上 下
104 / 160
第六章 ギルド

第二十四話 契約

しおりを挟む

 アッシュ=グローズの話を聞いて、少しだけ考えてみた。
 奴隷と考えるから、ダメなのだろう。

 従業員だと考えれば・・・。働いたことがないけど、なんとなくイメージはできる。眷属たちは、家族という認識だが、奴隷は従業員だと考えれば、棲み分けが可能だ。

「リン様。奴隷の準備が出来ました」

「わかった。場所を移動するのか?」

「順番に連れて来ることも可能ですが?」

「まとまっているのか?」

「職制別にしております」

「わかった。移動しよう」

「ありがとうございます。執事候補だけは、一名ですので、連れてまいります」

「わかった」

 アッシュが、俺に一礼してから部屋を出て行った。
 執事?今、執事と言ったよな?

 ハーコムレイの仕込みか?違うな。多分ローザスの仕込みなのだろう。

 アッシュはすぐに戻ってきた。
 年齢の・・・。そうだ、スキルを使えば、詳細に情報が見える。

「アッシュ。スキルを使っていいか?」

「スキルですか?」

「俺は、鑑定が使える」

「それは、素晴らしい。大丈夫です。攻性のスキルでなければ、大丈夫です」

 アッシュは、男を俺の前まで移動させた。
 男も、俺を観察するような目つきで見ている。そうか、これがアッシュの言っていたことだな。お互いを認めない限り、どちらかが不幸になる。

 鑑定を発動する。

真命:セバスチャン・フォン・ベルティーニ
ジョブ:シーフ
体力:210
魔力:430
腕力:220
敏捷性:240
魅力:70
魔法:黒(2)
スキル:簡易鑑定 鍵開け 暗殺術
ユニークスキル:瞬間記憶

 ん?
 フォン?貴族なのか?ジョブが、シーフ?盗賊系?ステータスが高すぎる。初期のミルを越えている。それだけではない。瞬間記憶なんて、貴族家で必要なスキルだろう?
 もしかして、他のスキルが酷いから奴隷になったのか?

 年齢は、20代だろうか?詳細鑑定をすればわかるだろうけど・・・。それに、”ベルティーニ家”。俺でも知っている。侯爵家だ。なぜ、侯爵家の関係者が奴隷商に居る?俺は騙されているのか?

「セバスチャン。いくつか質問をしていいか?」

「もちろんでございます」

 何を質問しよう?
 質問の仕方がわからない。

「うーん。素直に聞く」

「はい」

「ジョブが、シーフで、スキルに鍵開けや暗殺術があるから、奴隷になってしまったのか?」

「そうとも言えますが、違うとも言えます」

「ん?」

「それは?」

「リン様。”ベルティーニ”という家名はご存じですか?」

 記憶には自信がある。
 ベルティーニ家が複数存在しているは思えないから、侯爵家だ。

「たしか、侯爵家だな?」

「ご存じでしたか?」

「あぁ」

「それでは、陛下の第三夫人は、ご存じですか?」

 第三夫人?
 正妻の一人だったな?確か、現国王は3人の夫人が支えている。はずだ。

「いや、詳しいことは知らない」

「私の姉が、第三夫人です。姉の婚姻が決まった時に、私は自ら奴隷になることにしました」

「え?」

 姉?
 姉と言ったか?そうか・・・。確かに、弟のジョブが、シーフでは、でも政略結婚なら問題にはならない。ローザスに聞けば解るかもしれないけど、俺が聞いていいような話ではない。気になるが、スルーだな。

「リン様」

「ん?」

「リン様は、これから、どうなさりたいのでしょうか?」

「・・・。あっ・・・。アッシュ!」

「はい」

「セバスチャンを買う」

「ありがとうございます。早速、契約をいたしますか?」

「頼む。セバスチャンは、構わないのか?」

「はい」

「スキルでの契約を・・・。俺は望むぞ?」

「構いません」

「アッシュ。頼む」

「わかりました」

 そうだ。
 アロイの方は、ナナが居る。
 しかし、両方とも・・・。貴族家への対応が絶対に必要になる。メロナ側は、上級貴族は、ミヤナック家側に対応を頼めるとしても、下級貴族やミヤナック家と距離を置いている貴族家は、俺が管理することになる屋敷から神殿に入る。

 貴族への対応を任せられる人物が必要になってくる。
 アロイ側とメロナ側の総括を、セバスチャンにやってもらえばいい。そのために、スキルで契約を行う。奴隷紋が刻まれない。鑑定が無ければ、奴隷だと気が付かれることはない。俺なら、鑑定結果を”ごまかせる”可能性がある。

「終わりました。ひとまずは、主の情報を他には漏らさないような契約を追加しました。他は、通常の奴隷契約です」

「わかった。それで十分だ」

 奴隷契約の内容は、すでに聞いている。屋敷とアロイ側の管理を任せるのなら十分だ。
 情報は、積極的には公表しないが、漏れてしまっても困らない。神殿の権能が解っても、実際に制御ができるのは、俺とマヤとロルフだ。それに、それぞれが、抑止できるようになっている。

「リン様。よろしくお願いいたします」

「セバスチャン。いろいろ教えて欲しい。俺は、貴族への接し方や対応が解らない」

「かしこまりました」

 セバスチャンの略称は、セバス?セブ?個人的には、セブの方が呼びやすい。

「セブ。屋敷を管理運営するのに必要な人材を教えてくれ、それと屋敷の規模は・・・」

「資料は、ハーコムレイ様からお預かりしています」

 アッシュを見ると、アッシュが封書を取り出した。俺に渡してきたので、受け取って、封を解除してから、セバスチャンに渡す。

「リン様」「資金は気にしなくてよい」

「そうだ。屋敷とは別に、もう一つ管理をしなければならない場所がある」

「それは?」

「そうだな。セブは、マガラ渓谷を知っているよな?」

「もちろんです」

「あの両端を、『まともに管理・運営する』と考えて欲しい」

「少しばかり、お時間を頂いてもよろしいですか?」

「構わない」

 セバスチャンとアッシュが部屋から出る。予想よりも多くの奴隷が必要になるのか?それとも、別の理由なのか解らない。

 気にしてもしょうがない。
 テーブルの上で冷めてしまった珈琲もどきを飲む。冷えても飲める状態なのは嬉しい。アイスコーヒーだと言われたら、信じてしまいそうだ。もともと、ブラックで飲んでいたからなのか、甘味を感じて飲みやすい。

 アッシュからなのか、メイドが変わりの飲み物とお菓子を持ってきた。
 今度は、紅茶か?

 10分くらいしてから、セバスチャンとアッシュが戻ってきた。

「リン様。いえ、旦那様」

「ん?」

「アッシュ殿と相談しましたが、マガラ渓谷を例に考えますと、警備隊が必要です。警備隊の構築ができるだけの人材が居ません。お屋敷の運営とマガラ渓谷の屯所で、手一杯です。もうしわけございません」

「そうか、警備隊も必要か・・・。それは、また後で考えればいい。まずは、体裁を整えよう」

「かしこまりました。アッシュ殿。先ほどの通りでお願いします」

 席を外していた時に、セバスチャンとアッシュで話をしたのだろう。

「リン様。よろしいですか?」

 アッシュが、書類の束を渡してきた。
 どうやら、今回、俺が雇うことになる奴隷の一覧のようだ。

 多いな。
 それに、若いのが多い?

「セブ。若いのが多いように思えるのだが?」

「はい。主要な役職に関しては、経験者を配置しました。その下で働く者たちは、未経験者でもやる気のある者を優先しました」

「わかった。そのまま進めてくれ」

「ありがとうございます」

「アッシュ」

「はい。この奴隷商には、手足や身体の一部が欠損しているパシリカ前後の子供が居るよな?」「旦那様」

 セバスチャンが何かを言いかけたが、態度で言葉を遮る。

 リストには、確かに子供が載っていた。しかし、それだけで無いのは解っている。ローザスやハーコムレイが居るからなのか、”まとも”な奴隷しか出してきていない。アッシュが、真面目に営業を行っている奴隷商だということの証左だが、だから、他の違法な奴隷商で取り扱われた者たちが確保されているはずだ。

「・・・。はい」

 少しだけ考えてから、アッシュは諦めたような声を出して、俺が言った者たちが居ることを認めた。

「何人だ?大人も居るのか?犯罪奴隷以外だ」

「大人を入れますと、23名です」

「パシリカ前の子供も居るのか?」

「はい」

「何名だ!」

「9名です」

「わかった。俺を連れていけ、確認したい」

 セバスチャンとアッシュは、俺に深々と頭を下げるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

性転換マッサージ2

廣瀬純一
ファンタジー
性転換マッサージに通う夫婦の話

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

処理中です...