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第四章 スライムとギルド
第五話 茜、頑張る
しおりを挟む主殿の依頼は、いくつかあるのだが、ギルドは全部の依頼に応えることに決まった。
一つ目の依頼は、スライムが大量に発生した場所のリストアップだ。リストアップは、私の仕事だ。主殿の話で、1年未満で大丈夫だと言われたが・・・。主殿から、いくつかの日付を教えられた。その中から、スライムや魔物の情報があった物をリストアップする。
「茜。どうだ?」
「芳しくないです。主殿が指摘した日付で、スライム発見の通報があったのは3回だけです。それも、数が多くても3体です」
「そうか・・・」
「円香さんは、どうですか?」
「孔明が、成功した。今、蒼が挑戦している。これだけで、歴史が変わるぞ!」
成功したのは解っている。主殿の二つ目の依頼だ。主殿から教えられた魔石の利用方法が、ギルドで実現が可能になるのか確認を行うことだ。
さっきから楽しそうな声が聞こえてくる。私も、円香さんと孔明さんと蒼さんがやっていることに参加したい。
凄く楽しそうだ。
「ただいま、戻りました!」
”みゃぁ!”
寂しかったのか、アトスが千明に駆け寄る。
「千明。おかえり!大丈夫だった?」
「うん!凄く、凄く、凄く、怪しまれた」
主殿からの三つ目の依頼は、千明が担当していた。
ギルドが保証人になって、海外に口座を開設する。そこに、今回の買い取り金額を振り込むことになった。主殿が日本の口座でも良いと言ったが、口座を作ることが難しかった。日本では、ギルドが保証で入っても、口座を開かせてくれる銀行が存在しなかった。
主殿は、元日本人だ。だから、戸籍も持っているのだが、主殿に寿命があるのか解らないために、名前での口座開設は諦めた。
そこで、主殿に法人を用意してもらって、法人の口座を作ることになった。税制上も、ギルド側としては楽になる。
10年後、20年後に、ギルドや主殿がどうなっているのか解らないから、現状でできる限りの対策を行う事で一致した。
「振り込めた?」
「うん。次からは、ギルドの端末からでもできるようにしよう。もう嫌!」
千明の悲鳴に近い言葉は、私にはよくわかる。
小市民な私たちが、いきなり、2億円近い金額の振込をするのには、手が振るえるだろう。
千明が、プリプリ怒っているのは、端末での操作を行って、振込を実行したら、いきなり、店員が現れて、奥の部屋に連れていかれて、事情の説明を求められた。
ギルドに、主殿に振り込む資金はなかった。それを解決したのが、主殿から売り込まれた技術だ。
魔石の効率の良い使い方だ。
魔石をベースにして、濁りを除去する方法を、主殿が教えてくれた。
最初に成功させたのは、クロトだ。それから、クロトのやり方を見ながら円香さんと孔明さんが実験を繰り返した。
ギルドには、魔石のストックが無かった。それも、主殿から提供してもらった。
その時に、天使湖の魔物を駆逐したのが、主殿たちだと教えてもらった。あの場所には、私たちギルドだけではなく、警察や消防や自衛隊がいたので、姿を見られないようにしていたのだと謝られた。
円香さんの権限で、特A級の情報として秘匿することが決定した。特A級に指定されると、ワイズマンには登録されるが、閲覧は特A級指定を行ったギルドの許可が無ければ、閲覧ができない。
主殿から、天使湖の実際の状況を聞いて、ワイズマンに登録するのが、私の仕事になった。これが、また大変だった。
途中から、ワイズマンに主殿を繋げてしまおうかと本気で考えた。実行に移す前に、ワイズマンから注意されてしまった。その為に、私が主殿から聞いて、ワイズマンに登録する。ワイズマンからの質問や状況の確認指示を、主殿に質問する。
驚いたことに、オークの変異種だけではなく、上位種や上位種の変異種まで存在していた。
主殿からの疑問も、ワイズマンに聞いたが、答えが”不明”な質問が多かった。ワイズマンが興味を示したのが、主殿が話していた、行動限界の話だ。縄張りと表現してもいいかもしれないが、今まで、不思議に思われていた魔物の生態の一部だろうと判断された。
私が間に入った事で、円香さんも協力してくれて、天使湖の事件に関連する問題以外は、ワイズマンに隠す事ができた。
天使湖には、オーク種と思われる魔物だけで、100体以上が存在していた。
魔石も、攻撃で割れてしまった物もあると言っていたが、79個がオークから摘出した状態で残っていた。
忘れていたが、主殿は人類が欲してやまないスキルの一つを持っていた。
”アイテムボックス”それも、時間停止型だ。想像の産物のスキルだ。何気なく、主殿が取り出していたので、スライムの特性かと思っていた。
主殿から提供されたオークの魔石の半分は、ワイズマンに提供する。実際には、ワイズマンが各ギルドに割り振られることになる。
約40個の魔石を使って、主殿から提供された技術の実験を行ったのが、孔明さんだ。
孔明さんは、最初は主殿から提供された魔石を利用して実験を行っていた。
スキルの付与と、スキル発動時の補佐だ。
魔石から、濁りを除去すれば、スキルの付与ができるようになる。
スキルの発動時の補佐にも使えるようになる。もっと凄いのは、魔石を使った道具。魔道具の性能と稼働時間を飛躍的に伸ばすことができる事だ。主殿は、ゴブリンの魔石では、小さくて濁りの除去が難しいと言っていたが、円香さんの推測では、”主殿の力が強すぎるので、ゴブリンの魔石程度ではすぐに壊れてしまうのではないか?”だ。その為に、実験として、自衛隊からゴブリンの魔石を大量に融通してもらった。方法は、主殿から聞いた方法だ。
実際には、クロトが成功してから、皆が試すようになった。
私は、その間・・・。
警察と消防とギルドと自衛隊に寄せられる魔物の発見状況をまとめていた。
主殿が言っていることが本当なら、人を魔物に変える”犯罪行為”を行っている者が居る。
行動範囲から、市内や近郊に潜伏している可能性が高い。人の可能性もあるが、魔物の可能性も捨てられない。人の可能性は、主殿が呼び出された方法は、魔物が使うとは思えないためだ。
「茜!」
「はい!」
「主殿に、振込が終了したと連絡を入れて、今後の話し合いがしたいと伝えてくれ」
「わかりました」
買い取りの見積もりは、主殿に紙で提出している。金額の了承も貰っている。
税金の処理もしなければならないので、住民税とかどうなっているのか解らないけど、ギルドが納める税だけは引かせてもらった。一応、こちらから買い取りの受領書を書かなければならないのも厄介です。
主殿には、特例としてギルドのカードが発行された。カードを渡さなければならなかったが、皆が私を見て、円香さんが決定した。私の仕事となった。
主殿が住まわれている場所は、通常では辿り着けない場所だった。寂れた港町の山間にある。
以前の調査で空白地帯になっていた場所の一つだった。
私と千明は、クロトかラキシかアトスが一緒なら主殿が展開している結界の中に入ることが出来た。
普通の家でした。ただ、正直に言えば、近づきたくなかった。
心が畏怖してしまって、怖かった。
殺されるとか、そういうレベルでは無い。職場がギルドなので、いろいろな人と会った。所謂、反社会的な組織の人が怒鳴り込んできたこともありましたが、そういう怖さとは次元が違っていた。
表現が難しいのですが、関わってはダメだと心が叫んでいた。目にいろいろと入っていたが、脳が判断を拒否していた。
仕事なので、家に上がった。主殿にカードを渡して、物品の確認をして、預かり書を渡した。
部屋に入ってからは、プレッシャーが弱まったのか、少しは落ち着いたのですが・・・。
概算での金額を記入した見積もりを渡した時には、心臓がドキドキしてしまった。
主様が驚いているのを見て、”安いか?”と思ったが、反応は反対だった。主殿は、二桁も下に思っていたようで、追加で何を渡そうか考えていたと聞いて、即座に止めてもらった。
これ以上の買い取りは、主殿から聞いた技術の検証が終わって、買い取った物品の現金化が終わってからにして欲しいと懇願した。
主殿は、見積もり金額で良いと言ってくれた。追加が必要なら連絡が欲しいとまで言われてしまった。
そのうえで、ギルドまで連絡ができる魔道具を渡されてしまった。
ネットでのやり取りは、楽だけど盗聴の可能性があるために、円香さんだけではなく、孔明さんや、蒼さんにも反対されていたから丁度良かった。
しかし・・・。
連絡の魔道具が、私にしか使えないのは・・・。少しだけ、面倒だと思ってしまった。
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