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第七章 神殿生活

第十八話 出立?

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 俺の前で、王都に出立するはずの二人が見苦しい抵抗をしている。

「アデー。ルナ。そろそろ、あき」『旦那様』

 急に、ブロッホが割り込んできた。

「すまん。少しだけ席を外す。アデー。ルナ。でも、本当に、王都に行かないのなら、俺がサリーカと行くからな」

 会議室に眷属を連れ込んで、戯れている者たちに、席を離れると告げて、部屋を出る。

『どうした?』

 ブロッホが慌てるほどのことが発生したのか?
 それとも、他の・・・。

『渓谷に人を捨てていた一団を捕えました』

 どういうことだ?
 ロルフから、神殿に人が落ちてきたと報告があった。
 関連どころか・・・。本命を釣りあげたのか?

 ブロッホの報告では、新たに眷属になった者たちが不審者を見つけた。そして、不審者たちが、マガラ渓谷に積み荷を捨てているのを見た。積み荷を調べたら、人だった。それで、ブロッホが捕縛の指示を出した。
 大筋の内容だが、問題にはなりそうにない。
 ブロッホが慌てたのは、人には法があることを思い出して、俺に報告をしてきた。事後報告になった事を謝っていた。

『解った。セバスチャンに引き渡して、尋問を頼んでくれ』

『かしこまりました』

 情報が引き出せればいい。
 引き出せなければ、殺してしまう方がいいのか?

 ひとまず、地上に戻るか?

「リン!」

 ミトナル?

「ミル?どうした?」

「上に戻るの?」

「ブロッホが不審者を捕えた」

「そうなの?リンが対応しなくてもいいと思う」

「え?」

「ブロッホに、処分を指示するか、メルナの屋敷に対応を命じればいい」

「・・・」

「リンは、神殿の主。全部、リンが見て、判断をして、対応する必要はない」

「ミル?」

 怒っている?

「皆、リンに甘えている」

「そんなことは・・・」

「そう。リンなら、そういうと思った」

「ミル。俺は・・・」

 甘やかしている?
 そんなことはないと思う。
 俺は、俺が・・・。

「リン。リンにしか出来ないことをやろう。王都に行くとか、ルナやサリーカに任せればいい。行かないのなら、私が行く」

 俺にしか出来ないことは、多くはない。
 俺の代わりに神殿の管理は、ロルフができる。屋敷の管理人には、セバスチャンが居る。眷属たちの管理は、ブロッホとヒューマに任せておけば大丈夫だ。神殿の内部は、ギルドに任せると決めた。誰がイニシアティブを取るのか解らないが、ギルドの責任者はナッセだ。廃墟の森は、今後の問題だが、最初はギルドに任せておけばいいだろう。アロイ側の・・・。

「そうだな。ミル。マヤは?ロルフと一緒か?」

 ミトナルの言い方は、突き放しているようにも聞こえるが、俺は自由に動いていいと言っている。

「呼べばすぐに来る」

「俺とマヤとミルで、ナナの所に行く」

「うん。わかった」

 皆が居る部屋に戻って、アロイに行ってくると告げる。

 ルアリーナが付いてくると言ったが、今回は遠慮してもらった。
 ナナに状況の説明をしなければならない。その上で、今の店を畳んで協力して欲しいとお願いをしなければならない。

 マガラ村に繋がるゲートで待っていると、妖精のマヤとミトナルが揃って来た。

「リン」

 先に到着したのは、マヤだ。
 俺の肩に乗った。護衛として、通常のサイズになっているアウレイアとアイルが付いてくるようだ。よく見ると、リデルも一緒に居る。さらによく見ると、ジャッロとヴェルデとビアンコとラトギも着いて来ているが、角を曲がった所で待機している。
 呼ばれたらすぐに出て来るつもりのようだ。

「リン。どうする?」

「流石に無理だろう?」

「やっぱり?」

「ミル。大丈夫だと思うのは、アウレイアとアイルでもギリギリだと思うぞ?リデルは、アイルの上で、マヤと一緒ならごまかせるか?」

 考えてみても、無理だ。
 でも、その無理な状況をナナに見せる事で、”状況を把握してもらいたい”というのが本音だ。

「大丈夫」「大丈夫」

 マヤが肩の上から大丈夫だと言って、ミトナルが左側から大丈夫だと言っている。
 何が”大丈夫”なのか解らないが、この状況は、絶対にダメだと思う。

「わかった」

 ダメだと思うが、ダメでも対して困らない。
 それが俺の答えだ。

 どうせ、アロイとは敵対する。
 それが遅いか早いかの違いだけだ。新しく眷属になった者たちを、森に配置する。マガラ村を守るような戦い。防衛戦が発生したら、ジャッロとヴェルデとビアンコとラトギを表に出してもいい。俺の眷属だと言えば、いいだけだ。その時に、俺のジョブを公開してもいい。
 立花たちには隠しておきたいが、無理に隠す必要もない。

 それに・・・。
 情報の漏洩は、考えても仕方がない。俺の事が、立花たちに伝わっていると思って行動するほうがいい。知られていないと思って行動したら、落とし穴に気が付かない可能性がある。情報戦は、貴族アゾレムの方が上だろう。俺たちは、確かに、王家や辺境伯と繋がっているが、奴らは裏の人間とも繋がっている。他にも、聞いた話では教会との繋がりもあるだろう。

 ゲートを抜けて、マガラ村に移動した。
 誰も居ない綺麗な村は、気持ち悪い。早く人が住むようにしないと、本当に気持ちが悪い。

「リン?」

「あぁ誰も居ないと気持ちが悪いな」

「そうだね。ナナに話をしてどうするの?」

「ナナに丸投げ」

「そうだね。それがいいかもね」

「イリメリが連れて来る者たちも居るけど・・・」

「僕は、ナナにこの村を任せた方がいいと思う」

「なぜ?イリメリが連れて来る者たちの中からでも同じでは?」

「違う。ナナは、リンを知っている。でも、イリメリが連れて来るのは、知らない者たち」

 ミトナルが心配していることがなんとなく理解できた。
 確かに、この村は大きくなる要素は取り払っているが、アゾレムたちと戦うことになれば、最前線になるのは決定事項だ。信頼ができる人物で、戦力としても考えられる人物がいいだろう。ギルドのメンバーでは、信用はできるが、物量戦になった時に心が付いてくるか解らない。チートを使いこなせるようになっていれば、一騎当千の活躍は期待できるが、”将”ではないだろう。
 俺たちの中で、誰が相応しいか考えれば、ナナだ。

 街道との間に作った目隠しを行うための林がいい味を出している。
 自分で作っておいて自画自賛だが、うまく作用している。

 この辺りの林に入って休む者は居ない。アロイまで、数時間の距離だ。
 アロイで休むか、アロイの近くにある休憩場で休む。林が目隠しになっている上に、神殿の機能スキルの隠蔽を行ってある。鑑定を持っていて、スキルのレベルを上げていたら見破られてしまう可能性がある。
 考えれば不安な要素も多いが、気にする前に、陣容を整えるほうが大事だ。

 林を抜けて、街道に出る。

「ねぇ」

「ん?」

 肩に乗っていたマヤがアイルの上に居るリデロの横に移動して、俺に話しかけてきた。

「神殿の領域はどこまで?」

「街道は、神殿の領域に組み込まれている。ロルフからの報告でも、”それ以上は無理だ”と聞いている」

「ふーん。街道までは、リンの物なの?」

「厳密は違うが、神殿の領域だな」

「それなら、街道の反対側にも木を植えない?」

「ん?なぜ?」

「ロルフとミルが難しい話をしていた時に、暇だったから、リストを見ていたら、木の魔物?が配置できる見たいだから、面白いと思わない?」

「木?エントか?」

「うん。なんか、そんな奴」

「検討してみよう。エント同士で連絡が出来れば、警戒網に使えるな」

「うん。うん。木の魔物同士で連絡ができる見たいだよ」

「マヤ。ありがとう」

 検討の余地があるな。

『ブロッホ』

『はい。旦那様』

『悪い。ブロッホ。エントか、エントを従えられる者を知らないか?』

『森にはエルダーエントが居たはずです。旦那様の眷属になることは了承していましたが、動くのが難しく・・・』

『俺が出向けばいいのか?エントにやって欲しいことが出来た。眷属にならなくても、俺が考えていることができるのか、相談したい』

『相談ですか?』

『そうだ』

『わかりました。エルダーエントは、廃墟から湖側に向かった場所の更に奥地の山側に居ます。ひと際、目立つ大木です』

『あぁ・・・。わかった。アロイでの話し合いが終わったら、エルダーエントの所に行く、案内を頼む』

『かしこまりました』

 エルダーエントは、魔物だから、俺のジョブの範疇なのか?
 ”動物”の範囲が広すぎないか?
 エルダーエントは、”木”で動かないから、”動物”ではないと思うけど、いいのか?

 話が通じれば交渉を行えばいい。対価が必要なら、俺たちが提示できる範囲なら、仲間になって欲しい。エルダーエントなら俺たちが守る必要はないだろうけど、何か欲しい物があるかもしれない。まずは、話をしてみよう。最悪は、相談だけでも出来ればいい。

 マヤから提案された。
 エントを街道に植エントするのは、面白そうだ。

 さて、頭を切り替えよう。
 アロイが見え始めた。

 まずは、ナナとの話だ。
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