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第三章 スライム今度こそ街へ
第十九話 不思議な少女
しおりを挟む「円香さん。私も行かなきゃダメですか?孔明さんと蒼さんだけで・・・。私、留守番していますよ?」
茜がまだ行かないと言っている。
二日前から同じことを繰り返している。
「茜。諦めろ。ライ殿とはお前も会っている。”行かない”のはダメだ。もしかしたら、茜か千明しか会話ができない可能性があるのだ。何度も言わせるな」
ライ殿とライ殿の主と言われる方に会う。
もしかしたら、停滞した事柄が一気に動き出すかもしれない。まだ、ギルド本部には報告を上げていない。私の所で止めている。
長沼公園での出来事は、思い返しても不思議だ。
ギルドに帰ってきてから、預けられた結界のスキルが付与された魔石と念話のスキルが付与された魔石を、孔明と蒼にも説明した。
蒼は、結界の魔石を、すぐにでも戦闘部隊に配置したいと言い出した。結界石があれば、”損耗率が減らせる”が蒼の見解だ。結界を攻撃してみた蒼は、徐々に興奮していった。蒼と孔明の二人で攻撃しても、結界が壊れることがなかった。
孔明は、念話の魔石を欲しがった。距離の検証もできた。どういう原理なのか解らないが、4-5キロでは念話が繋がった。検証は続けるが、実用上5キロも距離が稼げれば十分だと判断された。もう一つのメリットは、電波妨害が効かないことだ。スマホの電波が乱れるほどの妨害状態でも、念話が繋がった。電波が遮断されている状況でも繋がることが確認された。
ライ殿の主には、当初は私と孔明と蒼だけで向う予定だったが、千明の”ライ君の主と言葉が通じるのか?”がきっかけで、茜と千明にも参加してもらうことに決まった。
茜がごねているのは、単純に”怖い”という気持ちがあるのは解っている。
もう一つが、待ち合わせ場所が”麓山神社”が指定されていることだ。
「円香さん。ほら、クロトとラキシやアトスも・・・」
「茜。3匹には、お前たちが言い聞かせれば大丈夫だろう?それに、話が出来れば、私が主殿と話をする。もし、会話が不可能な時でも、茜が最初だけ通訳をしてくれれば、そのあとは念話石で会話ができるだろう?」
「そうですね・・・。わかりました」
茜が納得したところで、最終確認を行う。
神社に話を通さなければならない。
正直に話すことはできない。しかし、主殿が来るのに、ギルドメンバー以外が居たのでは、信頼が得られない可能性がある。
ギルドから、浅間神社は徒歩で移動ができる距離だ。
事務所には、3匹の猫が残る。訓練がされていない人間では忍び込めないだろう。念話が使えるために、事務所で異常があった場合には、茜か千明に連絡が来る。セキュリティとしては、考えられないくらいに上がっている。
ライ殿から依頼があったスライムは事務所に残っていることに決まった。ライ殿からの指示だ。
麓山神社に向う前に、他の神社に参拝する。そのあとで、社務所に顔を出す。話を通しておいたので、話は早かった。こちらの提示した内容で納得してくれた。
「わかりました。ギルドの要請を受け入れます」
この言葉を引き出せたのは、孔明のおかげだろう。
千明が以前に取材で訪れていたのも幸いだった。”神社内には魔物は発生しない。その理由を調べる”が主な理由だ。日本だけではない。まともな宗教施設には魔物が発生しないことは、ギルド以外にも広く知られている情報だ。魔物が街中で発見された時には、神社に逃げ込めば襲われない。
階段を上がった。
何度も来ているが、いつも以上に緊張する。しかし、麓山神社の近くにあるベンチには、誰も居ないように見えるが、違和感がある。私の目でも何も見えない。見えないのが、不自然だ。
そして、普段以上に清浄な空気が漂っている。
多分、”居る”のだろう。
「まだ来ていない様だから、お参りをしておこう」
皆が、麓山神社に向っても動きはない。
「ライ殿の主と有意義な話ができる事を望む。願わくは友好的な関係が築ければ幸いだ」
後ろに居る主殿に聞こえるように声に出して、本音の願い事を唱える。主神様が願い事を叶えてくれることを願った。神に祈る。私が?笑いたくなってしまう。しかし、神に祈って・・・。
深々と頭を下げる。
心からの願いだ。ここで殺される可能性もある。しかし、ギルドにとって、人類にとって、大きな一歩が踏み出せる可能性がある。主殿の存在は・・・。
どのくらい、願っていたのだろう。
皆も、私に合わせて、深々と頭を下げている。
頭を上げる時に、空気が変わった。
どう表現したらいいのか解らないが、場の主役が変わった感じがした。
後ろを振り返ると、予想通り・・・。ではないが、スライムと鷲?梟?を横に座らせた少女が、ベンチに座っている。
制服?高校生か?しかし、幼い。中学生なのか?
真面目そうな少女が座っている。あまりにも、場違いだ。可愛いと表現してもいいかもしれない。不思議な少女だ。
私の目で見ても、何も見えない。人ではない。しかし、人にしか見えない。見た認識と心が感じている状況があまりにも違いすぎる。
背中を嫌な汗が流れる。
緊張しながら、足を踏み出す。足が踏み出すのを拒否するかのように重たい。
蒼は、後ろに手を回して武器に触っている。視線は、少女の隣に座っている鷲と梟を交互に見つめている。蒼の手に触れて、首を横に振る。こちらから、攻撃してはダメだ。主殿は、”人の姿”で待っていてくれた。
孔明は、空を見つめている。この時期には珍しく、周りには鳥が・・・。多すぎる。全部、主殿を中心に広がっている。あれが全部、主殿の眷属なのか?
振るえる足に命令をして、主殿が待っているベンチに足を進める。
茜と千明は、緊張と恐怖で足が進まない。笑顔が張り付いた表情で固まっている。
たった5メートルが数キロに感じた。
笑顔を崩してはダメだ。背中に流れる汗を感じながら、主殿に近づけた。
「君がライ殿の主か?」
「そうです」
声は、少女だ。
だが、恐ろしい。声を聞いただけで、少女が何者なのか判断ができない。自分の名前を名乗る。少女が名前を言おうとするが、それを手で制する。私が名乗った事で、少女も名乗ろうとしてくれたのだろう。失礼になる可能性もあるが、姿や着ている制服から、事情があるのだろう。名前は、信頼されてから聞けばいい。
声を聞けば、スキルの精度が上がる。
しかし、少女からは何も読み取れない。目の前に居るのに、虚ろな存在が、主殿だ。
「わかった。主殿。最初に教えて欲しい。主殿は、人なのか?魔物なのか?」
最初に聞かなければならない事だ。殺されるかもしれないが、私1人の命で、主殿の本質の一端が知れるのなら安い。人類の敵となるのなら・・・。
「どちらでしょう?自分でもわかりません」
少女の答えは、苦笑で返された。そして、怖いと感じるのには十分な返答だ。人なら、純粋な力以外の力で駆除が可能になる可能性がある。魔物なら物量を含めた力での排除が可能になる。少女の答えは、”どちらにでも”なれることを示唆している。
なにか事情があるのだろう。受け答えは、人間臭さを感じる。
「・・・。そうか・・・」
「ライ。私の膝に乗って、カーディナルは、肩に止まれる?アドニスは、近くの木で待機」
少女が鷲と梟に命令をだして、スライムに指示を出す。
やはり、スライムがライ殿だったようだ。鷲がカーディナルで、梟がアドニス。ライ殿を含めて、情報が何も読み取れない。
ギルドのメンバーに指示を出す。
名前を呼んで、少女に名前が解るようにする。
私が指示を出して、メンバーが周りに散ったのを確認する。
少女は、どこかに視線を向けている。誰も居ないと思うが、何かを話しているようだ。私たちでは認識ができない者が潜んでいるのか?
「主殿。お待たせしてもうしわけない」
もし、少女が私たちを殺そうと思えば、簡単にできるのだろう。
少女に背中を見せないようにしている。背中から刺されたとしても・・・。刺されたことを認識できないで殺されてしまうだろう。それ以上の開きがある。横に座ってみて、はっきりと解る。
この少女は、私たちが束になっても倒せない。
大きく息を吸い込んでから、ゆっくりと吐き出す。
「いえ。ありがとうございます」
少女の前から、メンバーを遠ざけたのが解ったのか?
本当に、魔物なのか?人間だと言われたほうが、納得ができる。しかし、私の目には、どちらとも判断ができない。情報が何も取得できない。
目から入ってくる情報は、少女を”人”だと判断している。しかし、心では”化け物”だと判断している。スキルでは、”不明”だと判断された。
不思議な少女だ。
私への害意は感じられない。今は、その事実だけで満足しておこう。
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