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第八章 王都と契約
第十話 現状の確認(2)
しおりを挟むハーコムレイは、ローザスを完全に無視して、俺の前に座る。
そして、持っていた書類を俺の前に出してきた。
かなりの分量がある。
全部を読むのは面倒に思えてしまう。
「これは?」
目の前に置かれた書類の束をペラペラと捲る。
貴族や商人の情報だとはわかる。俺が知っている貴族家は少ない。そもそもの話として、俺が知っている貴族家はアゾレムを除けば、神殿にいる者たちに関係する貴族家だけだ。
ハーコムレイが説明を始めてくれたが、簡単にまとめられていると言われている書類は、説明を聞いても、よくわからない部分が多い。
書類の内容の理解は進んだ。内容も、質問を重ねる事で、把握が出来ている。それでも、根本の理由が解らない。書類は国家機密だと思える内容を含んでいる。そんな書類を、俺に見せる理由がわからない。
それに・・・。俺は、貴族同士の揉め事に首を突っ込むつもりはない。
テーブルの上に置かれている書類をざぁっと読んでしまったが、読んだ後で後悔した。
ニノサはこんな事を調べたのか?裏帳簿だけで十分なのに・・・。
なんだよ。貴族家の当主が囲んでいた女性を息子に与えた。お古を与えられたと考えた息子は、女性と子供を奴隷に落して、父親の前で殺した?これが、貴族の実体なのか?それとも、腐った貴族ではこんな蛮行が普通なのか?
「リン=フリークスの・・・。違うな、ニノサ殿が揃えた情報を元に精査した情報だ。情報の根本部分は、お前たちが相続していることになっている」
情報の中身も衝撃だが、情報の取り扱いがもっと衝撃的だ。
俺に・・・。ハーコムレイの言い方では、俺とマヤに情報の所有権がある。らしい。意味がわからない。
「え?」
既に、俺の手から離れて、ハーコムレイに渡っている情報だ。どう使おうと、俺は”関係がない”と思っていた。
「お前や妹殿に関係する情報はなかった。一応、お前の確認が必要だと思い持ってきた。一部の情報は、既に使わせてもらった。事後承諾になるが、認めて欲しい」
俺の驚きを”俺とマヤの情報”が含まれていたのかと勘違いしたのか、ハーコムレイは情報の中に、俺とマヤに関わる情報がないと説明をしてくれた。
情報の精査をハーコムレイがしていたのか?
俺とマヤに関係する情報が無いのなら、俺が改める必要は少ない。皆無だと考えている。
「情報の使い道は、別に構わないが・・・。俺が確認する必要があるのか?」
事後承諾も必要がない。
俺に確認が必要になるような内容なのか?俺もマヤも関係していないのなら、ハーコムレイたちが好きに使ってくれていいと思っている。
それに、既に報酬を貰っている。
それもあって、情報の価値以上の物が存在していても、それはハーコムレイたちの努力の賜物であって、俺が報酬を要求するような物ではない。
「あるから持ってきた。支払いにも関係する」
「あぁ・・・。情報は、好きにして欲しい。俺の確認は必要ない。ニノサとサビニが集めたものだ。使える者が有効に使ってくれる方が本人たちも喜ぶだろう」
「・・・。わかった。ローザスもいいな」
「もちろん。リン君。それで、神殿の話を聞きたいけど、いいかな?」
ローザスが、書類の束を横に避ける。
俺は、別にそれでもいいとは思うが、ローザスが書類を避けるのは違うと思う。ハーコムレイの視線が、ローザスに注がれている。睨んでいると言ってもいいと思う。ローザスは、ハーコムレイの視線に気が付いているとは思うが、無視することにしたようだ。
「・・・。神殿の何を聞きたい?」
「まずは、何ができる?」
ローザスの好奇心を満たすのが目的なのか?
「ん?前に説明をしたと思うが?」
説明は、以前にしている。
マガラ神殿は、メルナとアロイを繋ぐことができる。それで十分だと思っている。内部に、都市が出来るようにはなっているが、神殿は最初から”こう”なっていたと説明をする予定にしている。
「リン君。以前の説明では、”マガラ神殿を安全に越えられる”とだけ聞かされている。現状の説明には、足りていないと思うけど?」
”反論”とは思わないけど、俺がしている説明だけでは、カバーが出来ない状況にはなっていないと思う。
「・・・。そうだな。アロイ側に貰った土地に村を作った。村長は、ナナを考えている。あぁローザスとハーコムレイには、アスタの方がいいのか?」
ナナが作った、”フリークス村”の承認を得なければならない。
簡単に説明をしておけばいいだろう。
「リン君。アスタ殿の名前は、重要ではない。まずは、村を短時間で作ったのは、神殿の力なのか?」
確信に近づいたのか、ローザスは興奮する。
何を聞きたいのか、はっきり言ってくれた方が嬉しい。貴族的な考え方や会話の流れを期待されているようで気持ちが悪い。俺に、何を求めているのか?
神殿の力を、濁した形にして置いたほうがいいだろう。
ローザスやハーコムレイが敵に回るとは思えないが、状況が変われば、敵味方も変わってしまう。
「俺たちの努力では納得しないよな?」
ごまかしきれるとは思っていないが、ささやかな抵抗を試みる事にした。
「ははは。”リン君たちの努力”と来たか・・・。どうする?ハーレイ?」
ローザスは、俺の意図が解ったようだ。
ハーコムレイも同じように、意味が解ってくれたようだ。
「リン=フリークス。”努力”と言うのなら、”努力”でいい。外部には、”言い訳”が出来るようにして欲しい」
ハーコムレイは、額を指で叩きながら、俺に話しかけてきた。
俺の言っている内容が解ったうえで、その話にのっかってくれるようだ。
”努力”には、いろいろある。
それに、”俺の努力”ではなく、”俺たちの努力”を伝えたのがよかったのだろう。
ハーコムレイとローザスが本当に知りたいと思うのなら、神殿に身を寄せている妹に聞けばいい。
二人には、全部ではないが説明している。
ローザスもハーコムレイも、俺が神殿に身を寄せている二人には話をしていると感じたようだ。
「”言い訳”?」
”言い訳”?
必要ないと思っていた。
「そうだ。無理筋でもいい。強弁が出来るような”言い訳”を用意しておけ、一日で、”城塞”が出来上がるのは、異常だ」
ハーコムレイに指摘されて納得した。
そもそも、ハーコムレイが、”村”のことを知っているのが・・・。そうか、既に情報が伝わっているのだな。
他の貴族にも伝わっていると考えた方がいいかもしれない。
”言い訳”は、神殿に戻ってから、そういうのが得意な人物に考えてもらう事にしよう。
「そうか・・・。”努力”ではダメなのか?」
「ダメだ。それと、その”努力”だが、離れた場所・・・。そうだな。具体的には、王都の近くに、村を作ることはできるのか?」
考えたことが無かった。
確かに、王都の前に一晩で突然城塞村が出来たら大事だ。
支配領域にしかできない。
正直に答えてもいいだろう。
俺は、侵略は考えていない。
攻め込まれたら撃退はするが、こちらから”喧嘩を売る”必要はないと思っている。どうぜ、神殿が目立ち始めれば、勝手に攻め込んでくる。
「できない。あれは、神殿が領有している必要がある」
「領有?」
「俺にも、理屈は解らない。ただ、俺の持ち物だと認識された時点で、”努力”が行えるようになった」
「そうか?もし、リン=フリークスに王都の中に土地を与えたとしたら、その”努力”は有効になるのか?」
「解らない。多分、ダメだと思う。距離があることや、神殿に隣接していないとダメだと思う」
「そうか・・・」
「ねぇリン君。”もし”だよ。”もし”メルナから王都に繋がっている道を、リン君に与えると僕が宣言したらどうなる?」
ローザスが、とんでもない事を言い出した。
確かに興味がある。
それに、王都に”ゲート”の作成が出来たら、電撃作戦とか面白い事が出来てしまう。
ハーコムレイが頭を抑えていることから、ローザスの思いつきのようだ。
実現は難しいだろう。
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