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第六章 ギルド

第二十四話 契約

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 アッシュ=グローズの話を聞いて、少しだけ考えてみた。
 奴隷と考えるから、ダメなのだろう。

 従業員だと考えれば・・・。働いたことがないけど、なんとなくイメージはできる。眷属たちは、家族という認識だが、奴隷は従業員だと考えれば、棲み分けが可能だ。

「リン様。奴隷の準備が出来ました」

「わかった。場所を移動するのか?」

「順番に連れて来ることも可能ですが?」

「まとまっているのか?」

「職制別にしております」

「わかった。移動しよう」

「ありがとうございます。執事候補だけは、一名ですので、連れてまいります」

「わかった」

 アッシュが、俺に一礼してから部屋を出て行った。
 執事?今、執事と言ったよな?

 ハーコムレイの仕込みか?違うな。多分ローザスの仕込みなのだろう。

 アッシュはすぐに戻ってきた。
 年齢の・・・。そうだ、スキルを使えば、詳細に情報が見える。

「アッシュ。スキルを使っていいか?」

「スキルですか?」

「俺は、鑑定が使える」

「それは、素晴らしい。大丈夫です。攻性のスキルでなければ、大丈夫です」

 アッシュは、男を俺の前まで移動させた。
 男も、俺を観察するような目つきで見ている。そうか、これがアッシュの言っていたことだな。お互いを認めない限り、どちらかが不幸になる。

 鑑定を発動する。

真命:セバスチャン・フォン・ベルティーニ
ジョブ:シーフ
体力:210
魔力:430
腕力:220
敏捷性:240
魅力:70
魔法:黒(2)
スキル:簡易鑑定 鍵開け 暗殺術
ユニークスキル:瞬間記憶

 ん?
 フォン?貴族なのか?ジョブが、シーフ?盗賊系?ステータスが高すぎる。初期のミルを越えている。それだけではない。瞬間記憶なんて、貴族家で必要なスキルだろう?
 もしかして、他のスキルが酷いから奴隷になったのか?

 年齢は、20代だろうか?詳細鑑定をすればわかるだろうけど・・・。それに、”ベルティーニ家”。俺でも知っている。侯爵家だ。なぜ、侯爵家の関係者が奴隷商に居る?俺は騙されているのか?

「セバスチャン。いくつか質問をしていいか?」

「もちろんでございます」

 何を質問しよう?
 質問の仕方がわからない。

「うーん。素直に聞く」

「はい」

「ジョブが、シーフで、スキルに鍵開けや暗殺術があるから、奴隷になってしまったのか?」

「そうとも言えますが、違うとも言えます」

「ん?」

「それは?」

「リン様。”ベルティーニ”という家名はご存じですか?」

 記憶には自信がある。
 ベルティーニ家が複数存在しているは思えないから、侯爵家だ。

「たしか、侯爵家だな?」

「ご存じでしたか?」

「あぁ」

「それでは、陛下の第三夫人は、ご存じですか?」

 第三夫人?
 正妻の一人だったな?確か、現国王は3人の夫人が支えている。はずだ。

「いや、詳しいことは知らない」

「私の姉が、第三夫人です。姉の婚姻が決まった時に、私は自ら奴隷になることにしました」

「え?」

 姉?
 姉と言ったか?そうか・・・。確かに、弟のジョブが、シーフでは、でも政略結婚なら問題にはならない。ローザスに聞けば解るかもしれないけど、俺が聞いていいような話ではない。気になるが、スルーだな。

「リン様」

「ん?」

「リン様は、これから、どうなさりたいのでしょうか?」

「・・・。あっ・・・。アッシュ!」

「はい」

「セバスチャンを買う」

「ありがとうございます。早速、契約をいたしますか?」

「頼む。セバスチャンは、構わないのか?」

「はい」

「スキルでの契約を・・・。俺は望むぞ?」

「構いません」

「アッシュ。頼む」

「わかりました」

 そうだ。
 アロイの方は、ナナが居る。
 しかし、両方とも・・・。貴族家への対応が絶対に必要になる。メロナ側は、上級貴族は、ミヤナック家側に対応を頼めるとしても、下級貴族やミヤナック家と距離を置いている貴族家は、俺が管理することになる屋敷から神殿に入る。

 貴族への対応を任せられる人物が必要になってくる。
 アロイ側とメロナ側の総括を、セバスチャンにやってもらえばいい。そのために、スキルで契約を行う。奴隷紋が刻まれない。鑑定が無ければ、奴隷だと気が付かれることはない。俺なら、鑑定結果を”ごまかせる”可能性がある。

「終わりました。ひとまずは、主の情報を他には漏らさないような契約を追加しました。他は、通常の奴隷契約です」

「わかった。それで十分だ」

 奴隷契約の内容は、すでに聞いている。屋敷とアロイ側の管理を任せるのなら十分だ。
 情報は、積極的には公表しないが、漏れてしまっても困らない。神殿の権能が解っても、実際に制御ができるのは、俺とマヤとロルフだ。それに、それぞれが、抑止できるようになっている。

「リン様。よろしくお願いいたします」

「セバスチャン。いろいろ教えて欲しい。俺は、貴族への接し方や対応が解らない」

「かしこまりました」

 セバスチャンの略称は、セバス?セブ?個人的には、セブの方が呼びやすい。

「セブ。屋敷を管理運営するのに必要な人材を教えてくれ、それと屋敷の規模は・・・」

「資料は、ハーコムレイ様からお預かりしています」

 アッシュを見ると、アッシュが封書を取り出した。俺に渡してきたので、受け取って、封を解除してから、セバスチャンに渡す。

「リン様」「資金は気にしなくてよい」

「そうだ。屋敷とは別に、もう一つ管理をしなければならない場所がある」

「それは?」

「そうだな。セブは、マガラ渓谷を知っているよな?」

「もちろんです」

「あの両端を、『まともに管理・運営する』と考えて欲しい」

「少しばかり、お時間を頂いてもよろしいですか?」

「構わない」

 セバスチャンとアッシュが部屋から出る。予想よりも多くの奴隷が必要になるのか?それとも、別の理由なのか解らない。

 気にしてもしょうがない。
 テーブルの上で冷めてしまった珈琲もどきを飲む。冷えても飲める状態なのは嬉しい。アイスコーヒーだと言われたら、信じてしまいそうだ。もともと、ブラックで飲んでいたからなのか、甘味を感じて飲みやすい。

 アッシュからなのか、メイドが変わりの飲み物とお菓子を持ってきた。
 今度は、紅茶か?

 10分くらいしてから、セバスチャンとアッシュが戻ってきた。

「リン様。いえ、旦那様」

「ん?」

「アッシュ殿と相談しましたが、マガラ渓谷を例に考えますと、警備隊が必要です。警備隊の構築ができるだけの人材が居ません。お屋敷の運営とマガラ渓谷の屯所で、手一杯です。もうしわけございません」

「そうか、警備隊も必要か・・・。それは、また後で考えればいい。まずは、体裁を整えよう」

「かしこまりました。アッシュ殿。先ほどの通りでお願いします」

 席を外していた時に、セバスチャンとアッシュで話をしたのだろう。

「リン様。よろしいですか?」

 アッシュが、書類の束を渡してきた。
 どうやら、今回、俺が雇うことになる奴隷の一覧のようだ。

 多いな。
 それに、若いのが多い?

「セブ。若いのが多いように思えるのだが?」

「はい。主要な役職に関しては、経験者を配置しました。その下で働く者たちは、未経験者でもやる気のある者を優先しました」

「わかった。そのまま進めてくれ」

「ありがとうございます」

「アッシュ」

「はい。この奴隷商には、手足や身体の一部が欠損しているパシリカ前後の子供が居るよな?」「旦那様」

 セバスチャンが何かを言いかけたが、態度で言葉を遮る。

 リストには、確かに子供が載っていた。しかし、それだけで無いのは解っている。ローザスやハーコムレイが居るからなのか、”まとも”な奴隷しか出してきていない。アッシュが、真面目に営業を行っている奴隷商だということの証左だが、だから、他の違法な奴隷商で取り扱われた者たちが確保されているはずだ。

「・・・。はい」

 少しだけ考えてから、アッシュは諦めたような声を出して、俺が言った者たちが居ることを認めた。

「何人だ?大人も居るのか?犯罪奴隷以外だ」

「大人を入れますと、23名です」

「パシリカ前の子供も居るのか?」

「はい」

「何名だ!」

「9名です」

「わかった。俺を連れていけ、確認したい」

 セバスチャンとアッシュは、俺に深々と頭を下げるのだった。
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