12 / 143
第一章 スライム生活
第九話 練習
しおりを挟む僕が得たスキルは、ギルドで検索を行っても”未知”のスキルのようだ。
やはり、僕だけの素晴らしいスキルなのだ。
当然だ。魔物にしてしまうという凶悪なスキルだ。もしかしたら、ギルドは、この偉大なスキル”魔物化”を知っていて、Aランクという規格外のスキルを隠しているのかもしれない。
そうなると、僕もスキルを隠したほうがいいだろう。
スキルを隠すようなスキルを取得すればいい。
なんだ、簡単なことだ。
僕には、魔物を作り出せる能力がある。
スライムを作って、殺せばいい。
どうする?
誰にも見られないほうがいいだろう。国家権力に狙われる可能性だってある。僕の偉大さが世間に知られるのは当然な流れだけど、まだ早い。大々的に発表をしないと、偉大な僕にはふさわしくはない。
そうだ、小学校とか中学校なら、虫の一匹や二匹はすぐに見つかるだろう。小学校は監視カメラが備え付けられていると言われているけど、中学校なら大丈夫なはずだ。
よし、中学校に行こう。
最小の力で、魔物化を発動しよう。
魔物なら、スキルを得られる。最弱のスライムでも問題はない。
さすがは、僕だ。
中学校で正解だ。セミやアリが大量だ。
まずは、セミを魔物化しよう。ギルドの情報では、木の棒でも大丈夫だと書いてあった。ナイフでもいいとは思ったが、ショッピングセンターでハンマーを買ってきた。力も入る。武器としては、格好は良くないけど、スライムを倒すのには丁度いい。
天才の僕は、魔物によって最適な武器を選択することができる。
だから、スライムにはハンマーだ。大きいものは、目立ってしまって、国家権力が僕を見出して、国会機構に組み込むだろう。優秀な僕だから、間違いではないが、僕は、そんな小さなことをやりたいわけではない。偉大な僕は、皆を導く使命がある。その時まで、見つかるわけにはいかないのだ。だから、大きいハンマーではなく手頃なハンマーを購入した。
セミを魔物化する。
力の加減が難しい。でも、天才な僕ならすぐにマスターする。
ほら、うまく出来た。気絶しないで、魔物化できた。
木に止まっていたセミが、スライムになって地面に落ちる。
それだけで死んでしまった。
ん?なんだこれは?
スライムが死んだ場所に光る石が残った。ハンマーを振り下ろすと、砕ける。
スマホで検索する。
”魔石”と呼ばれている。そうか、”魔石”だったのだな。魔石の利用方法は、まだ見つかっていないようだ。ただ、魔物が魔石を食べると、強化されるようだ。見つけたら、その場で壊しておくほうがいいようだ。別に、魔物が吸収しても、僕なら勝てるし、倒せる。でも、リスクは少なくしておいたほうがいい。
---
彼は、スキルの練習と、スキルを得るために、黙々と昆虫を魔物にして虐殺している。
ギルドを調べれば、”スライムからスキルを得られたことがない”と、いう情報に触れられるのだが、彼は、”魔物を倒せばスキルが得られる”と、いう情報だけを信じている。情報を自分に都合が良いように解釈して、それ以上は新たな情報に触れようとしない。
スライムはたしかに最弱な魔物だ。彼が、スキルで作り出している魔物は、彼との繋がりを求めて、途切れされて、感情が彼らと同一の魔物に流れていく、彼が使っているハンマーにも、そんな魔物たちの断末魔が、感情の断片がこびりついていく。
魔物や魔物に関する事柄は、全てが解明されているわけではない。世界規模で手探り状態なのだ。
皆が、情報を共有し、情報を求めて、そして、新たな発見の為に、最前線に向かっている。新しい、魔物。新しいスキル。そして、未知との遭遇を望んでいる。
彼は、既知の情報を自分なりに解釈して、全てを知った気持ちになっている。愚かな行為だと、誰からも指摘されずに、虐殺を繰り返している。
20匹の昆虫を、スライム化してハンマーで殺した時に、ハンマーが微かに光った。
彼は、そんな些細な変化には気が付かない。
気が付かないままに、次の虐殺を始める。昆虫たちは、スライムになって自我がはっきりとする。言葉の理解が出来るわけではないが、感情がはっきりと認識できる。
彼は、虐殺を辞めない。次々に、昆虫たちを殺していく、ハンマーでの叩き方を変えて、外側から死なないように痛めつけてから殺す場合もあった。
殺される昆虫たちは、彼に憎しみを向ける。スライムになったことに怒りはない。感謝する者も存在する。しかし、彼は昆虫たちをただ殺すためだけのためにスライムにしている。感謝の感情が、受け取ってもらえないばかりか、すぐに殺されそうになる。逃げるにも逃げられない。昆虫の時には可能だった動きが出来ない。そして、彼が振り下ろすハンマーに叩かれてしまう。感謝の感情が、怒りに支配される。
スライムの残滓がこびりついたハンマーは、意味もなく殺されたスライムの無念を、恐怖を、怒りを、自分たちと同じ状況になった仲間に伝える。そして、破壊されるはずの、魔石を吸収して、仲間に託す。ハンマーが、付喪神のように意思を持った存在に変わり始めているとは、彼は知らない。今後も彼は気が付かないだろう。
無残に殺された仲間たちの感情と共に、彼への憎悪が仲間に届けられる。
彼が、この短時間になし得たものは、彼に向かう憎悪が増えたことと、仲間への力の譲渡が行われたことだ。
彼に殺されたスライムたちは、仲間の魔石を仲間に届けようとした。そして、思いを通して、仲間に魔石を届けることに成功する。静かに行われた、この世界で初めてのことは、彼が成し得たことでは、最大の功績だろう。
ただ、それは彼にとってプラスなのか、マイナスなのか、そして、人類にとっては・・・。まだわからない。
---
おかしい。
100匹近く、スライムを殺しているのに、スキルが得られない。
さっきから、ハンマーが重く感じる。
スマホを確認すると、4時間くらいやっている。
しまった。早く帰らないと、ママに殴られる。
スキルは、後で確認すればいい。多分、僕が偉大すぎて、スキルを得るための経験値が必要なのだろう。
掲示板でも、スキルを得る条件はわかっていないと書かれていた。
家に変えると、ママはいなかった。
リビングのテーブルにメモが残されていた。”勉強をしなさい”と、何かの会合があるとだけ書かれていた。食事は、どうせレトルトか冷凍食品だ。僕にも用意が出来る。
動いていたから疲れた。
ご飯を食べて、寝よう。
家にあるパソコンは、ママがロックして使えない。
でも、僕にはスマホがある。今日から、動画も見られるし、調べ物も困らない。宿題も、大丈夫だ。
そうだ、今日は塾がある日だ。
眠いけど、塾には行かないと、ママに殴られる。塾から、ママに連絡が行ってしまう。
スマホのタイマーをセットして、仮眠をしよう。
ママがテーブルに置いていった500円を使って、コンビニでおにぎりでも買って食べれば、塾の間くらいは大丈夫だ。天才の僕には、塾は必要ないけど、塾でしか学べないこともある。それに、塾にはアイツらがいない。優秀な僕を羨む者はいるけど、バカにする奴らは存在しない。
塾の時間は、すぐに過ぎてしまった。
家に帰るがママは居なかった。
会合と言っていたが、奴の所に行ったのだろう。
全ての始まりは、奴だ。僕に暴力を奮った。僕が、ママに言っても、ママは奴の味方だ。
ヘラヘラ笑うだけで、中身がまるで成熟していない。要領がよくて、学校の勉強だけは出来た。東京の大学に進んだ。僕なら余裕で入られる学校に、ギリギリの合格だ。ママも、パパも、喜んだ。
奴のせいだ。
全部、奴のせいだ。奴が居なかったら!!
そうだ、ママは奴を連れて帰ると言っていた。
ママと奴を一緒に魔物化しよう。ママも、奴も、僕には必要ない。奴と、ママを、かばうのなら、パパもいらない。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
俺の召喚獣だけレベルアップする
摂政
ファンタジー
【第10章、始動!!】ダンジョンが現れた、現代社会のお話
主人公の冴島渉は、友人の誘いに乗って、冒険者登録を行った
しかし、彼が神から与えられたのは、一生レベルアップしない召喚獣を用いて戦う【召喚士】という力だった
それでも、渉は召喚獣を使って、見事、ダンジョンのボスを撃破する
そして、彼が得たのは----召喚獣をレベルアップさせる能力だった
この世界で唯一、召喚獣をレベルアップさせられる渉
神から与えられた制約で、人間とパーティーを組めない彼は、誰にも知られることがないまま、どんどん強くなっていく……
※召喚獣や魔物などについて、『おーぷん2ちゃんねる:にゅー速VIP』にて『おーぷん民でまじめにファンタジー世界を作ろう』で作られた世界観……というか、モンスターを一部使用して書きました!!
内容を纏めたwikiもありますので、お暇な時に一読していただければ更に楽しめるかもしれません?
https://www65.atwiki.jp/opfan/pages/1.html
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開
俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~
シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。
目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。
『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。
カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。
ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。
ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。
【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる