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第一章 スライム生活
第十一話 裏山
しおりを挟むやることは、私の中で決定した事柄だ。
そのためには、私は弱すぎる。
幸いなことに、魔物になってしまった。魔物には、日本の法律、だけではなく、世界中のどの国の法律も、適用が不可能だろう。魔物に感情があり、知恵があるとは思われていない。そもそも、弱肉強食の世界だ。いつ、どこで、殺されても不思議ではないのが、魔物の世界なのかもしれない。
せっかく作った裏庭の池。
ビオトープではないが、水草や周りの環境も整えたい。本当なら、街に出て、ジャンボエンチョーとかで買い物をすれば、もう少しだけ楽が出来るのだけど、今は難しい。
裏山で、草や木の確保をしよう。
そうだ。果実の木もあったはずだ。手入れをしていないから、わからないけど、”びわ”と”みかん”と”夏みかん”は知っている。山菜は無理だから、木だけにしよう。今度は、しっかりと根も持って帰らないと、ビオトープにならない。
果実を主に集めた。
スライムボディの移動にも慣れた。某巨人を倒すアニメに出てくるような、立体機動が出来るとは思わなかった。地面に落下してもダメージがないから、思い切ってやれる。自分の力で、風を切って移動できるとは思っていなかった。
一言で、表すと、爽快だ。木々の間を高速で移動する。徐々に、タイミングが解ってきて、木々の近くでの方向転換が出来るようになると、一気に速度が上がる。
調子に乗って、裏山の裏側まで移動してしまったようだ。木の上に上がっても、海が見えないというのは、裏側なのだろう。
裏山の裏側。お祖父ちゃんが、山を買ってから放置を続けた。時々、山に入って、木々の伐採はしていたようだ。そうしないと、山が荒れると言っていた。正しい伐採を行えば、山は恵みをもたらしてくれると言っていた。
この山は、私の物だ。だから、この山の麓には、道路を通していない。谷に流れる川の手前までが山の敷地だ。私の領地だ。
版図を示した地図は金庫に閉まってある。
山の中を、立体機動で移動する。上にも下にも楽に移動が出来る。
”ぎゃ・・・。ぐぎゃ・・・”
移動を止める。
まただ、怒りと哀しみと絶望の感情が流れ込んできて、こと切れる。命の灯がまた無残に砕けた。それから、連続で感情が流れ込んでくる。
誰が、何のために、そして、どこで!?
許せない。許さない。許してはダメだ。
『スキル結界を取得しました』
え?結界?
結界って、あの結界?
攻撃性のスキルではないが、皆の感情が私のスキルになったのなら、このスキルを使って、私たちを苦しめる者に・・・。
気持ちの切り替えを行う必要がある。蓋をして、ぶつけるべき相手にぶつけるために、私たちの気持ちを、感情を、漏らさないように、相手に伝える必要がある。
ふぅ・・・。落ち着いたかな?
どの位の時間、私は、感情の波に押されていたのだろう。
出るはずがないのに、汗や涙が出ている感じがする。心が苦しんで、悲しんだ。
空を見上げると、すっかりと暗くなっている。
2-3時間は、感情が流れ込んできた。断続的に、やってくる感情の波は、私たちの心を壊していく、感情を分離しないと、私が壊れてしまう。私が壊れたら、私たちの復讐を誰がやる。だから、私は壊れない。私は大丈夫。私の心は大丈夫だ。
落ち着いて、アイテムボックスに裏庭に移植したい木々を選別していく、果実を中心にした。
裏山には、お祖父ちゃんが作った道標が置かれている。お祖父ちゃんに教えてもらった、岩を探せば、簡単に家に帰られる。
暗い中で行ってもいいが、昼間に行おう。
今日は、お風呂に入ろう。全裸生活にも慣れてきたけど、お風呂には入りたい。
お風呂を、先に洗って、お湯を溜める。
身体は、水で流せばすぐに綺麗になる。石鹸やシャンプーを使わなくて済む。いいのか、悪いのかわからないけど、楽でいい。
お湯が溜まるのを、”じっと”見ているのも好きだ。
人だった時には、肩まで浸かるために、かなりのお湯が必要だったけど、スライムボディになったら、必要なお湯が少なくて済む。でも、湯冷めを考えて、循環口まではお湯を溜める。
ふぅ・・・。
気持ちがいい。気持ちよく感じる要素が無いのに、スライムボディでも、お風呂に入ると、気持ちがいいと感じる。暖かさを感じるのは、気のせいかもしれないけど、でも気持ちがいいのは、気持ちがいい。
いいや、考えてもわからないし、スライムどころか、魔物に知り合いがいない。人に聞いてもわからないだろう。
もしかして、寝ようと思ったら寝られるのかな?
感覚を遮断するようにすればいいの?
自分が使っていたベッドに乗って、目を瞑る。映像が流れ込んでくるけど、遮断するように考えてみると、映像が遮断された。
今度は、意識を休憩するようにしてみる。
おっ眠くなってきた。寝たら起きないと困るから、スマホのタイマーをセットする。
スマホが振動したら意識を覚醒させると、考えて意識を手放す。
---
彼女が、深い眠りに付いた。
魔物の中では、大量の経験値を得た者が行う”進化の儀”だ。彼女の中にも、進化を行うのに十分な経験が溜まっている。
通常の魔物は、無意識で”進化”のタイミングを認識しているのだが、彼女は”人工的に作られた魔物”のために、魔物が産まれた時から持っている本能が著しく欠如している。
彼女は、静かに、しかし、確実に進化する。
通常のスライムなら、4-5回は進化が発生していても不思議ではない経験値を得ている。
静かに確実に、そして、スライムらしくない進化が行われる。
しかし、彼女は進化が発生していると気がついていない。
彼女が、進化に気がつくまで、その時が来るまで、彼女に発生した物事は眠りに付くことになる。
--- 閑話休題
ん?
あっ時間だ!
今日は、ビオトープを完成させよう。
まずは・・・。え?何?魔石?
アイテムボックスの中に、知らない間に、”魔石”が大量にある。数は、数えるのも馬鹿らしくなるくらいに大量にある。大きさも、ばらばらだ。魔石の一つを取り出してみる。綺麗だ。
そうだ。魔石は、後で調べるとして、ビオトープを完成させよう。
小川から持ってきた、水草を水甕と池に入れる。
これだけでも見た目が違ってくる。
それから、裏庭の開いている場所に裏山から持ってきた果実の木を植える。
スライムボディは優秀だ。アイテムボックスとの併用で、果実は裏庭に埋めることが出来た。池の中には、井戸の水が流れ込むようになっている。常に綺麗な水が流れている。池の中に、小川から拾ってきて、軽く洗って岩を入れていく、池の中に流れが出来るようにする。流れがない場所と、緩やかに流れる場所を作る。
果実は種類でまとめる。ミツバチが・・・。あっ倉に、養蜂箱が有ったはず。お祖父ちゃん、グッジョブ!果実だから、受粉が必要だった。すっかり忘れていた。養蜂箱を、裏庭から少しだけ離れた裏山の入り口に設置する。人・・・。スライムだけど、近くは良くないと聞いた。
あと、妹が作った、鳥の巣箱があった。
ママが鳥を嫌って、設置は出来なかったけど、今なら設置しても大丈夫!移植した木の上に巣箱を設置する。
裏庭が、裏山の一部に見えてきた。
少しだけやりすぎたかもしれない。木々は、家から離したから大丈夫だと思いたい。
あっ!
森で思い出した。アメリアのシアトルに本社がある、元々は本の通販会社だった所なら、門の前に置き配をしてくれる。
私が一人で住むようになって、すぐに最大の宅配ボックスを手配した。こんな山奥まで、配達してくれるのに、再配達になってしまったらもうしわけない気持ちになってしまうからだ。
通販会社を調べて、宅配業者が置き配に対応してくれているのなら、スライムでも通販で買い物が出来る!
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