スキルが芽生えたので復讐したいと思います~スライムにされてしまいました。意外と快適です~

北きつね

文字の大きさ
上 下
51 / 143
第二章 スライム街へ

第十九話 開戦

しおりを挟む

 夕日が眩しい時間だ。

 天子湖から、私たちがいる場所は離れている。私は、スライムになってカーディナルに乗っている。

 状況分析と最終確認をしている。

 結界も上手く作動しているから、天子湖にいる人たちは中には入られていない。

 数名の、---多分自衛官だと思うけど・・・。結界を調べている。もしかしたら、鑑定のスキルを持っている人がいるのかもしれない。何度も、鑑定で調べているけど、私に繋がるような情報は結界では表示されない。
 もし、私に繋がったとしても、今の私はスライムだ。問題になったとしたら、逃げればいい。裏山は、まだ私の持ち物だ。動物?の楽園にすればいい。

 天子湖にいる魔物は駆除しなければならない。
 人を喰らった魔物は、人を求めるかもしれない。
 魔物は駆除すべき物だ。しかし、魔物と人の全面対決の様相になるのなら、私は第三勢力となり、人に味方する。魔物の目的が解らない。譲歩ができるのかさえも解らない。意図があるのかも解らない。解っているのは、魔物は排他的な存在だということだけだ。

 夕日が徐々に沈みかけている。天子湖の水面に夕日が反射して綺麗だ。

 偵察は十分できたと思う。いろいろ考えなければならない事は増えたけど、想定している範囲内だ。

 一緒に偵察していたライを見てから、カーディナルに地上に向かうように頼む。ライを載せているアドニスも一緒に降下する。

 スライムの状態で、切り株の上に乗る。カーディナルが、降ろした場所が切り株の上だ。綺麗に着られた切り株だ。

”ライ”

 ライもスライムの形で、私がいる切り株に登ってくる。

『はい』

”作戦を考えてみたけど、皆は?”

 作戦と呼べるか解らないけど、方針は決定した。
 魔物と人の配置や、物資の位置は実際に見て確認した。それに、作戦の開始のギリギリで配置が変わってしまう可能性があった。できるだけ最新の情報で、作戦を修正したい。

『救援に出た者もいますが、突入するメンバーを選抜しています』

”救援?”

『はい。探索範囲を広げた結果。近くの山にも魔物が散らばっています。討伐と動物たちの救済を行っています』

”わかった。突入のメンバーは?”

『揃っています』

 観察していたメンバーから、魔物たちの行動原理が解ってきた。

 どうやら、魔物のテリトリーに入らない限りは攻撃を開始しない。これは、今までの経験で解っていた。ここの魔物たちは、しっかりと連携している。一体が動き出すと連動して数体が動く、動いて空白地帯になった場所には、他の場所にいる魔物が動いてくる。
 正面から攻めようとした時には、魔物の集団に押しつぶされてしまう。

 オーガの変異種を狙おうとしても、彼らのいる場所を攻め込もうとしたら、他の魔物が一斉に動き出して前後を挟撃される形になってしまう。

 あと、天子湖のキャンプ場にいる人たちの投光器が厄介だ。私たちが見えてしまうのはある程度は諦めているけど、存在は秘匿したい。魔物たちも明るい方が戦いやすい種族が多い。私たちは、暗闇でも問題がない種族が多い。
 だから、夜になるのを待っていたのに、投光器やマスコミのライトが邪魔だ。彼らは何をしたいのだろう?

 いや、判り切っている。取材という題目で、自分や自分の家族や権力者以外のプライベートを暴きたいのだろう。それとも、自分は安全だと思っているのかな?私たちが結界を張らなければ、あの投光器やライトに虫が集まっている。あの投光器に、魔物が反応してしまう。自分たちは守られているとでも思っているの?

 だめだ。マスコミにはいい印象がない。あの遠慮がない問いかけは、何も考えていないか、”喧嘩を売っている”としか思えない。怒らせたいのか?

 ふぅ・・・。
 落ち着こう。

”ライ。投光器やライトは、誰なら壊せる?”

『同時に?ですか?』

”ある程度は、同時に壊したい。あと、他の待機している車やカメラを無力化したい”

『破壊だけなら、誰でも可能です。スキルを使っても良いのなら、フィズが適任だと考えます』

”フィズ?”

 フィズは、百舌鳥だ。
 スキル?あぁそうか、フィズは”石を飛ばすストーンバレット”ことができた。石の強度が調整できる。泥のようにもできたはずだ。

『はい。ナップと一緒なら安全が上がります』

”わかった。フィズとナップは、開戦に先駆けて、投光器とライトを潰して、あとマスコミが持つカメラ・・・。フラッシュ部分だけでいいから潰して・・・。あと、カメラのレンズを汚してくれればいいかな”

『はい』『わかった!』

 フィズとナップから了承が送られてくる。
 パルの眷属は遊撃と連絡係だ。パル女王蜂の眷属では、単独で対応が難しい。単独での対応は、不可能ではないが、決死の覚悟が必要になる。複数の個体で攻撃をする必要があり、乱戦になってしまうような戦いにはむかない。

”パルの眷属は、遊撃。特に、人の動きに注意して”

『はい』

”ライ。分体を皆に付けても、戦闘は大丈夫?”

『大丈夫です』

 皆が集まってくる。
 家の守りは残しているが、飛行能力がある者は、集結している。

”カーディナル。アドニス。キング。クイーン。テネシー。クーラー。ピコン。グレナデン。そして、ライ”

 皆が、私の前に頭を下げる。
 私も、女の子の姿になる。皆に、指示を出すときには、こっちのほうが、”シュール”になりすぎない。スライムに命令されている図よりは、”まし”というレベルだけど、気分は大事だ。

 皆の返事を聞いて、作戦を伝える。

 作戦は、前から言っている通りだけど、少しだけ変更が入る。

 最初に、フィズとナップが、周りの光を潰す。車のライトは、汚すだけで十分。確実に汚すのに、ナップの力が必要だ。

 私とライが天子湖のキャンプ増にいる人と魔物の間に降り立つ。
 スライムの状態で、カーディナルとアドニスに乗って降り立ってから、私は女の子に、ライは男の子に変化する。武器を取り出して、近くの魔物と戦闘に突入する。その時に、テネシーとクーラーが右側から魔物の集団に切り込む。ピコンとグレナデンが左側から魔物の集団に切り込む。キングとクイーンは、オーガの変異種を牽制する。

 光が無くなったら、結界の中で、アイズとドーンが、結界の外側に群がる。投光器の予備がある可能性があるから、予備が来た時の対応を指示する。他にも、人が結界に近づかないように牽制を行う。結界は壊れないとは思うけど、スキルを全力で使った場合に、壊れてしまう可能性がある。壊れても、すぐに結界が発動しない可能性がある。魔石が壊れてしまえば、その部分は結界が発動しない。

 フリップとジャックが、キールとキルシュを連れて、結界の中に入る。戦闘が開始したら、私たちの補助を行う。いつものフォーメーションだ。

 作戦というよりも、力技だ。
 今回は、スキルを全力で使う必要があると思っている。そのために、結界を強めにしている。

”スキルはフルオープン。必要だと感じたら使って!あと、魔石だけは回収。魔物の遺体は必要ない。倒した魔物は、一か所にまとめよう”

『おぉ!』

 皆が了承してくれる。

”あとは、別に命がけで戦う必要はないからね。安全マージンを確保して戦って、負けそうなら逃げればいい。別に、私たちは魔物を駆逐する正義の使徒でもなんでもない。この場所が滅んでも、可哀そうだなと思う以上の感情はない。だから、皆・・・。解っていると思うけど、いつものように、怪我しないように、無理しない範囲で頑張ろうね!”

 さて、太陽が西にある山脈に姿を隠した。
 静寂が支配する時間帯が近づいてきた。天子湖の周りからは、人々の声が聞こえてくる。

 投光器が光りだす。マスコミのライトが、車のヘッドライトが光る。

”皆!行くよ!”

『出発します』『勝利を御身に!』

 勝利なんかよりも、皆の無事を祈って欲しいけど、皆は私のわがままに付き合ってくれている。
 私が心配しすぎるのはダメだ。

”お願い!”

 フィズとナップが出立してから、2分くらいが経過した。
 明るかった。投光器が破壊された。

 投光器の光が消えて、徐々に闇が降りて来る。

”ライ!カーディナル!アドニス!”

『はい』『おぉ』『っは!』
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

家の庭にレアドロップダンジョンが生えた~神話級のアイテムを使って普通のダンジョンで無双します~

芦屋貴緒
ファンタジー
売れないイラストレーターである里見司(さとみつかさ)の家にダンジョンが生えた。 駆除業者も呼ぶことができない金欠ぶりに「ダンジョンで手に入れたものを売ればいいのでは?」と考え潜り始める。 だがそのダンジョンで手に入るアイテムは全て他人に譲渡できないものだったのだ。 彼が財宝を鑑定すると驚愕の事実が判明する。 経験値も金にもならないこのダンジョン。 しかし手に入るものは全て高ランクのダンジョンでも入手困難なレアアイテムばかり。 ――じゃあ、アイテムの力で強くなって普通のダンジョンで稼げばよくない?

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

他人の寿命が視える俺は理を捻じ曲げる。学園一の美令嬢を助けたら凄く優遇されることに

千石
ファンタジー
【第17回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞】 魔法学園4年生のグレイ・ズーは平凡な平民であるが、『他人の寿命が視える』という他の人にはない特殊な能力を持っていた。 ある日、学園一の美令嬢とすれ違った時、グレイは彼女の余命が本日までということを知ってしまう。 グレイは自分の特殊能力によって過去に周りから気味悪がられ、迫害されるということを経験していたためひたすら隠してきたのだが、 「・・・知ったからには黙っていられないよな」 と何とかしようと行動を開始する。 そのことが切っ掛けでグレイの生活が一変していくのであった。 他の投稿サイトでも掲載してます。

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

処理中です...