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第六章 ギルド

第十九話 メリット

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 イリメリは、俺をまっすぐに見ている。
 挑むような目線ではない。表現が難しいけど、挑発されているわけでも、攻撃されているわけでも、よくわからない目線だ。

「”白い部屋”で話された内容を考えてみた」

「え?」「続けて」

 ルナが疑問に思っているような声を上げるが、イリメリが全員を見てから、俺を見つめて、説明を続けるように言葉を続ける。

「勝利条件は、全員を殺せとか、王になれとか、そんな事ではない」

 ここで、全員を見れば、覚えているのだろう。頷いてくれる。
 イリメリは思い出したのだろう。俺のメリットが解ったようだ。

「”影響”という曖昧な指標だ」

 ここにも、皆が頷いてくれる。
 ギルドも、この世界への”影響”を与えるために作った組織だ。まだ始まったばかりだけど、”影響”は出ているのだろう。
 数値で結果が見えないから、曖昧だと表現になってしまっている。そもそもが不公平に出来ている。確実にスタートが俺と立花アゾレムたちでは違っている。影響を与えるためには、権力が合ったほうが楽だ。俺は、権力を得ることから始めなければならないが、奴らは権力を持った状態から開始している。

 イリメリが頷いた。

「だから、この世界で”影響”を得るために、神殿の一部を解放しようと思っている」

「一部?」

「そう、一部だ。イリメリたちには、説明するけど、俺のスキルで眷属になった者は、”氏”で眷属になる」

「え?一族ってこと?」

 さすがは、イリメリだ。”氏”だけで理解してくれた。
 他のメンバーにも説明してくれている。俺は、イリメリの説明を聞きながら、出された珈琲もどきで喉を潤す。飲んでいると、これはこれで味があるように思えて来るから不思議だ。

 イリメリの説明を聞いて、皆が納得して、質問してくる。実際に見てもらったほうが早いので、眷属に関しては、神殿で説明することにした。
 実際、眷属の数は把握できていない。アウレイアの眷属は少ないけど、アイルの眷属はそれこそ、100体単位だろう。ビアンコやヴェルデやじゃっとも同じだ。ラトギは少ないような気がするが、少ないと指標も・・・。実際、ラトギが数体いるだけで、軍の出動が必要になる。ブロッホは、考えるだけ愚かだ。

「ゴメン。それで?」

「マガラ渓谷の・・・。違うな、アゾレムの税が高くて、必要最低限の物しか、輸送されてこない。本来なら、アゾレム領を通って、近隣諸国の物品が入ってくるはずだが、奴らはそれを独占するために、税を高額にして、流通を阻害している」

「うん。兄も何か、方法がないか考えている」

 ルナの兄。ミヤナック家は、アゾレムの後ろにいる宰相派閥の力を削りたいのだろう。

「そう、それで回廊を解放する。俺は、神殿を通過させることで、まずは、この国に影響を与える」

「でも、それはリン君の評価にならない可能性があるよね?」

「あぁだから、ギルドを誘った」

「え?」「あっ!」

 ルナはまだ疑問に思っているようだけど、イリメリは理解ができたのだろう。
 俺の考えでは、ギルドの評価は”皆に分配される”。立花たちも同じだと思っている。アゾレムの名前が上がっても、立花一人の評価にはならない。それが、”影響”という曖昧な評価だ。曖昧なだけで、影響に関連した者たちに分配されるはずだ。それでなくては、前回の白い部屋の時に、俺とミルが影響を与えている結果にはならない。

 マガラ渓谷を安価に安全に通過できる方法を提供し始めたギルドは、アゾレムだけではなく、宰相派閥から”敵”認定されるだろう。

「リン君は、私たちに、矢面に立てと言うの?」

「そう考えてくれると嬉しい」

 イリメリは、納得しているようだ。
 タシアナやルナやサリーカ。フェムも、俺の告げた理由で納得はしてくれるだろう。

「イリメリ。リン君。横からゴメンね」

「カルーネ。何か、あるのか?」

「おっ僕の名前を覚えていたのは、褒めておこう。本題だけど、矢面に立つのは、どうせぶつかるのが早いか遅いかでしかない。それに、安全な拠点ができるのなら、ギルドのメリットは大きい」

 ここで、言葉を切る。ギルドには、非戦闘員が多くなる。チートを貰った者だけではない。特に、ルナとタシアナは多くの非戦闘員を抱えている。サリーカも家族がいる。フェムはどうするのか解らないけど・・・。

「あぁ」

「ギルドが、全面的に宰相派と構えるとは限らないよね?」

「そうだな。ギルドが、ルナをアゾレムに差し出すのなら可能だけど・・・」

 ルナの事だから、一度は考慮したのだろう。
 全員から却下されたって感じだろう。

「それに、フレットも狙われているよな?」

 名前は忘れたけど、フレットも狙われている。
 他にも、似たような状況がある。ギルドのメンバーが誰かを犠牲にして、宰相派閥に組み込まれるとは考えられない。

「そうだね。でも、それだけだよ。リン君と敵対すると考えないの?」

「それならそれで構わない」

「え?」

 カルーネは解っていない。
 ギルドが神殿を使うのなら、それがそのまま保険になっていることに・・・。

「カルーネ。ギルドが神殿の施設を使うのは、リン君が私たちの味方だと仮定する必要がある」

「あっ!そうだった。ゴメン」

 イリメリの指摘で、カルーネも理解ができたようだ。
 この契約は、俺の”気持ち”で成り立っている。だから、イリメリは俺のメリットを気にした。

 それに、神殿が占拠されたとしても、眷属は別だ。
 説明では、眷属と神殿が結びついているように・・・。ミスリードを誘うように説明したが、眷属は俺のスキルだ。
 神殿は、マヤとの繋がりが重要になってくる。もしかしたら、ロルフも関係してくる可能性もある。

 だから、ギルドのメンバーがマヤを抱き込んで、俺を排除しようとしても、俺は眷属を使って、やりたくはないが・・・。戦争という手段が使える。その時には、王都に攻め込んでもいい。すべてを平らげれば、俺の勝ちだ。白い部屋に居たアイツが、文化や文明の破壊を許容するか解らないけど、勝ち筋は見えている。穏便な方法として、ギルドを使って、緩やかな支配がいいと思っている。

「リン君。少しだけ皆で話したいけど、いいかな?」

 イリメリの提案だが、俺に承諾を求めてきたのは、タシアナだ。

「大丈夫だ。どうする?」

 考えていないようだ。

「ん?どうする?」

「あぁスマホが無い世界で、どうやって連絡をする?」

 タシアナがやっと気が付いた。
 その前に、スマホが使えたとして、俺はイリメリ以外の連絡先を知らない。イリメリの連絡先も、緊急連絡先として、イリメリの家を指定させてもらっているから知っているだけで、イリメリに直接繋がる連絡先は知らない。

「あっ」

「結論は急がない。それに、ハーコムレイやローザスにも説明する必要があるだろう?あと、ナッセは・・・。タシアナが説明すればいいのか?」

「ミヤナック家や王家は、私から説明するから大丈夫。それに、別に、王都のギルドを閉じようって話にはならない。兄様や殿下は、ギルドを使って、スラムを解体したいらしい」

「へぇ・・・。あぁ救済か?」

「うん。ギルドマスターも、タシアナが説明すれば大丈夫」

 ルナが大丈夫だと言うのなら、大丈夫なのだろう。王家やミヤナック家は、書類の件で忙しいだろうから、ギルドまで本格的に関わるのが難しいのだろう。

「わかった。そうだ。ルアリーナ。もし、ギルドが神殿を使うのなら、出入口の一つは、メルナに作ることになると思うけど、許可を頼む」

「わかった。多分、ミヤナック家か王家が保持している屋敷を使うと思う。アロイ側はどうするの?」

「うーん。アロイの村から少しだけ離れた場所に作ろうと思う。確か、湖側なら王家の所領があったよな?」

「うん。合わせて確認をする」

「頼む。ダメなら、森の中に作ろうと思っている。そこから、街道を作れば、いいだけだからな」

「わかった。兄様には、リン君のアイディアと一緒に聞いてみる」

 ルナの言い方では、すでに神殿の利用を決めているように思える。
 俺としては、その方が嬉しいけど、皆で意見を合わせたいと言うのが、イリメリの考えだ。

 俺は、部屋から出て、訓練場に移動することにした。
 ミルとミアとレオが訓練場に居るらしい。皆の話し合いも、それほど時間は必要ないらしい。2-3時間なら、訓練場で自分のスキルや上がったステータスを確認するのもいいかもしれない。
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