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第二章 スライム街へ
第一話 後始末
しおりを挟むギルドの日本支部は荒れていた。
本部からの発表で、”情報管理部”と”スキル管理部”と”登録者管理部”だけが残されて、他が解体されることになった。主な理由は、企業からの献金を着服していた事実と、魔石の横流しの事実と、情報漏えいの事実が見つかった。特に、スキル保持者の情報や魔物の情報をプロトコル以外の方法で流出させたのが問題になった。
解体された部署を仕切っていた者たちは、多くの者が横領で当局に告発された。
それだけではなく、ギルド本部にて査問に掛けられた。日本での法律では、”白”に出来る権力を持っていても、ギルドが存在している(日本以外の)国では有罪になる可能性があり、渡航が事実上不可能な状況になっている。
50名もの人間が、査問に呼ばれた。ギルド日本支部の役員だけではなく、自衛官や現役の国会議員や大手マスコミの関係者が含まれていた。
”スライムの情報をマスコミに流した”件は、一大スキャンダルに発展した。
最初は小さな火が点火しただけだと、考えていた。
地方局に出入りしている。制作会社が出禁になり、廃業に追いやられた。畳み掛けるように、制作会社を仕切っていたプロデューサーの悪行が週刊誌に暴露された。これで、幕引きになると思われたが、止まらなかった。
ギルドは絶対に必要な組織だが、営利目的ではない。営業は必要ない。企業からの協賛も必要ない。日本の税金も必要ないと、断った。
ギルドも魔物素材や魔石を扱う財団を設立して、ギルドの運営資金の捻出を行うと発表した。国に依存しない形での運営が可能になった。日本支部の小さな問題から、世界規模の動きになった。
---
ギルド日本支部の支部長室に備え付けている電話が鳴った。スキル・登録者管理部の部長室からの内線だ。
支部長の椅子に座っていた女性が受話器を取る。
「スキル・登録者管理部の里見部長」
『・・・。支部長』
「悪かった。茜。横領の資料はまとまったのか?期限までは、まだ時間があるが、早ければ、それだけ本部が喜ぶ」
本来の業務とは違うが、情報管理部と一緒に、解体された営業課が行っていた内容の整理を行っている。実際には、企業から協賛金を受け取って、
『はい。概ねは・・・。まとまりました。それで、あのクズを殺しに行っていいですか?』
「どうした?殺す必要はないぞ?日本から出られなくなったからな。お仲間たちと、何やら動いているが無駄な努力だ」
『わかっていますが・・・。酷いです。協賛金にまで手を突っ込んでいました』
「金額は?」
『いま、千明がまとめていますが、多分数千万の桁ではなく、その上です』
「わかった。マスコミに発表する。情報管理部の部長に伝えてくれ、資料をまとめておいてくれ」
『わかりました。千明に殺されないように、円香さんの名前を出します』
「わかった。資料がまとまったら、送ってくれ」
『はい』
榑谷円香は、受話器を戻して、大きく息を吐き出す。
自衛官であり、友人の桐元孔明と上村蒼との密談を思い出す。自衛隊の腐敗に関係していた一部を粛清する。同時に、ギルドを本来の形に戻す。マスコミの一部を粛清して、ギルドに手を出せなくする。それに伴い、議員たちにも、ギルドに手を出すと火傷をすると教え込む。一度の不祥事で、ギルドをアンタッチャブルな存在にしてしまおうと考えた。
そして悪巧みは実行された。
実行された結果、自分たちが忙しくなったのだから、ある意味では自業自得だ。
部下であった里見茜の友人であり、TV局に務めていた、柚木千明を引き抜いて、情報管理部の部長に抜擢した。
さらに、ギルド日本支部や規模を縮小した。現在、兼任になっている”スキル・登録者管理部”を、2つにわける計画をしている。登録者管理部を、自衛隊の下部組織に移行する計画で進んでいる。ギルド本部からも推奨されている。登録者の個人情報は、国内で取り扱うべきだと話が進んだ。また、米軍が強く推し進めたこともあり、登録者情報は国が管理を行う。ただし、ギルドの下部組織として”登録者管理部”が設立されることに決まった。
スキル管理部は、魔石とスキルに関するパテントの管理を行う。
魔物と魔石とスキルは、ギルドで取り扱うことが国際ルールとなり、関連するパテントも同様に扱われる。
ギルドの日本支部は、元々は、営業課が多くの人員を占めていた。解散に伴い、空いた人員は、各地のギルドに転属となった。ギルド日本支部も、10名程度が働くだけになり、事務所を移転した。
『支部長。自衛隊の桐元さんが、お越しです』
「わかった。会議室・・・。黒の間に通しておいてくれ」
『わかりました』
榑谷円香は、見ていた書類にサインをした。
ギルド本部に送る書類だ。
端末を閉じて、黒の間に向かった。
「孔明。呼び出して、悪いな」
「いいさ。円香の話を聞く前に、俺から報告がある」
円香は、孔明を座らせてから、カップを2つ取り出して、珈琲を入れる。
「報告?」
孔明の正面に座りながら、持ってきた資料を孔明にわたす。
「お。これに関することだ」
円香が持ってきたのは、登録者管理部に関することだ。
「ん?通ったのか?」
「あぁ」
「早いな。議員立法じゃ無理だろう?特措法の改定か?」
「いや”解釈”で大丈夫だと言っていた。正式には、明日の閣議で決定される。草案を渡しておく、問題があれば言ってくれと・・・」
「わかった。怖いな。いくらでも解釈が成り立ってしまう」
「そうだな。この資料はFIX版か?」
孔明は、円香から渡された資料に目を落とす。
そこには、魔物の出現場所が封鎖できたときの対処が書かれている。
「本部の了承は得ている。”地域の実情に合わせて、柔軟に対処せよ”と、ありがたい言葉を貰った」
”登録制ハンター資格精度”に関する資料だ。
「円香。でも、いいのか?」
「ん?どうせ、反対しても、流れは、”狩場”としての認識になっていくのだろう?」
「そうだな。魔石の利用は、まだ限られているが、素材の利用は始まっているからな」
「あぁ封鎖は終わったのだろう?」
「終わった。しかし・・・」
「孔明の心配は解る。わかるが、流れを止められないぞ?」
円香の指摘は、孔明にも理解が出来る。
世間的に、”魔物を狩る者”を”ハンター”と呼ぶようになった。
従って、ギルドは自然と、”ハンターギルド”と呼ばれるようになる。
魔物を狩って、素材を持ち帰れば、”金”になる。魔物は、はっきりと解る”悪”なのだ。外来種(?)で在来種を駆逐してしまう。自衛官だけでは、手に負えなくなってしまった。
スキルを得た者たちを、”ハンター”として登録して、魔物を積極的に狩らせる場所も現れ始めた。
日本は、武器の携帯が不可能な国だ。ナイフなどは辛うじて携帯が出来るが、他の国ほど簡単ではない。
「そうだな。ギルドとしても、自衛隊としても、狩場を解放するのはしょうがないのか・・・」
ギルドの研究と観測の結果、魔物が産まれる場所は、3,000メートルを超える火山/休火山の火口から20キロ圏内で、人工物が少ない場所だと解った。”少ない”がどの程度なのかわか、はっきりとはしていない。自衛隊が演習を行う場所では、魔物は発見されていない。
自衛隊は、該当する場所を封鎖した。しかし、範囲が広く、山間部などは道を封鎖するだけになってしまった。
ギルドが管理する形で、狩場が開放される。強力な魔物は、火口付近で産まれる。距離が離れれば、弱くなっていく。
危険が伴う行為だが、”ハンター”たちは”狩人”と同等だとみなされた。ハンティングトロフィーを掲げる者が現れて、状況が変わった。
ハンターは、魔物を狩る者だ。狩った魔物の素材をギルドで売ることで、金銭を得る。
「でも、よく許可が降りたな?」
「俺たちか?」
「そっちもだけど、ハンター制度だ」
「”予備役登録”が効いたみたいだな」
「そうか、国防の見地から”スキルを持つ者を、他の国に取られるわけにはいかない”だな。ギルドも同じ考えだ」
「それが、家のトップには良かったようだ。実績になる」
「訓練を受けて、許可書をだして、自衛隊の予備役になるのだよな?」
「順番は逆だ。予備役になってから、訓練を受けて、許可書が発行される」
「ハンターカードとか呼ばれているのだろう?」
「あぁプレなのに、3,000名の応募があった。上は大喜びだ」
「予備役は、給料は出ないよな?」
「給与は、ないが税金の免除がある。それに、身分証明書にもなる。訓練も無料だ。ダイエットにもなる」
「そりゃぁ人気がでるな」
「そうだな。有事の時にだけ招集がかかる予備役だ。登録のデメリットとメリットを天秤にかけているのだろう。そうだ。円香。窓口はどうする?」
「異世界物を真似するつもりだ。ギルド職員を派遣するよ。あと、掲示板は必須だし、ランキング制度を作るぞ」
「わかった。わかった」
孔明は円香の話を聞いて、呆れた声で答えるが、他にアイディアが浮かばないのも事実だ。承認する様に、頷いた。
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