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第四章 スライムとギルド
第十八話 桐元孔明
しおりを挟む円香さんの笑顔が固まった。
「茜!」
頷くしかないです。怖くはないのですが、圧が凄いのです。
私が手を出せば、円香さんが、手を乗せてきた。
これで念話が通じるはずです。
円香さんに伝わるようにイメージして、話しかければ通話ができるはずです。
孔明さんは、部屋を出て行こうとしていたので、後片付けを頼んでみた。笑いながら了承してくれた。盗聴器の回収にも丁度いいと思ったのでしょう。
『茜。どういうことだ!』
円香さんも、念話の使い方をマスターしてしまっている。これなら、スキルを持っている私でなくてもいいのでは?
『詳しい話は、後でしますが、私は新しいスキル”看破”が使えます。このスキルは・・・』
円香さんの表情が曇ります。私にも、意味が解らないので、簡単にしか説明ができません。
”看破”と聞いて、未知のスキルなのは解るのだろうけど、スキル名から効果が想像できたのでしょう。
でも、残念ながら多分・・・。
『円香さんが想像した権能ではありません』
『簡単に説明しろ』
そのつもりです。
あまり時間がかけられません。円香さんもわかっているのでしょう。孔明さんの動きを視線で負っています。残された時間は少なそうです。
『違和感があったのが、ギルドの入口で孔明さんに会ったときに、主殿を”スライム”と呼んだことです』
『それで?』
『”看破”は隠し事があれば解るスキルです。あと、動揺が判断できます』
『わかった。それで、孔明はどこまで絡んでいる?』
『それは解りません』
『蒼は?』
『反応はありませんでした。千明も同じです』
『わかった。孔明は、私が対処する』
『はい』
円香さんの手が離れた。
「孔明!お前、どこのスパイだ!」
直球でした。
もう少し、外堀を埋めるとか・・・。私が居なくなってからとか・・・。
いろいろあると思うのだけど、円香さんに、人間らしい対処を求めた私が愚かでした。
はぁ厄介ごとだけど、こうなったら、もう引けない状況です。
頭痛が痛いです。歯痛が痛くなってきます。あっ!そうだ。ユグドから採取できる水で、魔石を砕いて入れた水なら歯痛とか治らないかな?
孔明さんが私を睨んでいますが気のせいだと思います。
「はぁ・・・。茜嬢か?」
「そうだ!茜が新しく得たスキルで判明した」
全部、円香さんが暴露してしまいました。
幸いなのは、スキル名を口にしていない事だけど、本当に、本当に、本当に、些細な”幸い”です。本当に、この人には隠し事が向いていない。高度な盗聴器が仕掛けられている可能性が高いのに・・・。
本当に、知られてはダメな情報は隠してくれていますが、私が新しいスキルを得たのは公になってしまうのです。
困った人です。
勝算があるのかもしれないのですが・・・。
「どんなスキルですか?」
「教えると思うか?」
「円香なら、”ポロっ”と教えてくれると思ったのですが?ダメですか?」
私も、孔明さんと同じことを考えました。
「無理だ。茜から聞いたが、忘れた。それに、スキル名が解っても、説明が出来ない」
円香さんの言い切り方が清々しい。忘れたと言っているけど、5分も経っていないよ?
「そうか・・・。忘れたか・・・」
孔明さんが、円香さんを睨みつけています。
大きくため息を吐き出してから、私を見ますが、睨んでいる雰囲気はないです。円香さんを睨んでいる時のような雰囲気は無いのが不思議です。
円香さんの言葉を信じたの?
昨日、私が円香さんに報告をして、円香さんが忘れてしまったと・・・。無理があるけど、円香さんならありえそうだと思ったの?
流石に無理があるよね?
「聖賢塾だ」
簡単に名前を告げます。罠の可能性もあります。
孔明さんは、ポケットから手を出して、装置を円香さんに投げます。どうやら、盗聴器の一つの様です。電波式ではなく、録音式の様です。収音して、記憶するのでしょうか?電波式でないので、見つけるのが難しいのが難点です。録音時間も短いので、狙った盗聴ができるとは限らないのですが、その場にスパイが居るのなら簡単に条件を満たすことが出来ます。
「何故だ?」
そう、私も、それを聞きたい。
孔明さんが、聖賢塾に協力する意味はないように思います。だから、円香さんも疑問に思ったのでしょう。
「俺に、妹が居るのは知っているよな?」
まさか!
「茜嬢。大丈夫。攫われたとか、襲われたとか、そういうことではない。近いけど、違う」
私の表情から、孔明さんが何かを悟って否定をしてくれました。
それなら余計に意味が解りません。
聖賢塾は、官僚や政治家や経営者が、賢者(を名乗る成功者と言われる者たち)から話を聞く場所だ。
簡単に言えば、人脈作りの組織で、日本国の為という御旗を掲げながら自分たちの利益にしか興味がない人たちの集まりだ。円香さんの言葉を借りれば、”正義に酔っているクズ”の集まりだ。孔明さんがもっと嫌う人たちだ。税金や公金を自分たちの仲間で循環させて私腹を肥やすのに疑問を持たないような精神状態の人たちだ。孔明さんとは正反対の思考回路だと思う。
「円香は知っているよな?」
「あぁ」
孔明さんが簡単に説明してくれた。
真子さんというのが、孔明さんの妹さんの名前らしいのですが、高校の時に事故にあって、足と腕と手に大きな怪我をしてしまった。腕の怪我は治ったのだが、問題は手と足だ。手は、指が切断してしまって欠損。足も右足は膝から下の欠損。左足は、足首から先が動かない状況。好きだった部活にも行けない状況になってしまった。
孔明さんが自衛隊に入ったのも、真子さんの怪我を治すスキルを得るか、何か方法が無いか探る意味合いが強かった。特に、あると言われ続けているポーションの類が見つかった時に、素早く入手するためだ。既に、5年が経過している。見通しも何もない状況で、孔明さんは古巣だけではなく、怪しい情報にまで手を出し始めていた。日々すすり泣く声が聞こえる部屋に”大丈夫。俺が何とかする”と声をかける日々が続いて、孔明さんの心は疲れ切ってしまっていた。”大丈夫”を繰り返すしかない無力な自分を殺してしまいたいくらいに・・・。
聖賢塾は、そんな孔明さんの心の隙を見逃さなかった。
ポーションではないが、魔物の素材を使った新素材で、人の四肢を復活させるというよくある詐欺話を持ちかけてきた。真実味を出すために、認可の申請書類や政治家たちの名前が使われている。スポンサーとして企業体の名前が並んでいた。そして、実際に素材で、耳や指を復活させた事例を見せてきた。足を復活させるのには、今後の研究が必要になると言われていた。
聖賢塾の狙いは、ギルドの解体の様です。噂はありましたが・・・。愚かです。
少なくとも、日本においては、ギルドは政府の下部組織であるべきだというのが、聖賢塾の主張です。何度か、くだらない打ち合わせに呼ばれています。最近は円香さんが断っているので、気持ちは大分楽になっています。
ギルドがある為に、聖賢塾関連の企業や研究所に魔物の素材が回ってこない。回ってこないので、研究が進まない。これが、聖賢塾の主張だ。実際には、聖賢塾関連の企業や研究所が、申請してくれればギルドは”適正価格”で素材を降ろすのだが、聖賢塾は”正義の集まり”で、自分たちの正義を邪魔するとギルドを批判していた。ギルドが魔物の素材を降ろす条件は、”適正価格”での買い取りと、”研究結果の公開”が条件になっている。ギルドは全世界共通で提示されている条件で、条件を飲めない企業体や研究施設には素材を降ろさないと決まっている。
孔明さんも、詐欺だと気が付いていて・・・。
円香さんと孔明さんのやり取りを聞いています。
今まで流した情報は、問題になるようなレベルではありません。聖賢塾の人たちは、魔物や魔物の素材が金のなる木・・・。程度にしか・・・。
木?ん?魔物?
ん?
あっ!
聖樹。魔石。ノート。追試?
思い出してしまいました。
「あのぉ・・・。円香さん。孔明さん。孔明さんは、妹さん。真子さんが治る手段を探しているのですよね?もし、私・・・、じゃなくて、ギルドが提供できる情報の中にあるとしたら、どうしますか?それでも、聖賢塾側の人間のままですか?」
円香さんが私を睨んできます。わかりますが辞めてください。怖いです。
孔明さんは私を見てから驚いています。当然だと思いますが、呆れるのなら呆れてください。私も、情報を知らなければ、呆れてしまうでしょう。
「茜!」「茜嬢。それは!」
二人が怖いです。
でも、今じゃないと、孔明さんが、ギルドから出て行ってしまいます。それは困ります。円香さんを止められる人が居なくなってしまいます。それだけは、避けたい状況なのです。私は、私の事と、主殿の事だけで、お腹いっぱいで張り裂けてしまいそうなのです。千明では無理です。蒼さんは円香さん寄りの人です。従って、孔明さんしか居ないのです。
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