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第八章 王都と契約
第十六話 契約の話は?
しおりを挟むローザスとハーコムレイとアッシュと契約を交わすことに決まった。
ギルドに振ろうかと思ったがダメだった。
神殿の所有者は対外的には、ギルドだけど実質は俺が所有することになっている。ローザスやハーコムレイが、ギルドと契約を行ってしまうと、ミヤナック家や王家以外の貴族がギルドに圧力を掛けた時に、突っぱねられないと説得された。
残念な事に、ハーコムレイの言っていることが正しいように思える。
ギルドの活動を考えれば、貴族からの申し出を断るのは難しい。神殿に戻ってからの調整にはなるが、所有しているのは俺でギルドは管理を委託されている形にしたほうがいいような気がしている。
神殿に帰ってから・・・。
ん?
必要ないのか?
そもそも、神殿で集団戦の訓練は難しい。出来ないとは言わないが、訓練には向いていないと思う。
確かに、いろいろなシチュエーションは用意出来ているけど、元々は単体や少人数で訓練をするために用意した場所だ。訓練をするために、人が多くはいるのなら、神殿の力が増すから歓迎だ。訓練になるか解らないけど・・・。
皆が使っている場所は、公開するのが決まっている。隠す必要はない。訓練に使えるようになっている。勝手に使ってもらえばいい。俺が許可を出すのは、神殿に入るための許可くらいだ。秘匿しなければならないのは、バックヤードに作られている。眷属たちが過ごしている場所だ。あそこは、秘匿対象だ。入ることが出来るのも、俺とマヤとミトナルとロルフと眷属だけだ。
ローザスとハーコムレイも解っているのだろう?
それでも、許可を求めて契約を行うのには、何か狙いがあるとしか思えない。
「ローザス。ハーコムレイ。神殿を使って、訓練を行うのは、何が狙いだ?」
面倒だから、直球で聞いてみる。
「っち」
ハーコムレイが舌打ちした。やはり、”訓練”以外にも狙いがあるのだな。
ローザスが面白そうな表情をするので、ハーコムレイが提案した内容なのだろう。どこまで決めてきているのか解らないけど、神殿は調査していると考えてよさそうだ。
内部には、入り込めていないのは確定だけど、メルナの周辺から情報を得ているのだろう。
「ははは。リン君。簡単に言えば、戦闘訓練よりも、神殿勢力の戦力・・・。そうだな、言い方を変えれば、力量を知るためだよ」
「ローザス!」
ローザスが手を上げて、ハーコムレイを制する。
戦力?力量?
ますます意味が解らない。
ローザスの説明は、これで終わりか?出ている飲み物に手を伸ばしている。ローザスを見つめるが、説明は終わったようだ。しょうがないので、ハーコムレイを見る。
「はぁ・・・。リン=フリークス」
ハーコムレイが、ローザスがお菓子に伸ばした手を叩いてから、俺をしっかりと見据えてきた。
「・・・」
どうやら、ハーコムレイが説明を行ってくれるようだ。
「わかった。最初から説明をする」
諦めてくれて嬉しい。
しっかりと効かないと頷けないことだ。
それにしても、いつの間にか、ハーコムレイとローザス以外は居なくなっている。
護衛が居なくなっていいのか?
俺は気にしなくてもいいな。そもそも、ローザスかハーコムレイが下げさせたのだろう。
「頼む」
「リン=フリークス。神殿には、お前の眷属が居て、防衛を行っている。そうだな?」
「あぁそれだけではないが、眷属が防衛を担っているのは・・・。たしかに、そうだな」
「その眷属は、魔物で、簡単に言えば、ネームドに当たる」
段々、ハーコムレイが何を言いたいのか解ってきた。
「あぁ」
「リン=フリークスや、ギルド勢力が、外部に力を示すようなことはないと思うが、危険視される前に、戦力の把握が出来れば、対処の説明ができる」
”示す”は難しいが、ギルドや俺が、外部に向かって宣戦布告することはない。
どこかに・・・。具体的には、アゾレム領に攻め込もうとは思わない。
勝てるだけの戦力は持っているし、実際・・・。勝てると思う。しかし、勝ったらどうする?俺の仲間や眷属に、犠牲がでる可能性だってある。悔しいけど、立花たちもチート能力を持っている。アイツらが地味な訓練をしているとは思えないが、俺よりも優秀なスキルを持っている。十全に使えなくても、俺の眷属なら倒せるくらいのスキルだ。
「そこが解らない。戦力の把握?対処の説明?」
「戦力の把握は必要だろう?実際に、訓練を行っていれば、大凡の戦力の把握はできると考えている」
「そうなのか?」
「そういう物だと思って欲しい。騎士が100名で対処できるネームドが1体いるだけなら脅威ではないが、騎士が10人で対処できるネームドが10体居るのは、脅威になりえる」
説明を諦めた。為政者ではない俺には解らない事かもしれない
「・・・。なんとなくは、理解ができた。例えばの話・・・。騎士1000人でも対処が難しいネームドは?」
騎士の力量は解らないが、以前に聞いた話では、ヒューマでは多分10人の騎士が必要だろう。
ヒューマが100人居ても、ブロッホには敵わない。ブロッホが、本気を出したら相手にもならない。らしい。
ブロッホが戦えるのは、ワイバーンくらいだ。ブロッホが呼び出した眷属である、レッサードラゴン。ワイバーンと同等だと聞いた。アウレイアだと、ワイバーンと相性がよくて、数体と戦えるらしい。アイルも、1体なら余裕と聞いた。リデルは無理だと聞いた。元々は、戦闘が難しい種族だからしょうがない。他にも、ヴェルデやビアンコやジャッロだと、1対1は無理で仲間と連携すれば戦える。ラトギで、ギリギリだと教えられた。
「ははは。それは、脅威でもなんでもなく、畏怖の対象だ」
「リン君。今の話では、”存在する”の?」
「うーん。騎士の強さが解らないけど、そうだな・・・。ローザス。ワイバーンは、レッサードラゴンという扱いでいいのか?」
「ん?ワイバーン?」
「うん」
「ワイバーンは、ドラゴンだろう?」
「うーん。そのワイバーンを倒すのに、騎士は?」
「・・・。ハーレイ?」
「・・・。最低で5名で、スキルを持つ者が5名は必要だ。地上に降りてこないと何もできない」
「弓は?」
「・・・」
騎士の強さは、大凡、ラトギだと思えばいいようだ。
ラトギでは、ヒューマには勝てない。そのヒューマは、ブロッホに絶対に勝てない。
ヒューマが100人集まっても、ブロッホがドラゴンになって、制約を外した状態では手も足も出ない。
「わかった。それなら、さっきのローザスの答えには、”居る”と答える」
「・・・。リン=フリークス。一応、聞いておくが、単体か?」
「今は、単体だ。しかし、ブロッホは、同種を連れて来ると言っている」
「ねぇリン君?そのブロッホって君が名付けたの?」
「あぁ」
「聞きたくないけど、種族は?」
「あぁ・・・」
「リン=フリークス。秘匿情報なら、言わなくてもいい」
「いや、ルナもアデレードも知っているから・・・。別に、俺に不都合はない。秘密にもしていない」
「それなら!」
「やめ」「ブロッホは、黒竜。ブラックドラゴンだ」
その目は辞めて欲しい。
ローザスが聞きたいと言ったのだろう?
確かに、ハーコムレイが何かを言いかけたけど、無視して言い切ったけど・・・。
沈黙が怖い。
「リン君。ブラックドラゴンと聞こえたけど?」
「そういった。ブロッホは、ブラックドラゴンだ。俺が名付けた」
「リン君が主?」
「そうなる。俺に従ってくれている」
「普段は、どうしているの?神殿に居るの?」
「普段?あぁブロッホは、神殿には居ない」
「そう・・・。それなら?」
ハーコムレイが安心した表情を見せる。
「ブロッホは、メルナの邸に居てもらっている。俺との連絡係だ」
「え?ドラゴンが?」
「あぁそうか、ブロッホは、人の姿になっているから、メルナに居ても解らない」
暫く、ローザスからブロッホの質問をされたが、ハーコムレイは黙ったままだ。
「ローザス!」
「そうだな」
二人は俺を見て、何かを諦めたような表情をする。
別に、王国を攻めようなんて考えていない。
むしろ、攻め込まれないようにするので精一杯だ。
おかしい。
村人が欲しいという話をしに来たいのに、何か違う方向に話が進んでいる。
ナナたちの方は、どんな話になっている?
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