですね。他にも、いろいろ使い道があるのは解っています。でも、アイテムボックスの中にあるものは売っても大丈夫です。数が多いので、全部売れるのか・・・。そちらの方が心配です」
「茜嬢。魔石は、有ればあるだけ売れる。売ってしまっていいのなら、日本国内だけではなく、海外にも欲しがる者は多い。でも、いいのか?残さなくて?」
「大丈夫です」
私は、両手をテーブルの上に置きます。
数回しか練習をしていませんが、できるはずです。私は、”やればできる子”なのです。
ほら、出来た!
手から、”コロン”と小さな魔石がテーブルに転がります。
よかった。よかった。無事に成功した。
「あ、あか、茜!な、な、何をした。お前は、い、いつから、手品が得意になった!」
蒼さんが動揺しています。それが欲しかった反応です。円香さんも、孔明さんも、怖いです。睨まないで欲しい。二人に反応してしまっている。クシナとスサノが怖いです。スキルの発動はしないように言っていますが、怖いです。
「ははは。そうですね。主殿の所で、魔石を産み出す手品を教えてもらいました」
冗談にしてしまおうかと思ったのですがダメですよね。
解っています。
「茜!」
円香さんが、テーブルを叩きます。
「魔石は、スキル持ちなら作ることが出来ます。ただ、コツが必要なので、簡単には出来ないと思います」
「え?」
ほら、”私を殴りたい”という表情になった。
「すまん。茜嬢。聞き直しで悪いが、今、”スキル持ちなら作れる”と聞こえたが?」
「はい。そういいました。主殿は、”私以外では試したことがない”と言っています。でも、スキルを持っていれば、できるというのは正しいと思います」
「そうか・・・。俺にもできるのか?」
「そうですね。まずは・・・」
私は、千明を見ます。
「え?私?」
「うん。千明。私の手を持って?」
「え?あっ。うん」
手を交差するようにして、手を繋ぎます。
そこから、主殿がしてくれたように、魔力を循環させます。千明の魔力は、主殿と違っています。でも、動けば大丈夫です。
「え?え?え?茜。なんか、動いているよ。気持ち悪い」
魔力を動かすなんて情報は、ワイズマンも持っていません。
でも、魔力を身体の中を循環させることは出来るのです。血液とは違うし、なんの物質なのか解りません。
でも、確かに存在はしているのです。
不思議な感覚です。
目に見えない。
匂いもしない。
触ることも出来ない。
でも、存在はしている。
そんな物質の様なのです。
「少しだけ、我慢して、動いている感覚を覚えて」
この感覚を掴むまでが難しいのです。
ふふふ。
これが出来れば、ほらアトスも千明を見ています。多分、アトスなら解るのでしょう。
糸を出しています。
魔力の放出ができています。
あの魔力の糸を調べれば、どんな部室なのか解るのでしょうか?
楽しみです。
そもそも、魔石を調べているのに、いまだに物質の特定ができないのが不思議でしたが、自分で魔石を産み出せるようになって解ってしまいました。
魔力や魔石は、私たちが知っている科学の埒外にあるのでしょう。
「うん」
「いくよ!」
一気に魔力を流し込む。
そうしたら、両手に異物が出来るのが把握できる。
「え?」
両手に魔石ができる。
「ほら、千明。今度は一人でやってみて!」
次の報告の為に、魔石があと一つ必要だ。
千明は素直に手を握って集中する。1分くらいの集中で、小さく「できちゃった」と呟いた。
「ね」
「”ね”じゃない!茜!これが、どれほどの事なのか解っているのか!」
「円香さん。座ってください。これが、”私を殴りたくなる”報告の一つです、ね。殴りたくなるでしょ?」
「なにを・・・。ふぅ・・・。それで?」
「それで?」
「この技術は公開していいのか?」
「あぁ主殿の思惑ですか?」
「そうだ」
「なにも・・・」
「え?」
「この程度の事は、『ギルドでは知っていますよね?』という雰囲気で雑談の中で出てきた話です。公開も何も、既知の情報だと思われています」
「はぁ?」
「あぁ次の報告をしますね」
「まて、まて、茜!」
「いえ、待ちません。魔石関連は、まとめて報告します」
テーブルの上に転がっている4つの魔石を集めます。
極小の魔石で、スライムの魔石程度の大きさです。
四つを手で覆います。
一つになるように念じます。
一つになった小さな魔石がテーブルに転がります。
上手くできた。
「ユグド」
「小を3つでいい?」
「うん」
ユグドが、小さな魔石を3つテーブルの上に出します。
もちろん、ユグドは動いていません。正確には、動いているのですが、テーブルが盛り上がって、魔石が産まれたように見えます。
同じように、魔石小を4つ持って、一つにします。
「ユグド?スキルがついている?」
「うん。あっ、ない方が良かった?それなら、こっち」
新しく、3つの魔石が出てきます。
先に出てきた魔石から、新しい魔石に切り替えます。これなら大丈夫だ。
大きめの魔石ができる。
オークの魔石くらいの大きさで、100万くらいの価値があるらしい。
皆の視線が魔石に注がれる。
「茜。お前、人間を辞めたのか?」
「円香さん。酷いですよ。人間ですよ。これも、スキルを持っていれば誰でもできる事ですよ。多分」
また、質問攻めです。
でも、まだ報告の続きです。
「ちょっと待ってください。この大きめの魔石ですが・・・。魔力を流しながら、形が変えられます。主殿は器用に指輪を作っていました。私は、まだ丸にすることしかできません」
「指輪?」
「はい」
「それは、スキルがついていてもできるのか?」
「出来ます。本命は、そちらですね」
円香さんが、大きく息を吐き出します。
わかります。聞かなければよかったと思っていることでしょう。この技術の取り扱いだけでも、かなりの爆弾です。でも、”まだまだ”です。まだ、序盤です。
「茜嬢。ちなみに、これは?」
「え?もちろん、知っていますよね?レベルです。聞いて後悔してください。取り扱いは、ギルドに一任されています」
ふふふ。
その顔が見たかった。
「俺は、疲れた。あとは、孔明と円香に任せていいか?」
「え?蒼さん。疲れたのですか?甘い物でも舐めますか?」
「ん?甘い物があるのか?」
「ありますよ。ユグド、出してあげて、クラッカーがあったから、一緒にだして」
「うん!」
ユグドが、パタパタと部屋から出ていく、別にキッチンに行く必要はないけど、キッチンに行くようです。
「茜。あの子は?いったい?」
「あぁ後で説明します。部屋の様子にも関係することで、本当に、本当に、本当に、聞いたことを後悔して、頭を抱えて、私を殴りたくなります。だから、最後に報告をおこないたいと思っています」
「はぁ・・・。わかった」
円香さんが納得してくれました。
丁度、ユグドが戻ってきました。
人数分の紅茶も持ってきました。
確かに、あの蜂蜜を使うのなら、紅茶がいいかもしれない。
クラッカーも持ってきてくれています。
皆の前に、新しく入れた紅茶と蜂蜜とクラッカーが置かれます。
「茜嬢。これは?」
「蜂蜜です。紅茶に入れてもいいですし、クラッカーに付けても美味しいと思います」
孔明さんが、小指に蜂蜜をつけて舐めます。
目を見開きます。わかります。美味しいですよね。
孔明さんの様子を見て、皆が舐めます。
「茜嬢。これは?なんだ?」
「なんだと言われても、主殿が売りたいと言ってきた”蜂蜜”です。審査を受けていないので、解らないのですが、食用です。それに、数値的な事はわかりませんが、魔力が回復します」
「茜。この蜂蜜は売るのか?」
「売れたら、売りたいと言っています。主殿の中では、この蜂蜜くらいしか売り物にならないと思っている様子でした。あっ!定期的に売れると思います」
「はぁ?」
「ミツバチ?の魔物が居て、蜂蜜を集めていました」
ほら、ほら、その顔です。
まだまだ続きますよ。
まだ、序の口です。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す
エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】
転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた!
元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。
相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ!
ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。
お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。
金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる