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第三章 スライム今度こそ街へ

第十二話 スキルとギフト

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 私は、里見茜。普通のギルド職員だ。
 しかし、普通だと思えていたのも、ついさっきまでだ。

 突然、脳内に、言葉が響いた。

『スキル:魔物鑑定を獲得』

『スキル:魔物支配を獲得』

『個体名クロトが眷属に加わりました』

『個体名ラキシが眷属に加わりました』

『眷属からのギフト:意思疎通が贈られました』

 どうやら、私もスキルを得たようです。

『スキル:ステータス編集を獲得』

 まだ終わっていなかった。
 スキルが3つ?クロトとラキシが眷属?ギフトって何?

 ステータスは知っている。自分のステータスが表示される。でも、”ステータス編集”は知らない。

”ステータス”

 これは、ギルドでも知られている。
 一部の魔物を討伐した時に、得られることがあるらしい。

 表示されたステータスには、確かに、魔物鑑定と魔物支配とステータス編集が追加されている。
 でも、眷属はクロトとラキシだけ?アトスは?

 疑問を解消しようと、アトスを探すと、千明の足下にいる。
 私も下を見れば、クロトとラキシがおとなしく座っている。

 千明と目が合った。千明も、同じ内容なのだろうか?
 そもそも、私と千明は魔物を倒していない。スライムも倒していないのに、なんでスキルを得るの?

 円香さんが、驚いた表情をして、私と千明を交互に見ている。
 ダメだ。これは隠しきれない。隠すつもりもないけど・・・。円香さんと、孔明さんと蒼さんだけに留めておきたい。絶対に、自衛隊や警察や消防には知られたくない。絶対に厄介な状態になる。ギルドには登録しなければならないけど、参照は不可にしておけばいい。

 円香さんが、手招きをしている。

「孔明!蒼!残ったスライムの殲滅と、調査を頼む」

 孔明さんと蒼さんも、手を上げて公園に戻っていく、残っているスライムも10匹程度なので、すぐに討伐は終了するだろう。新しく産まれる可能性もあるのか?ゲームとかだと時間でポップするのは定番だけど・・・。
 私と千明の事も問題だけど、スライムが大量発生した原因も突き止めなければならない。そして、公園から出てこなかった理由が解れば、今後のギルドの運営にも役立つ情報になる。

 ふぅ・・・。
 現実逃避しても何も変わらない。
 円香さんの笑みが段々と険しくなっている。

 逃げられないのは確定しているから、出頭しよう。千明を見ると、同じ考えのようで、視線が合ったら頷いてくれた。

「クロト、ラキシ。行くよ」

”にゃ!”
”ニャウ”

 微妙に鳴き声が違う。可愛い。私が歩くと、しっかりと付いてくる。
 賢くなっている。意思疎通というギフトが貰えたから、会話ができるのかと期待したけど、そんなギフトではなかったようだ。でも、私の言っていることは理解してくれているようだ。
 まるで・・・。”テイマー”のようだ。異世界物では、最強になりえる職業だ。

「円香さん?」

「二人に話を聞きたい。車の中でいいな」

 円香さんが、キャンピングカーの後ろのドアを開ける。
 先に、千明が入った。しっかりとアトスが千明の後に続いた。

「クロト、ラキシ。先に入って、アトスの横に座って」

 試しに、少しだけ複雑な指示を出してみたが、問題なく実行された。私の後ろに居た二匹が足の間をすり抜けて、車に入った。アトスがいる場所の隣にしっかりと並んでいる。

 円香さんが座っている場所の正面に私が座って、私の横に千明が座る。いつもの場所だ。今日は、違う場所でもよかったのに・・・。

「茜。どんなスキルを得た?」

 千明も私を見ている。
 そうだ!
 確かに、スキルを得たけど、円香さんに報告する義務はないはずだ。ギルドに登録を行えばいいだけだ・・・。多分。

「円香さん。お話の前に、私と千明だけで話をさせてください」

 円香さんは、少しだけ考えてから頷いてくれた。
 立ち上がって、クロト、ラキシ、アトスの順番で頭を撫でてから、車から降りてくれた。近くに居たら聞こえてしまうだろうけど、そこは気にしてもしょうがない。私と千明がスキルを隠蔽したい意思を持つのが大事だ。そのためにも、千明との確認が必要になる。

「千明?」

「うん。少しだけびっくりしているだけ・・・」

「やっぱり、スキルとギフト?」

「うん。あと、アトスが眷属になった。茜は、クロトとラキシ?」

「うん。なんで、私たちだろう?」

「推測だけどいい?」

「もちろん」

 千明は、アトスを抱き上げて、膝に座らせる。私も、クロトとラキシを膝に座らせる。二匹とも嬉しそうな表情をする。表情も豊かになった。ように思える。

 千明の推測は、当たっているように思えた。
 確かに、千明が先に保護猫を飼おうと言い出した。それに、私が飼うのなら姉妹を分けるのは可哀そうだと言った記憶がある。それから、天使湖から帰ってきてから、千明と私が猫たちの世話を行っていた。そして、クロトとラキシは私に懐いていた。アトスは千明だ。

「ねぇ千明は、ギフトは1つ?」

 ずるい聞き方だ。

「うん。スキルは2つ」

「そう・・・」

「茜は違うの?」

「うん。ギフトは1つだけど、スキルが3つ」

「え!3つ?」

「うん」

 千明には、3つのスキルを説明した。

「二つは一緒。”ステータス編集”は持っていない」

「うーん。使い方も解らない。ステータスって、ステータスだよね?」

 千明に、意味がない事を聞いてしまった。
 困った顔をして、頷いてくれるが、そりゃぁ頷くしかないよ。私でも、頷くだろう。

「ねぇ千明。ギフトは、どうやって使うの?」

「あのね。私に解ると思う?」

「うーん。そうだよね。でも、もし、クロトとラキシと話せたら・・・」

「うん。アトスと話された、楽しいだろうね」

”にゃ”
”フニャァ”
”みゃ”

「アトス。何?」

”みゃぁ”

「解らないよ?」

 アトスが、私の腿を前足で軽く触ってくる。

「え?」

「どうしたの?」

「アトス。茜の言っている事が解るの?解るのなら、鳴いてみて」

”みゃみゃみゃ”

「千明?」

「ちょっと待って・・・。ねぇクロトとラキシは、私が言っている事が解る?解るのなら、床に降りてみて」

 クロトとラキシは、私の顔を見るので、頷くと、膝から降りた。

「ねぇ」

 千明が、手を上げる。
 私は、千明が何をしているのか理解ができない。

「アトス。もしかして、さっき一緒に居た、円香さんの言っている事も解る?」

”みゃ!”

 千明が何を気にしているのか解った。
 ギフトで得た”意思疎通”は、眷属との意思疎通ではない。別の意味がある。円香さんの言っている事が解ったとして、それが意思疎通だとしたら、ギフトとして私たちに贈られる意味がない。もしかして・・・。

「千明!」

「うん」

 クロトとラキシを抱きかかえて、キャンピングカーを出る。

「茜!千明!」

「円香さん。少しだけ時間を下さい!」

 静止しようとしていた円香さんを制して、公園に足を踏み入れる。

 驚く、孔明さんと蒼さんを無視して、クロトとラキシを地面に降ろす。千明も、連れていたアトスを降ろす。

 千明ではなく、私が3匹に指示を出す。

「クロト、ラキシ、アトス。スライムがまだいるかもしれない。居たら、倒さないで捕縛!私たちが、『”話がしたい”と言っている』と伝えて!」

 3匹は、了解とでも鳴いたのだろう。そのあとで、勢いよく駆け出した。

 円香さんが、慌てて、入口にもブルーシートを被せて、中を見えなくする。近くには、人が居ないのはなぜか解る。これは、クロトが周りを調べているの?

 隠れていたスライムがラキシに連れてこられた。

 私と千明は、お互いの顔を見て、”やっぱり”という表情をする。

 クロトの上に乗っているのは、スライムにしては小さい。通常のスライムの80%くらいの大きさだろう。

 さて、ここまでは想定していた。
 うまくできてしまったのが問題だ。

「ねぇ千明?」

「なんだい。茜どん」

「ふふふ。千明。ギフトってどうやって使うの?」

「私が知っていたらびっくりだね。そうだ。アトスたちに聞いてみる?」

「え?」

「茜だから、クロト。”茜にギフトの使い方を教えて?”と、言えば、教えてくれるかもよ?」

”にゃ!”

「え?」「え?」
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