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第二章 スライム街へ
第四話 キメラ
しおりを挟むキメラに意識を移しても、本体はスライムのままだ。
複数になった意識をうまく使い分けるのには訓練が必要だ。そして、キメラの核となっていた魔石を、ライが吸収したことで、新たなスキルが芽生えた。
もしかして、スキルは”魔物の命”か”命の形”ではないのだろうか?検証ができる物ではない。概念なのかもしれない。ただ、スキルが芽生えるのが”命”を奪った時か、”魔石を吸収した”時なのが気になっている。ギルドで調べても、概念の話は書かれていない。専門家を名乗る人たちが書いている物を読んでも、ピンとこない。文章だけで、”偉そう”を表現出来てすごいなとは思ったけど、私が欲しい情報は一切なかった。
キメラが家族に加わって、キング&クイーンや、テネシー&クーラーや、ピコン&グレナデンが加わって、カーディナルとアドニスたちの遠征距離が伸びた。1-2日ほどの遠征を行うようになった。私の分体がスキル縮小を使って、二人についていくので、魔物を狩っても魔石やドロップアイテムの回収が出来るようになったのが大きい。
カーディナルとアドニスたちが、遠征を行っている間に、私はライと一緒にキメラの検証を行う。
キメラは、形になるだけで、臓器は再現されない。簡単に言えば、”人”にはなれない。”人”の真似だ。人の動きには、慣れている。実際に、16年間は人として生きていた。内臓の全部を真似られないけど、目や耳や外側から見える部分は最初から備わっている。でも、銭湯には行けないな。不自然な部分が絶対にある。だって、女性は使い慣れているけど、経験していないことも多い。スライムボディになって感謝したのは、生理がなくなったことだ。お腹を抉られるような痛みを、感じなくなった。生物的には、進化なのか、退化なのか、わからないけど、もともと、結婚が出来るとは思っていなかった。
子供は欲しいとは思ったけど、行為には興味が少しはあったけど、それだけだ。
キメラは、男の子にもなれた。下を見ないようにしたが、しっかりと付いている感覚はある。違和感しかないのだが、気にしたらダメだ。男物の服は、あるけど・・・。なんか、嫌だったので、タオルで身体を覆った。近くで見ていたパロットとラスカルが不思議そうな表情で見上げてくるが、気にしないでと伝えた。男の子の顔も、私に似ている。女の子と並べば、姉弟に見えるだろう。
ライが、キメラでスキル分体を発動すると、キメラの素体となった者たちで分体が作成される。分体に、私かライが入ることになる。
スキルの不思議が発生した。
拡大と縮小が、”成長”と”退行”に変わった。スキル拡大が、スキル成長に変わった。スキル縮小が、スキル退行に変わった。言葉から、身体の変化を示すだろうと考えて、分体の一つで確認した。
スキル成長を行うと、数字の入力が求められた。
1では変化がなくて、10でもわからない。100で、少しだけ身長が伸びた感じがした。スキル退行で戻して、身長と体重を測ってから、スキル成長を行った。100で、身長が1cm伸びた。体重は300g程度だから誤差かもしれない。
100単位で増やしていった、500くらいで想像が出来た。700を入れた時に、はっきりと解った。16歳だった私の身長と同じだ。体重まで同じだ。数字が日数をしたら、元々の女の子は14歳くらいという想像が外れていない。興味で、20歳の私を見たが、ある一部は14歳から成長は見られなかった。一部だけを成長させられないか考えたが、無理だった。
男の子でも試したが、男の子の時には耐えられたが、同学年になって、大人になると、ダメだった。何がダメだったのかは、言わないが、ダメだった。
触手も便利だったが、手は慣れ親しんだインターフェースだ。ときに、キーボードを操作するのは楽だった。
気になって、スマホを操作してみたが、やはり反応しなかった。操作用のペンでしか、タッチ操作が反応しないのは、スライムの時と同じだ。スライムボディと同様に、静電気が無いのだろう。しょうがない。
タッチ式の自動ドアとかは反応しない可能性があるのか・・・。
もしかしたら、タッチ式の自動改札もダメかもしれないな。
声が出せないのは、筆談や手話でなんとかなるとは思ったけど、意外と制限がある。このまま、人の中に潜り込むのは難しい。協力者が居れば、出来るのかな?でも、私に協力してくれそうな人なんて居ないし、そもそも、私が知っているような事は、自衛隊やギルドが既に知っているよね。
街のコンビニエンスストアやイオンやマックスバリュでの買い物くらいは大丈夫かな?
本当は、魔石をギルドで売りたかったけど、ダメだよね。いろいろ質問されちゃうと答えられないし、魔物だとバレたら、殺されちゃう。お金を稼がないとダメだ。遺産がある間になにか考えないと・・・。
水道代は、スキル水を使えばいい。
電気代は、完全に無くせないけど、減らせる。パパのパソコンに使う電気はしょうがないとして、冷房や暖房は必要なくなった。スライムボディのおかげだ。パロットも大丈夫だと言っている。それでも暑く感じたら、スキル氷とスキル風で冷房もどきを作ればいい。寒ければ、それこそ倉に眠っている、薪ストーブを持ち出せばいい。排煙用の煙突も塞いであるだけで、壊したわけではない。薪は、山に大量にある(はず)。
食費は、必要がない。嗜好品だけは購入したいけど、我慢すればいいだけだ。せっかく、太らない身体を手に入れたのだ、ケーキ三昧や、甘い物の食べ歩きや、ジャンクだけの食事だって怖くない。深夜の甘いココアも最高だ。太らない身体、バンザイだ!
本当に、太らないよね?
スキルの検証も終わったし、裏山の安全と我家の安全も確保されたし、街に行ってみようかな?
お供が難しいよな。
カーディナルとかアドニスを肩に乗せていた、長髪の美少女はすごくカッコがいいけど、すごく目立ってしまう。目立った結果、SNSで話題になって、翌日には、マスコミが探しに来るだろう。
犬は、キメラなら分体が作られたけど、ライだけだと護衛にならないとか言い出すだろうな。パロットは可愛いけど、散歩で連れていたら、地元だけなら大丈夫だろうけど・・・。
でも、地元だと、私を知っている人が多いからな。どうしよう。まったく雰囲気が違う感じだと、田舎だと目立ってしまう。
うーん。喋られなくなった設定を作れば大丈夫かな?化粧をすれば、前の私に見えるだろう。服装を少しだけ変えよう。長髪に似合うような服装にして・・・。学校を辞めたことは、どうせ田舎だから伝わっているのだろう。だから、隣人に”声が出なくなった”とジェスチャーで伝えたら、近所には光の速さで憶測付きで広まってくれる。
うん。できれば、学校と同じ様にアンタッチャブルな状況になってくれるのが嬉しい。
ライの分体で成長が可能なことで、私が、生活をして成長していると周りに認識させることが出来る。寿命がわからないけど、14歳の誕生日から数えた日付を、成長させればいいだけだ。
うん。大丈夫なような気がしてきた。
きっと、大丈夫だ。
スライムだってバレたら、速攻で、全力で、逃げよう。多分、それで大丈夫だ。大丈夫だよね?
え?まただ。忘れていた・・・。
あっ・・・・。
ダメ!逃げ・・・。あっ・・・。あぁ・・・。
人を・・・。本当に、私と同じ様に、人をスライムにして・・・・。殺した。
明確に・・・。今までと違って、はっきりとイメージが共有された。
ライが苦しそうにする。
私の感情に、ひきずられているの?
ごめん。ごめん。ごめん。でも、許せない。許せない。なんで、殺すの?なんで、なんで、なんで、なんで、何をしたの?ただ、ただ、なんで?
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