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序章

第三話 スキル

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 怖い。怖い。怖くない。怖くない。怖い。怖い。怖くない。僕なら・・・。そう、僕は、選ばれた存在だ。

 一般の人なら見つけられない。コボルトを見つけた。これで、僕の目的が果たせる。

 犬と言うよりも、出来損ないの狼男だな。
 出来損ないなら、完璧な僕が負けるわけがない。理科準備室は、入られなかったけど、調理クラブに入られて、包丁も借りてきた。ナイフも有った。そして、胡椒と一味を振りかければ、犬科なら撃退できるだろう。やはり。僕は天才だ。

 まずは、真っ直ぐな場所に誘い込む。
 そこで、一味をぶつける。怯んだ時に、胡椒を鼻にぶつける。その後で、包丁で刺せば、僕の勝ちだ!

 まだ、コボルトは僕の存在に気がついていない。イヌ科のクセに・・・。犬?

「そうだ!」

 おっと、声は出さないほうがいい。今、コボルトが僕の方を見た気がした。勝つのは確定しているが、用心したほうがいいだろう。

 天才な僕は、いい方法を考えついた。僕が自ら”囮”になるのは現状ではしょうがないとしても、襲われるのは、僕である必要はない。そうだ、僕は、天才で世界を救う英雄で勇者だ。

 この近くに、アイツらの一人の家があって、庭に犬を放し飼いにしている。アイツらが、面白半分で僕に、偉大なる僕に、その糞犬をけしかけたから覚えている。あの犬を、コボルトの餌にすればいい。そうして、俺がコボルトを倒せばいい。なんて、頭がいい作戦だ。あの糞犬にも仕返しができる。俺は、コボルトを倒せる。糞犬がそれで怪我をしてしまっても、偉大な僕の糧になったのだろう。喜ぶはずだ。

 道は、覚えている。
 復讐を考えて、何度も道を調べたから覚えている。

 まず、コボルトを誘導しないとダメだな。
 それとも、糞犬を誘導するほうがいいか?あの犬は、それほど賢くないから、柵がなくなれば逃げ出すに決まっている。

 やはり、コボルトを誘導するほうがいい。

 どうする?

 遠くから石を投げよう。僕なら、50m先からでも当てられる。町中で、僕に向かってきて貰わないと困る。10m・・・。いや、20mくらいからの距離で十分だろう。石に、僕の匂いが付着しているだろうし、偉大な僕を狙ってくるに違いない。

 よし・・・。いや、今は、タイミングが悪い。風・・・。そうだ、風向きが悪い。それに、僕が走る方向を確認しておかないと、僕にミスはないが、余計な横入りがあると困る。そうだ。糞犬への復讐を兼ねているのだから、しっかりと転身する方向を考えないとダメだ。
 やはり、僕は天才だ。こんなギリギリになっても、いろいろ気がついて、訂正ができる。

 ふふふ。
 そうだ、僕は天才だ。偉大な人物になって、愚民を導かなければならない。決定事項だ。

 コボルトにぶつける、手頃な石が見つからない。
 もう少しだけ探したほうがいい。天才の僕にふさわしい石が存在しているはずだ。

 ほら、妥協しなくてよかった。
 僕にふさわしい石だ。風向きは大丈夫。にげ・・・。誘導する方向も大丈夫。距離は、離れた・・・。違う。このくらいの距離で大丈夫だ。思いっきり投げれば届く、そのために、石を探した。

 さぁやるぞ。
 コボルトに石を投げれば、あとは糞犬の所まで誘導すればいい。糞犬とコボルトが戦っている最中に、天才の僕がコボルトの背中に、持っている包丁を刺すだけだ。

 ん?風が弱くなった。
 もう少しだけ待ったほうがいいな。オリンピックの選手でも、風が悪ければ、投擲を躊躇する。それと同じだ。

 落ち着け、落ち着け。
 スキルを得て、僕は、僕が天才なのを証明すればいい。

「あ!」

 コボルトに気が付かれた。
 そうだ、石を投げて牽制すればいい。

 石は、コボルトの足元に転がった。狙い通りだ。
 僕の方を、コボルトが見た、どこかのサイトで”魔物”は、攻撃してきた者を狙うと書かれていた。これで、誘導ができる。

 コボルトが追いやすいように、後ろを振り向きながら、走る。
 振り向いた時に、石を投げれば、コボルトが、”なんとかの一つ覚え”のように僕を追ってくる。僕の計算に間違いはない。

 次の角を曲がって、2つ先の分岐を右に行けば、目的地だ。
 僕が行けば、糞犬は僕に吠える。前に、門が開いている時に、僕に噛みつこうとした。

 大丈夫だ。僕の計算に狂いはない。

 よし、コボルトとの距離は大丈夫だ。

 右に曲がる。
 糞犬が居る家が見えた。

 門には鍵が掛かっていないのは知っている。簡単に、開く。僕は、走りながら、門を開ける。

 思った通り、糞犬は僕を攻撃しようと飛び出してきた。
 糞犬に石を投げつける。よし、思った通りだ。僕の攻撃で、糞犬が怯んだ。今まで、相手にしていなかったから、僕が攻撃してくるとは思っていなかったのだろう。うなり声で、僕を威嚇する。

 クハハハ!!!

 コボルトが、糞犬の横を通り過ぎた時に、糞犬は知能が足りていないのだろう。コボルトを僕と勘違いして、攻撃した。

 コボルトの足に噛み付いた。

 コボルトも、反撃を開始した。

 よし、よし、僕の考えていた通りの展開だ。
 糞犬がコボルトにダメージを与えている。

 まだだ。コボルトの体力がなくなってきた所で、僕が攻撃する。一撃で決めればいいだけだ。

 どのくらい時間が経ったのだ?
 数秒なのか?数分なのか?数時間なのか?

 僕は、包丁をしっかりと握る。

「あっ」

 糞犬が噛んでいたコボルトの足を離した。
 何をやっている。しっかりと、僕の代わりに攻撃をしろ。前足での攻撃にも力がない。

 糞犬が倒れた。

 今だ!

「うぉぉぉぉぉぉ」

 包丁が、肉にめり込む感触が手に伝わる。

「死ね。死ね。死ね。死ね」

 僕の華麗な包丁さばきで、コボルトを攻撃する。何度も、何度も、何度も、コボルトに包丁を突き刺す。
 糞犬がどうなっているか、なんて確認する必要はない。僕が、僕が、僕が、僕が、勝者だ!

「はぁはぁはぁ」

 やった・・・。僕は、魔物を倒した。

 包丁は、糞犬の血で汚れている。この場所に捨てていくわけにはいかない。持って帰ろう。

 あれ・・・。足に力が入らない。
 大丈夫だ。コボルトから攻撃は受けていない。手に付いたのは、糞犬の汚らわしい血だ。高貴な僕を汚した罰だ。死んで償っただけだ。

 コボルトが、僕が見ている前で、黒い煙になって消えた。

”スキル:魔物化を得ました”

「ふふふふ!はははは!やったぞ!!!!」

 僕は、スキルを得た。
 僕の偉大な知識の中にも存在しない。未知のスキルだ。

 確か・・・。

「スキル、魔物化」

 これで・・・。

---
スキルランク:A
 魔物以外の生物を魔物にする。

 レベル1:スライム化

---

 ランクA!!!!!
 素晴らしい。ランクAは、1%未満のはずだ。僕が選ばれた存在だということの証左だ。

 さすが、僕だ!スキルの使い方がすぐにわかった。
 そうか、生物を魔物に変異させるスキルだな。これは使える。あいつらを呼び出して、魔物スライムにして殺そう。そうしたら、僕はまた新しいスキルが得られる。そうだ、あいつらを僕の・・・。僕の糧にしよう。貸しも返せて、あいつらも喜ぶだろう。

 そうだ。
 スマホで呼び出そう。連絡先は、聞き耳を立てていたから覚えている。天才の僕が間違えるわけがない。

 全員を呼び出して、順番に殺そう。
 そうだ。目の前で、殺されていく、連中をみながら絶望すればいい。

 学校に呼び出して、殺そう。
 塀の外からスキルを発動しよう。有効射程の問題があるけど、大丈夫だろう。ダメなら、徐々に近づけばいい。学校の外で、スキルを使って、魔物になったあいつらを殺す。学校の監視カメラに映っても、僕は魔物に襲われそうになって、倒したといえる。それなら、スキルを得ても、僕が退学になる心配はない。不可抗力だ。
 なんて素晴らしい作戦だ。やはり、僕は天才だ。
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