上 下
93 / 143
第四章 スライムとギルド

第十四話 整理

しおりを挟む

 帰路は、いろいろ考えながら歩いている。主殿は・・・。

 クロトとラキシを、主殿が送ってくれることに決まった。

 スサノとクシナのスキルを調整したいと言われてしまった。
 その都合で、クロトとラキシのスキルが必要になってくるらしい。怖くて、それ以上は聞けなかった。聞いた方が、ギルドとしては正しいけど、聞くのが怖かった。

 私の表情を読んで、主殿が簡単に教えてくれた。

 簡単に言えば、クロトとラキシが持っている”眷属”の繋がりを、”横に広げる”らしい。
 今までは、私が中心になって、クロトとラキシとスサノとタシナに繋がっていた。これを、眷属同士でも繋がるようにしてくれるらしい。

 スキル”念話”を、付与して眷属同士でも会話が成立するようにしてくれるようだ。
 私では、数十メートルが限界だけど、スサノとタシナを経由すれば、数キロの会話が可能になる(らしい)。

 あとは、クロトとラキシが持っているギルドの情報を、スサノとタシナにも共有しないと、”問題になってしまう可能性がある”と言われてしまった。

 どうやって送ってくれるのか聞いたら、主殿の眷属がクロトとラキシを背中に乗せて飛ぶようだ。ライの分体が、クロトとラキシを落ちないように固定してくれるらしい。見なければ問題にはならない。そう、知らなければ、知られなければ、見られなければ、大丈夫だ。

 ギルドに帰還の連絡を入れたら、誰も居なかった。
 ギルドが空になって大丈夫なのか?

 大丈夫だから誰も居なくなっているのだろう。

 もしかしたら、アトスが居るから大丈夫だと判断を下したのかもしれないけど・・・。千明まで、出ているとは思わなかった。
 何か、問題でも発生したのか?

 主殿にも心配されてしまった。
 まず、主殿の家は、スマホの電波が届かない(場所が多い)。

 玄関か主殿の部屋でしか電波が届かない不思議な状態だ。深く考えない事にした。考えたらダメだ。電波を遮断する方法が構築されている。そんなことは・・・。多分、出来ている。盗聴も盗撮も不可能な状況で、主殿と一緒でなければ、あの家には辿り着けない。

 主殿が常識的で善良な心を持っていてよかった。
 復讐を考えているようだけど、”人”全体ではなく、主殿の将来を奪った人とそのスキルを与えた魔物に、矛先が向いている。

 だから、主殿を刺激しないほうがいい。
 私は、円香さんにも、ワイズマンにも、それこそギルド全体にしっかりと説明をしなければならない。

 主殿は”アンタッチャブル”だ。
 好奇心がマナーや常識を上回っているような人たちや、全体のために個が犠牲になるのは当然だというような人たちには、主殿を引き合わせないほうがいい。絶対に問題になる。
 それだけなら、その個人が対象になるだけだけど、”人”に矛先が向いてしまったら・・・。主殿が許しても、眷属たちが・・・。人類が滅んでも、私は不思議だとは思わない。
 日本を滅ぼすつもりで、核を打ち込んでも、主殿たちだけは生き残る未来が訪れても驚かない。

 帰り道は、パロットが案内してくれた。途中までだけど・・・。私が解る場所で、別れた。

 普段は、部屋の中で丸くなっているらしいけど、主殿もライも他の眷属も家に居たことから、久しぶりに外に出ると教えてくれた。
 どうやら、クロトとラキシにいろいろ教えてくれるのは、パロットの様だ。

 別れ際に、クロトとラキシをお願いしたら、可愛く鳴いて答えてくれた。

 人里を歩いていると不思議な気持ちになってくる。
 主殿の家は、不思議に満ちていたけど、あの光景が”あるべき姿”ではないのか?

 魔物が地球に現れてから、いろいろ変わってしまった。
 スキルを得た人は、得られていない人を蔑む。反対に、スキルを得ていない人は、スキルを得た人を野蛮人だと蔑む。
 もしかしたら、魔物たちを地球に放った者は、地球人の分裂を狙ったのか?

 主殿の存在は、光にも闇にもなる。

 魔物になってしまった少女。
 本名も教えてもらったが、主殿と呼ぶことにしている。

 主殿は、『復讐は”殺す”ことではない』と明言してくれた。
 世間に公表したい。それで、主殿を魔物にした者が”人”だとしたら、罪に問えるか考えて欲しい(らしい)。それで、罪に問えないのなら、自分が、その者を始末する。
 主殿は、人ではない。しかし、煩い政治家や偉そうに文句を言うだけの専門家や情報を寄越せとだけ言うマスコミの担当者よりも、人だ。だから、魔物にした者を人が捌けないのなら、魔物になってしまった主殿が始末する。魔物の世界は、弱肉強食だ。殺されても文句を言わせない。人がそれで文句を言ってくるのなら戦うまでとはっきりと宣言をしている。

 私は、主殿たちと人類が戦う未来は見たくない。
 出来れば、主殿を魔物にした人物を見つけて、人が裁かなければならない。主殿の手を汚させてはダメだ。

 人の正義を主殿に押し付けてはダメだ。

 主殿の事を考えていると、駅に到着した。
 改札を抜けて、ホームで電車を待つ。

 古い椅子に腰を降ろす。
 主殿は、この駅から学校に通っていたのだろう。そして・・・。これからも通うはずだった。些細な日常を、主殿の日常を、奪った愚か者が存在する。

 電車がホームに滑り込んでくる。
 誰も降りない車両に乗り込む。

 席は空いているが、なんとなく窓際に立っていたい気分だ。

 ドアが閉まり、電車が走り出す。
 ゆっくりとした速度から、徐々に速度があがる。

 窓からは、海が見える。
 主殿もこの景色を見ていたのだろうか?

 静岡駅まで約30分。景色を見ながら電車に揺られるのはちょっとだけ長く感じる。

 静岡駅に到着した。
 改札を出て、地下道に向かう。

 地下道を通り抜けて、呉服町交差点を目指す。そこから、呉服町通りを通って、七軒町通りを駿府城の方向に向かう。御幸通りを中町交差点に向けて歩く。大鳥居をくぐって浅間通りを通り、浅間神社に向かう。ギルドに行く前に、クロトとラキシとスサノとクシナと合流する。

 前に主殿と会った場所だ。
 主殿もライも覚えていたので、場所の説明は不要だ。それに、クロトとラキシなら迷わないだろう。私を探しながら来るらしいから、スサノもクシナも大丈夫だと言っていた。

 長い長い急な階段を上がって・・・。
 スサノとクシナを眷属にしたからなのか、しんどかった階段が楽に上がれるようになっている。走って上がるのは無理でも、上に辿り着いても息が切れない。今なら、蒼さんは無理でも、孔明さんには勝てそうだ。階段を上がる速度だけだけど・・・。

 ベンチに座ろうと思ったら、ライが既に到着していた。
 上を指さしたので、上を見たら、スサノとクシナが枝にとまっていた。

 クロトとラキシは、ベンチの下に居るようだ。

「茜さん」

「なんでしょうか?」

 ライが話しかけてきた。

「本日は、ありがとうございます」

 予想外の言葉です。
 お礼を言うのは、私たちです。

「いえ。私。私たちこと、主殿にはお礼を言わなければ・・・」

「違います。茜さんが来てくれて、マスターは、本当に楽しそうでした。私たちは、マスターの家族にはなれますが、”友”にはなれません」

 ライの伝えたいことが・・・。わかってしまいました。
 主殿には”友”と呼べる存在がいなくなってしまった。

「私も、主殿といろいろ話せて楽しかったです。これからの事を考えると、頭が痛いのですが・・・」

「それは、スキルの事ですか?それとも、眷属の事ですか?」

「それも・・・。含まれていますが、いろいろです。ライは、主殿が持つ情報が、世間からどう見えるのか知ったほうがいいかもしれないですね」

「え?」

「ライは、分体ですよね?」

「そうです」

「それなら、帰らなくても、大きな問題はないですよね?」

「そうですね。数日くらいなら大丈夫です」

「それなら、今日と明日。ギルドに来ませんか?私が皆に今日の報告をします。ライも、主殿に報告をする為にも、聞いておいた方がいいと思いませんか?帰りは、スサノかクシナに送らせます」

「・・・。そうですね。マスターに確認をしますが、スライムになってしまいますが、問題がなければ、お邪魔いたします」

「良かったです!」

 偶然ですが、説明要員を確保できました。
 主殿に筒抜けとなってしまいますが、些細な問題です。これで、謝って伝わってしまうことも、主殿たちが持っている情報や知識が世間とどれほどずれているのか伝わると思います。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。

みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

処理中です...